激突 (3)
15:53
魔国領《西の里》上空800m
《弾けし者》まで500m
パーティー(PT)
ヤマーダ、イズムズ
ヤマーダは《西の里》の上空で、《跳躍》と《短距離転移》を繰り返していた。
2時間近く、《空間魔法》で《空気使い》の練習をして、魔族《弾けし者》との戦闘を想定。
といっても、
《聖風》しか練習していない…
単純に練習時間が取れなかったからだ。
《聖風》によってヤマーダの周囲100mの風を自分への追い風としている。
このお陰で、ヤマーダの進撃速度は飛躍的に向上していた。
こうして、ヤマーダは魔族の向風を克服、やっとここまで来れた。
しかし…
あのクソガキーッ!
逃げに徹してやがる!
そう、ヤマーダの進撃を防げないとみるや、魔族は空を《飛行》して、ヤマーダとの距離を一定に保つようになってしまった。
その距離、500m。
つまり、魔族は未だに徹底的な遠距離を続けているのだ。
『飛んでるアイツに、跳んでるアッシらじゃ、どうみても分が悪いっす』(イズム)
「わ、分かってる!」
ヤマーダの語気には、魔族に翻弄されている苛立ちが見え隠れしていた。
そもそもヤマーダの攻撃には、連続性がない。
《跳躍》と《短距離転移》で約40秒間その場にいたとしても、待機時間の60秒は《空間魔法》で待たなければならない。
既に魔族はそのことに気づいており、ヤマーダの攻撃にそれほど脅威を感じていないのだ。
『いっそのこと、魔族が音をあげるまで、このまま追い回し続けるっすか?』(イズム)
…それも出来なくはない
だが、気になるんだよな
ヤマーダが気にしているのは、魔族が単独なのかということ。
遠目ではあるが、定期的というか1分に1体の間隔で魔族が魔物を捨てているようなのだ。
ただし、魔族との距離が500mも離れているため《鑑定》できず、魔族も魔物も全く把握できていない。
そして、
どうやら《空気使い》は
ネーコ達魔物へ共有できないスキルらしい
ヤマーダの《魔物の覇者》には、《スキル共有》というスキルがある。
このスキルは、ヤマーダのスキルと任意の魔物のスキルを互いに共有することができるのだが、《空間使い》スキルだけは共有できなかったのだ。
《聖風》が共有できないと、
二方面からの攻撃は難しい。
となると、ヤツが逃げる方向に
《空間魔法》の出入口を作って
一気に取り押さえないと無理かもな
「クソッ!」
ヤマーダも焦りからか、苛立ちが抑えきれなくなっていた。
チキショウめぇー!
『旦那! 大丈夫っすか!?』(イズム)
「えっ!」(ヤマーダ)
イズムの言葉でやっと我に帰るヤマーダ。
…頭を冷やすか
「…イズム…一旦、ヤマザル村へ戻ろうか」(ヤマーダ)
『了解っす』(イズム)
ヤマーダは何の成果もないまま、ヤマザル村へと引き返した。
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夕方
《空間魔法》ヤマザルの動く村〈広場〉
「皆、揃ってるね」(ヤマーダ)
ヤマーダはすぐさま、村人達を広場に集め、今日の戦果を報告していた。
「魔族に攻撃を仕掛けてみたけど、空中をちょこまか動き回るんで、捉えきれなかったよ」(ヤマーダ)
『なるほど』
『ヤマザル様でも、無理なんですか?』
『こりゃ、マズイことになったべぇ』
『そったら、無理じゃねぇべか?』
戦果なしの報告に落胆するヤマザル村の住民達。
『だったら、無理なんじゃないんだべか』
ソンチョウは現実を受け入れるのが早い。
「そ、そんな!」
そんなソンチョウの言葉にガッカリするノーラ。
ノーラには夫子を諦めることなど到底出来ない。
「ノーラ様、諦めないでください」(シス)
「大丈夫だ、ノーラ。俺達は諦めないから」
ヤマーダの発言に、ノーラはホッと胸を撫で下ろす。
「しかし、難題ですねぇ」(アルベルト)
「あぁ、今後どうすればいいか、分かんなくてさぁ」
確かにヤマーダの言うとおりに、今のヤマザル村には魔族に対抗できるほど空を上手く飛べる者がいない。
実際にはヤマーダ達の中には、空を飛べなくもないメンバーがいる。
それは、コカ君とコカちゃんだ。
彼らは空を自由に飛ぶことができる。
しかし残念ながら、今回の戦闘では役に立たない。
何故なら、まず圧倒的に弱い。
多分、魔族の魔法攻撃なら一撃でアッサリと黒焦げになってしまうだろう。
それに、コカちゃん達の飛行速度も精々 50km/h が限界ってところだ。
100km/h 近くでチョロチョロと逃げ回る魔族には、とても追いつけない。
膠着する話の矛先を変えて、
「だとすると、我らが取れる選択肢は3つくらいでしょうか」
アルベルトが魔族への対応を説明し出した。
「それは?」(ヤマーダ)
「一つは、飛べる仲間を見つけることです」(アルベルト)
「当然ですね」(ウランバルト)
魔族を討伐する当初の目的は、ノーラの夫と娘を救出することにある。
今回は偶々(たまたま)遭遇できたが、もし飛んで逃げられたら、とてもヤマーダ達には追跡できない。
ならば、魔族の《飛行》という土俵に上がるべき、との作戦な訳だ。
『だがそんなすぐに、《飛行》できる仲間が見つかるだべか?』(ソンチョウ)
「それは、無理だと思うわ」(ネーコ)
『モタモタしてたら、魔族に逃げられちまうぞ!』(ハヤテ)
確かに、魔族がいつまで《西の里》に留まるのか、全く分からない。
当然、今回がラストチャンスの可能性もある。
だから、悠長なことを言ってはいられないのだ。
「二つ目は、魔族の魔力が尽きるのを待つことです」(アルベルト)
これも実際には難しい話だ。
「そもそも、魔族の魔力って尽きると思うか?」(ヤマーダ)
「うーん…時間がかかるんじゃないの?」(ネーコ)
「だとしたら、そんなに待っていられません!」(ノーラ)
「そうですよ!」(シス)
魔力がいつ尽きるか全く分からないし、そもそも魔力が尽きそうになったら、飛んで逃げる可能性が高い。
「とりあえず、ブッ飛ばそうよ!」(ルル)
「ルルさん、魔族は空中にいますから難しいですよ」(オルトス)
『いちいちうるせぇぞ小僧! 陛下に生意気な口を利くんじゃねぇよ!』(オサ)
ルルの提案は、基本的に拳で語ることしかないし、ゴブ達は女王陛下の言葉を絶対に否定しない。
「オッホン!」(アルベルト)
一つ咳払いをして、
「最後は、罠に嵌めることです」(アルベルト)
「まぁ、一番妥当な考え方よね」(ネーコ)
確かにな、
今はそれしかないか…
そもそもヤマーダ達には、取れる選択肢が少ないのだ。
「罠に嵌める以外の選択は、無理そうだよな」(ヤマーダ)
「えぇ」(ノーラ)
「で、罠に嵌めるとしたら兄様、どのような方法が取れますか?」(オルトス)
『知りたいべ!』(マツコ)
「罠に嵌める方法は3つありますね。待ち伏せと、誘い込みと、追い立てになります」(アルベルト)
「アルベルトさんなら、魔族を相手にどれがいけると思う?」(ヤマーダ)
「正直、ここまで警戒心の強い相手なら、待ち伏せや誘い込みは通用しないかもしれません」(アルベルト)
『そうですね』(ゴブジ)
「やっぱ、こっちから追い立てるしかないのか…」(ヤマーダ)
ヤマーダには、薄々勘づいていた。
待ち伏せや誘い込みは相手の行動パターンを先読みする罠なのだが、基本的に相手の領域に罠を仕掛けることになる。
つまり、警戒している相手の行動範囲に罠を張る訳だ。
しかし、今回の魔族は一度襲撃されたら、二度とそこには近づかないほど、警戒心が強い。
そんな用心深い魔族が、態々(わざわざ)ヤマーダ達が自分の領域に入って来ても、ゆっくりしているとは思えない。
だとするとヤマーダ達は、魔族が冷静な判断ができなくなるまで追い込むか、まだ使っていない逃走経路へ追い立てるしか方法がない。
だとすると、
《空間魔法》の出入口を
逃走経路にしかけるしかないな
しかし、
そんな捨て《異空間》は
オレ達にないぞ!
確かにヤマーダ達の《空間魔法》内の《異空間》は、全て何かしら利用されている。
新しい《異空間》が必要か!
「よし、決めた! とりあえず今日はここまでにしよう! そして、ゆっくりと休んで、明日は皆で仕事でもしようか!」(ヤマーダ)
「ど、どうしてですか!?」
ノーラの声には落胆が隠せない。
『はぁ?』
続くハヤテの声にも、「お前、アホちゃうか?」って感情がかなり入っていた。
「えーと、まず、聞いてほしいんだが、俺達には時間的な余裕があるか分からない」(ヤマーダ)
「そうですね」(アルベルト)
「そうね」(ネーコ)
ネーコはいつものように、ヤマーダの胡座の上に座っている。
「そして、魔族を罠に嵌める為には、俺達が自由に使える新しい《異空間》がもっと必要だ」(ヤマーダ)
「なるほど」(ノーラ)
「フムフム」(ウランバルト)
「…つまり、《空間魔法》の使い手が足りないと」
アルベルトはヤマーダの言葉の趣旨に気がついた。
「あぁ、俺の《魔物の覇者》で《共有》できる人数は7人まで。そして現在、ネーコ、ルル、イズム、ノーラ、ソンチョウ、ダイヒョウの6人と《共有》している」(ヤマーダ)
『だったら、まだ1人は増やせるべ』(ソンチョウ)
「後一人ですか…」(ウランバルト)
「《空間魔法》の使い手は俺を入れて7人。その内、俺達が使用していない《異空間》があるのは、ソンチョウ一人だけだ」(ヤマーダ)
『だとすると、厳しいかもしれませんねぇ』(ゴブジ)
『そうですねぇ』(ダイヒョウ)
「ソンチョウにはすまないが、これからゴブジと《共有》してゴブリン族固有の《職業適性》を強化する」(ヤマーダ)
『わかったべ』(ソンチョウ)
『はい』(ゴブジ)
「そして村の皆には頑張ってもらって、なんとか明日中に《魔物の覇者》の職業レベルを上げて、新たな《異空間》を増やす」(ヤマーダ)
「フムフム」(ウランバルト)
「そして、魔族への対策を立てるって訳さ」(ヤマーダ)
「ふーん」(ネーコ)
「そうすることで、魔族へ仕掛ける罠の数を増やすことができますね」
さらっとアルベルトがヤマーダをフォローする。
「あぁ、その通りだ」(ヤマーダ)
『なるほど』
『そういうことか』
『確かになぁ』
村人達もヤマーダの意見に納得してきた。
「ノーラにはすまないが、今の俺達では魔族を捉えきれないんだ。今日明日は、何とか堪えてくれ」(ヤマーダ)
「…分かりました。そうする以外の方法は無さそうですし…」
ノーラも残念な表情を滲ませていた。
「イズム、今、魔族はどうしてる?」(ヤマーダ)
『上空1,000m以上にいると思うっすけど、こっからじゃ見えないっすね』(イズム)
更に上空へと上がった魔族は、イズムの視力で捉えられない高さにいるようだった。
だから地上にいるイズムには、どうしようもないことなのだ。
現在、魔族は上空1,600mから《西の里》への攻撃を再開している。
火炎を帯びた岩塊の発生は、上空1,300m。
今までの爆撃と違い、ヤマーダの《空間魔法》出現地点である《西の里》上空800mを通過する攻撃に変わっていた。
これは《西の里》一帯への絨毯爆撃から、ヤマーダの出現地点と《西の里》の2点を結ぶピンポイント爆撃に変わっていたのであった。
「手強い魔族ですね…」
イズムの報告を聞いたアルベルトも魔族の恐ろしさを再確認していた。
《西の里》への一番効果的な攻撃は上空500mからの絨毯爆撃なのだろう。
破壊力や多面的な点からそう推測できる。
しかし、魔族はその作戦をあっさりと捨て、ヤマーダと《西の里》の2ヶ所同時攻撃へと切り替えたのだ。
実際には、上空1,300mから自由落下する岩塊は、風や空気抵抗を受けるせいなのか、《西の里》中心から10m以内のランダムな地点に衝突している。
つまり《西の里》への攻撃精度は低下しているが、必ずヤマーダが消えた地点へ岩塊が通過するルートに変更しているのだ。
ここまで徹底して
遠距離から攻撃してくんのかよ
ある意味、スゲーヤツだよ
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魔国領《西の里》上空1,600m
魔族の男は、左腕に虚ろな眼をした魔物を抱えながら、右手を《西の里》へ向け、無詠唱で魔法攻撃を続けていた。
「… (あれが噂の異世界人か。確かに規格外だな)」(魔族)
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3591年6月28日(翌日)
13:30
ソンチョウの《空間魔法》
ヤマーダ、ネーコ(人化)、ルル、イズム、
マサオ、ノーラ(人化)、マツコ、ソンチョウ、
マサムネ、ダイヒョウ、ゴブジ
ヤマーダ達は、一日で何とか《魔物の覇者》のレベルを3から4へ上げることに成功した。
よし!
ヤマーダ
職業・大工(Lv8→10)、魔物の覇者(Lv3→4)
奴隷商人(Lv1→2)
魔法・木魔法(Lv8→10)
スキル・建築(Lv8→10)、増築(Lv8→10)
能力共有(Lv3→4)、魔法共有(Lv3→4)
スキル共有(Lv3→4)
奴隷契約(Lv1)new
契約解除(Lv1)new、懲罰(Lv1)new
能力共有(Lv4)・
従えている魔物13体と能力を共有することができる。
共有する能力値は、数値の高い値とする。
ただし、能力値の上限は700まで。
魔法共有(Lv4)
従えている魔物13体と魔法を共有することができる。
同じ魔法が存在する場合は、魔法レベルの高い値とする。
共有人数が13人まで増えたので、ヤマーダは一気にマサムネ、マサオ、マツコ、ハヤテと共有し、共有者が11名になる。
オサに確認すると
『今は、まだいいです』
と、今回は断ってきた。
オサが共有を断ったことには理由がある。
魔物共有は、絶大な能力を手に入れることができる。
その反面、壮絶な能力ゆえに、レベルは全く上がらなくなってしまう。
下位の魔物にとって、《職業》は進化でしか手に入れることができない。
つまりオサは、先に進化することを望んだのだった。
ただ《魔物の覇者》の共有はいつまで解除できるので、レベル上げしたい時に解除すればいいだけなのだが、オサは頑として聞かなかった。
よし、
次は《空間魔法》の罠に取り掛かるぞ
不思議なことに、ハヤテの《空間魔法》の《異空間》は、イズムと全く同じ姿形をしていた。
ハヤテの希望もあり、ハヤテの《異空間》は再設定することとなった。
こうして2時間後には、《空間魔法》の設定も完成する。
《空間魔法》一覧
ネーコの《空間魔法》
入口:ルル村→《西の里》350m→ルル村
・ヤマザル村開発中
・円卓会議棟
・ヤマーダハウス(地下室有)
・女王宮殿建設中
・農地
・養鶏場
・海
ノーラの《空間魔法》
入口:《西の里》道中→《西の里》1,000m
・刑務所
・造幣所
ヤマーダの《空間魔法》
入口:ルル村→《西の里》上空800m
・マイホーム
・ロイヤル豪邸(建築中)
・遺体安置所(使用不可)
・牧草地
ルルの《空間魔法》
入口:ルル村→《西の里》1,000m、上空800m
・食糧保管庫(使用不可)
・冷蔵室(使用不可)
ダイヒョウの《空間魔法》
入口:ルル村→《西の里》東へ800m
・野外大集会場
ゴブジの《空間魔法》new
入口:《西の里》東へ1,000m
・10m×10mの小空間
イズムの《空間魔法》new
入口:《西の里》東へ600m、上空800m
・《転移》ポータル(使用不可)
ハヤテの《空間魔法》new
入口:《西の里》東へ1,000m
・10m×10mの小空間
ソンチョウの《空間魔法》new
入口:《西の里》東へ1,000m
・10m×10mの小空間
マツコの《空間魔法》new
入口:《西の里》東へ1,000m
・10m×10mの小空間
マサムネの《空間魔法》new
入口:《西の里》東へ1,000m
・10m×10mの小空間
マサオの《空間魔法》new
入口:《西の里》東へ1,000m
・10m×10mの小空間
11名の《空間魔法》の出入口を再設定し、6人の《空間魔法》の《異空間》を罠用の小空間として作成した。
「今度こそ、魔族を捕まえるぞ!」(ヤマーダ)
『はい!』(ダイヒョウ達)
ヤル気満々の皆の腰を折るかのように、
「で、具体的にはどうするのよ?」
ネーコが質問してきた。
「分かった。これから、説明するよ。まず、ルル」(ヤマーダ)
「何?」(ルル)
「キミは、魔族と同じ上空まで更に上昇して、そこを《空間魔法》の出入口にしてくれ」(ヤマーダ)
「分かったわ」(ルル)
「でそれが終わったら、ルルはダイヒョウ、ソンチョウ、マツコ、ゴブジ、マサムネ、ハヤテ、マサオの7人に、ルルがやったのと同じように魔族の周囲、北西、北、北東、南東、南、南西、西の7方向の上空に《空間魔法》の出入口を設定するのを手伝って欲しいんだ」(ヤマーダ)
『東はいいんすか?』(イズム)
「東はルルの《空間魔法》の出入口になるから、必要ない」(ヤマーダ)
『なるほどっすね』(イズム)
「アタシはどうするのよ?」(ネーコ)
「ネーコとノーラの出入口はそのまま、変更しない」(ヤマーダ)
「どうしてですか?」(ノーラ)
「ネーコの出入口、ルル村へのアクセスは念のために無くせない。ノーラの出入口、中心から1,000m後方もいざって時の為にとっておく」(ヤマーダ)
「了解です!」(ノーラ)
「俺とイズムの出入口もそのままにしておく。もしかしたら、魔族がそっちに逃げるかもしれないからな」(ヤマーダ)
『了解っす』(イズム)
「じゃあ、行動開始!」(ヤマーダ)
『「オーウ!」』(メンバー)
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17:20
魔国領《西の里》から東へ1,000m
PT
ヤマーダ、ネーコ、ノーラ、イズム
辺りはすっかり夕暮れになっていた。
トーン!
トーン!
トーン!
…
相変わらず、ピンポイント爆撃は続いている。
しかし音の間隔からすると、絨毯爆撃よりは一発一発が長くなってきている。
そして、《弾けし者》の周囲八方向への《空間魔法》の設定は無事に終わったようだ。
《空間魔法》一覧
ルルの《空間魔法》
入口:魔族から東1,000m、上空1,600m
ダイヒョウの《空間魔法》
入口:魔族から北西1,000m、上空1,600m
ゴブジの《空間魔法》
入口:魔族から南東1,000m、上空1,600m
ハヤテの《空間魔法》
入口:魔族から南西1,000m、上空1,600m
ソンチョウの《空間魔法》
入口:魔族から北1,000m、上空1,600m
マツコの《空間魔法》
入口:魔族から北東1,000m、上空1,600m
マサムネの《空間魔法》
入口:魔族から南1,000m、上空1,600m
マサオの《空間魔法》
入口:魔族から西1,000m、上空1,600m
こうして、魔族への包囲陣は完成した。
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17:25
魔国領《西の里》東へ1,000m、上空1,600m
PT
ヤマーダ、ネーコ、イズムズ
ヒューーーーーーッ!
流石は上空1,600mの風音だ。
《聖風》でヤマーダ達の周囲100mを追い風にしないと、魔族へは完全な逆風が吹き荒れていた。
『いい景色ー!』(ネーコ)
いつもの首の定位置に巻き付いているネーコが、上空1,600mからの羨望に感動している。
『絶景っすねー!』(イズム)
ザッ!
ヤマーダは一歩目の《跳躍》を開始した。
《聖風》を使うことに慣れたお陰で、風に身体を乗せる《跳躍》ができるようになっていた。
結果、滞空時間が60秒を超えるまでになっている。
この調子なら、
待機時間はいらないな!
「イヤッホーーーイ!」
ヤマーダも上空1,600mの《跳躍》という空中遊泳を楽しむ。
目の前には、遥か彼方の地平線に沈む夕日が空を真っ赤に染めている。
『旦那!』(イズム)
イズムの声に釣られて眼を凝らすと、真っ赤な空に黒い点が見えてきた。
魔族か!
まだ、魔族までは600m近くはある。
やっぱりか!
魔族は後方へと逃げ出した。
「逃がさねぇぞ! よっしゃ、行くぜ!」(ヤマーダ)
ザッ!
ヤマーダは《跳躍》する方向を上へ斜め45度から、完全な水平0度からほんのちょっとだけ上向きにして、《聖風》追い風をMAXまで上げた超《跳躍》を始めた。
バーヒューーッ!
『だ、旦那ー!』(イズム)
『ヤーマーーダー!』(ネーコ)
二人の叫び声も届かないほど高速、まさに弾丸のように、ヤマーダが魔族に向かって一直線に突き進む。
「行けー!」(ヤマーダ)
ザッ!
「もっとだー!」(ヤマーダ)
ザッ!
加速の為の《跳躍》をどんどん続けていく。
『でぁーーんーーにゃーー!』(イズム)
『ヤーーミャーーーードゥァーーー!』(ネーコ)
あまりの速度にまともに喋れない。
ツーーーーー…
耳鳴りがするほど加速し、速度300km/hオーバーになると、《ナマハゲ》マスクもブルブルと震えてきた。
魔族が急に方向を変え、急下降し始めた。
『ギャーーーーッ!』(イズム)
『キャーーーーッ!』(ネーコ)
「逃すかー!」(ヤマーダ)
ヤマーダもオーバーヘッドキックのように上の空気を《跳躍》し、急旋回、急下降する。
いつの間にか魔族との距離が、200mまで縮まっていた。
キーーーーー…
耳鳴りが相当激しくなるなか、魔族が方向を急に変えて、なりふり構わず逃走し始めた。
ふざけんなー!
ザッ!
ヤマーダが更に加速しながら《跳躍》する。
ザッ!
更に《跳躍》する。
ザッ!
そしてまた《跳躍》して、加速しまくる。
フーーーン!
ヤマーダの時速は450km/hに達し、魔族の脇をF1マシンのように駆け抜けた。
「ウォーーーッ!」(魔族)
ヤマーダが通り抜けた爆風で、魔族は脇に抱えていた魔物共々吹っ飛ばされた。
「今だ! イズム!」(ヤマーダ)
そう、魔族が方向転換しながら急下降し、吹っ飛ばされた先は《西の里》の中心から上空800m。
ヤマーダの《空間魔法》の出入口だった。
『はいっす!』(イズム)
ヤマーダ達はイズムの新たに設定した幕へ減速なしの450km/hで突っ込む。
《空間魔法》で待機していたハヤテにぶつかりながら、魔族の数m先の自分の幕から350km/hで射出。
即座に、魔族に《聖風》を叩きつける。
「な、なんだーーっ!」(魔族)
魔族が飛行しようとしても、まるで竜巻のような風に阻まれ、ヤマーダに吸い寄せられていく。
「止まれーー!」(ヤマーダ)
時速350kmからのフルブレーキング。
ヤマーダ達を襲う猛烈なG。
「うぉーーー!」(ヤマーダ)
『キャーーー!』(ネーコ)
『ホゲピーー!』(イズム)
『イヤッホーッ!』(ハヤテ)
三人の悲鳴と、一人の奇声。
「ハヤテ!」(ヤマーダ)
『あいよ!』(ハヤテ)
先ほどヤマーダが《空間魔法》を突き抜けた際、イズムズの1体とスイッチしたハヤテが自分の《空間魔法》への幕を作り出す。
「よっしゃ、行くぞ!」(ヤマーダ)
『いいわよ!』(ネーコ)
ザッ!
ヤマーダは《跳躍》して、右手を伸ばして強引に魔族の左腕を掴むと、遠投するように魔族をハヤテの《異空間》へと放り込んだ。
そして、ヤマーダ達もハヤテの幕へ飛び込んでいく。
結局は、ヤマーダが元々設定していた出入口で捕まえることに成功したのだった。
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17:40
ハヤテの《空間魔法》10m×10mの小空間
PT
ヤマーダ、ネーコ、イズム、ハヤテ
ヤマーダ達が《異空間》に飛び込むと、魔族は後ろへバックステップし、冷静に服装を整えていた。
「お前、何でこんなことをするんだ?」
魔族はまるで意味が分からないような表情で訊ねてくる。
「そっちが先にノーラの家族へ手を出したんだろうが! だから、助けに来たんだよ!」(ヤマーダ)
「どうして?」(魔族)
「何、言ってんだよ、お前!」(ヤマーダ)
怒りの感情を言葉に乗せるヤマーダと比べ、魔族は顔色一つ変えずにヤマーダとの会話を続けていた。
「お前は何か勘違いをしていないか? アヤカシギツネという種族は、世界に混沌をもたらす凶悪な存在だ。早急に駆除しなきゃならない」(魔族)
『ふ、ふざけないでよ!』(ネーコ)
「あぁ、そこにもいるのか。なら、しっかりと駆除しないとな!」(魔族)
魔族は腰の小さな袋から魔物を取り出し左腕に抱えると、いきなり右手をヤマーダへ向ける。
バフォォォォォーッ!
無詠唱、右手から巨体な火炎をヤマーダへ向かって叩きつけてきた。
「いきなりなんなんだよ、コイツ!」(ヤマーダ)
相手までたった数mの距離での、超接近した魔法戦が始まった。




