ロイヤルパーティー誕生
3591年6月14日(同日)
夕方
《空間魔法》ヤマザルの動く村〈広場〉
ヤマーダの頭にナレーションが響く。
“ソンチョウがオークからオークチーフに進化しました”
“ダイヒョウがゴブリンチーフからゴブリンメイジに進化しました”
オーク村長とゴブリン代表は、二人揃って《進化》した。
ソンチョウの希望は
この前、突然変異して生まれた子供に
負けたくない
だから一緒の《オークチーフ》
『これでチビに、バカにされんで済むべ』(ソンチョウ)
「いやいや、バカになんてしないでしょ」(ヤマーダ)
オークの生態が分からん
ダイヒョウの希望は
農作業がしやすい
《水魔法》と《風魔法》を覚えたい
だから《ゴブリンメイジ》
『これでワシも魔法が使えます。感無量です』(ダイヒョウ)
「引き続き頑張ってくれ」(ヤマーダ)
二人は、今後もレベル上げして
更に《進化》したいとさ
ヤマザル村の管理とは別に
町での
諜報活動でもしてもらうか
話題は変わり、
「では、当面の問題、《空間魔法》の所にいる200体の魔物について、皆の意見を聞きたい」(ヤマーダ)
ペチャ…ペチャ…
広場に集まっているのは、ヤマーダ、イズム、マサオ、マツコ、オーク村人達、ゴブリン村人達。
一応、馬と牛の夫婦も参加している。
ガヤガヤガヤ
そんな、総勢40が一斉に話し出したのだ。
ガーガーガー!
様々な発言が飛び交い、段々と音量はエスカレート。
正直言ってうるさい。
『スースー…』
そんな喧騒をものともせず眠るイズム。
「はーーい、ちゅーーーもーーーくっ!」(ヤマーダ)
ヤマザル大村長のありがたいお言葉に、村人達はピタッと静かになった。
あ、あれっ!
本当に静かになっちゃったよ
「ゴホン」(ヤマーダ)
一つ咳払いをして、
「オーク達の意見はソンチョウ、ゴブリン達の意見はダイヒョウがまとめてから発言しるように。そして、まとまるまでの間は、なるべく小声でお願いします」(ヤマーダ)
ヒソヒソヒソ…
流石は大村長のお言葉、村人は従順に従っている。
そんな中、ヤマザル村にネーコ(人化)とルル、ノーラ(人化)が村に帰ってきた。
「向こうどうだった?」(ヤマーダ)
「無理だったわ」(ネーコ)
「どんなに痛めつけても、変わんない」(ルル)
「難しいですね」(ノーラ)
ネーコ達三人は《空間魔法》に閉じ込めている魔物達の《隷従》を直せないか、色々と試していたのだった。
しかし、結果は三人の言葉通り。
「もっと、強めにしないとダメだと思う」(ルル)
うーん、ちょっと違うかなぁ
ルル…暴力はいかんよ、暴力は
まぁ、そんなに簡単には直せないか
気長に待つしかないか
ヤマーダは、魔物達を《空間魔法》に閉じ込めた後、魔物達を個別にする牢屋のような物を作り、魔物を単体に分散させた。
念のための共食い対策
水槽にザリガニをいっぱい入れると
殺っちゃうんだよね、共食い
今後はノーラの《空間魔法》を
《ヤマーダ刑務所》と決定します
勝手に決める独裁者ヤマーダ。
難攻不落、脱獄不可能です
「三人はさぁ、あの魔物達をどうすればいいと思う?」(ヤマーダ)
「倒せばいいじゃない」(ネーコ)
「アタイ、戦いたい!」(ルル)
二人はどうして、すぐ暴力に訴える?
「私としては、自分の異空間に大量の魔物がいるのは、気持ち悪いですね」(ノーラ)
確かにオレも嫌だな
『旦那はどうしたいんすか?』(イズム)
「できることなら、《隷従》から解放して、自由にしてやりたいな」(ヤマーダ)
野生の魔物を自然に帰す
自然を愛する男、ヤマーダの挑戦は続く
『でも全然、言うこと聞かないよ』(マサオ)
「そこなんだよ」(ヤマーダ)
やっぱ野生は難しいよ
ヤマーダの自然愛が冷めてくる。
「どうせ自由にしたら、またアタシ達を襲うんじゃないの」(ネーコ)
「それは言えてますね」(ノーラ)
「やっぱり戦いたい!」(ルル)
『アタイも!』(マツコ)
キツネ組の意見も一理ある
「何て言うか…魔物達が自分の意思で俺達と戦いたいってんなら、ブッ倒してもいいんだけどさぁ。今の魔物達ってある意味、被害者なんだよ」(ヤマーダ)
『なしてだべ?』(マツコ)
「だってさぁ、《隷従》だよ《隷従》! 多分、自分の意思とは関係なく、命令でやらされてんだよ、きっと!」(ヤマーダ)
ヒソヒソヒソ
『それなら、話は別だべ』(ソンチョウ)
ヒソヒソヒソ
『助けて上げたいです』(ダイヒョウ)
話が堂々巡りしていると、
『じゃあ、飼うしかないんじゃない?』(マサオ)
飼う!?
「飼う、って! 200体だよ、200体! それにオーガキングもいるし」(ヤマーダ)
ヒソヒソヒソ…
オーク達は相談すると、
『オラ達やゴブには面倒見れないべ』(ソンチョウ)
オークやゴブリンチーフよりも、オーガキングの方が確実に強い。
そんな中、
『だったら、アッシが面倒見ましょうか?』
寝坊助のイズムが名乗り出てきた。
「えっ? イズムが?」(ヤマーダ)
『はいっす』(イズム)
確かにイズムは圧倒的に強いけど
『そのぉ…200体ですっし、アッシかルルっちしか無理じゃないっすか?』(イズム)
イズムも自分とルル以外では、暴れるオーガキングらを飼えないと理解していた。
まぁ、ヤツらが一斉に暴れられたら、
二人以外は止められないんだよな
ヒソヒソヒソ
『イズム先生が正しいべぇ』(ソンチョウ)
んっ! 先生?
ヒソヒソヒソ
『ワシらもそう思います』(ダイヒョウ)
「よし分かった。魔物達の世話はイズムに頼むよ。そして、アイツらの食事や衣服、住まいについては、村の皆で協力しよう」(ヤマーダ)
『了解っす』(イズム)
『任せるべ』(ソンチョウ)
『頑張ります』(ダイヒョウ)
こうして、捕獲した魔物達はヤマザル村で飼うことになった。
----------
《空間魔法》
ヤマーダ達は場所を《ヤマーダハウス》に移した。
ワンルームの《ヤマーダハウス》にヤマーダ、ネーコ、ルル、マサオ、マツコ、ノーラ。
窓の外には、馬と牛夫婦。
人口密度がかなり上がっている。
開口一番、
「ヤマザル様、今後の事を考えてもっといろんな職業に就きたいのですが」
と、ノーラが提案してきた。
ノーラは副業したいの?
「そんなことできんの?」(ヤマーダ)
「はい。多分できます」(ノーラ)
「だったら、アタシも!」
ネーコも乗っかってきた。
「でもさ、どうやんの?」(ヤマーダ)
「《空気使い》のスキルには、《重職》出来るようですよ」(ノーラ)
「えっ? ホント!」(ヤマーダ)
スキル保有者、本人が知らなかった。
空気使い(Lv7)・
《神水》《聖炎》《聖風》《神気》を術者の半径100m以内まで作成できる。
作成可能の範囲には生物・無機物内の空気も含まれる。
任意の職業に転職でき、重職は8つまで可能。
マスターした職業の効果は、転職後も失われない。
術者の意思で他人の職業に干渉でき、重職を4つまで就かせられる。
ほ、本当だ!
ヤマーダは記憶を退行してから、初めて《空気使い》を詳しく見たのだった。
「ノーラは何で、俺のスキルの詳細が分かったの?」(ヤマーダ)
「PTメンバーなら、誰でも見れますよねぇ」(ノーラ)
そ、そうだった!
それから数時間、転職について試行錯誤を繰り返し、ある程度の結論が導き出された。
どうやら、
転職できないのは、魔物全般
と言っても
ネーコやルル、ノーラはできるみたい
「どうやら、下位の魔物の《進化》が、上位の魔物や動物全般の《転職》に相当するようですね」(ノーラ)
「へぇー」(ヤマーダ)
魔物でも、ネーコとノーラが該当するアヤカシギツネや、ルルのゴブリナクイーンは《進化》できない。
このことから、上位の魔物は《進化》できないことが分かった。
①ネーコのステータスから幾つもの《職業》に就けると判明。
②馬達や牛達も《転職》が可能と判明。
③ヤマーダのステータスから《重職》が嘘ではないと判明。
④イズムやマサオ、マツコ、村人達には《転職》できない事から、彼らを下位の魔物と推定。
こんな感じに、ネーコとノーラが《進化》と《転職》の関係性を類推していった。
そして、ネーコが、
「じゃあ、まずアタシからお願い」
《重職》を希望した。
ネーコ
職業・無職(Lv-)、魔法使い(Lv-)、僧侶(Lv-)
薬師(Lv-)、錬金術師(Lv8)
現在、魔法系の職業に多く就いている。
《重業》には、魔法の種類を充実させられる《職業》を希望。
そこで選んだ《職業》は、
職業・無職(Lv-)、魔法使い(Lv-)、僧侶(Lv-)
薬師(Lv-)、錬金術師(Lv8)
占星術士(Lv1)new、魔導師(Lv1)new
重職は最大4つまで。
まだ1つ就けるが、念のためにとっておく。
「私もお願いします」
ノーラも続く。
職業・無職(Lv-)、魔法使い(Lv5)
本人の希望は、ネーコと同じ魔法系の他に、妻として役立ちそうな《職業》。
選んだ《職業》は、
職業・無職(Lv-)、魔法使い(Lv5)
召喚士(Lv1)new、家政婦(Lv1)new
娼婦(Lv1)new
4つ分、フルで重職。
《娼婦》に就いちゃっていいの?
ホントに?
「ルルはどうする?」(ヤマーダ)
「アタイは、別にいいや」(ルル)
「そう?」(ヤマーダ)
ルルは重職の希望なし。
で、オレ
ヤマーダ
職業・無職(Lv-)、魔物使い(Lv-)、戦士(Lv-)
魔法使い(Lv-)、木こり(Lv-)、猟師(Lv-)
漁師(Lv-)、農民(Lv-)、商人(Lv-)
武器職人(Lv-)、竜の使徒(Lv6→0)
防具職人(Lv-)、染織職人(Lv-)
採掘技士(Lv-)、調教師(Lv-)
尋問官(Lv-)、騎士(Lv6)、大工(Lv2)
家具職人(Lv2)、魔導師(Lv4)
重職を8つ就けるが、
《竜の使徒》を入れて既に5つ
予備は1つ欲しいところ
つまり、後2つ、就けるな
ヤマーダは苦悩した結果、《賢者》と《奴隷商人》を追加することに。
職業・無職(Lv-)、魔物使い(Lv-)、戦士(Lv-)
魔法使い(Lv-)、木こり(Lv-)、猟師(Lv-)
漁師(Lv-)、農民(Lv-)、商人(Lv-)
武器職人(Lv-)、竜の使徒(Lv6→0)
防具職人(Lv-)、染織職人(Lv-)
採掘技士(Lv-)、調教師(Lv-)
尋問官(Lv-)、騎士(Lv6)、大工(Lv2)
家具職人(Lv2)、魔導師(Lv4)
賢者(Lv1)new、奴隷商人(Lv1)new
「…で、キミ達はどうする?」(ヤマーダ)
視線の先には、ワクワクが止まらない馬2頭と牛2頭がいる。
『私はカッコよく戦う凛々(りり)しい《職業》がいいな。できれば、《魔法》というのも使ってみたい。それにだな…』(シュバルツ)
…始まったよ
案の定、要望が止まることはなく、夕食を跨ぎ、深夜まで掛かってしまった。
シュバルツ
職業・無職(Lv-)、戦士(Lv1)new
魔法使い(Lv1)new、魔物使い(Lv1)new
軽業師(Lv1)new
クリスティ
職業・無職(Lv-)、魔法使い(Lv1)new
軽業師(Lv1)new
リチャード
職業・無職(Lv-)、魔法使い(Lv1)new
農民(Lv1)new、軽業師(Lv1)new
ハナコ
職業・無職(Lv-)、魔法使い(Lv1)new
農民(Lv1)new、採掘技士(Lv1)new
シュバルツは器用貧乏になるな
----------
3591年6月19日(5日後)
午後
魔国領《西の里》道中
PT
シュバルツ騎乗のヤマーダ、ネーコ、マサオ
クリスティ騎乗のルル
ドッドッドッドッ…
ヤマーダPTは、荒野を疾走していた。
ヤマーダは牛に乗りながら、チンタラ移動していた為、4日後の6月23日までに行商人との待ち合わせに、間に合わないと気づいたからだ。
ドッドッドッドッ…
「シュバルツ、急げるだけ急いでくれ!」(ヤマーダ)
『うむ!』(シュバルツ)
ドッドッドッドッ…
『ヤマーダ! だから急いだ方が良いって言ったじゃん!』(ネーコ)
「ゴ、ゴメン!」(ヤマーダ)
ネーコの大声の愚痴を、これまた大声で反すヤマーダ。
爆走中の為、大声でないと聞こえない。
そんな中、ルルが何かに気づいた。
ドッドッドッドッ…
「ヤマーダ」(ルル)
ヤマーダは騒音で聞こえない。
ドッドッドッドッ…
「ヤマーダ!!」(ルル)
今度は目一杯の大声で呼ぶ。
「ウオッ! どうした!?」(ヤマーダ)
ドッドッドッドッ…
「速度を落として!」(ルル)
「分かった!」(ヤマーダ)
ヤマーダが走るペースを落とすと、ルルがいつものトーンで話し掛けてきた。
「ヤマーダ、あれ見て」(ルル)
指差す方を見ると、岩に米粒のような点が辛うじて見える。
全く見えない!
「ルル、あれが何なのか見えるか?」(ヤマーダ)
「うん! サルが縛られてるみたい」(ルル)
サル?
あぁ、人間ね…に、人間!?
異世界に来て初めてだよ
「とりあえず、行ってみよう」(ヤマーダ)
「了解!」(ルル)
『ねぇヤマーダ、道草してていいの?』
「何の為に急いでんのよ」って顔のネーコ。
「だって、放ってはおけないだろ」(ヤマーダ)
----------
ヤマーダが近づいてみると、奴隷服のような格好をした男性3人、女性2人の計5人の人間が目隠しされた状態で岩に縛られている。
男女5人はかなり衰弱しているのか、ピクリとも動かない。
死んでんじゃないの、コイツら
とりあえず、ヤマーダは《ナマハゲ》マスクを外し、
「オイ! 大丈夫か!」
と、男女に話しかけるも返事がない。
馬から降りて、一番年上であろう男の肩を揺らし、
「大丈夫か!」(ヤマーダ)
大声で話し掛けると、
「…み…み…水…」(男)
掠れた声が聞こえてきた。
ヤマーダは急いで、腰に下げている水筒から水を飲ませる。
ゴクリ、ゴクッ、ゴクゴクゴクゴク
男は相当喉が乾いていたのか、一瞬で水筒を空にしてしまった。
「ご、ご苦労!」(男)
お礼の言葉と被るように、
「何をしている! 早く目隠しを取れ!」(男)
急に命令口調になった。
何だよ! コイツ!
「あ、あぁ、はいはい」(ヤマーダ)
言われるがままに、男の目隠しを取ってやる。
視界の晴れた男は、しきりに辺りを見渡すと、
「一緒に縛られている弟妹達にも水を差し出すがよい」(男)
「は、はぁ」(ヤマーダ)
何なんだよ、コイツは!
スッゲー上からの物言いなんですけど!
弟妹?
あぁ、弟と妹ね
怒りをこらえて、ヤマーダは《水魔法》で補充しながら、周りの男女にも水を飲ませていく。
次第に元気を取り戻していく男女。
驚いたことに服装こそ見すぼらしいが、顔立ちをよく見ると、金髪で容姿端麗、美男美女の兄妹だった。
ひとしきり喉が潤ったのか、
「オイ、キサマ。さっさと縄をほどけ!」(男)
「早くなさい!」(上の妹)
妹も参戦して、自分勝手な要望だけを伝えてきた。
美人ってヤツは性格悪いって言うけど
本当の事だな!
そんな無礼な態度に、
「嫌だよ、バ~カ!」
ルルが真っ先にぶち切れてしまう。
「ヤマーダ、こんなヤツら、放っといて行こうよ」(ルル)
踵をかえすルルに向かい、
「にゃにを! 小娘の分際で何を言うかぁ!」(男)
「いいから、ほどきなさいよ」(上の妹)
二人が喚き散らした。
「早くしてぇーー、うぇーん」
ついに、一番下の妹は泣き出してしまう。
連れて、
「うぇーーん」
下の弟も泣き出した。
『あー面倒! ヤマーダ、サルなんて放っとこう』(ネーコ)
不愉快な態度に、最早、ネーコもこの兄妹達に興味がなくなっていた。
「ほどけ~!」(男)
「早くなさい!」(上の妹)
「「うぇーーん!」」(下の弟妹)
4人が騒ぎ立てて、騒音が80dBに。
「コイツら、うるさーい!」(ルル)
バガンッ!
ルルが黙れと言わんばかりに、隣の小岩を拳で叩き割る。
「………」
叩き割られた岩を見て、一斉に黙り込む兄妹達。
「さっ、早く行こう!」(ルル)
さっさと、クリスティの向きを変えようとするルルに、
「あ、あのな…私は自由にしろと言ってるだけなんだ」(男)
「その通りよ!」(上の妹)
しぶとく食らいつく二人。
ヤマーダは一連の騒動を眺めて、観察していた。
そして、男のすぐ下であろう上の弟も事態の成り行きを見守っている。
「そこのアナタ、黙ってないで何とか言いなさいよ!」(男の妹)
「早(は~や~)く~」(下の妹)
矛先をヤマーダに移し、睨み付ける美女と美少女。
「えぇと、まず、縄をほどけばいいんですか?」(ヤマーダ)
「そうだ!」
とにかく命令する男。
なるほど、
コイツら、間違いなく大バカだな
「その後はどうするんですか?」(ヤマーダ)
「何とかして、王都に帰る…グダグダ言ってないで、早く縄をほどけ!」(男)
「えぇと、ここが何処だか知ってますか?」(ヤマーダ)
「そうだなぁ…んっ!? こ、ここは何処だ?」(男)
周りの風景が記憶にない景色だと気づいた。
気づくの遅!
「魔国領って所らしいですよ、ここ」(ヤマーダ)
驚いている男に追い討ちをかける。
「「「「魔国領だと!?」」」」(兄妹4人)
「………」(上の弟)
「「う、う、うぇーーん」」
下の弟妹が、また泣き出した。
「どうすればいいのだ!?」(男)
「まだ死にたくない!」(上の妹)
混乱、混乱、大混乱。
そんな彼らを無視して、
「ヤマーダ、ほら、早く!」(ルル)
『ヤマーダ!』(ネーコ)
二人は放置プレイすることに。
「あ、うん」
二人に急かされてしまうヤマーダ。
ヤマーダがシュバルツに騎乗しようとしたら、
「ちょっと兄上、ナタリー! 黙っててください!」(上の弟)
今まで一言も発しなかった弟が、声を張り上げた。
ヤマーダを目を剃らさずに見つめると、
「先ほどは、私の兄姉が大変失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした。深くお詫びいたします」(上の弟)
男と違い、弟の方は礼儀正しくヤマーダと接してきた。
「いえいえ」(ヤマーダ)
礼儀正しい青年に、毒気を抜かれてしまう。
「私、アルベルト・テーベと申します。東のテーベにて公爵、だった内の一人になります」(アルベルト)
「はぁ」(ヤマーダ)
東国の貴族!?
「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」(アルベルト)
「ヤマーダと言います」(ヤマーダ)
「お手数ですが、いくつか伺ってもよろしいでしょうか?」(アルベルト)
「はぁ」(ヤマーダ)
「アルベルト、こんなヤツに何をへり下っておる!」(男)
「そうですわよ」(ナタリー)
アルベルトは兄姉を睨み付けると、
「兄上は、今がどういった状況か分かっているんですか?」
「うむ!」(男)
目をつむり、分かっているアピールをする。
しかしよく見ると、冷や汗が出ていた。
「いいえ、全く解っていません! 国王であるエルメスト兄上に招待された私達は眠らされた挙げ句、こんな魔国領に捨て置かれたんですよ。つまり、エルメスト兄上は私達を殺す気なんです!」(アルベルト)
「な、なんだと!」(男)
男、バカなんじゃないの
自分の置かれてる状況が分かんないのか?
そうこうしていると、
“魔物が現れた”
死神サソリ 3体
オーガ 4体
コカトライス 1体
「…し、死んだ」(男)
「キャーーッ!」(ナタリー)
「…」(アルベルト)
「「うぇーーん!」」(下の弟妹)
そんな兄妹の騒音を無視して、
「何かご用ですか?」(ヤマーダ)
いつもの調子で魔物達に話し掛ける。
「… (何だ、この人? オーガ達を見ても眉一つ動かさない)」(アルベルト)
『サルの旨そうな匂い、釣られた』(サソリ)
『久しぶりのご馳走だ!』(オーガ)
アルベルト兄妹を見て、嬉しそうな魔物達。
『折角の餌だ、お前らに取られてたまるか!』(コカトライス)
そんな兄妹を前に、サソリとオーガを牽制する。
三者三様の体でいがみ合う魔物達。
「イヤッホー、久しぶりの戦い!」(ルル)
「ル、ルル! ちょっと待って!」(ヤマーダ)
特攻野郎ルルチームをいち速く止める。
「…」
アルベルトは黙ってヤマーダ達を観察していた。
「折角の経験だ! ネーコ、ソンチョウとダイヒョウを連れて来て! 後、牛夫婦も頼む!」(ヤマーダ)
『任せて!』(ネーコ)
ネーコは一瞬で《空間魔法》の幕に入っていく。
「… (キ、キツネが消えた!)」(アルベルト)
よそ見をしているヤマーダに、
『いっただきーーっ!』(オーガ)
ドガッ!
オーガの強烈な一撃で、岩肌がガッサリ削れる。
「…も、もうダメだ」(男)
今の一撃を見た男は気絶してしまう。
他の3弟妹はとっくに気絶。
しかし、オーガの持つこん棒をよく見ると、
「血が、付いてない!」(アルベルト)
ヤマーダの殺られた痕跡が全くなかった。
そこに、後ろへ回り込んだヤマーダが、
「こっちだ、ウスノロ」
バキッ!
脇で牽制していたオーガ達へ向かって、オーガを蹴り飛ばした。
今度はサソリが、
『いただきまーす』
縛られている兄妹にサソリの鋏が迫る。
「(や、殺られる!)」(アルベルト)
カキーン!
高速に振り抜かれたこん棒がサソリの鋏を弾き返し、サソリは大きく仰け反った。
そして、サソリの一撃を邪魔した者達が名乗りをあげる。
『お仕置きだべぇー!』(ソンチョウ)
『推参!』(ダイヒョウ)
何処からともなく、牛に跨がったオークとゴブリンが颯爽と現れた。
『ヒァッハーーーー!』
いつの間にか、シュバルツに騎乗しているマツコが雄叫びを上げ、オーガを追い回している。
何で…マツコがいるの?
PT編成
攻撃 シュバルツ騎乗のマツコ
クリスティ騎乗のルル
リチャード騎乗のソンチョウ
ハナコ騎乗のダイヒョウ
支援 ネーコ、マサオ
困惑 ヤマーダ
「(な、何なんだ! この魔物達!)」(アルベルト)
ピュン!
コカトライスの首がいつの間にか胴体から離れていた。
背後には、狩終えて満足そうなルルが馬上から見下ろしている。
ルルか!
いつの間に!
「(コカトライスの首を一撃で!)」(アルベルト)
「ルルーっ! それ1体までにしておきなさい! 皆が食べられなくなっちゃうでしょ!」(ヤマーダ)
「は~い…」(ルル)
返事をするも、明らかに不満顔。
バゴーーン!バゴーーン!
『ヒァッハーーーー!』(マツコ)
血に飢えた猛獣のように、オーガ2体の頭を腕ごとふっ飛ばす。
マツコもやり過ぎ
「マツコもそこまで!」(ヤマーダ)
『あ、あいよ!』
実はヤマーダに従順な姿勢のマツコ。
『牛若、回り込め~!』(ソンチョウ)
『あの~、私、リチャードです』(リチャード)
『悪・即・打』(ダイヒョウ)
『早く指示してください、ダイヒョウさん!』(ハナコ)
なんだろう、このオーク達は…
連携の欠片もない会話と裏腹に、二組は既に死神サソリを全滅させ、残りのオーガを取り囲んでいた。
「(す、凄い!)」(アルベルト)
もう、戦いも終わるな
そろそろイズムの《吸収》の時間だな
「ネーコ、お使いばかりさせて悪いんだけど、ノーラに頼んで《刑務所》からイズムを連れて来てくれ」(ヤマーダ)
『分かったわ』(ネーコ)
ネーコが《空間魔法》からノーラを呼び出し、ノーラが《空間魔法》にいるイズムを呼び出す。
まるで伝言ゲームのような事をしているうちに、魔物達は肉塊に変わっていた。
えーと、
ステータスはどうなったかなぁ
ヤマーダ
職業・賢者(Lv1→2)
魔法・同時魔法(Lv1)new、空間魔法(Lv1)new
魔法の才(Lv1)new
おー!
《賢者》のレベル上げに成功!
よっしゃ!
《空間魔法》が使えるようになった!
シュバルツ
職業・戦士(Lv1→2)、軽業師(Lv1→2)
スキル・突き(Lv1→2)、旋回切り(Lv1)new
身代わり(Lv1)、高速移動(Lv1→2)
二段跳躍(Lv1)new
連続回避(Lv1)new
クリスティ
職業・魔法使い(Lv1→2)、軽業師(Lv1→2)
魔法・火魔法(Lv1→2)、水魔法(Lv1→2)
風魔法(Lv1)new
スキル・高速移動(Lv1→2)
二段跳躍(Lv1)new
連続回避(Lv1)new
リチャード
レベル・3→10
職業・軽業師(Lv1→2)
スキル・高速移動(Lv1→2)
二段跳躍(Lv1)new
連続回避(Lv1)new
ハナコ
レベル・1→9
ソンチョウ
レベル・1→12
職業・魔法使い(Lv1→3)
魔法・火魔法(Lv1→3)、水魔法(Lv1→3)
風魔法(Lv2)new
スキル・職業適性(Lv3→4)
ダイヒョウ
レベル・1→13
スキル・耐久(Lv4→5)
いや~、レベルが低いと、
すぐ上昇してくれて楽だよねぇ
実際には、強力な魔物が住まう魔国領で、死と隣り合わせの経験を積んでいるからなのだが…
「アタイ、帰る~」(ルル)
『アタイも』(マツコ)
『牛若、オラ達も帰るべぇ~』(ソンチョウ)
『帰還!』(ダイヒョウ)
『では、私も』(ノーラ)
戦闘が終了したので、さっさと帰りたくなる面々。
「あぁ、ノーラは悪いけど、イズムを《刑務所》に送ってからにしてくれ」(ヤマーダ)
「分かりました、ヤマザル様」(ノーラ)
「ネーコ、先にルル達を送ってやってくれるか?」(ヤマーダ)
『分かったわ』(ネーコ)
こうして、小規模の戦闘を終えたマツコ達は《ヤマザル村》へ帰っていった。
PT
ヤマーダ、ネーコ、イズム、ノーラ、
シュバルツ
ジュルジュルジュル…
イズムは頑張って《吸収》している。
残りは後、オーガ1体。
そろそろ、出発するかな
ヤマーダがシュバルツに騎乗しようとすると、
「素晴らしい強さでございますね!」
アルベルトが感嘆の声をあげた。
「そ、そうですかねぇ」(ヤマーダ)
褒められて悪い気はしない。
「厚かましいお願いなんですが」(アルベルト)
「何です?」(ヤマーダ)
嫌な予感
「ヤマーダ様、私達を庇護していただけませんか?」(アルベルト)
「嫌です」(ヤマーダ)
正しくの即答。
「な、何とか、なりませんでしょうか?」(アルベルト)
尚も食い下がってくる。
「アナタ達を自由にするくらいなら構いませんが…」(ヤマーダ)
「それは…兄の無礼な態度のせいでしょうか?」(アルベルト)
「えぇ、それもありますね」(ヤマーダ)
「それも」、つまり一番の理由はほかにあることを伝えていた。
「でも一番の理由は、貴方達を助けると、テーベ、でしたか、その国の王様と敵対することになるからです」(ヤマーダ)
「な、何故そう思うので?」(アルベルト)
「では考えてみてください。テーベの王様自ら貴方達を処断したんですよね」(ヤマーダ)
「え、えぇ…」(アルベルト)
「だとすると、明確な理由があるはずです。例えば貴方達が反乱を企てたとか、王様を暗殺しようとしたとか」
「!?」
「仮に冤罪だとしても、綿密に計画された罠のはず。既に、貴方達の逃げ場なんて無いんじゃないですか?」
「…は、はい」
「貴方達を助ける行為は、テーベの王様からしてみたら正統な敵対行為です。そうなれば、国を敵に回すことになるでしょう。見たところ、お金もないようですし。正直、貴方達を助ける利点が全く見つかりません」(ヤマーダ)
「た、確かに…そうですね」(アルベルト)
「酷な言い方になりますけど、アルベルトさんのご兄妹は、自分達の置かれている状況がよく分かっていないんじゃないですか」(ヤマーダ)
ここで、アルベルトの兄が目を覚ます。
「オイ、キサマ! 早く助けろ!」(兄)
「はい」(ヤマーダ)
短い返事をすると、アルベルト達の縄を切った。
「よし! よくやった! 褒めてやる!」(兄)
「…」(ヤマーダ)
最早、ヤマーダは兄妹達と会話する事を完全に止めた。
「(このままでは不味い! 彼を味方に出来なければ、私達は死ぬ!)」(アルベルト)
明らかにヤマーダの雰囲気が変わったことに気づいた。
「では、これで失礼します」(ヤマーダ)
シュバルツに跨がり、踵をかえす。
バシッ!
アルベルトは兄を殴り付けて、
「兄がご無礼を働き、申し訳ありませんでした。今一度、慈悲をいただけませんでしょうか?」
と言い、ヤマーダに向かって土下座する。
「オイ、アルベルト! 兄の私に向かってなんて事を!」(兄)
コイツ! また、無礼を働いたじゃん!
ヤマーダの表情が曇る。
バシッバシッバシッ!
急に、アルベルトは兄を何度も殴り付け、
「兄上! 私達が魔国領で生き残るには、このお方にすがるしか方法がないんです!」
バシッバシッバシッ!
更に殴り続ける。
そんなとき、ナタリーが目を覚まし、
「アルベルト兄様、ウランバルト兄様になんて事を!」(妹)
「うるさい、ナタリー! 黙っていろ!」(アルベルト)
バシッバシッバシッ!
「…う…う…う…」(ウランバルト)
たくさん殴られて、顔は腫れ上がり、口と鼻から大量に出血している。
「ヤマーダ様! 愚かにも兄ウランバルトと妹ナタリーがご無礼を働きました。そして、二人を止められない私にも責任の一端があります。ですが、どうか、弟オルトスと下の妹シスだけでもお救いください!」(ウランバルト)
バシッバシッバシッ!
「…な…何を…」(ウランバルト)
「まだ言うかぁ!」(アルベルト)
バシッバシッバシッ!
殴打が際限なく繰り返された。
「アルベルト兄様! 止めてぇー!」(ナタリー)
ウランバルトの鼻は折れ陥没しており、歯もほとんど殴り折られ、顔の原型を留めていない。
『ヤマーダ、あのサル、本当に死んじゃうよ』(ネーコ)
《鑑定》で観ているネーコの言葉に嘘偽りはない。
パシッ!
ヤマーダは馬から降りて、アルベルトの腕を掴む。
「もういいよ、アルベルトさん。貴方の気持ちはよく分かったから」(ヤマーダ)
「す、す、すみませんでしたぁーー!」(アルベルト)
アルベルトは大声で詫びると崩れ落ちた。
アルベルトの両拳は皮がめくれ、爪は剥がれ落ち、指の骨まで見えるほどボロボロで、兄の血と自分の血でドロドロになっていた。
「何故! 何故です! アルベルト兄様!」(ナタリー)
「ナ、ナタリー…こ、このお方に…助けてもらえなければ…私達は死ぬ…私達は死ぬのだ!」(アルベルト)
ここで下の弟オルトスと下の妹シスが目を覚ます。
「ウランバルト兄様!」(オルトス)
瀕死になっている兄にしがみつく。
「うぇーーーん!」
シスは何が何だか分からず、泣き出してしまう。
『これ、どうするの?』(ネーコ)
流石にこれ以上、鬼にはなれないな
「悪いが回復してやってくれ」(ヤマーダ)
『分かったわ』(ネーコ)
キツネ姿のネーコがチョコチョコとウランバルトに近づいていく。
「キ、キツネ?」
抱きついていたオルトスが、泣きつかれた赤い目で不思議そうにネーコを見つめていた。
----------
ヤマーダはアルベルト、ネーコはウランバルトを回復させる。
そんな姿を見ていたアルベルトは、
「…ヤマーダ様は《回復魔法》まで使えるんですか?」
「うん、まぁ俺のは《回復魔法》じゃなくて、《魔物使い》の《回復》って魔法らしいけどね」(ヤマーダ)
「うん…先ほどは失礼した、ヤマーダ殿」
意識を取り戻したウランバルトが素直に謝罪してくる。
「気にしてませんよ」(ヤマーダ)
ヤマーダが気のない返事を返していると、
『終わったっすよ』
魔物の《吸収》を終えたイズムが、ヤマーダの肩に乗ってきた。
『ハイこれ、魔核っす』(イズム)
「いつも、ありがとうな、イズム」(ヤマーダ)
お礼を伝えて、魔核を腰袋に入れる。
そして、
「悪いが、また《刑務所》の警備を頼むな」(ヤマーダ)
『任せるっすよ』(イズム)
ノーラがイズムを送り届けて帰ってきた。
『ヤマー、サル丸出しだと、また魔物が来るよ』
マサオがヤマーダの姿を見て、注意してくれた。
《ナマハゲ》状態じゃないヤマーダとアルベルト達を見れば、また魔物に襲われることは間違いない。
「…一旦、帰るか」(ヤマーダ)
一連の騒動に疲れたヤマーダは、《空間魔法》へ帰ることに。
「あのぉ、皆さん。ここは危険なんで、移動しまーす」(ヤマーダ)
バスガイドみたいな喋り方でアルベルト達を先導する。
「あのぁ…どちらへ」(アルベルト)
「まぁ、ついてくれば分かりますよ。ネーコ、頼む」(ネーコ)
ネーコが《空間魔法》で向こうと繋がる幕を発生させる。
「な、何なんです、これは」(アルベルト)
「えーと、魔法ですね。《空間魔法》」(ヤマーダ)
『ボク、一番!』
マサオが真っ先に飛び込んでいく。
「まぁ、ついてくれば分かりますから」(ヤマーダ)
ヤマーダ達は、アルベルト兄妹を連れて《ヤマザル村》へと消えていった。
----------
《空間魔法》ヤマザルの動く村〈広場〉
「ここは一体、何なんだ!」(ウランバルト)
「信じられない!」(アルベルト)
一面畑の真ん中に、小さな建物がポツンと一つ。
その周りを綺麗に区画された建物が並んで建っていた。
農作業をしている村人を見つけたナタリーは、
「あそこに魔物がいるわ!」
流石に初対面で、警戒してしまう。
驚いている兄妹を気にすることもなく、
「ヤマーダ、お帰り」
先に戻ったルルが、出迎えてくれた。
「“か、可愛い”」
オルトスがルルを見て、小さく呟いた。
「ルル、村の皆に集まるように伝えてくれるか?」(ヤマーダ)
「うん、分かった」(ルル)
パタパタと走り出す後ろ姿に、
「“可愛い”」(オルトス)
ヤマーダはアルベルト達を向くと、
「えーと、まずここはネーコの《空間魔法》で作られた異空間です」
「ゾ、異空間」(アルベルト)
トコトコと少女が近づいて、
「そう、アタシのゾーン」(ネーコ)
そんなネーコを見て、
「何でこんな所に子供が?」(ウランバルト)
「何よ、コイツ! 失礼なヤツ!」(ネーコ)
二人の雰囲気が険悪になってしまう。
「ネーコ、《姿》を見せてやって」(ヤマーダ)
「わかったわ」(ネーコ)
そういうとネーコはアヤカシギツネに戻り、
『こう言うことよ! (キュウキュウキュ!)』
いや、ネーコ
普通の人には通じないんじゃ
「さっき、ウランバルト兄様を助けてくれたキツネ!」
オルトスはキツネ姿のネーコを見て、兄を治したキツネだと思い出した。
再び《人化》すると、
「アタシはアヤカシギツネのネーコよ、気軽にネーコさんって呼んでもいいわ」(ネーコ)
「は、はい」(シス)
この村に来てから、緊張しっぱなしのシス。
「そして、このゾーンに住んでいる住民の代表が俺、ヤマーダです」
『違うべ! ヤマザル様だべぇ (ブッブヒッヒ!)』
到着早々、話をややこしくするソンチョウ。
ここからは、ヤマーダの通訳をミュートにしてお送りします。
「あぁ、このオークが村のオークを代表するソンチョウだ」(ヤマーダ)
アルベルト達にソンチョウを紹介する。
紹介されたソンチョウは他のオーク達とは明らかに違う。
まず、体格が一回り大きい。
そして、格式張った祭司のような服を着ていた。
「何で村に村長がいるのに、ヤマーダ様が代表なんですか?」(アルベルト)
『あぁ、それはだなぁ、オラ達は別の村にいたんだべ。で、オラはその村で村長をやってたべ』(ソンチョウ)
「はぁ」(アルベルト)
要領を得ない会話に困惑する。
『でも、オラ達オークは魔国領では弱者だべ』(ソンチョウ)
「はぁ」(アルベルト)
『だから、細々と狩猟生活をしてたんだべが、獲物が上手く取れんようになったんだべ』
「はぁ」
『そこに現れたんが、ヤマザル大村長だべ』(ソンチョウ)
「ヤマザル様、やっと登場しましたね」(アルベルト)
アルベルトさん、
ヤマーダからヤマザルに変換された!
『ヤマザル大村長は、オラ達に農業を教えてくれたんだべ』(ソンチョウ)
「じゃあ、なんで《空間魔法》にいるんですか?」(アルベルト)
『なんでだったんだべか?』(ソンチョウ)
ダメだこりゃ~
次いってみよ~
「それは私のせいです」
分かりづらいソンチョウからノーラにバトンタッチ。
それから、ノーラの説明によって、状況を理解したアルベルト兄妹達。
やっと村人達が集合したので、一通り自己紹介を始めることに。
「ウランバルト兄上、まず、私達が名乗りましょう」(アルベルト)
「う、うむ、そうだな。私は、ウランバルト・テーベ。テーベ王国の公爵だ」
「ウランバルト兄上、私達はもう公爵ではないと思いますよ。私はアルベルト・テーベです。テーベ国王エルメスト・テーベの二番の弟になります」
「私はナタリー・テーベ。アルベルト兄様の妹になりますわ」
「僕はオルトス・テーベです。ナタリー姉様の弟です。ルルさん、よろしくお願いします」
オルトスは、ずっとルルを見て挨拶している。
「シス…私はシス・テーベです。一番下の妹です。痩せているし、美味しくありません。だ、だから、食べないでください!」
シスは極端に魔物を怯えているようだった。
「今更、貴方達を食べはしませんよ」
ノーラが優しくフォローする。
「よ、よろしくお願いします!」
シスはノーラにペコペコお辞儀する。
どうやら、優しい感じのノーラに心を許したようだ。
「えぇと、今度はこっちの番かな」
ヤマーダが自己紹介しようとすると、
「こちらが、この村を治めているヤマザル様です。そして…」
ノーラが勝手に仕切りだした。
あーぁ、
またヤマザル様って紹介されたよ
今にステータス先生も
「ヤマザル」って名前に
変えちゃうんじゃない
ひとしきり、ヤマザル村での紹介が終わったところで、
「皆、ここからが重要なんだけど、このウランバルトさん兄妹は、国王って人に一服盛られて、あそこに捨て置かれたようなんだ」(ヤマーダ)
「つまり、貴方達と国王は対立関係にあると?」(ノーラ)
「はい」(アルベルト)
「そ、即答するな、アルベルト。まだ分からんぞ」(ウランバルト)
「そうですわよ」(ナタリー)
「いいえ、兄上。ヤマザル様の指摘は正しいです」(アルベルト)
「決めつけるな!」(ウランバルト)
いきなり国王に裏切られたって
言われても、信じられないか
そこへ、
「何でしたら、兄上とナタリーで帰国してみたらどうです。殺されれば分かるのでは?」
アルベルトが痛恨の一撃を放つ。
「うっ!」(ウランバルト)
「…」(ナタリー)
二人は言葉を失った。
「悪いが、そっちの事情は俺達に関係ない。問題なのはキミ達を助けるだけで、テーベ国を敵に回す可能性があるってことだよ」(ヤマーダ)
「それは厄介ですね」(ノーラ)
「そんなヤツら、ブッ倒せばいいじゃん」
相変わらず、拳優先のルル。
「ルルさん、僕のために…」
勘違いするオルトス。
「ただでさえ、これから魔族と一戦やらかす訳だし、これ以上、敵を作りたくないんだよね」(ヤマーダ)
『大村長なら、別に問題ないべ』(ソンチョウ)
『んだんだ』(村人達)
村人達の心は、助ける側に傾いているようだ。
そんな中、
『ヤマーは仲間にしたくないの?』
マサオは確信をつくのが上手い。
正直、貴族って連中が好きになれない
基本、人のことを嘗め腐ってる
「今のキミ達を仲間にしたいとは思わない」(ヤマーダ)
「…」(アルベルト)
「な、何故だ」(ウランバルト)
「何故って、貴方のその態度ですよ。何が悲しくて、弱いくせに尊大な態度をとるキミ達をテーベ国と対立してまで仲間にする必要があるんですか?」(ヤマーダ)
「…」(ウランバルト)
「今、キミ達にはお金があるんですか? もう、テーベ国に支援は受けられませんよ」(ヤマーダ)
「…」(ウランバルト)
「…」(ナタリー)
「キミ達を助けても、俺達にメリットがありません。ハッキリ言ってデメリットです」(ヤマーダ)
「…」(ウランバルト)
「…」(ナタリー)
「…」(オルトス)
「俺はこの村の代表です。村を守る義務があります。ですから、態々(わざわざ)テーベ国と敵対したくありません!」(ヤマーダ)
「…」(全員)
ヤマーダの言っていることは正論だ。
彼らを助ける利点など、あるはずもないことは明白だった。
そんな静寂を切り裂いて、
「メリットはあります!」
アルベルトが豪語した。
「貴族、いや、我々人族の情報です!」(アルベルト)
「それは…確かに」(ヤマーダ)
確かに、アルベルトの提案は魅力的に感じる。
「ヤマザル様は、魔国領で生活されておりますよね。テーベ国の名前もご存知なかった」
「えぇ、まぁ…」
「私達は仮にも王家に連なる者です。表も裏もそれなりに心得ています。今後、お側に置いていただければ、ヤマザル様のお役に立てる情報を必ず提供できます!」(アルベルト)
「うん…確かに情報は必要だよ。でも、情報を手に入れるだけなら、キミら以外にでも出来るんじゃない?」(ヤマーダ)
「それは違う! いや、違います。私達王家の者しか知らない情報もあります」(ウランバルト)
「あ、兄上」(アルベルト)
ウランバルトの変わり様に驚いた。
「それは、ここ魔国領でも役に立つと思いますか?」
ヤマーダは尚も追及する。
悪いが追及するよ!
まず、オレを納得させなければ
村人達は協力しないはず
「…役に…立ちません」(ウランバルト)
「では…」(ノーラ)
「ですが、必ず役に立つ日が来ます! ですから、私達を、私達をお救いください!」
そう言うと、ウランバルトは土下座する。
「どうか、お助けください!」(アルベルト)
「お願いいたします!」(ナタリー)
「お願いします!」(オルトス)
「お願いします」(シス)
4人も一斉に土下座した。
まぁ、
ここまでするんだったら構わないかな
「分かりました。ですが、今までのアナタの態度からは信用できません! 証明してください!」(ヤマーダ)
さぁ、どう答える
今度はオレじゃなく、
村人を納得させてみろ!
「では、テーベ姓を捨てます!」(ウランバルト)
「兄様!」(ナタリー)
「情けない話、私達に差し出せるものなど、他にはありません!」(ウランバルト)
ウランバルトは、貴族にとって命よりも大事な家名を捨てたのだ。
「そこまで仰るなら」
言葉の重みを理解したノーラが、まず最初に納得する。
その後、
『オラ達もヤマザル様に救われた身だべ』(マツコ)
『ワシらも、同じような境遇です』(ダイヒョウ)
『可哀想なサル達を仲間にするべ』(ソンチョウ)
『んだんだ』(村人達)
村人達もアルベルト兄妹を受け入れた。
「ネーコ達はどうなんだ?」(ヤマーダ)
「構わないわよ」(ネーコ)
「別に」(ルル)
『ヤマー、ご飯まだー』(マサオ)
イズムがいないけど、
全員一致と言うことで
「分かった! キミ達を受け入れよう」(ヤマーダ)
「ありがとうございます、ヤマザル殿!」(ウランバルト)
「本当にありがとうございます」(アルベルト)
アルベルト兄妹も感無量だ。
一息ついたところで、アルベルトから、
「ヤマザル様、私達も役に立ちたいのですが、何か仕事をいただけませんか?」
貴族…王族だったんでしょ
働けんの?
「因みに、農作業は?」(ヤマーダ)
「できませんね」(アルベルト)
「建築なんかは?」
「…無理ですね」
「情報収集は…町に行ったら食われちゃいますねぇ」(ヤマーダ)
「でしたら、身分も隠せる冒険者はいかがでしょうか?」(アルベルト)
「えーっ! 弱っちいアンタ達で魔国領の魔物に勝てるの?」(ネーコ)
「…それは、無理ですわ」(ナタリー)
彼らに就かせる仕事が中々(なかなか)ないことに気づかされた。
ヤマーダも彼らが出来る仕事がないか、記憶の棚を開けていると、
以前、
“チャイルドパーティー(CPT)がいません”
ってあったよな
よくよくステータス先生を調べてみると、登録された別のパーティーをヤマーダPTのCPTに組み込むことが出来ると判明する。
----------
魔国領サクラ町〈ギルド〉
彼らの要望もあって、町のギルドでアルベルト達を登録することに。
「では、パーティー名を教えてください」
受付のオーガ嬢が流暢な《供用語》で訊ねてきた。
「で、どうするんだ?」(ヤマーダ)
「では、《ロイヤル》で!」(アルベルト)
《ロイヤル》。
その名前は、貴族姓を捨てたアルベルト達兄妹の見せた細やかな抵抗だった。
「かしこまりました」(受付嬢)
こうして、世界初の元王族パーティーが誕生する。
その後、ヤマーダ達は《ロイヤル》用の装備品を買い込み、《ヤマーダハウス》へ戻ることにした。
----------
《空間魔法》
戻って早々、ヤマーダは《ロイヤル》をCPTに登録してみる。
“《ロイヤル》をチャイルドパーティーに加えました”
“パーティースキル《情報共有》が解放されました”
“チャイルドパーティーに簡易版《情報共有》が解放されました”
“パーティー間での魔法・スキルの再共有”
“失敗”
“規定の種族が不足しています”
“パーティー間での魔法・スキルの共有に失敗しました”
“パーティースキルの再構築”
“成功”
“パーティースキル《絶対障壁》が再解放されました”
“チャイルドパーティーに簡易版《絶対障壁》が再解放されました”
“パーティースキル《空間共有》が再解放されました”
“チャイルドパーティーに簡易版《空間共有》が再解放されました”
“パーティースキル《快復の伊吹》が再解放されました”
“チャイルドパーティーに簡易版《快復の伊吹》が再解放されました”
“パーティースキル《空船》が再解放されました”
“チャイルドパーティーに簡易版《空船》が再解放されました”
おーっ!
また、大量に出た!
何々、パーティースキル?
絶対障壁(Lv4)・
PTリーダーの周囲10mに物理、魔法を一切遮断する障壁を60秒間作り出す。
使用回数は1日、Lv回数。
空間共有(Lv3)・
登録PT間の《空間魔法》、《収納》といった異空間を共有する。
共有可能空間は、Lv×6ゾーン。
快復の伊吹(Lv1)・
登録PT間の《回復魔法》、《宿泊回復》、《時間回復》など回復系魔法やスキルの効果を上昇させる。
上昇率は、Lv×10%。
空船(Lv1)・
《英雄》職に就いた者のみが扱える無形飛行艇。
搭乗人数は、Lv×10名。
情報共有(Lv1)・
登録PT間のステータスをいつでもどこでも閲覧できる。
《鑑定》、《竜眼》といった調査系スキルの能力を向上させる。
向上能力は、レベルに依存する。
へぇー
1日4回使える《絶対障壁》
ネーコとノーラの《空間魔法》が繋がる
《空間共有》
この2つは、素直に嬉しいな
そういやぁ、オレも
《空間魔法》が使えるように
なったんだっけ
《快復の伊吹》と《情報共有》は、
支援なのかな?
《空船》ってヤツ
《英雄》が条件だって
そもそも、
《英雄》なんて転職の項目にも
見たことねぇし、
今は漬け置きだな
そして《ロイヤル》にPTの心得を教えることに。
「えー、キミ達には、159,000Gも先行投資しました。だから頑張って働いてください」(ヤマーダ)
ここで言う159,000Gとは、ギルド登録料 10,000G、鉄の剣 1,000G、旅人のフク(上下) 15,000G、皮のクツ 4,000Gの五人分と活動資金 9,000Gを指している。
「はい、ヤマザル殿!」(ウランバルト)
因みに彼らのステータスは
名前・ウランバルト
種族・人間
年齢・26歳男
職業・無職(Lv-)、王子(Lv1)、貴族(Lv1)
戦士(Lv1)
ギルドP・E(0p)
レベル・2
体力・12(+4)
魔力・6(+2)
攻撃・12(+14)
防御・6(+47)
知識・6(+2)
敏捷・7(+27)
運・13(+22)
装備・鉄の剣+5(攻撃+10)
旅人のフク上+5(防御+25)
旅人のフク下+5(防御+20)
皮のクツ+5(敏捷+15)
魔法・なし
スキル・宿泊回復(Lv-)、時間回復(Lv-)
スキル補正(Lv-)、突き(Lv1)
所持金・5,000G
所持品・腰袋、水筒
こんなのが他に四人
変わってるのは《職業》に
《王子》と《貴族》があったこと
アルベルトの話を聞く限り、
生まれた時、父親が国王なので
《王子》
長男が国王を継いで、
《王子》達は公爵になったので
《貴族》
といった感じで増えていったようだ
だから、
この2つの《職業》は5人とも持っていた
そして、PT編成
ウランバルト
レベル・2
職業・戦士
アルベルト
レベル・4
職業・魔法使い
ナタリー
レベル・1
職業・魔法使い
オルトス
レベル・1
職業・戦士
シス
レベル・1
職業・魔物使い
驚いたことに、
アルベルトのレベルが一番高い
そして、
前衛の戦士が2人
後衛の魔法使いが2人
おまけの魔物使いが1人
なかなか良い編成だと思うけど、
とにかくレベルと能力が低い
装備品はできるだけ良い物を購入し、
《武器強化》、
《防具強化》で +5 に向上させた
「じゃあ、食事にしようか」(ヤマーダ)
ヤマーダ達はアルベルト達に《空間魔法》での生活を教えていく。
この後、アルベルト達が《ヤマーダ草》の旨さに驚いたことは、言うまでもない。
----------
夕食後の夜
ヤマーダの《空間魔法》
ヤマーダは食後にコッソリと自分の《空間魔法》に入ろうとした。
しかし、ネーコとルル、マサオに捕まってしまい、4人で来るはめになってしまった。
ヤマーダ達は《空間魔法》の幕に入る。
すると、驚いたことに大きい建物と普通の建物が2棟、ゾーンの中央に建っていたのだ。
ゾーンは、外と同じように暗くなっていて、夜の演出をしている。
周りが暗いからよく分からないが、どうやら牧草地のようだ。
そして一番、驚いたのは大きい建物。
窓には透明なガラスがはめ込まれ、室内の明かりが室外に漏れ出ていたのだ。
ガ、ガラスだよ!
それに、
何でオレん家に明かりが?
誰か勝手に住んでんの?
『ヤマー、誰かいるよ』(マサオ)
「えっ! お化けじゃないよな」(ヤマーダ)
コッソリと建物に近づき、窓から中の様子を伺うと、幼稚園児ぐらいの幼女が数人、パタパタと掃除していた。
「ヤマーダ、知り合い?」(ネーコ)
「いや、全く知らないよ」(ヤマーダ)
ヤマーダの記憶には一切ない。
「ブッ倒せば、いいんじゃない?」(ルル)
「何、言ってんの! ダメだよ!」(ヤマーダ)
「どうする、ヤマー?」(マサオ)
「と、とりあえず接触してみよう」(ヤマーダ)
ヤマーダは恐る恐る玄関に近づく。
何、この扉、鍵がない
どうする?
開けるか?
よし…よし行くぞ~
意を決してヤマーダが、
ガチャッ!
扉を開けると、
「ヤ、ヤマャーダ様! 会いだがっだびょ~!」
幼女が泣きながらヤマーダに抱きついてきた。
「アンタ、だーーれーーーっ!」(ヤマーダ)




