ヤマーダ、再び異世界に立つ
うぅ…
頭痛てぇーなぁー…
意識が段々と覚醒してくる。
ちっきしょー!
いきなり、異世界に送りやがって!
クロビのヤツーーッ!
周囲を見渡すと、
「植物が一本も生えてない! ここが異世界なのか!?」
見渡す限り一面岩場で混乱するヤマーダは、仰向けの状態で目覚めた。
「あれ?」(ヤマーダ)
ヤマーダは不思議な感じがしている。
…なんだこの服!?
今さっき、クロビに異世界へ飛ばされたにも関わらず、ヤマーダの全く知らない着心地の服を着ている。
なんで!?
オレの服は?
更に注意深く近くを見ていくと、
「うぉーーーーっ!」
あまりの衝撃に絶叫してしまう。
ヤマーダの周りによくよく目を向けると、全く見も知らずの子ギツネとスライム?、女の子、そして大きなカマキリがヤマーダにしがみついていた。
「な、何なんだよ、コイツらーーーっ!」
クロビィーーーー!
テメエ、何しやがったんだよーー!
子ギツネ達は気絶しているのか、一向に目を覚まさない。
えーーーと
冷静になれ、オレ!
確かクロビが
「適当に見繕っておく」って言ってたよな
もしかして、
いきなり《動物の森》になってんのか!?
でも、女の子もいるし…
ちょっと待て!
クールだ!
クールガイのオレに戻れ!
よーくクロビの言葉を思い出せ…
………
…っ!
ステータスだ!!
“ステータス”
ん?
なんか、頭の中に文字が浮かんでくるぞ
あれっ? なんかこの件
前にもあったような…
名前・ヤマーダ
種族・人間?
年齢・14歳男
なんでヤマーダ?
それって名字じゃん!
普通アユームじゃねぇの!
また、なんで人間に〈?〉が付いてんの!
って、これ!
なんか前にもあったぞ!
職業・無職(Lv-)、魔物使い(Lv-)、戦士(Lv-)
魔法使い(Lv-)、木こり(Lv-)、猟師(Lv-)
漁師(Lv-)、農民(Lv-)、商人(Lv-)
武器職人(Lv-)、竜の使徒(Lv6)
防具職人(Lv-)、染織職人(Lv-)
採掘技士(Lv-)、調教師(Lv-)
尋問官(Lv-)、騎士(Lv5)、大工(Lv2)
家具職人(Lv2)、魔導師(Lv2)
“現在、《竜の使徒》は使えない”
な、なんだ、このぶっ壊れた職歴は?
それに〈Lv-〉て何だ?
MAXってことなのか?
…で、竜の使徒は使えないの?
ギルドP・S(51,922p)
ギルド? ギルドってなんだよ!?
それに〈S〉!
いきなりイージーモードですか、
クロビさん!
レベル・34
体力・44(+162)
魔力・73(+86)
攻撃・39(+148)
防御・70(+94)
知識・69(+105)
敏捷・76(+84)
運・112(+74)
いきなり〈Lv34〉から始めんの?
それとも地球人は Lv34 ってことなのか?
( )の中の数字って、
単純に足されんの?
なんで、
誰からも説明がないのよ!?
装備・鉄の剣+10(攻撃+15)
かっこいい青いバンダナ+10(防御+11)
ウサギの毛皮+10(防御+12)
黒の布ズボン+10(防御+11)
黒の皮手袋+10(攻撃+12)
皮のクツ+10(敏捷+20)
なんで剣なんて持ってんだ?
それにウサギの毛皮ってなんだよ
…このバンダナはちょっと好き
魔法・呼び寄(Lv-)、回復(Lv-)、火魔法(Lv-)
水魔法(Lv-)、風魔法(Lv-)
同時魔法(Lv6)、土魔法(Lv-)
木魔法(Lv1)、反射魔法(Lv1)
“現在、《同時魔法》は使えない”
あれっ!?
ま、魔法、使えんじゃんか!!
やったぜ!!!
…って言ってもなぁ
使い方、知らねーし!
…でまた、
同時魔法は使えないってなってるけど…
スキル・空気使い(Lv7)、言語理解(Lv-)
宿泊回復(Lv-)、時間回復(Lv-)
スキル補正(Lv-)、芸(Lv-)、突き(Lv-)
旋回切り(Lv-)、身代わり(Lv-)
伐採(Lv-)、枝打ち(Lv-)、斧術(Lv-)
罠(Lv-)、解体(Lv-)、加工(Lv-)
釣り(Lv-)、投網(Lv-)、潜水(Lv-)
耕作(Lv-)、連作回避(Lv-)
品種改良(Lv-)、交渉(Lv-)、商売(Lv-)
値切り(Lv-)、武器錬成(Lv-)
武器強化(Lv-)、武器修繕(Lv-)
並列思考(Lv6)、高速思考(Lv6)
防具錬成(Lv-)、防具強化(Lv-)
防具修繕(Lv-)、明瞭彩色(Lv-)
保護彩色(Lv-)、脱色(Lv-)
資源調査(Lv-)、採掘(Lv-)、看破(Lv-)
自白(Lv-)、誘導(Lv-)、薙ぎ払い(Lv5)
急所突き(Lv5)、浄化(Lv5)、建築(Lv1)
増築(Lv1)、家具錬成(Lv2)
家具強化(Lv2)、収納量増加(Lv1)
魔力最適化(Lv1)、魔力吸収(Lv1)
“現在、《並列思考》《高速思考》は使えない”
スキルが多すぎて
何がなんだか、よー分からん!
でも、
〈現在〉は職歴、魔法、スキルの一部が
使えないってことだよな…
使う為には何か条件があるってことか?
所持金・1,000G
所持金・1,000G?
…多いのか少ないのか分からん
お金って、こんなもんなのか?
ヤマーダは冒険の最中、お金の大半を《収納》に入れていたのだった。
所持品・腰水筒、財布袋(《収納》内を除く)
“現在、《収納》は使えない”
なんだそれ!
何か持ってるけど出せないってこと?
誰かーーっ!
責任者、出てこいやーーっ!
クロビィーーーーッ!
教えてプリーーーズ!!
ヤマーダは必死に邪念を送ったが、クロビからの返答はなかった。
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パッポ 30分経過
うーん、オレにしがみついてる
この動物達は何なんだろう?
本当にオレの仲間なんだろうか?
クロビからのプレゼンツ的な…
でも…
特にこのデッカイカマキリ…
本当に仲間か?
鎌の切れ味、パナそうなんだけど…
オレの腕がスライスされそう
それに、
Lv34ってどん位強いんだ?
…スライムよりは強いよね
そんなふうに考えていると、スライムがピクリと動き出した。
「うぉーっ! 動いたーっ! …な、なぁお前。…俺の仲間なのか?」
ヤマーダは驚いて一吠えし、とりあえず話し掛けてみる。
すると、
『プクプク(バブバブ~)』
二ヶ国語音声のような声が聞こえてくる。
プクプク?
バブバブ?
何言ってんだよ、コイツ!
そういやぁ、
異世界モノには《鑑定》ってよくあるよな
…
……
………
うーーーっ!
だ、駄目だ!
オレには《鑑定》の能力がないのか
それとも異世界に《鑑定》なんてないのか
どっちにしても無理ってことだよな…
でもスライムだよ、スライム!
異世界っつったら、スライムだよなぁ
「なぁ、お前。ここで会ったのも何かの縁。俺の仲間にならないか?」
『プク(バブ)?』
スライムにはよく分からないようだが、敵意が無いことはなんとなく分かった。
「…やっぱり話せないのか…」
ちょっとガッカリ。
よしっ!
異世界初の仲間!
それにスライムだし!
ま、まず、名前を付けてやろう!
う~ん、
…スラオにするか
…スラミにするかな
「お前って、雄? 雌?」
『プク(バブ)?』
ダメだ分からん…
こりゃ勘で!
「お前は今日からスラミだ!」
スライムを指差して、バシッとポーズを決める。
“既に名前があるので付けられない”
あれっ!? 音声アナウンス?
そうなの?
『プク(バブ)?』
“イズムを仲間に加えますか?”
いきなりのスライムからの提案。
えっ? 何で急に?
《イズム》って誰?
多分、このスライムだよね…
『プク(バブ)!』
ヤマーダの心のボヤキが通じたのか、スライムから反応があった。
「えっ! お前、イズムって名前なの?」
『プク(バブ)!』(イズム)
へ~
コイツ《イズム》っていうのか~
名前付けたヤツ、センスね~な~
それはヤマーダ本人だったりする。
ま~いっか、YES で
“イズムとパーティーを組みました”
“イズムのステータスが開示されます”
おぉっ!
パーティー!?
ハロウィンパーティー?
パーティーだとステータスが見れんのか!
マジで!?
“ステータス”
名前・イズム
種族・スライムロード(魔物)
年齢・7歳男
おぉ!
マジで見れたよ
ス、スライムロード!?
やっぱり「魔物」か!
それにしても
7歳のくせにバブバブなの…
職業・無職(Lv-)、戦士(Lv-)、僧侶(Lv-)
騎士(Lv4)
あれっ?
コイツも複数の職歴?
サラリーマンの転職組ですか?
レベル・25
体力・152(+24,163)
魔力・153(+195)
攻撃・147(+2,013)
防御・150(+425)
知識・151(+574)
敏捷・157(+2,060)
運・153(+35)
ただし、分裂体1250体で能力を分配中
Lv25 !?
えーと、括弧の中を足すと…
体力 24,315 !?
オ、オレの体力の100倍以上じゃん!!
それに、分裂体!?
能力を分配!?
分っかんない事が多すぎっ!
んっ!
ちょっと待て!?
スライムっていったら、
ザコ中のザコだよなぁ…
オレ、その百分の一の体力しかないの?
あー、もう詰んだよ…
装備・なし
そりゃ、スライムだしなぁ
魔法・回復魔法(Lv-)、支援魔法(Lv-)
スキル・分裂(Lv-)、宿泊回復(Lv-)
時間回復(Lv-)、スキル補正(Lv-)
分解(Lv-)、毒化(Lv-)、毒耐性(Lv-)
突き(Lv-)、旋回切り(Lv-)
身代わり(Lv-)、能力吸収(Lv5)
瞑想(Lv-)、薙ぎ払い(Lv4)
急所突き(Lv4)、浄化(Lv4)
なんだろうか…
コイツ、やたらと強いんじゃないのか?
それとも、オレがムッチャ弱いか
クロビさん
もしかして本当にイージーモードですか?
所持金・0G
お金は…ないのね…
まぁ、当たり前か…
所持品・水筒(《収納》内を除く)
“現在、《収納》は使えない”
「《収納》が使えない」ってまただよ!
でも、コイツもなの?
そうこうしているうちに、他の三人も目を覚ました。
「お、俺は、山田…ヤマーダ。皆さん、よろしく」(ヤマーダ)
イズムにすっかり忘れていた自己紹介を今更になって行う。
『キュウ(バブ)?』(コギツネ)
「バブバブ?」(女の子)
『シャシャ(バブバブ)?』(大きなカマキリ)
皆一様にバブバブ言っている。
どーゆーこと!?
バブバブが共通語なの?
バブバブ言っているが、敵意は感じられない。
やっぱりコイツらって、
クロビからのプレゼンツ!
それにしても、
魔物って言葉が喋れないのか?
あれっ?
おかしくねぇ!?
オレのスキルの《言語理解》って
言語理解(Lv10)・
あらゆる生物との会話、読み書きが可能。
対話相手への翻訳機能付き。
ただし、生物としての活動が停止した相手を除く。
ほらっ!
やっぱ、喋れんじゃん!
じゃあ、なんでバブバブなのよ?
ヤマーダがうんうん悩んでいると、子ギツネがヤマーダの肩に飛び乗ってくる。
まぁ、悪いヤツらじゃなさそうだな
子ギツネを優しく撫でていると、
“ネーコを仲間に加えますか?”
コイツ、キツネなのに《ネーコ》なんだ
なんか笑える、フフフ
…あれっ? あれれっ?
…こんなこと…前にも…
…YES で
“ネーコが仲間に加わった”
“ヤマーダはネーコを従えた”
今度は「従えた」んだ…
“ステータス”
名前・ネーコ
種族・アヤカシギツネ(魔物)
年齢・6歳女
職業・無職(Lv-)、魔法使い(Lv-)、僧侶(Lv-)
薬師(Lv-)、錬金術師(Lv7)
レベル・33
体力・59(+34)
魔力・81(+54)
攻撃・54
防御・59
知識・102(+54)
敏捷・91(+10)
運・43(+20)
装備・なし
魔法・火魔法(Lv-)、闇魔法(Lv-)
空間魔法(Lv9)、水魔法(Lv-)
風魔法(Lv-)、回復魔法(Lv-)
支援魔法(Lv-)、結合魔法(Lv6)
分解魔法(Lv6)
スキル・鑑定(Lv-)、支配の眼(Lv5)
宿泊回復(Lv-)、時間回復(Lv-)
スキル補正(Lv-)、人化(Lv8)
変化(Lv8)、瞑想(Lv-)、薬草採取(Lv-)
調合(Lv-)、薬効向上(Lv-)
系統統合(Lv6)、転位(Lv1)
所持金・0G
所持品・水筒(《収納》内を除く)
“現在、《収納》は使えない”
コイツもそうだ!
《収納》が使えないって
「バブバブ、バブバブ」(女の子)
今度は、女の子がヤマーダに抱きついてきた。
えっ! 何なの!?
“ルルを仲間に加えますか?”
なるようになれ! YES で
“ルルが仲間に加わった”
“ヤマーダはルルを従えた”
そうと決まれば
“ステータス”
名前・ルル
種族・ゴブリナクイーン(魔物)
年齢・5歳女
この娘、魔物だ!!
それも女王だって!
職業・無職(Lv-)、暗殺者(Lv-)、忍者(Lv-)
料理人(Lv-)、騎士(Lv-)、農民(Lv-)
王(Lv1)
《王》!?
女王だからか!?
《ゴブリナクイーン》
正に《小鬼の女王》って事か…
レベル・1
体力・240(+99)
魔力・133(+9)
攻撃・200(+63)
防御・161(+41)
知識・134(+19)
敏捷・146(+90)
運・187(+29)
Lv1 でこの強さなのか!?
化物じゃねぇか!
んっ?
ってことは、
イズムがクッソ強いってこと?
装備・おしゃれなゴブこん棒+10(攻撃+13)
布の帽子+10(防御+11)
おしゃれなポンチョ+10(防御+11)
かわいい手袋+10(攻撃+11)
お手製のサンダル+10(敏捷+11)
魔法・規定レベルに達していない魔法有
規定のレベル?
スキル・職業適正(Lv-)、宿泊回復(Lv-)
時間回復(Lv-)、スキル補正(Lv-)
変装(Lv-)、拷問(Lv-)、空蝉(Lv-)
無(Lv-)、短距離転位(Lv-)、跳躍(Lv-)
料理(Lv-)、発酵(Lv-)、熟成(Lv-)
薙ぎ払い(Lv-)、急所突き(Lv-)
浄化(Lv-)、耕作(Lv-)、連作回避(Lv-)
品種改良(Lv-)
規定レベルに達していないスキル有
また規定かよ!
所持金・2,000G
所持品・腰水筒、財布袋(《収納》内を除く)
“現在、《収納》は使えない”
《収納》はやっぱりダメか~
最後に遅れて、大きなカマキリがヤマーダに近寄ってきた。
“マサオを仲間に加えますか?”
マサオ?
イクラちゃんの父ちゃんみたいな名前だな
あ~、あれはマスオだっけ?
とりあえず YES で
“マサオが仲間に加わった”
“ヤマーダはマサオを従えた”
ってことは、
イズム以外はオレに従うのか…
…何でだ?
実は、イズムだけ別に1249体の分裂体がいるため、ヤマーダをインプリンティング出来なかったのだ。
“ステータス”
名前・マサオ
種族・ジャイアントマンティス(魔物)
年齢・3歳男
職業・無職(Lv-)
レベル・3
体力・28
魔力・15
攻撃・34
防御・8
知識・18
敏捷・31(+10)
運・19(+20)
装備・なし
魔法・なし
スキル・二連撃(Lv2)、宿泊回復(Lv-)
時間回復(Lv-)、スキル補正(Lv-)
所持金・0G
所持品・水筒(《収納》内を除く)
“現在、《収納》は使えない”
《収納》は同じなんだけど…
コイツだけ、やけに弱くないか?
というか落ち着くわ~…
やっぱ、オレって強いんじゃねぇ!
それにしても、
全員に《無職》が付いてたよな
まぁ、
中坊なんだし本当ならオレって
《学生》なんじゃねぇの?
そんな風にヤマーダが考えていると、急に、
『キュウー(バブゥー)!』(ネーコ)
「えっ! 何っ!」(ヤマーダ)
ネーコが叫ぶ方向を見ると、角が生えたデッカイ人?が二人、近づいて来た。
ヤマーダの肩に乗っていたネーコとイズムは肩から降りて、ルル、マサオと一緒にヤマーダの後ろにサッと隠れる。
「や、優しい…げ、原住民さんかな?」
ヤマーダの淡い期待は、
『ガゥガガゥーガゥ(おーっ!旨そうなサルがいるぜ、兄貴)!』(鬼人A)
鬼人の豪快なうなり声で掻き消えてしまう。
あ、あれっ?
魔物って言葉、喋んじゃんか!
「あの~、俺をジロジロと見てますけど。ここにサルなんて居ませんよ」
ヤマーダには、自分にサルの認識など微塵もない。
『お前だよ! サル!』(鬼人B)
鬼人は明らかにヤマーダを指差している。
慌てるヤマーダには、もはや翻訳された言葉しか入ってこない。
言葉、通じんじゃんか!
『おいっ! このサル、喋るぞ!』(鬼人A)
『とりあえず、仕留めるか』(鬼人B)
嘘ーーーっ!
全然、優しくなーーーい!
そんな呑気なヤマーダを尻目に、鬼人の一人が大きなモーションでヤマーダに殴りかかった。
「うわーーーっ!」
ヤマーダは驚いて両腕でファイティングポーズをする。
鬼人の振り下ろした右手で、
バコッ!
物凄い音がする。
しかし、
「…ってあれ?」
予想に反して、鬼人の力を込めたはずのパンチは、ヤマーダの腕を優しく触った程度の威力しか感じなかった。
ヤマーダの防御 164
鬼人達の攻撃 28
な、なんだコイツら、スゲー弱いのか?
所謂、ザコキャラってヤツか
ビビって損しちゃったじゃん!
それとも、
ナーーハッハッ!
オレ様が強すぎるからなのか!!
『やべーぞ、兄貴。このサル、見た目に反して強えぞ』(鬼人A)
『バカか、お前。こんなサルごときに…』(鬼人B)
鬼人は右手に構えたこん棒を思いっきり振りかぶる。
ヒュン!
ヤマーダがアッサリかわすと、もといた場所に爽やかな風が駆け巡った。
おーっ、涼しい風!
だい~ぶ、眼が慣れてきたぞ
やっぱりコイツら、大して強くないぞ!
ヤマーダの敏捷 160
鬼人達の敏捷 15
勝手さえ分かれば!
今度はヤマーダが剣を構え、鬼人Aに斬りかかる。
ヤマーダが格好付けようと回転すると、
バシュゥーーーッ!
偶々(たまたま)《旋回切り》スキルが炸裂してしまう。
気がつくと、鬼人Aはなす術なく腹部で両断されていた。
ワ、ワァッ!?
…こ、殺しちゃった!
殺しちゃったよ!!
二つになって横たわる鬼人の死体を見て、ヤマーダは震えが止まらない。
『ウ、ウァ、ウァァーーー! 化け物だぁぁーーー!!』
ヤマーダの強さに、残りの鬼人は恐れおののいて逃げ出した。
………
残されたヤマーダの震えは一向に止まらない。
『バブバブ』
すると、ネーコが震えたヤマーダの頬を舐める。
「…はっ…こ、こ、殺した」
我に返ったが、ヤマーダの動揺は治まらない。
『バブ!』
ネーコが軽く左手を甘噛みする。
「いっ! あぁ、皆。ゴメン!」
とりあえず謝ってしまう。
『バブ!!』
今度は、それなりの力で噛みついた。
「痛ぁー! どうしたんだよ、ネーコ!」
ヤマーダの左手には、血が滲んでいる。
『バブ!』
ネーコは、ヤマーダの肩に乗ると前の方向へ勢いよく振り向いた。
…ネーコ、
先に進めってことなのか?
「はぁ…分かったよ、ネーコ」
ヤマーダがネーコを宥めてオーガの死体を見ていると、イズムが死体を吸収していった。
「おい、お前! そんなことも出来るのか!」
『…』(イズム)
イズムは何も話さない。
どうなってんだよ?
仲間は喋らないし、
現地人は、オレをサル呼ばわり!
気を取り直して、ヤマーダ達は西に向かって出発した。
----------
6時間後
パーティー(PT)
ヤマーダ、ネーコ、ルル、イズム、マサオ
ヤマーダは少しだけこの異世界に慣れ始めていた。
どうやら魔法は、
詠唱とイメージの両方どっちでも
簡単に放てるんだな
バフォーーッ
軽く《火魔法》火玉を近くの岩場に投げつけて遊びながら、テクテク歩いている。
それに比べてスキルは
魔法のようなイメージに加えて
実際に身体を動かすことが重要みたいだな
現時点で、気軽に使えそうな《水魔法》で水が飲めた為、仲間の誰もが水筒の《神水》を口にしていなかった。
そして、
ヤマーダ達は村を発見する。
しかし、
「あれって、豚人間か!」(ヤマーダ)
ヤマーダが驚くのも無理はない。
見た目が明らかに人間と違うのだ。
全身が毛むくじゃら。
鼻が前に飛び出て、口から牙が生えている二足歩行の動物だった。
これは猪人だ。
ヤマーダ達はオークの村〈入り口〉付近の岩山から、村の様子を入念に観察していた。
う~ん…
あれって所謂、オークだよな
敵なのか味方なのか分っかんない
「あのさ~、彼処の村なんだけどさ、皆はどう思う?」
村を指差して、仲間達の意見を確認する。
『バブバブ』(ネーコ)
「バブバブ」(ルル)
『バブ!』(イズム)
『バブーッ!』(マサオ)
ちょっと、期待したんだけど…
やっぱり全然分かんねぇ!
って言うか、ルル、
少女姿のバブバブを見てると
オレの新たな扉が開きそうだよ
『バブバブ、ヤーマ』
あれっ!?
今、ネーコ、オレの名前を呼んだんじゃ
「俺は山田…ヤマーダ、キミはネーコ、ネーコだよ」
『ヤーマ、ヤーマ』
おぉ! 喋ってる! 喋ってるよ!
パパでちゅよ~
「俺はヤマーダ、キミはルルだよ、ルル」
『バブバブ!』
「俺はヤマーダ、キミはイズム、イズム」
『バブ』
「俺はヤマーダ、キミはマサオ、マサオ」
『バブーッ!』
あぁ…他は、まだ無理なのね!
『ヤーマ! ヤーマ!』(ネーコ)
ネーコが急に騒ぎだしたので、ネーコの見ている方へ振り向くと、ヤマーダ達の存在に気づいたオーク達が一斉にこちらへ近づいて来ていた。
10、いや…12匹か!
よしっ!
ファーストコンタクトが大事だ
「あの~、何かご用でしょうか?」
ヤマーダはできる限り優しく先頭のオークに語りかける。
『おい! サルがオラ達の言葉を喋ったぞ!』
先頭のオークが驚いて、周りのオーク達に叫んだ。
えーっ、またサル呼ばわりなの?
《人間》もしくは《人間?》って種族は
サルって事なの?
…それともオレがサル顔ってこと?
『バブバブ! ヤーマ!』
ネーコがヤマーダの肩からオーク達を威嚇する。
『おい! あれ! アヤカシギツネ様じゃないか?』
『ほ、本当だ! それにあれは、本当にゴブリンなのか!?』
『へ、変なスライムもいるぞ!!』
『ジャイアントマンティスだ!!』
オーク達はヤマーダの仲間達に気付き、狼狽えだした。
『ア、アヤカシギツネ様だったら、ヤバいぞ!』
『に、逃げないと!』
『殺さーれーるーっ!』
オーク達は狂乱し、逃げ惑い、取り残された者は天を仰いでいる。
ダメだな、こりゃ~
「あ、あの~、落ち着いてください! 俺の仲間達は優しいですから」(ヤマーダ)
ヤマーダの言葉に、
『ほ、本当か? 本当だべか? ま、魔法、使わないべか?』
1体のオークが恐る恐る耳を傾けた。
「えぇ…多分」(ヤマーダ)
『多分!!』
オークは大声で叫ぶ。
ま、また狂乱するの!?
『サルが騙しただべ~!』
『サルだましだ~』
『殺さーれーるーっ!』
逃げ出してちょっと距離を取っていたオーク達も再び狂乱。
「大丈夫です! 本当に大丈夫ですから~っ!」
フォロー全開フルスロットル。
必死でオークを宥める事、5分。
『そ、そうだべかぁ…』
やっと、話が出来そうなほど、オークが落ち着いてきた。
「何で、うちのネーコに怖がるんですか?」
『そっだらこと、アヤカシギツネ様っちゅうたら、誰彼構わず化かして殺すっちゅう恐ろしい化け物だべ』
へぇ~、何それ、
恐ろしいんですけど~!
…「様」を付けるのに「化け物」なの?
「で、俺は何でサルなんでしょか?」
『当ったり前でねぇか。お前はオラ達の食い物でねぇべか』
あ、あっそう…そうなんだ
この世界の人間って、
魔物の食い物なんだ…
…ネーコ達に食われなくて良かった
「とりあえず、俺達のせいでご迷惑をかけたみたいですね」
『そんりゃあ、そうだべなぁ』
『バブ!』
オークの本音を聞いて、気を悪くしたネーコの一鳴き。
『ア、アヤカシギツネ様ァ! すまんこってす、すまんこってす』
『ヤーマ!』
ヤマーダの首に巻き付き、ヤマーダの名前を叫ぶネーコ。
『ア、アヤカシギツネ様! オラ達の村で寛いでくんろ』
『バブ!』
また、ネーコが一鳴き。どうやら、ヤマーダ達を歓迎することが決まったらしい。
お、おかしい!
オークはちゃんと?言葉を話しているが、
ネーコはバブバブとヤーマのみ
…この二人、何故、会話が通じるんだ?
----------
オークの村
オークに案内されて村に入ってみると予想よりも多く、20匹以上が住んでいることが分かった。
オーク達は土高く盛った小山の中をくり貫いた洞窟のような穴の中で生活している。
その穴の内部は、釜戸の火で薄暗く照らされていた。
最上部に穴がポッカリと開いており、ほんの少しだけ空が見える。
しかし、上部の穴から地面までの距離があるせいか、光は全く射し込んでいない。
上部の穴は、空気取りの穴なのだろう。
そんな小山の中でも一番大きな小山の洞窟に、ヤマーダ達は客として案内されていた。
『ア、アヤカシギツネ様は、なしてこっだら所に来なすったんで?』
村長とおぼしきオークが、意を決して話し掛ける。
『バブ!』
相変わらずヤマーダの襟巻キツネのネーコが一鳴き。
こんなんで、ホントに分かんのか?
『すまんこってす、アヤカシギツネ様。分からねぇべ』
そりゃそうだろよ
『ヤーマ!』
ヤマーダの耳に、名前を大声で叫んだ。
耳元でうるさいよ! チミ!
はぁ…ネーコ、オレに振ったな
「えーとですねぇ、俺、一回死んじゃいましてね。クロビ、あぁ、神様?ですかね、そいつにこの世界に《転移》させられたんですよ。まぁ、俺もある意味、被害者って言うか…」
そんなヤマーダの言葉に、
『!?』
『何言ってんだべか、このサル』
『元々、サルは愚かだべ』
『サル、バ~カ』
『何だ、このサル』
不快感を現すオーク達。
まぁ、こんな話、誰も信じねぇよな
オレも信じられないし…
…誰か、馬鹿って言ったろ!!
『まぁ、よく分からんけんど…アヤカシギツネ様、これでも食べてくんろ』
村長とおぼしきオークが如何にも腐ってるっぽい色の、肉のようなモノを地べたに置いた。
こ、これ…食べ物か…
少し離れているヤマーダにも分かるほど、生臭い臭いもしている。
『バブ!』
「バブ」
ネーコとルルは得体の知れない肉を躊躇なく同時に口に入れ、
『バブーッ!』
「バブーッ!」
同時に吐き出した。
あ、ああっ!
激不味なんだな!
ヤマーダが肉の匂いを嗅ぐと、こぼした牛乳を拭いて数時間熟成された雑巾の臭いがした。
くっ、くっさーーーっ!
な、何これ! ホントに食い物なの?
「あ、あの~、これ、何ですか?」
『10日前の《死神トカゲ》の肉だべ。オラ達のご馳走だべさ』
あー、これがこの世界のご馳走なのかぁ
ヤマーダの異世界テンション株は、ストップ安まで急落した。
サーキットブレーカー発動!
…マジか! マジなのか!?
これ!
腐ってる!!
腐ってるよーーーー!!!
ヤマーダが立ち上がると、ネーコも肩に乗る。
無言で村の外に出ると、食材となる動物を探すこと30分、良さげな鳥を発見。
ヤマーダは勢いそのままに、
バシュゥーーーッ!
《旋回切り》で首チョンパする。
流石に魔物に相対して2回目ともなると、ヤマーダに迷いはない。
すると横からルルがササッと現れ、鳥を逆さまにして血抜きを始めた。
あれっ!
ルルのこれって、血抜き?
鳥と言っても、胴体だけで2mを超えている大鳥。食べごたえは充分そうだ。
ルルは血抜き作業が終わると、流れるように羽をむしりだした。
手際が良いねぇ
そういやぁ、
ルルの職業に《料理人》があったな
…《暗殺者》もあったけど
「ルル、料理できるんだな」
『バブ~?』
何で出来るのか分からないような顔をしている。
アッという間に、大鳥は鳥肉と鳥ガラという食材に変貌した。
ヤマーダ達が村に帰ると、
『コッ! コカトライス! 魔鳥コカトライスの肉でねぇべか!』
ルルの手元にある鳥肉を見て、村長がひっくり返った声を出した。
「えっ? この鳥、知ってるんですか?」
『知っとるもなにも、ここいらでは最強の鳥だんべぇ』
こんな首チョンパが最強なの?
そんな話をしているうちに、ルルが釜戸の火を使って、遠火の直火で三串、鳥肉を炙りだす。
「バブ!」
ルルが炙る度に滴る肉汁が、香ばしい匂いに変わり食欲が刺激される。
「ぐぅ~!」
『『『『ぐぅ~!』』』』
ヤマーダの腹音から始まり、オーク達の腹音の大合唱。
『バブッ』
ルルが味見とばかりに一串頬張り、
『バブバブ!』
残りの二串をヤマーダとネーコに手渡す。
ヤマーダ達が食べ始めるのを見届けると、ルルは鳥肉をジャンジャン炙り出した。
ヤマーダとネーコも一口頬張り、
「旨っ! 何これ、メッチャ旨い!」
『バブ! バブバブ!』
ヤマーダとネーコの口に焼き鳥が一瞬で吸い込まれていった。
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そんなこんなで2時間経過
あれからオーク達は限界まで焼き鳥を食べ続け、あれだけあった鶏肉は全て無くなってしまった。
現在、ヤマーダ達は残りの鳥ガラで取ったスープを食後のお茶代わりに飲んでいる。
爆食オーク達は仰向けで休憩中。
器を作れるって感じたけど、
ホントに作れんだなぁ
ヤマーダ達の今飲んでいるコップや、スープを作るための釜は、ヤマーダがそこいらの土で適当に作った物だった。
何故なら、オーク達に料理や食器の概念が無かったから…
「あの~、皆さんはこういった料理を食べないんですか?」(ヤマーダ)
既にあまり良い答えは期待していない。
『こっだら旨え飯は初めてだべよ』
えぇ~! 異世界、マジ最低~!
異世界株、再度、大暴落。
『あっ! オラ、聞いたことあるべ。東のいっちゃん端に、この世の物とは思えねぇ旨い飯さ食えるらしいべ!』
えっ! ホント!
『そっだら話、オラは知らねぇべ』
『聞いたことねぇべよ』
『サルも焼いたら旨いんだべか?』
『知らねぇべなぁ』
結局はよく分からないような話になってきた。
何だよ!
有るのか無いのか分っかんねぇなぁ
…で、誰だよ!
オレを食おうとしてるヤツ!
『だども、アヤカシギツネ様の里ならば、聞いたことあるんべぇ』
『んだんだ』
『おらもあるべ』
『サル焼き、食いてぇ』
『んだ』
ネーコの故郷?は、一応あるのか
…って、この村に居たらオレ
食われんじゃねぇの!
…でもなぁ、
臭い飯の異世界で
何もすること無いしなぁ
確かに、ヤマーダはここ異世界に突然、送り込まれている。
異世界での目的が何もないヤマーダは、少しだけこの村に滞在してみることにした。
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翌日
朝、昨日のスープを朝食代わりに飲んでいて、ふと気づく。
塩味が無い!
「なぁ、村長さん。この村に塩とか胡椒とかってないのか?」
『し、塩っ、ここ、胡椒っ! 何です、それっ! そ、そっだら高級な物! こん村ではとてもとても…』
えーっ!
塩も胡椒も知らないの!?
もしかして、素材の味のみなの?
ヤマーダが驚くのも無理はない。
魔物の生活環境など全く知らないのだから。
ほとんどの魔物は、別の生き物を食べることでごく微量の塩分を摂取している。
塩味自体をあまり知らないので、塩を食事に使うといった発想がそもそも無い。
うわーっ
異世界って、
飯を味わうって概念がねぇのか!
実際、昨日の寝床も、洞窟の床の高さがちょっとだけ高い地面に、酷い臭いのする獣皮を敷いた床だった。
しかし、彼らオークは地べたで寝るので、少なからず客として扱ってくれているのだ。
ベッドも無えし、
臭えし、
汚えし
こんな世界、マジ最低!
『ヤーマ、ヤーマ!』(ネーコ)
「ヤーマ!」(ルル)
『ヤーマー!』(イズム)
『ヤマー!』(マサオ)
仲間の4体が言葉を喋っていた。
「ヤーマ」だけなんだが…
おーっ!
喋ってる、喋ってる!
近所のガキって成長が速いって聞いたけど
魔物も同じなんだなぁ
オレの唯一の癒しだよ
すると、
『ヤーマー、マンマ。ヤーマー、マンマ』
イズムが新たな単語を使い始めた。
おーっ!
何か喋ってるよ!
いやぁ、感動するっ!
これが、ザ教育か!
実は、ヤマーダが何かしたからではなかった。
サリア達が何の反応も示さない分裂体に話し掛けていたことが、イズムの成長を促進していたのだ。
因みに、今現在、サリア達はヤマーダ達が《東の里》を探索していると思い込んでいる。
マンマ?
パーパじゃなくて?
でも、
「ヤーマー」ってオレを呼んだし…
『ヤーマー、マンマ! ヤーマー、マンマ!』
イズムがグズリだした。
えっ! 何だよ!
すると、どこかのオーク奥さんが、
『ねぇ、ヤマザル。ご飯が欲しいんじゃないの?』
「えーっ!」(ヤマーダ)
今、スープを食ったろうが!
ったく、しょうがねぇなぁ
まぁ、
丁度この付近の地形も知りたかったし…
…で、ヤマザルって何!?
ヤマーダはイズムの食材を求めて、今日の予定を付近の探索に決めた。
その前に
「村長さん。ここって何て国なんですか?」
『国? こっだら所にそげな国は無えべな』
へぇ、国が無いんだ…
じゃあ、キミらは勝手に住んでんの?
「村長さん、作物って育てないんですか?」
『お前、馬鹿な奴なぁ。こっだら岩だらけの場所に植物なんぞ生えねぇべよ』
「そうですか…」
確かに村長の言う通りだ。
なるほどねぇ
ここは岩だらけだから、
農業は期待できない
狩猟で生計しているけど、
オークの魔物ヒエラルキーはかなり低い
食事は腐った肉
寝床は臭い
そして、オレはサル呼ばわり
まず、飯だ!
飯の改善!
あと、作物の育成!
狩猟だけじゃ絶対無理!
次に、清潔な建物!
地面はダメだ!
身体が痛いし!
最後に、サル呼ばわりからの脱却!
ヤマーダ様って呼ばれたい!
先ず、昨日の鳥でも捕まえてみるか
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オークの村周辺の岩場
ヤマーダが鳥と称するのは魔物コカトライスだ。
コカトライスは体長3~5mの大型の鳥。
鋭い嘴と、まん丸の目が特徴的。
全身を白い毛で覆われており、翼を使って空を飛ぶことが出来る。
石化の息を吐くことから、冒険者に恐れられている魔物だ。
適当に周辺を散策していると、ルルがある反応を示す。
「ヤーマ、バブ、バブバブ!」
ルルはヤマーダの裾を掴むと、足早に引っ張り出した。
ルルは数分岩場を走ると、急に身を屈める。
「ヤーマ、トリ、バブ!」
ヤマーダの裾を掴んだまま、もう片方の手である方向を指差す。
あっ!
焼き鳥!
正確にはコカトライスである。
焼かれてもいない。
ルル、スゲーじゃん!
《暗殺者》だ《忍者》だってのは
伊達じゃないってことか
「よくやったぞ、ルル!」
「バブーッ!」
ルルの髪を撫でると、今度は肩に乗っていたネーコが魔物に向かって走り出した。
「どうしたんだよ、ネーコ!」
ヤマーダの制止も虚しく、ネーコは魔物に急接近。
『なんだ、あんた達!』(コカトライス)
『バブッ!』(ネーコ)
ビュン!
『ギャッ!』(コカトライス)
魔物が反応するよりも速く、ネーコが《風魔法》風の刃で首チョンパした。
ネーコはヤマーダの元に戻るなり、
『ヤーマ! バブバブ、ネーネ!』
髪を撫でている手をルルから払いのけ、甘えた声でスリスリしてきた。
「ネーコも凄いぞ!」
ヤマーダはネーコを存分に撫で回してやった。
しっかし、
コイツらオレに懐いてるよな
《魔物使い》って職業があるから?
ネーコとスキンシップをしている間に、ルルはサッサと魔物を捌いてしまう。
村に戻ったヤマーダ達は、昨日のように村人達にも焼き鳥を振る舞った。
今回も食材は残らない。
あれ~?
コイツらって、毎回、こんなに食うの?
狩猟だけじゃ生活なんて無理じゃんか!
実はそうではない。
狩猟が容易く出来るなら、10日も経った肉を食べる筈がない。
単に、食べられる時に満腹になるだけ食べるのだ。
「あの~、村長さん。皆さん、大食いですね」
『あぁ、ヤマザルさん。すまんこってす。こっだら旨い飯さ食ったの初めてだべさ。だべ、村の衆も止まらんかったべよ』
初めてって、オマエ、昨日も食ったろ!
「で、そのヤマザルさんって?」
『アンタの名前だべよ』
「俺はヤマーダなんですけど」
『んだ! ヤマーダサルさん。略してヤマザルさんだべ』
勝手に略すな!
「俺はヤマーダ! 間違えないでね! でさぁ、毎回、こんなに食ったら大変ですよ! まず、耕作しましょう!」
『だども、こっだら岩しかねぇ場所で…』
「まぁ、任せてください!」
ヤマーダの農村開拓がここに始まった。




