深淵の迷宮 1~52階層
深淵の迷宮・
東国の首都から北西にある古代迷宮の一つ。
なんでも、
この大陸にある古代迷宮の中でも
深さが50階層以上あるのは唯一らしい
階層は地下全60階層。
迷宮とは、地上もしくは地下に
10階層以上あるものを指すんだとさ
生息する魔物は階層により異なり
1~20階層(上層)は
スライム(S)、レッドS、角ウサギ、ゴブリン(G)、Gチーフ、Gナイト、Gアーチァー、Gメイジ、オーク(Ok)、Okチーフ
中央国のフィールドに
出現する魔物程度だな
21~40階層(中層)は
レッドS、ポイズンS、Gチーフ、Gナイト、Gアーチァー、Gメイジ、Gロード、Okチーフ、Okナイト、Okアーチァー、Okメイジ、オーガ(Og)、Ogチーフ
魔物の強さは《竜の洞窟》ぐらいかな
41~60階層(下層)は
Gロード、Gキング、Okロード、Okキング、Ogチーフ、Ogナイト、Ogアーチァー、Ogメイジ、Ogロード、Ogキング と変化する。
正直、
このランクの魔物と戦った経験は
ほとんどない
上層から中層までは、フィールドで採取できる素材と変わらないが、下層は希少価値の高い素材が入手できる。
反面、下層では各種族の王クラスの魔物もおり、冒険者の死亡率も高い。
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《空間魔法》マイホーム〈リビング〉
迷宮探索前のブリーフィングを行っている。
「イズム、そのぉ…ルルが《深淵の迷宮》の最下層にいるのって、確かなのか?」(ヤマーダ)
『冒険者の話では、どうやら、こん棒で戦っている少女を迷宮最下層で目撃したらしいんっす』(イズム)
「こん棒使いの少女? …それが本当にルルなのか?」
『そのこん棒なんすけど、ゴブが使うこん棒を可愛く加工した逸品らしいんすよ』
「なるほどのぅ、可愛いゴブ棒か…だとすると、ルルで間違いなかろう」(ターニャ)
なんで、明確に言いきれんの?
「なんでそんなことが分かんのさ?」(ヤマーダ)
『そりゃ、可愛いゴブ棒なんてモンを作れんのはアッシらだけっすから』(イズム)
えっ!?
「もしかして…それって《武器職人》じゃないと加工できないってことだから?」(ヤマーダ)
「まぁ、それもあるのぅ…じゃが、もっと明確な理由があろう」
どういう理由?
『ゴブこん棒を使ってるってことっすよ』
「!?」
普通、冒険者がゴブリンの使っていたこん棒を武器として使用することはあり得ない。
自分の命を守る大切な武器。
そんな武器をいつ壊れるか分からない代物なんぞに頼る冒険者など、決していないからだ。
それから、
詳しく事情を説明してもらうヤマーダ。
「・・・だから、ルルで間違いない訳じゃな」(ターニャ)
「ふ~ん、なるほどねぇ、そういうことか」(ヤマーダ)
やっと納得できた。
ってことで、今回の探索、
オレ、ターニャ(人化)、イズム、ポチを
固定メンバーとして
サリアはランドン、テルメ担当で別口
エルは《マイホーム》で中継役
ヒロシさんは魔国領調査を継続
ってなるのかな?
ヤマーダが今後のプランを計画していると、
「ランドンはんからの言伝や。折を見て、ヤマーダはんとまた会いたいそうなんやて」(サリア)
ランドン商会から、サリア経由で会合の要望が入る。
今はルル優先なので無理
「えー、今は忙しいので無理と伝えてくれる?」(ヤマーダ)
「まっ、しゃーないわな。ウチがまた今度って伝えとくわ」
ヤマーダの回答はある程度、想定済のようだ。
「兄さん、グスタフ伯が是非、会いたいとのことですが…」(アダル)
今度はクリボー伯爵からのお誘い。
ルル優先、パートツー
「そっちもパスで」(ヤマーダ)
「はぁ…では、そのように伝えておきます。ですが、相手は伯爵様であることをお忘れなく…」
お偉い貴族様のお誘いを
そう簡単には断れないって言いたいの?
そんなことは分かってるよ
でも今は、
大切な仲間の命が懸かってる!
「俺にとっては、ルルの方が最優先なの。だから今は伯爵にいちいち付き合ってる暇なんてないんだ。アダルだって、そのくらい分かるだろ?」
「えぇまぁ…確かに…ですが…もし断り切れなかったら…」
「そんときは伯爵に、もう一生会わないよって伝えちゃっていいよ!」
「えっ!」
「アダル、今の俺にはルルのことで手一杯なんだよ!」
「(おいおい、ヤマーダはん)」(サリア)
「はぃ…」
元貴族のアダルには、グスタフ伯爵の誘いを上手く断れるか不安でたまらないのだ。
そんなアダルの気持ちを察し、
「もっと気楽に考えなって。俺達、中央国なんて捨てたって構わないんだから」
「また、過激やなあ」(サリア)
「!?」(アダル)
「俺達には《異空間》があるんだぜ。たかが、国の出禁ぐらいどってことないさ」
なんたってオレ、
中央国では指名手配されてるし!
「ってことでサリアには悪いけど、最悪、ランドン商会も切り捨てるからね」
「そうか…ウチは構へんけど。…セリアはそれでもええのんか?」(サリア)
「構いません。ヤマーダさん達とランドン商会のどちらを、と聞かれましたら比べるまでもありません。当然、ヤマーダさん達を選びます」(セリア)
へぇ…
セリアはオレ達を選んでくれるんだな…
「アダル、最悪、俺達が国を追放されることになっても、別にキミ達はここに残ってもらってもいいんだよ?」
「…いえ! そのときはオレ達も兄さんについていきます」
えっ、そうなの?
中央国って、
キミ達の故郷じゃないの?
「キミ達のメンバーって、町の元スラム街に結構いるんじゃない?」
「確かに、500人居ますけど…兄さんとの関係を切ってまで中央国に残る者はいませんよ」
ありがたいんだけどねぇ…
500人も居んの!
「まぁ、伯爵ともめるって決まった訳じゃないしさ、とりあえず『行けなくてゴメン』って謝っといてよ」
「えぇ、分かりました」
ヤマーダの周囲にいる仲間達。
大半がヤマーダやネーコなどに何かしらの恩を感じており、結束がとても強い。
こうして、
チャイルドパーティーとの調整も終わり、各自行動を開始していく。
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そして、話題は《深淵の迷宮》攻略へと移る。
「迷宮内への分裂体の配置は?」(ヤマーダ)
『現在、50階層まで各階層の入り口付近に潜伏済っすね』(イズム)
50階層までの入り口全て!?
ってことは迷宮内には
イズムズが50体以上も居んのかよ!
それじゃあ、
オレが急いで行く意味ってあんのか?
「なぁ、51階層から下へは行けなかったのか?」
『そこからは《索敵》持ちの奴らが多くて、分裂体だけだとすぐ殺られちゃうんす』
スキル持ちの魔物かぁ…
そりゃ、厄介だな
『どうするんすか?』
「うーん…そうだなぁ、迷宮内には俺達以外の冒険者も居るのか?」
『中層までは結構な数、居るっすね』
結構な数かよ…
「えーと、どれくらいなんだ?」
『うーん…そうっすねぇ…上層は各階層に20~30人、中層は各階層に6~16人ってところっすね』
「結構、居るやんか」(サリア)
今回の分裂体配置には、それなりに時間が掛かっていた。
そのため、精度はかなり高い状態だった。
『あの~、わたしもその迷宮に行かないとダメなんですか~』
ポチの行きたくないアピール。
そんなアピールをヤマーダはサラッと無視して、
一つのPTが5~6名だとして
上層が4~6PT
中層が1~3PT て感じか
すると冒険者は
上層で大体500名、中層では大体200名
合計700名前後ってところだな…
何だよ…思ったより結構いるじゃんか…
彼らにバレないように《転位》すんのは
まず無理だぞ…
「他の冒険者に《転位》のこと、知られたくないし、普通に迷宮を攻略するしかないかな。因みにボスって居んの?」(ヤマーダ)
『えっ? ボスって何すか?』(イズム)
「缶コーヒーやな」(サリア)
「違います」(ヤマーダ)
「石原の裕ちゃんやろ」
「違います」
「別格の強さを持つ魔物ちゃう」
「違います」
あれっ?
「合っとるやろ!」
関西のお約束は
3回目も被せるんじゃないの?
『…別格の魔物っすか…う~ん…居ないんじゃないっすかねぇ』(イズム)
迷宮なのに…ボス、居ないの?
なんか寂しくない?
「っでさぁ、下層のイズムズがいる41~50階層には冒険者って居ないのか?」
『今のところ、3PT居るっすね』
「へぇ、結構深くまで潜っとる奴も居るんやな」(サリア)
「具体的な数も分かるか? 何階層に何人、みたいな感じでさ?」
『え~とっすねぇ、46階層に2PTで11人、51階層に1PTで7人っすかね。46階層の2PTはメッチャ近いっすから、協力して迷宮攻略してるっぽいっすね』
『やっぱり、わたしも行かないとダメなんですか?』(ポチ)
また、サラッと無視。
下層に潜ってるPT、3つだけか…
20階層分あんのに、少なっ!
下層ってかなりヤバい所なのか?
「大体、判ったよ。いざ《深淵の迷宮》へ」
迷宮情報を洗い出したヤマーダ達。
『あの~、わたしの意見は…』(ポチ)
『諦めるのじゃ』(ターニャ)
『はぁ…』
ポチはため息をついて、落ち込んでしまった。
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東国テーベ深淵の迷宮・第1階層
PT
ヤマーダ、ターニャ(人化)、イズム、ポチ
迷宮の通路は、壁から薄らと明かりが灯っており、視界がある程度は確保されていた。
壁が光ってるけど、なんなの?
《ヒカリゴケ》?
それとも、
人工的に整備されてんのか?
通路の形状は、幅4m、高さ4mのアーチ状で奥に向かって傾斜がついている。
因みに、今のところ通路内に魔物はいない。
そして通路は、10m×10m、高さ6mのドーム形の空間(小部屋)を繋いでいる。
小部屋には物置のように色々な物が乱れて積まれており、ここに魔物が棲んでいるのだろう。
探索できる場所とは別に、迷宮には到達不可の領域が幾つかあり、魔物は普段、そこで生活しているらしい。
到達不可領域・
迷宮や洞窟などにある領域で外から侵入が出来ない領域。
魔物は普段、この領域で生活している。
魔物の個体数が一定数まで増えると、到達不可領域から押し出されるように冒険者が探索できる領域、所謂迷宮や洞窟の空間に向かって、魔物が一方通行で出現してくる。
小部屋・
到達不可領域から出現した魔物は、小部屋に拠点を移して生活を始め、また個体数を徐々に増やしていく。
小部屋に移った魔物の個体数が一定数を越えると、小部屋から溢れ出て、勢いそのままに迷宮の外へと、フィールドを蹂躙していく。
これが百鬼夜行だな
到達不可領域は、冒険者の探索領域と時間経過が異なっており、探索領域よりも経過時間が速い。
その為、魔物は絶えず産まれ育ち、溢れることを繰り返し、探索領域へと出現してくる。
つまり、
迷宮内の魔物を狩り尽くしても魔物が絶滅することはないのだ。
「通路に魔物が居ないんだから、もっとサクッと先に進めると思ってたんだけどなぁ…」
ヤマーダの愚痴が始まった。
「小部屋で新米冒険者がチマチマ魔物と戦ってて、メチャクチャ邪魔なんだよぁ」(ヤマーダ)
「しょうがなかろう」(ターニャ)
第1階層で魔物が出現する小部屋は2ヶ所、既に殆どの冒険者が知っている情報だ。
第1階層にいる新米冒険者6PTよりも魔物の出現場所が少ないため、2ヶ所の小部屋では冒険者が順番待ちをしてながら、絶え間なくゴブ達魔物と戦っていた。
「はぁ…」
目の前で必死に戦っている新米冒険者を見つめ、ヤマーダはため息をついた。
『まぁ、そんなにガッカリしないでくださいっす。アッシらの目的は、ルルっちの救出っすから。上層は他の冒険者に任せて、サクサク先に進もうっすよ』(イズム)
「それもそうか…」(ヤマーダ)
こうして、
ヤマーダPTは新米冒険者の訓練所と化している第1階層を、邪魔にならないように気をつけながら通り抜けた。
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20時間後
東国テーベ深淵の迷宮・第21階層
〈最初の小部屋〉
小部屋の通路付近、行く手を邪魔する魔物のみを討伐して、先に進むこと優先でなんとか中層までたどり着いたヤマーダPT。
初迷宮探索、20時間で20階層攻略は、全くもって快挙の話だ。
公表すれば、ギルドのレコード確定だろう。
「ふーーっ!」(ヤマーダ)
『…つ…疲れた~』(ポチ)
「皆には悪いけど、早くルルを救出したいから、休息は最小限で進みたいんだけど」
急ごしらえのごった煮を食べながらのブリーフィング。
『アッシらは平気っすけど、ポチは大丈夫なんすか?』(イズム)
『まだ…まだ…行けます!』
ポチがなかなかの根性を見せる。
ポチのレベルは現在 31。
レベルだけを見るなら、決して低い数値ではない。
しかし、ゴブリンよりも基本的な能力が低く、体力もかなり少ない。
名前・ポチ
………
レベル・31
体力・10/42
魔力・37
攻撃・41
防御・36
知識・33
敏捷・49(+10)
運・34(+20)
………
流石に体力の限界かな
『神水』や『神気』だけの強行軍じゃ
ポチの身体がもたないかも…
今日の迷宮探索はここまでとし、周囲を分裂体に警戒させて、野営することになった。
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翌日
東国テーベ深淵の迷宮・同階層
ヤマーダ達はキッチリ6時間野営した後、迷宮中層の攻略を開始する。
パッと見る限り、通路幅6m、高さ6mと昨日よりは広くなり、小部屋も20m×20m、高さ8mとかなり拡大している。
これは、
大鬼が生息している為なのだろう。
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数時間後
深淵の迷宮・第23階層〈小部屋〉
更に2階層進み、23階層へ到達したヤマーダPT。
ヤマーダの目の前には、獣人の死体が横たわっている。
嫌なものを見ちゃったなぁ…
咄嗟に《神水》を口に含ます。
だが、死んでから1日以上経過しているのか、生き返る様子がなかった。
「《神水》じゃ、ダメなのか!?」
“鑑定”
名前・ミルト
種族・獣人:猫族
年齢・12歳女《奴隷》
………
年齢の最後に《奴隷》と表示されていた。
ここでヤマーダは頭の中を整理する。
どうやら
冒険者には二種類いるみたいだ
中層での探索にて、ヤマーダ達は何組かの冒険者PTと出会い、冒険者という存在を目の当たりにしていた。
それからというもの、ヤマーダには冒険者という存在に何か感じ入るものがあった。
一つはオレが思ってた冒険する者
まぁ、オレ達だ。
この迷宮には、この手の冒険者が大半だった。
そしてもう一つは…
探検家
探検家とは
迷宮内の財宝略奪が目的のクソ野郎ども
だから、
魔物と戦う危険を冒したくないし、
魔物を倒すための強さも持っていない
では、どうやって魔物が生息する迷宮を探索するのか?
その代わり、もし魔物が襲って来たら
身代わりとなる囮を用意した
一目散に逃げるって訳だ
…そして
その身代わりが…
《奴隷》なんだろうな…
肩を震わせているヤマーダに、
「主よ…その娘が死んだのは、主の所為ではないぞ。気にしないで先に進むのじゃ」(ターニャ)
ターニャも探検家に憤りを覚えているが、敢えて口には出さなかった。
しかし、ヤマーダはその場を離れない。
「なぁ、イズム…これじゃ、彼女があんまりだよ。悪いんだけど、彼女を俺の《異空間》で弔ってあげてくれないか?」
『…分かったっす』
ヤマーダにはとても無惨な遺体をそのままには出来なかった。
新たに《空間魔法》の少し離れた所に遺体安置所に建て、彼女を弔う。
それが、ヤマーダに出来る精一杯の供養だった。
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更に数時間
深淵の迷宮・第24階層〈小部屋〉
ヤマーダ達は順調に次の階層まで到達していた。
小部屋に入ると、オーガを筆頭に魔物達が冒険者?の死体を切り刻んでいる。
『飯だ! 飯!』
魔物達は食事用に死体を切り分けようとしていたのだ。
「!!」
その光景を目の当たりにしたヤマーダの何かが弾けた。
「オイ! ふざけんなよ、テメエら!!」(ヤマーダ)
怒りのあまり、周囲の状況をあまり確認せずに大声で叫んでしまう。
オーガ1体
オークチーフ7体
オークナイト2体
オークアーチァー2体
オークメイジ1体
この小部屋には、魔物達しか居なかった。
魔物達を見ると、編成は中層の中でも上位の強さと言えた。
『ギャーギャーとサルがうるさいぞ!』
リーダーのオーガが威圧してくる。
多少の態度も度が過ぎるぞ!
《神気》を小部屋に満たし、ヤマーダは間髪入れずに戦闘モードへ入る。
「今すぐ謝るなら、許してやる!」
ヤマーダの発した言葉に反する、凍てつく眼差し。
『サルが何、喚いてんだ?』(オーガ)
手加減抜きで瞬殺する!
「じゃあ、死ね!」
ヤマーダの枷が解き放たれる。
『う…うぐぅ…』
《空気使い》スキルで魔物達13体の体内の空気を一気に真空にする。
すると、魔物達は白目を向いて、一瞬で絶命した。
たったの数秒。
ヤマーダはテリトリー内の空気を調整しただけ。
それだけの労力で、13体の命を一瞬で刈り取ったのだ。
「ふぅ」
鬱憤を晴らし、ヤマーダは一息ついた。
「おい! 怒り過ぎじゃ主、少しは冷静になれ」
優しく肩を揺すられ、正気に戻る。
ターニャの指摘は無理もないこと。
単独で飛び出すヤマーダの行動。
それは最早、PTの行動ではなかった。
「…ゴメン、ターニャ。俺、アタマに血が上って押さえられなかった。…次から、気をつけるよ」
気も漫ろな返事をしながら、死体に駆け寄った。
なんとかして、助けたてやりたいな…
ダメ元で引きちぎられた死体の口とおぼしき部分に無理やり《神水》を注ぐ。
するとミルミル内に傷口が修復していく。
「主、これなら助かるぞ」(ターニャ)
「あぁ!」(ヤマーダ)
それからも、《神水》を注ぎ続ける。
すると、肉体の損傷は全て元どおりとなり、息を吹き返した。
「…う…うぅ…」
ふぅ、なんとか生き返ってくれたか
“鑑定”
名前・ソール
種族・獣人:猫族
年齢・10歳女《奴隷》
………
生き返った獣人娘はボロ布を僅かに身に纏っていた。
多分、ボロ布は奴隷服の成の果てなのだろう。
「皆、ここで少し休もう。キミも服がボロボロだし、着替えようか」(ヤマーダ)
「…」
警戒しているのか、生き返ったソールからの反応はなかった。
そして、ヤマーダは小休止することに。
イズムズ経由でサリアと連絡を取り、彼女に探索用の軽装を着てもらう。
獣人といっても、人間の容姿と指して変わりない。
大きな違いといえば、耳の位置と眼の瞳孔の大きさぐらいだった。
「あれ? 折角生き返ったのに、奴隷のままだ!」
ヤマーダは彼女のステータスの異変に気づく。
未だに《奴隷》の表記が残っているのだ。
「そりゃそうじゃろ。…まぁ、奴隷は財産じゃからな。所有者が手離さん限り、死ぬまで奴隷契約は続くものじゃよ」(ターニャ)
この世界では、大半が《奴隷契約》スキルによって奴隷にされる。
〈魔法〉や〈スキル〉、〈呪い〉とは根本的に違い、《奴隷契約》とは被術者の根源を直接縛ることが出来るため、そう簡単には解除されないのだ。
《鑑定》で奴隷表示が見えるってことは、
所有者が生きてるってことなんだよな
「…う…あたし、死んだはずじゃ…」
ソールは事態を受け止めきれないのか、未だに小刻みに震えている。
「お主は、そこにおるワシの主が助けてくれたんじゃよ」(ターニャ)
驚かさないように、優しく話し掛ける。
「うっ」(ソール)
急に涙めになると、
ガシッ!
「ありがとうございます」
いきなり、ヤマーダに抱きついた。
うっ!
す、凄い力で、抱きつくな!
ソールは力一杯、抱きついている。
か、かなり、取り乱しているな
「ちょっと痛いから、緩めてくれる?」(ヤマーダ)
「ご、ごめんなさいです!」(ソール)
ソールはヤマーダから離れると土下座状態に。
「あぁ、楽にしていいから。えーと、俺の名前はヤマーダ。君の名前を聞いてもいいかなぁ?」
彼女の頭を撫でながら、優しく声をかける。
「あたしは…ソールっていいます。…あのぅ…」
彼女はポツリポツリと話し始める。
その後、ヤマーダ達とソールは互いの事情を話し合った。
「君の主人もまだ迷宮にいるのかなぁ…」(ヤマーダ)
「はい!」(ソール)
彼女は《神水》の能力で生き返った
つまり、
彼女が死んでから
24時間以内ってことになる
24時間ってことは、
幾らなんでも今いる迷宮の中層から
外までは行けないだろう
ってことは
ソールの主人って奴は
まだこの迷宮内にいるってことになる
ヤマーダの能力を持ってしても、2日で24階層だ。
ましてや、ヤマーダよりも圧倒的に劣る探検家風情の雑魚からしたら、ここ中層、1日1階層で進んでもかなり早い方だろう。
ソールのPTは、元々7人だったらしい
ご主人様以外は、全員少女の奴隷
この異世界において、働き手として価値の少ない少女が口減らしで身売りするなんてことは、日常茶飯事のことだ。
ソールが死ぬ前に、
既に2人の奴隷が死んでいる
死んだ2人の1人は
前に見つけた少女なんだろう
とすると、更に2人減って
残り4人で中層をさ迷っているのか…
ヤマーダが状況を整理していると、
「ご主人様を助けて欲しいです。でも無理なら、せめて友達は助けて欲しいです?」(ソール)
ご主人様より友達を優先すんの?
「友達って?」(ヤマーダ)
「他の奴隷です」
「うーん…」
ヤマーダは唸ってしまう。
オレもね、
できれば助けてあげたいよ
でもね、
ルルが最下層で待ってるんだよね
…それにしても、
ご主人様って奴は
慕われていないんだな
「ソールよ、そもそもそなたの主人は何の目的で迷宮に来たんじゃ?」(ターニャ)
話題を奴隷主人に切り替わる。
それはオレも知りたい
「ご主人様のお考えは、よく分かりません」(ソール)
「そうかぁ…」(ヤマーダ)
「でも、奴隷達は最近、ご主人様に購入されました」
「最近?」
それって、
迷宮探検で人柱にする為だろ
「だとすると、この迷宮に何か用事があるはずだよな」(ヤマーダ)
「ワシも主に同意見じゃな」(ターニャ)
今度は、
「なぁ、イズム。ソールの主人がどこにいるか判るか?」(ヤマーダ)
『ちょっと待つっす』(イズム)
イズムはヤマーダの肩口でウンウン考えている。
『…この階層にいるとは、思うっすよ。50階層までの入り口はアッシが見張ってるっすから。誰か通れば判る筈っす』
「そうか…」
煮え切らない返事のヤマーダ。
どうしよう?
奴隷達を探すべきなのか?
『…ルルさんを助けてからにしますか?』
ヤマーダが悩んでいると、ポチが選択肢を増やす。
どうするか…
もちろん、ルルは大事だけど
ソール達も放っとけないよ…
まず、
ソールに遺体を確認させるか
周囲をイズムに見張らせ、最新の注意を払って幕を展開する。
「近くに誰も居ないよな?」(ヤマーダ)
『大丈夫っす。安心するっすよ』(イズム)
幕を不思議な表情で眺めているソール。
「じゃあ、ついてきてくれ」
そう言うと、ヤマーダ達は幕を潜っていった。
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《空間魔法》遺体安置所建設予定地
ソールを《空間魔法》の近くの遺体安置所予定地に連れていくヤマーダ。
遺体は《時空魔法》で時間が停止しているテントのような空間に安置されていた。
「あ…あぁ…ミルト…」
遺体を見るなり、ソールは泣き崩れた。
「やはりか…」(ヤマーダ)
これで死体の身元は確認できた…
「あのぅ、ミルトは…ミルトは生き返れないんですか?」(ソール)
「ゴメンな。俺のスキルでは、死んでから1日以上経過すると無理なんだよ」
「そう…そうですか……でしたら! アムを! あたしの少し前に死んだ奴隷のアムを助けてください!!」
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深淵の迷宮・第24階層〈別の小部屋〉
迷宮へと戻ると、ソールはヤマーダの手を引っぱり、少し離れた小部屋へと連れていった。
これは!?
そこには、魔物に食い散らかされた遺体の残骸があるだけだった。
「そ…そんな!」
ソールはヤマーダに抱きついたまま震えている。
酷いな…
やるだけやってみるか…
残骸に《神水》を振りかけたが、反応したのは一部で、大半は何の反応も示さない。
やっぱり無理なのか…
確かに一部分は反応しているのだが、回復しているようには見えない。
「どうする?」
居たたまれなくなったヤマーダは思わずソールに聞いてしまう。
「続けてください!」(ソール)
それは、熱のこもった返事だった。
気の済むまで付き合うよ
ヤマーダは覚悟を決めて、無駄かもしれない行為を繰り返した。
10分後
何度も何度も《神水》を振りかける。
すると、
「あっ、あれっ!?」
先程反応した一部がほんの少しだけ修復していることに、ソールが気づく。
「何だ!?」
ヤマーダもちょっとした変化に気づいた。
これってもしかして、
残骸の根源はまだ
この遺体に残っているのか?
急遽、《土魔法》でバスタブのような容器を迷宮の地面に造り、《猟師》職の《加工》で内面を滑らかにする。
残骸の中でも、反応があった部分を重点的に《薬師》職の《薬草採取》と《採掘技士》職の《採掘》で丁寧に採集し、先程造った容器に入れると、容器の中を《神水》で満たした。
すると、先ほど反応していた部分が薄ら光っている。
10分経過
なんとなく、回復しているっぽいが劇的な変化は見られない。
「のぅ、主。こんなことをしている間に、また、ソールの仲間が魔物達に殺されてしまうんじゃないのか?」(ターニャ)
「そ、そうです。そうですよね!」(ソール)
ターニャの言葉に感心したのか、ソールはウンウンと頷いている。
「ヤマーダ様、これでアムは大丈夫です! 早く先へ急ぐです!」(ソール)
ソールがヤマーダの手を引っ張っていこうとする。
いやいや、
迷宮のど真ん中に、
このまんまって訳にはいかないでしょうよ
「あぁ、分かったよ。でも、遺体をこのまんまってダメでしょ。ちょっと待ってて」
ヤマーダはその容器を地面から削り取り、《空間魔法》へ持っていくと、後の管理をエルに任せる。
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「だ、大丈夫なんでしょうか?」(ソール)
今頃になって心配になってきた。
「それは、よく分からないよ。でも、ソールは助かるかもしれないって思ってんでしょ? だったら、後はエルに任せるしかないよ」(ヤマーダ)
「そうじゃな。で、主よ、これからどうするんじゃ?」
「ソール以外の奴隷達の〈その後〉が気になるんだよね」(ヤマーダ)
「はい!」(ソール)
「まぁ、時間はあまり掛けられないけど、追跡してみようか」(ヤマーダ)
「あ、ありがとうございます」
ソールは涙ながらにお礼をしてきた。
ヤマーダ達はソールの辿った軌跡からPTの行き先を推測して、追跡を始める。
その後、
ヤマーダPTは一度だけ魔物と戦闘を行い、探索範囲もあと僅かという所で、25階層の入り口にいる分裂体から奴隷PTが通過したとの報告が入る。
現在は奴隷PTに分裂体を尾行させている。
ヤマーダPTも後を追うように25階層へ下った。
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深淵の迷宮・第25階層〈小部屋〉
PT
ヤマーダ、ターニャ(人化)、イズム、ポチ、
ソール
ヤマーダPTか人の声のする小部屋に入ると、
「折角、ここ迄来てなんてことだ! おい、お前! 早く足止めしろ」
冒険者風の男が傷だらけの少女を魔物の群れへと蹴り出した。
“鑑定”
名前・シリル
種族・獣人:犬族
年齢・11歳女《奴隷》
職業・無職(Lv-)
レベル・2
体力・2/10
………
アイツ! やっぱり!
奴隷を囮にしてやがる!
「ふざけ…」
飛び出そうとしたヤマーダをターニャが羽交い締めにした。
「ちょっ! 何すんだよ、ターニャ!」(ヤマーダ)
「主、落ち着くのじゃ」(ターニャ)
「でも、このままじゃ奴隷達が!」
「主はそもそも、どんな理由で彼らに干渉するつもりなんじゃ?」
「そ、それは…奴隷を捨駒にして、先に行こうとしているんだぞ!」
「それが一体何じゃ!」(ターニャ)
語気を強めて、ヤマーダを嗜める。
「主が彼らに干渉する理由は何なのじゃと聞いておる!」
そんなもの! 非道だからにっ!
非道!?
ヤマーダは自分の感覚を疑り始める。
あれっ?
もしかして、
奴隷制度も彼らの生活の一部…
異世界では当たり前なこと?
まさか!?
間違っているのは、オレの方なのか?
ヤマーダは自分がとても嫌な考えをしていることに気づく。
つまり………
奴隷達は…………
エサになることも了解済なのか!?
ヤマーダは、人権や命の価値をヤマーダの、いや、地球の、日本で受けた教育という物差しで決めつけてしまっていた。
しかし、人は親という他人が勝手に子という自分を作られてしまう、非常に不自由な存在だ。
人には、産まれる時代も、場所も、家庭も、性別さえも選ぶことは許されない。
だからこそ、
唯一選択できる自分自身の死。
それを知人が、善人が、為政者が、例え親であっても、他人が勝手な価値観を押しつけていい訳がないのだ。
「なぁ、ソール。君は主人に命令されれば、魔物達の餌食になっても構わないのか?」(ヤマーダ)
「…はい…構いません。…もし、そこで死んでしまう程度なら、それがあたしの運命です」(ソール)
運命…だって!
「なぁ…生きるために…奴隷から…主人から逃げたくないのか?」
ヤマーダは一言一言が段々重くなっていく。
ヤマーダは、薄々答えにたどり着いていた。
目付きが鋭くなったソールは、
「逃げてどうなるんですか? ただ、死ぬだけじゃないですか?」
そうか!
ヤマーダはこの世界の理に気づいた。
この世界の子供は、一人では生きられない
例え、主人に殺されたとしても、
まだ、奴隷でいる方が一人で生きるよりは
よっぽどマシってことなのか!
この世界には孤児院もないし、託児所もない。
子供は面倒を見てくれる存在が居なければ、1日すらまもとに生きることが難しい。
それが現実なのだ。
つまり…
奴隷達は
自分で選んで奴隷になってるのかよ!?
じゃあ、
オレは何のために助けるんだ?
助ける意味なんて全くないじゃないか!
ヤマーダが考えている間に、
ザシュッ!
オークチーフのこん棒の尖った部分が奴隷の頭のに当たる。
「キャァ…」(シリル)
奴隷の声は次第に小さくなり…蚊の鳴く音となり…音は途切れてしまった。
クソッ!
死んじまった!
魔物の群れは
オークチーフ 1体
ゴブリンチーフ 4体
ゴブリンナイト 3体
とても目の前にいる奴隷PTの力で凌げるとは思えない。
全滅しちまうぞ!
「クッ!」
ヤマーダが足に力を入れようとする。
すると透かさず、
「主! ワシらがいることは、彼らも気付いておるはずじゃ。なのに何故、こっちに話しかけてこないと思う?」(ターニャ)
「そんなの分からないよ!」(ヤマーダ)
「何の話もしてこない所を見ると、ワシらの協力は不要なのじゃろうて」(ターニャ)
確かにターニャの言うとおり、
奴隷の主人はこちらをチラチラと見ている。
だが、ヤマーダPTとあえて会話する気はなさそうだった。
『旦那、アッシらが勝手に協力すんのは、傲りってもんすよ』(イズム)
「えっ!」(ヤマーダ)
傲りだって!?
『ヤマーダさん、助けるならその後のことも考えるべきです』(ポチ)
「そうじゃぞ。今助けに入れば、確かに奴隷の主人は大喜びするじゃろう。なんせ、タダで助けてもらったうえに、奴隷も生き返してもらったんじゃからな」(ターニャ)
『そして、ソールはまた捨て駒にされるっす』(イズム)
「!!」(ヤマーダ)
ここに来て、何故、ターニャ達が彼らを助けようとしないのか、やっと理解できた。
今、彼らを助けに入ったとしても、ヤマーダに得るものが何もないからなのだ。
「主、彼女達を本当の意味で助けたいのなら、ワシらは待つべきなんじゃ」
「じゃあ、一体いつ動くんだよ!」
ドガドガドガドガッ!
ゴブリンチーフの集団リンチ。
「キャァ!」
更に一人が殴り殺されてしまった。
「このぉ~!」(ヤマーダ)
そんな憤るヤマーダを、
「主! 奴隷の主人が死ぬまで待つのじゃ! 主人が死ねば根源が消え、奴隷契約が解除される。その後で皆を生き返らせればよい!」
ターニャは必死に制止する。
目の前で人が殺されるのを
黙っ見てろって言うのかよ!
クッソォォーーー!
耐えきれなくなったヤマーダが、助けに入ろうと一歩踏み出すと奴隷がしがみつき、
「あたし達の主人になってください!!」(ソール)
「えっ!」(ヤマーダ)
ソールの言葉に困惑してしまう。
「だから、だから! 今のご主人様は死なないといけないんです!!」
ソールの叫びは《世界の真理》、強者に従いたいという願望だった。
「わ…判ったよ」
奴隷からの強い意思を目の当たりにし、ヤマーダも納得せざるを得ない。
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それからの戦闘は酷いものだった
魔物による一方的な虐殺
そして、
仕返しとばかりに、オレの虐殺
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ヤマーダは先ず奴隷達を生き返らせ、奴隷達の意見を聞いた。
「俺は彼女達を生き返らせた。できれば、彼も生き返らせてあげたい」
指差す先に死体となった元主人がいる。
ヤマーダは元主人を《鑑定》する。
“鑑定”
名前・ゾルフ
種族・因果の切れた人間
年齢・89歳男
職業・商人(Lv2)、探検家(Lv-)
レベル・3
………
死体を鑑定して謎が増えた
それは種族名が「因果の切れた人間」となっていたからだ。
種族が《因果の切れた人間》って!?
見た目、普通の人間なのにさ
しかし、
年齢の表記がおかしい…
どう見ても30代なのだ
それに、
更には職業…重職している
確か、この世界では転職すると
前職を引き継げないはずなのに…
《経験職》の《商人》と
《冒険者職》の《探検家》の兼職だと!?
そもそも、《空気使い》を除いて、この世界に兼職の概念はない。
何としても、
死体から
詳しい事情を聴き出したくなった!
「生き返らせても、ヤマーダ様があたし達のご主人様を続けてもらえるなら」(ソール)
奴隷達の代表となったソールが条件を付け加える。
「あぁ、分かったよ」(ヤマーダ)
“鑑定”
名前・ソール
種族・獣人:猫族
年齢・10歳女
………
既に彼女から《奴隷》の表記が消えている。
奴隷契約って、主人が死ぬと
本当に無くなるんだな
「分かったよ。コイツを生き返らせたとしても、俺はキミ達の主人を辞めない」
意を決して《神水》をゾルフの口に注ぐ。
確かに傷が回復していくが…
何かがおかしい。
「な…なんだ? 私は…死んだはず!」
混濁する意識の中で、うわ言を口走った。
意識が覚醒し目付きが鋭くなると、ヤマーダを見るなり、
「キサマッ! 私に何をしたー!」
今度はみるみる身体が焼け焦げていく。
「ギャァァーー! キサマ、神族かぁー!」
男はそのまま灰となり、風に飛ばされ掻き消えてしまった。
神族!?
神族って言ったぞコイツ!
つまり…
魔族の関係者ってことかっ!
ゾルフから何の情報も得られないまま、呆然としていると、
『ヤマーダさん、進化できるみたいなのでお願いしたいのですが?』
ポチは固まった空気を変えるような提案をする。
「う…うん。分かった」
こうして、
ポチは《草原イヌ》から《隷属イヌ》へと進化した。
体格はさほど変わらなかったが、毛並みは格段に整い、さわり心地は急上昇。
そして今度はターニャが、
「主よ…ルルが待っておる。先を急ごう」
奴隷5人を仲間とし、一旦《空間魔法》へ連れて帰ると、迷宮探索を再開した。
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それからのヤマーダは、迷宮探索中にも拘わらず、なんだか上の空のような感じだった。
オレは《空気使い》のスキルってヤツを
深く考えてみる
なんでゾルフってヤツは
生き返らなかったんだろうか?
《神水》なら、死んでから24時間以内なら生き返る筈なのだ。
しかし実際は、ゾルフの意識が戻るや否や、焼け焦げて灰となってしまった。
一つの仮説として
《神水》は
全ての生物に有効ではない
そのことは既に《大樹林》で
証明されている
ヤマーダが間違って《大樹林》で魔物を大量に焼き殺した後、謝罪も込めて《神水》をこれまた大量に放水した。
結果、焼死した魔物達、半分近くが生き返らなかった。
《神水》で生き返れない魔物
それはオレに協力しない魔物達だろう
そう考えると、
ゾルフは端っからオレに
協力する気がなかったんじゃないか?
でも、
クソ勇者は
しぶとく生き返ったよな
勇者オーウェンがヤマーダに協力的だった試しは、ただの一度もない。
それに、ゾルフのように、
生き返ってから掻き消えたという
現象の理由が全く判らない
種族にあった《因果の切れた人間》が
関係しているのか…
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4日後
深淵の迷宮・第52階層〈小部屋〉
ヤマーダの目の前には、またもや死体が転がっている。
“鑑定”
名前・ナターリア・エスタニア
種族・人間
年齢・14歳
職業・王女(Lv3)
レベル・6
体力・0/16
………
おい!
この死体って…
中央国の元王女じゃねぇ!!




