グリキン討伐?③
ダミー(イズム)パーティーが町へ戻るまでの約20日間、ヤマーダ達は思い思いの活動をしていた。
----------
ポッポ加入の翌日
朝、ヤマーダは唯一の仕事である牧草地の水撒きを終えると、相変わらずネーコの指示通り職業訓練をしていた。
“ステータス”
名前・ヤマーダ
種族・人間?
年齢・14歳
職業・無職(Lv-)、魔物使い(Lv-)、戦士(Lv-)
魔法使い(Lv-)、木こり(Lv-)、猟師(Lv-)
漁師(Lv-)、農民(Lv-)、商人(Lv-)
武器職人(Lv-)、竜の使徒(Lv5)
防具職人(Lv-)、染織職人(Lv-)
採掘技士(Lv-)、調教師(Lv8)
尋問官(Lv8)、騎士(Lv2)
あーそうだ
職業について説明しておこう
(一度、ギルドで説明があったけど:第1話)
大別すると4つあるんだ
1つ目は、
誰でも最初に持ってる職業
ヒト呼んで《無職》
って言うか、ただの無職
単純に食う、寝る、遊ぶだけで
レベルが上がるという、
よく分かんない職だけど
疎かにすると、
体力と魔力が回復できない
最重要!
2つ目は、
ギルドなどでお金を払って就く職業
オレ呼んで《冒険者職》
《戦士・魔法使い・魔物使い》と
基本職が三つある
上位には
《騎士・尋問官》などがあって多彩だ
偉いさんの紹介がいるらしい
最高位になると
《勇者・賢者》なんてのもあって
この職に就くには様々な条件がある
礼拝堂での神託なんてのも必要らしい
《勇者》
この世界に一人しかなれない職業
長命種族か異世界人ぐらいしか
成れない職で、世界で数人ってことだ
因みに
勇者のパーティーには
《勇者》と《賢者》が居やがる
…マジでムカつく
3つ目は、
経験を積むことで自然と身に付く職業
オレ呼んで《経験職》
オレの持ってる職で言うと
《農民・猟師・猟師・商人・~職人》
などがそれだな
オレには《空気使い》スキルの転職を
使えばある程度の経験で、転職が可能だ
普通の人は、修行しようが何をしようが
ほとんど職を取得できないし、
取得できたとしてもレベルを上げるが
滅茶苦茶困難らしい
じゃあ、何でオレの職レベルが
バンバン上がってるのかって?
その秘密は《思考パス》の共有にある
ルル(ゴブリン)が持っている
《職業適正》ってスキルのお陰なんだよ
はっきり言って、この世界では
経験職はレアな職業と言える
4つ目は、もっとレア
イベントを達成すると取得できる職業
オレ呼んで《称号職》
これは称号のようなものだと思ってる
《竜の使徒》がそれだな
正直、
称号職は、何が何だかよく分からない
例えば、《竜の使徒》って職で言うと
取得条件は、どうやら2体?以上の
古竜の使役…っぽい
職業のレベルも
どうやって上げていいのか分からない
Lv5 までは勝手に上がってた
ターニャとエルのような古竜との
信頼関係で上がるんじゃないかと
推理している
この謎、オレが絶対に解いてみせる
ばっちゃんの名にかけて!
で、今は
ポチにお手、おかわり、お座りなんかで、
調教師の職レベ上げの真っ最中
魔物でも調教?すれば
調教師の職レベが上がるんだよ
摩訶不思議だね
「お手」(ヤマーダ)
ポチは嫌そうに、ヤマーダの右手のひらに左前足を乗せる。
「おかわり」(ヤマーダ)
更に嫌そうに、左手のひらに右前足を乗せる。
『あのー、ヤマーダさん、何がしたいの?』(ポチ)
「フッフッフッ、キミを調教しているのさっ」(ヤマーダ)
ふんぞり返って、胸を張る。
『よく分かんないけど…』(ポチ)
「チンチン」(ヤマーダ)
さらっと無視して、調教?を続ける。
『わたし、ちょっと恥ずかしいです』(ポチ)
向かいで見ていたネーコがBダッシュ。
「ちょっとヤマーダ、アンタ何やってんのよ!」(ネーコ)
ボムッ!
「うぐゅっっっ」(ヤマーダ)
ネーコのシャープな右ボディが、見事に鳩尾を捉えた。
「“な…なに…すんだよ…ネーコ”」(ヤマーダ)
「…ヤマーダ、セクハラ」
隣でポッポをワシャワシャしているリンが、冷めた眼差しを向ける。
「アンタ、女の子に向かって、何させてんのよ?」(ネーコ)
「調教師の…レベル上げ…だよ」(ヤマーダ)
なんとか、痛みに耐えて掠れた声で答える。
「今後、他の娘にそんなことしたら、絶対に許さないわよ」(ネーコ)
なんだよ、ネーコ
いつも、職レベ上げろって言うじゃんか
『そんなにレベル上げたいなら…しょうがないわね。アタシが撫でられてあげるから、存分に撫でなさいよ』
少し赤くなったネーコが《人化》を解いて、キツネ姿になった。
「えーっ! そんなんで、レベルって上がるのか?」
『何言ってんのよ。ポチがいなかったときでも、調教師のレベルって、勝手に上がったでしょ』
「言われてみると、確かにそうだなぁ。…ゴメンな、ポチ」
キツネ姿のネーコを撫で撫でしながら、素直にポチに謝る。
『恥ずかしかったので、もう、さっきのはやめてくださいね。…で、他に何かすることってないのかなぁ?…そのぉ、何かしてないと不安で』(ポチ)
リンがニタニタした顔で、悪魔の手招きをしている。
『リ、リンさん、何ですか…うわっ!』
見事に捕まってしまう、哀れなポチ。
「よ~しよし、よ~しよし、よ~しよし…」
リンの罠に嵌まり、ワシャワシャ地獄が始まった。
ポッポはその隙に、監獄から大脱出しようとしたが、ポチが逃がすまいとポッポの尻尾をガッチリと口でホールドしていた。
『ポッポさん、逃げるのはダメです』(ポチ)
『ハハハ…そうですよねぇー』(ポッポ)
右手に乾いて笑うポッポ、左手に遠くを見つめるポチと、リンはご満悦だ。
「リンに聞きたいんだけど」(ヤマーダ)
「…何?」
「クリボー伯からの依頼って、グリキンをなんとかしてってことだったじゃん」
『グリキンって…あまり略さないでくださいよ。ボク、これでも偉いんですよ』(ポッポ)
「ちょっとポッポは黙っててね」(リン)
リンの顔から「ゴゴゴゴ」って音が出そうな威圧感が溢れだす。
『ハ、ハイ! 話の腰を折ってすみませんでした!』
リンの躾は、意外と厳しい。
「…で何、ヤマーダ」(リン)
「いやさぁ、ポッポを伯爵に連れてっても大丈夫かなぁ?」
「…大丈夫じゃない」
「ほら、元々、グリキンは危険な魔物って恐れられてるじゃん。どうやって、ポッポを優しい魔物だよって説明するかさぁ…」
「…わたし達にはポッポの言葉が分かるけど…伯爵達には分からないし…」(リン)
「一層のこと、伯爵にポッポをペットとしてしばらく預かってもらう? 一緒に過ごせば、ポッポが優しい魔物って分かるんじゃないかな?」
そんなヤマーダの言葉に、リンがクワッとした表情を見せる。
「それは認められないわ。ポッポはわたしの大事なペットよ。脂ギッシュな伯爵の元にいたら、一瞬でポッポが穢れるわ」
『あのー、クリボー伯爵ってそんなにとんでもない人なんですか?』
ポッポがブルブル震えだす。
「大丈夫よ、ただのブタだから」(リン)
クリボー、
酷い言われようだな
なんか、同情するよ
それにしても、ペットが絡むと
リンの毒舌は全開爆発だな
…オレも気を付けよう
「う~ん、どうするかな?」(ヤマーダ)
『大丈夫でしょ、ポッポは見た目がとっても可愛いから。ただ、あの伯爵のことだから、グリキンを食べてみたいって言うかもよ、フフフ』
嫌らしくせせら笑うネーコ。
『お、美味しくない、美味しくないですからボク』(ポッポ)
「そんなふざけたことぬかしたら、容赦なくぶち殺すわ!」(リン)
リンの顔から「ゴォゴォゴォゴォ」と物凄い轟音が出ている。
「ネーコの冗談だ、ポッポもリンも気にするな。伯爵はそんなヤツじゃないよ…」(ヤマーダ)
『まぁ、町に戻って、伯爵に会ってみましょうよ』(ネーコ)
----------
10日後
中央国エスタニア・嘆きの洞窟
朝の日課を終えたヤマーダは、テルメ達と《嘆きの洞窟》へ来ていた。
メンバーはヤマーダ、ネーコ(人化)、ルル、ターニャ(人化)、イズムとテルメ、モフリン、キタロウだ。
「ヤマたん、アタチ達はチョー強くなったのだ(ら)」(テルメ)
「偉いじゃないか、よしよし」(ヤマーダ)
テルメの頭を優しく撫でる。
『ヤマーダ、付け上がるから、あんまりテルメを甘やかさないでよ』(モフリン)
「ウサたんは、最近なんだ(ら)かママみたいなの」(テルメ)
『アンタ、ふざけたこと言ってんじゃないわよ!』
ちょっと本気で怒ってる。
「怒んないでウサたん。ごめんなさ(ちゃ)い」
テルメはモフリンに素直なんだよな
『その素直さに免じて、許してあげるわ』
とてもホンワカさせられる二人のやり取り。
「で、今日もレベル上げすんのか?」(ヤマーダ)
『うーん…もう、あんまり上がらないと思うわ。だってここにいる魔物達って、アタシ達より弱いんだもの』(モフリン)
「そりゃそうでしょう」(ネーコ)
えっっ!
そうなのかよ
オレ、《嘆きの洞窟》の魔物、
2体ぐらいしか倒したことないよ
結構強いイメージ…
『オデもここの魔物、歯応えなくて物足りない』(キタロウ)
オマエもかい!
嘆きの洞窟・
中央国と北国を繋ぐ唯一通行可能な洞窟。
洞窟通路は一本道になっており、魔物が棲息している細い脇道に逸れなければ、まず迷うことはない。
棲息する魔物は、オークから始まり、ヘルハウンド、グリフォン、コカトライスなど非常に強い魔物が巣くっている。
Aランクパーティーでも単独踏破は難しい。
なんて、説明が書いてあるのに
テルメ達には楽勝なんだ
「じゃあ、何でちょくちょくここに来てるんだ?」
『それはアレよ』
モフリンが可愛い指先で差した先には、冒険者達がいた。
「皆たん、お早うござ(じゃ)います(しゅ)」(テルメ)
「おー、テルメちゃん、今日もご苦労様。いつも手伝ってくれてありがとうね、飴ちゃん食べるか?」(商人A)
「おっ、今日はテルメちゃん来てるんだ。じゃあ安心だな」(冒険者B)
「いつもいつも、ありがとうな」(冒険者C~K)
「テルメちゃん、きゃわゆい」(冒険者L)
若干、キモいヤツもいるけど
テルメ人気がスゲー
それにしても、矢鱈と人…
って言うか商隊?が多いな
これもオレ達の影響か…
ヤマーダ達が伝えた北国の特産品は、中央国でも瞬く間に大好評となった。
そのことに目を付けた商人達によって南北間の貿易が始まり、今ではシルクロードならぬソイロードが出来上がっていた。
そして、ソイロードのアキレス腱と言える《嘆きの洞窟》の強力な魔物達。
それを苦もなく倒すテルメ達は、ソイロードの利用者から圧倒的な人気を誇っていた。
「そこのあんた、ボクのテルメちゃんに馴れ馴れしいんだけど。何者だよ!」
キモい冒険者、略してキモ険者がヤマーダに突っ掛かってくる。
「ワターシはテルメの保護者、ヤマーダ。失礼だよ、チミ」
ヤマーダの発言は、明らかに調子に乗っている。
「ヤマーダの話し方、気持ち悪い」(ルル)
ハイそこ、失礼だよ
「保護者? では、お兄様ですか?」(キモ険者)
「そうとも言えまーす。ワターシのことはヤマーダお兄先生様とでも呼んでくださーい」
「違うの、ヤマたんはおバカなサ(チャ)ルなの」(テルメ)
身も蓋もないことをテルメが告げてしまう。
テルメちゃん、変なこと言わないで
「で、最近のこの洞窟の雰囲気はどうなんじゃ」
ターニャはヤマーダのくだらないやり取りをサラッと無視して、商人達に近況を聞いている。
「いやぁ、この洞窟も安全になりましたよ、特に《爆裂》もいますので」(商人M)
指差した先には、戦士姿の女性がいる。
《爆裂》とは、最近名前の売れてきた女性二人組の冒険者パーティーだ。
“鑑定”
名前・ナツミ
種族・ゴブリナファイター(魔物)
年齢・4歳女《人化》
職業・戦士(Lv-)
所属・爆裂:ヤマーダに隷属
ギルドP・S(28,841p)
………
名前・ミユキ
種族・ゴブリナファイター(魔物)
年齢・4歳女《人化》
職業・戦士(Lv-)
所属・爆裂:ヤマーダに隷属
ギルドP・S(81,143p)
………
そう、見て分かる?通り
以前オレが仲間にした野良ゴブ達だ。
(第20話)
オレの役に立ちたいって言うから
《嘆きの洞窟》の安全管理を任せてみた
交通ルールを守らない魔物は
逮捕しちゃうぞ
元ネタはサリえもんからいただきました
「ナッたん、ミッたん、ご苦労さ(た)ま」(テルメ)
「「テルメさん、ご苦労様です」」
ナツミとミユキが敬礼している。
あれ?
テルメの方が立場って上なの?
「お疲れ様。で、何でお前達よりテルメの方が偉そうなの?」(ヤマーダ)
「えっ? それはテルメさんが偉いからですよ?」(ミユキ)
「なんで? いつから?」(ヤマーダ)
「最初ッからに決まってんじゃないっすか。ヤマーダさんのこと、サル呼ばわり出来るんすよ。なんだったら、ヤマーダさんはアタシらの部下みたいなもんですよ、ナッハッハ」
豪快に笑うナツミちゃん。
へぇーー…いつの間に
テルメのヒエラルキーが高くなってんだ…
でも忘れるなよ!
路頭に迷っていた野良ゴブのオマエらを
助けたのは、オレ!
オレですから!!
----------
その後、テルメ達と《爆裂》が何度か魔物と戦闘を繰り返したが、全く危なげがない。
マジでスゲーよ!
テルメ達パーティー(PT)は、キタロウが壁役で魔物と対峙、モフリンが遊撃でコツコツ攻撃し、テルメが後ろから弓と魔法で仕留める。
とてもバランスの取れたPTだ。
《爆裂》の二人は、とにかく力押し。
ヤマーダが直接使役し《思考パス》共有で、魔法やスキルも多彩に使えるはず。
にも拘わらず、常に剣を使っての近距離で戦っている。
そんなアンバランスを力業で難なくこなしているのだ。
コイツらって思ってたよりもスゲーな
って、このままではいかん!
冒険者の心得が全く分かってないな!
「よし、後輩であるチミ達に、俺が手本を見せてやろう」
このままでは、オレの立場が…
コイツらの前でカッコいい所を見せないと
「ヤマーダさん、既に洞窟内の魔物の間引きは終わりましたよ」(ミユキ)
無情な事実が告げられる。
「えーーーーっ!、少しぐらいはいいでしょ?」(ヤマーダ)
オレに見せ場を!
「うーん、あまり魔物を倒しすぎると生態系が崩れるんですよねぇ……まぁ、あと1回ぐらいならいいですけど」(ミユキ)
「さっすがミユキ、話が分かる!」(ヤマーダ)
「ヤマーダがそう言うなら、しょうがないわね。付き合ってあげるわ」(ネーコ)
「アタイが連れてくるよ」(ルル)
ルルが脇道に入り、魔物を誘きだしてくる。
“魔物が現れた”
オーク 3体
ヘルハウンド 7体
ケルベロス 3体
「よっしゃー! 俺に任せろ!」(ヤマーダ)
そんなヤマーダを遮って、
「待ちなさいヤマーダ、まずアタシ達でしょ!」(ネーコ)
あっれーっ?
あーはいはい、バフですよね、バフ
《空気使い》の《聖気》が戦場に充満する。
PT編成
前衛
囮役 ルル
攻撃 ヤマーダ
「きたきた!」(ルル)
ルルが魔物の群れに突貫していく。
えーーっ!
「ルル! ちょっと速いって、俺がやるから!」
ヤマーダの声が洞窟に虚しく響き渡る。
ピュッ!
『殺…あ…れ…?…』(オークA~C)
ルルが《跳躍》から《薙ぎ払い》でオーク達の胴体を両断する。
そして直ぐ様、《短距離転位》してヘルハウンドの後ろに回り込む。
どうやったら、たかがこん棒で、
オークを両断できんだよ!
「ちょっと待って!」(ヤマーダ)
折角、オーク達の所まで来たのに、魔物は討伐済み。
ピュッ!
『気を付け…』(ヘルハウンドA)
ピュッ!
『速す…ぎ…』(ヘルハウンドB~F)
ピュッ!
『逃げ…』(ヘルハウンドG)
ルルは《空蝉》でヘルハウンド達の目を眩まし、容赦なく《薙ぎ払い》う。
おい!
ヘル達も殺られちゃったぞ!
「ルル、待てって!」(ヤマーダ)
今度はヘルハウンド達の所まで来たのに、当然、討伐済み。
『くっ、くそぉ!』(ケルベロスA)
《空蝉》から《跳躍》のコンボ、ケルベロス達はルルを捉えきれない。
バゴッ!
『《三連撃》をく…』(ケルベロスA)
懐に入って、右拳の《急所突き》。
直ぐに《短距離転位》、ルルの残像だけが残る。
バゴッ!
『噛み殺…』(ケルベロスB)
バゴッ!
『何処…に…』(ケルベロスC)
2体の間に入り込み、左右に《急所突き》。
ルルのこん棒には血がベットリついている。
この間、1分も掛かっていない。
…オレの出番は?
「あーすっきりした。ヤマーダ、帰ろうよ」(ルル)
「そうですね、魔物も十分減らしましたし」(ミユキ)
「…なぁ…もう一回ぐらい戦っても」(ヤマーダ)
「諦めろ、主」(ターニャ)
『旦那は頑張ったっすよ』(イズム)
「さぁ、もう気が済んだでしょ。帰るわよ、ヤマーダ。後で、アタシを撫でさせてあげるから」(ネーコ)
「…うん」(ヤマーダ)
ネーコは完全に心がへし折れたヤマーダの手を取り、《空間魔法》へと連れて帰っていった。
----------
8日後
午前
中央国エスタニア最北町ニーバ〈領主屋敷〉
ダミー(イズム)PTが無事町に到着し、本物のヤマーダ達と入れ替わる。
そして、依頼報告のために伯爵邸を訪れていた。
「えーと伯爵、コイツが噂のグリキンさんです。ポッポと名付けました」(ヤマーダ)
『はじめまして (キュケ)』(ポッポ)
可愛らしく一鳴き。
「ポッポは はじめまして と言ってます」
ヤマーダはポッポを通訳する。
「な、な、なるほど…」
伯爵は驚きすぎて、言葉が出ない。
「「……」」(ハルト、ヨセフ)
ニーバ駐留の隊長、副隊長の二人も声が出ない。
「あの~」
しびれを切らしたヤマーダが会話を促す。
「な、なんぞ、これがグリフォンキングか。我の思っていた姿と大分違うな」
伯爵の言葉通り、1m程度とコケティッシュな大きさだ。
「なかなか可愛いでしょ。後メス、グリフォンクイーンですよ、伯爵」(ヤマーダ)
『なんかわたしに失礼じゃないですかねぇ (キュケケ)』(ポッポ)
「ポッポは 可愛さにメロメロでしょ と言ってます」
『そんなこと言ってませんよ (キュケ)』
「ポッポは こんな可愛い私が人に危害を加えることなんてある訳がない と言っております」
『………』(ポッポ)
「一鳴きしか、しておらんがのう…」(伯爵)
伯爵達はリンにワシャワシャされているポッポの姿に、ホッとすると同時に、自分達がこんな姿の魔物を恐れていたのかと少し呆れてもいた。
「…でヤマーダ殿、この魔物はどうするんでしょうか?」
筋肉ダルマことハルトが聞いてきた。
「魔物じゃなくて、ポッポです!」
ルルの指摘口調が荒い。
「す、すまない…で、ポッポはこれからどうするんですか?」
「もちろん飼いますよ。大事なペットですから」(ヤマーダ)
「う、うむ、そうか? …まぁ、それがよかろう」(伯爵)
展開が急すぎて、ちょっと付いていけてない。
「せやったら、依頼は完了でかまへんか、伯爵はん」(サリア)
サリえも~ん!
ズバッと話を進めてくれるから、
ホント助かる
「そうじゃな、討伐してはいないが、まぁ、問題なかろう…依頼は完了じゃな。ハルト、報酬を」
伯爵に促されて、ハルトが重そうに報酬の袋を持ってきた。
袋はお金でパンパンになっている。
「では、報酬の30,000,000Gです。お確かめを」
30,000,000G?
…3億円!?
年末ジャンボ!?
大金持ちじゃん、億万長者だーーっ!
《鑑定》があるヤマーダ達には、一瞬で金額を確認できる。
にも拘わらず、サリアは金額を確かめる振りをしていた。
“鑑定”
30,000,002G
2G多いな、オマケかな?
「確認したら、2G余分やったんでお返しや」
「「「ほれみろ、ハハハハハッ」」」
サリアが余分に入っていたお金をハルトに返すと、伯爵達は一斉に笑い出した。
「ハハハハッ、我が思った通り、ヤマーダ達は正直者よのぅ。前々から気に入っておったし、よかろう。今後は伯爵家がお主の後ろ楯になってやろう!」(伯爵)
「ホンマか! ありがとさん、伯爵はん。せやけどやっぱ、ウチらを色眼鏡で見とったんか」(サリア)
伯爵達はわざと報酬を余分に渡し、ヤマーダ達が冒険者として信用できるかの試験をしていたのだ。
「うむ、試すようなまねをして、すまなかったな」
そりゃ、
勝手に試験されてたのは気に触るけど
後ろ楯になってくれんなら、プラスだよ
「気にしないでください、伯爵」
「ランドンの口添えもあったがのぅ、お主がなかなか依頼を片付けてくれなかったからじゃぞ、ハハハッ」
「いや、だって伯爵、《魔の森》に行くまで、盗賊が多すぎなんですよ」
「そうじゃったな。まぁ、そのお陰で我が領内の治安はとても良くなったな、ハハハッ」
「結局、良かったってことですよね? 伯爵」
「その通りじゃ、ハハハッ」
一息ついたところで
「で、伯爵。話しは変わりますが、国で俺、指名手配されてるんですが」
伯爵の顔色が変わる。
「我も調べてみたが、お主の指名手配を解除するのは難しいのぅ」
「ど、どうしてですか?」
「それはのぅ…」
伯爵の説明が始まる。
中央国エスタニア
頂点である国王
ウォルフ・エスタニア
第二位、国王の姪
ヒルダ・スタニア公爵
第三位、国王の遠縁に当たる
カール・ラトニア侯爵 町の領主←
アンネ・ラトニア侯爵 町の領主
第四位、魔物討伐などで名を売った
グスタフ・セルジュ伯爵 町の領主
フラウ・セルジュ伯爵 町の領主
他数名
つまり、ヤマーダを指名手配したアルトの領主カールは侯爵であり、グスタフ(クリボー)伯爵よりも位が高い。
また、国王の遠縁にも当たる。
そのため、伯爵位のグスタフにはどうしようもなかった。
「そう言う訳で、お主の指名手配を取り消すのは難しいのじゃ」(伯爵)
「それじゃあ、しょうがないですよ」(ヤマーダ)
「この町と首都では指名手配をされておらん。一層のこと、ここで冒険者を続けてはどうじゃ?」
「それは無理ですよ、伯爵。俺達は東国へ行く用事があるんで」
「なんだ…残念じゃのう。まぁ、吾とヤマーダの仲じゃ。困ったことがあったら、いつでも訪ねてくるのじゃぞ」
こうしてヤマーダは、伯爵と良い関係を構築することに成功したのだった。
----------
昼前
中央国エスタニア最北町ニーバ
〈ショッピングストーンストリート〉
ヤマーダ達は伯爵邸を離れ、元スラム街の《裏通りの光》PTが管理している商店街を訪れていた。
「アダル、元気にやってるか?」(ヤマーダ)
「ヤマーダの兄さんじゃないですか、どうしたんです?」(アダル)
「グリキン退治の完了報告のついでだよ」
「しょっちゅう《空間魔法》で会ってるじゃないですか」
数ヶ月の間、真面目に働いたアダル達《裏通りの光》。
そんな彼らの活動を評価して、今では《空間魔法》の使用が許可されている。
「そりゃそうなんだけど…それにしてもここ(スラム街)って、変わったよなぁ」
ヤマーダが初めて来たときの荒んだ感じは全く無くなっている。
道は歩きやすいように石が整然と並べられ、以前そこらじゅうに捨てられていた生ゴミは綺麗に片付けられ、道端には花壇まで整備されている。
そして、様々な商店がコの字に整備された道の両脇を埋め尽くす。
道を通り抜けるだけで、生活に必要な物は粗方商店で購入できる訳だ。
簡単に言うとスーパーマーケットの商品陳列のような商店配置と言える。
また、商店建物は外壁から根本的に作り直されており、スラム街の景観全部が劇的に改善されていた。
この国の中で、
町のここが一番住みやすそうだな
道が土じゃないって、
この国で初めてなんじゃないか
それに所謂石畳の舗装は、首都ノルンでも王宮の周辺にしか整備されていない。
それだけ、この異世界は道路舗装が未整備状態なのだ。
ただ、人の移動手段の主流が未だに馬車なため、蹄鉄の装着や馬糞処理も必要なことが未整備理由の一つではあるのだが…
そのため、元スラム街は《ショッピングストーンストリート》と呼ばれ、観光名所ともなっていた。
それに、
数ヶ月前には5,000人ぐらいだった
人口も、倍以上になってるみたいだし
北国との玄関口、最北の町ニーバ。
ニーバは交易の要衝として注目され大発展、そんな噂がエスタニア国内を飛び回っていた。
この人口の急激な増加は、ニーバ周辺にあった村や集落の住民がその噂を聞きつけ、大量移民となって集結した結果だった。
「キミらの活動は順調だって聞いてるけど、元から商売している人達に迷惑掛けないようにね」
ヤマーダ達が危惧しているのは、需要の独占。
ヤマーダ達の生産した商品 (ヤ印商品)は品質が極端に高い。
普通にヤ印商品を販売してしまうと需要を独占し、既存商品が売れなくなってしまう。
結果として、住民の生活を崩壊させかねない。
そのため、既存商品の品質をヤ印商品と同等まで向上させる。
それをヤマーダ達の当面目標として、ヤ印商品の技術を積極的に町の住民に提供していた。
そして、その技術流布活動を《裏通りの光》が担当している。
最近、スラム街だった町並みが劇的に改善されているので、成果は着実に上がっているのだろう。
「大丈夫ですよ、任せてください」
今では、アダルを筆頭に元偽者、元盗賊、元奴隷、数百名が町で活動している。
----------
昼食前
中央国エスタニア最北町ニーバ〈歓楽街〉
ヤマーダ、ネーコ(人化)、リン、サリア、
ルル、クロード(人化)、イズム、
ターニャ(人化)
《裏通りの光》の活動を確認したヤマーダ達は元スラム街を南に抜け、歓楽街を中央通りに向かって歩いている。
歩き続けていると、不思議なことに人気が段々と少なくなってきた。
「あれっ?」(ヤマーダ)
更に人気は少なくなっていく。
「変ね!」(ネーコ)
そして、人気がなくなった。
「…おかしい」(リン)
『絶対、変っす!』(イズム)
ここまで不自然だと、ヤマーダ達の誰もが異変に気づいていた。
すると、前方の通行を妨げるかのように、道の真ん中に男が立っていた。
男とヤマーダ達の周りには、最早、誰もいない。
「計画ってのは、なかなか上手くいかないもんだな」
男は独り言のように話し掛けてくる。
「主、コヤツは勇者の仲間の1人じゃぞ!」(ターニャ)
「…そう言えば!」(リン)
「えっ!?」(ヤマーダ)
「フッ」
ヤマーダの驚きと同時に、男がニヤッと笑う。
「皆、気を付けろ! コヤツ、何か得体が知れん!」
ターニャが忠告するのと同時ぐらいに、
「“…陽の光に束縛されし闇の王よ、我に力を”、封印!!」
男は何かを唱えている。
ヤマーダ達の周囲に、黒い霧が立ち込める。
いきなりなんなんだよ、コイツ!
何しやがったんだ!
とりあえず状況を把握しようと、
“鑑定”
すると、
“《鑑定》は使用できない”
“《封印の呪い》によって魔法、スキルは使えない”
ちょっ、ちょっと待てよ!
「死ね、《神人》の犬!」(男)
男は大刀を振り下ろす。
キーーーーンッ!
咄嗟に右手で振り上げた《鉄の剣+10》でなんとか打ち落とす。
「てめえ! いきなり何しやがんだ!」(ヤマーダ)
「ヤマーダ! 気をつけて!」(ネーコ)
「…この男、危険!」(リン)
「やったるで!」(サリア)
「コイツ! 強い!!」(ルル)
ヤマーダの叫びに呼応して、ネーコ、リン、サリア、ルルが同時に攻撃をしかける仕草。
男は攻撃のモーションに気付き、咄嗟に大きく後ろへ《跳躍》する。
「やはり、周りがうるさいか!」
男の右手から光を翳すと、
「《ランダム転移》!!」
男の言葉と同時にネーコ、リンとクロード、サリアとターニャ、ルルがそれぞれ光となって四方に飛び散っていった。
「クソッ! なんなんだ!?」(ヤマーダ)
魔法やスキルを試すも、
“《封印の呪い》によって魔法、スキルは使えない”
やはり、なんの反応もない。
ちっくしょう!
どうなってんだよっ!
ヤマーダが男から視線の下げると、男1m後方にイズムが見える。
イズム!
仕掛けるのか!?
「てめえ、一体何なんだよ!」(ヤマーダ)
ヤマーダは大声で叫び、男の注意を引く。
「俺はお前達クソ虫を殺す者だよ!」
男が喋っている不意をついて、イズムが攻撃。
ズビュッシュッ!
「ングァッー!!」(男)
イズムの尖った身体の一部が、男の左脹ら脛に突き刺さる。
「イズム、大丈夫か?」(ヤマーダ)
即座にイズムはヤマーダの足元に戻ってくる。
『“大丈夫っす、分裂体も大丈夫っすよ”(プクプク)』(イズム)
イズムとは、掠れた声なりに何とか会話になっていた。
《言語理解》スキルは封印されたが、《魔物使い》マスターでもあるヤマーダは何とか魔物と会話できていた。
が、イズムの魔法とスキルも封印されており、ピンチであることには変わらない。
マジでやべーぞ!
イズムのスキルも封印されてんのかよ!
「ウグッ! コイツら強ぇな!」
イズムの一撃をもらい、男の澄ました顔色が急変する。
「ここまでか、クッソ!」
右手からヤマーダ達へ光を翳す。
やっ、やべぇ!
咄嗟に身体を反転しようとするが、
「ぶっ飛べクソ虫が! 《ランダム転移》!!」(男)
男のスキルが先に発動する。
ヤマーダを庇うように、イズムが纏わり付くと、ヤマーダとイズムは光となって飛び散っていった。
第二部 完




