北の里
ヤマーダの冒険も一区切りです。
北国ゲンク《北の里》近辺
パーティー(PT)
ヤマーダ、ネーコ(人化)、リン、サリア、
ルル、クロード(人化)、ターニャ(人化)、
イズム(人化)、モフリン
周囲一帯300mが円状に焼け焦げており、木々の燃えカスだけがチラホラと残っていた。
な、なんだ?
メチャメチャ焦げ臭いぞ!
そして元は野原だったろう場所は、鼻をつく程の焦げた臭いが充満していた。
『臭~い!』(モフリン)
モフリンはあまりの焦臭さに、ヤマーダの胸に鼻を押し付けてくる。
生物の痕跡が全く感じられない焦土を少し歩くと、
「お、おい! 里って、もしかして…この焼け野原なのか!?」(ヤマーダ)
誰に向けるでもなく大きな声を上げた。
「ヤマーダ、ちょっと落ち着きなさいよ!」(ネーコ)
「あ…あぁ」(ヤマーダ)
ネーコの声で少しは冷静さを取り戻す。
「先ずは、調べへんか?」(サリア)
「…周辺調査は必須!」(リン)
ヤマーダ達は焼け野原の状況を確認し始める。
すると、
これっ!
この透明感!?
もしかして、ガラスなのか!?
キラキラと光ったガラスのようなものが地面にへばりついている。
これは、相当な高温で溶けた石が冷えたという証拠なのであろうか…
「…う~む…やはり、勇者達の仕業じゃろうな。それにしても徹底しておるのぅ」
ターニャの呟きが聞こえる。
「どないやリンちゃん、何かわかったんか?」(サリア)
リンは近くの燃えかすを手に取ると、
「…極大魔法を使ったようね」
極大魔法か…
いったい、どんな魔法なんだ?
極大魔法とは《知識》の高い術者が膨大な《魔力》を注ぎ込んだ魔法である。
と言っても、
あくまでも《火魔法》などの一般魔法を唱えただけであって、特別な魔法という話ではない。
「…でもサリアちゃん…これって、おかしい!…この付近に、魔物の死体が全くない!」(リン)
「確かにおかしいな」(サリア)
「変よね」(ネーコ)
言われてみると、草木は焼け焦げ、黒い野原になっているにもかかわらず、ちらほら動物らしき骨は落ちているが、焦げた魔物の形跡は見当たらない。
「ヤマーダよ、ここに来るまで勇者達以外は誰とも会わなかったよな?」(クロード)
「はい」(ヤマーダ)
「状況からして、彼達がやったとみて、間違いあるまい」(クロード)
ヤマーダ達がこの北の辺境に到着するまでの間、勇者達以外の誰とも接触しなかった。
交易すら殆んど行っていないのが北国の実情。
クロードの判断は、そういった状況判断に基づいたものであった。
「途轍もない温度の炎で焼け野原にしたんだろうな。当然、野原にあった《北の里》は消滅してしまったのだろう」
クロードの声も幾分か低い。
そんな中、
「…もしくは…最初から《北の里》など…存在しなかったか」
リンが意外なこと口にした。
ちょ、ちょっと待て!
「最初からここに《北の里》がないんだとしたら、勇者達はいったい何に向かって攻撃したって言うんだ?」(ヤマーダ)
リンの言葉でヤマーダを悩ます謎が増えてしまった。
「主、その答え、ネーコが知っているんじゃないかのぅ?」(ターニャ)
思案顔のヤマーダを見かねて、ターニャから意味深な発言が飛び出した。
どうやらターニャには、《北の里》が無事だと確信する何かがあるようだ。
よくよく考えてみると、ネーコの態度はずっと冷静だ。
長い旅路の末、やっと到着した《北の里》が実は消滅してしまったのかもしれない。
だが、動揺する素振りが全く見えない。
それどころか、余裕すら感じられるのだ。
「どう言うことなんだよ? ネーコ」(ヤマーダ)
目を細めてターニャに一瞥、
「ふーん、流石、エンシェントドラゴンってところね」(ネーコ)
「まぁのぅ」(ターニャ)
なんだ、二人して?
「それって、どういうことなんや?」
サリアも判断しかねている。
「それはね、彼らは里を攻撃したのよ、《サ・ト・の・か・た・ち》をね」(ネーコ)
里の形?
どう言うことだ?
「アタシ達、アヤカシギツネの名前の由来って、化けたり、騙したりすることに特化したキツネという意味が語源のは分かるわよね」(ネーコ)
「なんとなく…」(ヤマーダ)
そ、そうだったのか!
「それって何も、アタシ達自身が化けたり騙したりするってことだけじゃないわ」(ネーコ)
「それって、直接やのぅて間接って事なんか?」
察しの良いサリアは概ね理解できているようだ。
間接?
「正解(せいか~い)! つまり、物や家、森や景色なんかも騙せるのよ」(ネーコ)
なんかそんな話、
日本の昔ばなしに出てきたような…
化けギツネが
何もない所に宿屋を造っちゃうみたいな?
「なるほどのぅ、つまり勇者達に、ここが《北の里》だと信じ込ませる何かがあって、そこを攻撃させた、と言いたい訳じゃな」(ターニャ)
「う~ん…半分、当たりね!」(ネーコ)
半分?
「…やっぱり」(リン)
「そういうことか」(クロード)
「どういうこと?」(ヤマーダ)
一人納得のいっていないヤマーダ。
「結局、この焼け野原は里とは違うってことなのか?」(ヤマーダ)
「違わないわ」(ネーコ)
「ん?」(ヤマーダ)
「半分、当たりって言ったでしょう。正確に言うと、ここは《北の里》のごく一部、ってところかしらね」(ネーコ)
「ごく一部?」(ヤマーダ)
「そうよ、里の大部分はアタシ達と同じように、焦土を出入口とした《空間魔法》の中に作られた《異空間》にあるのよ!」(ネーコ)
「…そうだと思った」(リン)
「なるほど! 俺達の《空間魔法》みたいなもんか」(ヤマーダ)
「せやな」(サリア)
「考えてみると、《異空間》が一番安全だもんなぁ……んっ?」(ヤマーダ)
ネーコとの会話である疑問が浮かぶ。
「安全な《異空間》で生活しているだろう?」(ヤマーダ)
「そうよ」(ネーコ)
「ならなんで態々(わざわざ)、表世界に出てくるんだ? 表世界の生活なんて危険だし、いらないんじゃないか?」(ヤマーダ)
それはそうだ。
《異空間》の中は条件設定も出来るし、外敵の存在もない。
だが、一歩でも外に出れば、
例えば勇者のような存在が居てとても危険だ。
「そういう訳にはいかないのよね。何故なら、所詮は《空間魔法》ってことだからよ」(ネーコ)
ど、どういうことだ?
「確かにそうじゃのぅ」
どうやらターニャには合点がいった。
「えっ? ターニャは今の説明で分かっちゃったのか?」(ヤマーダ)
ターニャは優しい表情で、
「なぁ、主。《空間魔法》の術者が死んだら、その《異空間》はどうなると思う?」
諭すように問いかけた。
「そりゃ、無くなっちゃうんじゃないの」(ヤマーダ)
「ちょっと違うんじゃな。《異空間》への入り口が消滅してしまうじゃ」(ターニャ)
「えっ! ちょ、ちょっと待って! それじゃあ、中にいる生物も消滅しちゃうんじゃ?」(ヤマーダ)
「最終的には、そうなるわね」(ネーコ)
「だから、表世界側に念のための生活空間を作るってことか?」(ヤマーダ)
「えぇ、そんなところよ」(ネーコ)
「じゃあ、表世界側にあった建物なんかの施設って偽物って事なのか?」(ヤマーダ)
「うーん、確かにそうとも言えるわ。まぁここにあった施設って、アタシのように儀式を受ける者の為、里はここにありますよ、って判りやすくするためだったりするから」(ネーコ)
そもそも成人の儀式のために、ネーコはこの里を訪ねて来たのだ。
あっ、そう言えば、
《北の里》へ行く目的って
ネーコの成人の儀式の一環だったよな
すっかり忘れていたヤマーダ。
『でも、表世界にあった施設はなくなってしまったんでしょう? なら、アタシ達はこれからどうすればいいのよ?』(モフリン)
「ネーコの姐さん、アッシらはこれからどうすればいいんすかねぇ?」(イズム)
モフリンとイズムがネーコに質問する。
折角ここまで来たっていうのに、
目的がなくなっちゃうのか?
「まず、ここにアタシ達の拠点を作って、里の者が出てくるのを待つしかないわ」(ネーコ)
「うむ」(クロード)
「えーっ!?」(ヤマーダ)
面倒臭い!
「しっかし、こないごっつい攻撃されてもうて、おキツネはんも、しれっと出て来てくれんのんかいな?」(サリア)
「先ず、無理でしょうね、里の者達も相当警戒して筈ね。そう簡単には外に出て来ないでしょう」(ネーコ)
「えーっ!?」(ヤマーダ)
「長丁場になると思うから、覚悟してちょうだい」(ネーコ)
「長丁場ーっ!」(ヤマーダ)
こんな焼け野原に足止めされんのかよ!
ヤマーダは「長丁場」という言葉に引っ掛かった。
「のぅ主。上位の魔物と言うのは、とても賢くて用心深いモノじゃ。勇者達の攻撃も尋常ではなかったし、おいそれと《異空間》から出て来れんじゃろうて」(ターニャ)
「ターニャの言う通りよ。少なくとも数ヶ月は表世界に出て来ないと思うわ」(ネーコ)
「数ヶ月!?」(ヤマーダ)
マジかよ!?
「まぁ、そうじゃろうなぁ」(ターニャ)
「幸いアタシ達には《空間魔法》での自給自足ができるし、ここでゆっくり待つしかないわ」(ネーコ)
言いたいことを伝えると《人化》を解いて、ヤマーダの首もとへと抱きついた。
ヤマーダはネーコとモフリンの二人を撫でつつ、脳内会議を開催する。
オレ達は《北の里》へ到着した
どうやらオーウェン達に先を越されて
《北の里》の施設は壊滅状態
でも、
実はオーウェン達が化かされただけで
《北の里》の大部分は無傷らしい
ただし、
《北の里》の者は警戒して
《異空間》から出て来ない
うーん…
となると、
イズムにここで見張ってもらって、
里の者が出て来るのを
しぶとく待つしかないのか…
運良く里の者が出て来たら、
《空間魔法》から移動すれば
なんとかなるんじゃないか?
「なぁ、ネーコ」(ヤマーダ)
『何?』(ネーコ)
「イズムにここで見張ってもらえば、俺達はフィルドンに戻ってもいいんじゃないか?」(ヤマーダ)
『アタシも一度考えてみたけど、難しいと思うわ』(ネーコ)
「何でさ?」(ヤマーダ)
『アタシ達が《空間魔法》を使って、色んな場所へ瞬時に移動できるじゃない』
「そうだなぁ」
『でも、そのことって誰も知らないわよねぇ?』(ネーコ)
「せやな」(サリア)
『アタシ達が普通の冒険者って嘘の看板を続けるんなら、勇者達に会って、《北の里》の焼け野原を確認して、街へ戻るって話になるのよねぇ?』
「う~ん…そうなるのかなぁ」(ヤマーダ)
『アタシ達って、テクテク歩いてんだから、大体30~40日は掛かる筈よねぇ?』(ネーコ)
「あーっ!」(ヤマーダ)
「…そういうこと」(リン)
『ここは辻褄を合わせる為にも、街へ戻る日取りをある程度空ける必要があるわよね』(ネーコ)
「さっすがネーコはん! せやけど、これはウチらだけやのぅて、チャイルドらとも連携せんといかんのと違うか?」(サリア)
『それもそうね。会議棟へ皆を召集しないと』(ネーコ)
ネーコとサリアには、今後の道筋がある程度見えているようだ。
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夕食後
《空間魔法》円卓会議棟
ヤマーダがモフリンをモフっている以外は、いつもの席に皆が座っている。
先ず、
「これからのアタシ達の方針を決める会議を始めるわ」
ネーコ(人化)の開会第一声。
「状況を説明すると…」
サリアが皆に向かって、現状を話し出した。
このような作戦会議では、議長ネーコに進行役サリアと二人の役割が明確になっている。
「…って訳なんや」(サリア)
「なるほど。では師匠、《北の里》での動きをイズムくんに見張らせて、フィルドンへ戻られてはいかがでしょうか?」(メリル)
メリルもヤマーダと同じ意見。
「それもそうねぇ」(ネーコ)
「まぁ、大筋はそれでええと思うんよ。ただ、山頂で勇者達に会うてしもうたやん」(サリア)
「…そうですわね」(メリル)
「《北の里》まで行って状況を確認、そんで街まで戻るっちゅう工程に矛盾がないようにせんといかんのや」(サリア)
「それは、自由に瞬間移動できる《空間魔法》を秘密にするため…でしょうか?」(メリル)
「そうよ!」(ネーコ)
「それになぁ、今一、勇者達の目的がよー分からんねん」(サリア)
実は勇者の活動が曖昧なのだ。
普通、勇者と言えば、
慈善事業や悪の成敗などが相場なんだろう。
だが、オーウェン達の活動は全く違う。
平和に暮らしているアヤカシギツネの里を何の躊躇もなく襲う。
待ち構えたかのような山頂での偵察行為。
その他、《竜の洞窟》での妨害工作にも、無関係とは言い難い状況だ。
不確定要素の多い今の状況では、一般的に知られていない《空間魔法》の存在を公にはとても出来ない。
「だから、アタシ達の手の内を周囲に知られたくないのよね」(ネーコ)
「なるほど」(メリル)
「何せ、勇者達はウチの《真贋の目》を使わんでも分かるくらい、平気で嘘つきよるんやで」(サリア)
この世界には《真贋の目》という嘘を見抜くスキルがあるため、嘘をつく者はほとんどいない。
そして、この世界において、
嘘をつく行為は重罪の一つで、刑罰も死刑か無期懲役の二つのみ。
つまり、
この世界で嘘をつくとは、メリットよりもデメリットの方が大きく、命がけの行為なのだ。
そんな中、勇者と自称する存在が何食わぬ顔で嘘をついたのだ。
勇者が嘘をつくなど思いもしない。
となると、
嘘をつかされる事情があるのか、刑罰を物ともしない程の権利か能力があるのか。
どちらにしても、勇者達がこの世界で異質な行動をしている事は間違いなかった。
「…わたしもサリアちゃんの意見に賛成よ。…《北の里》捜索に2週間として、フィルドンの街へは30~40日ぐらい掛けて戻らないと…誤解を生むと思う」(リン)
「リンの意見はもっともだな」
クロードがリンの提案を推す。
「俺もそう思う」(バード)
どうやら、
仲間達の意見は、一般的な冒険者を装うと言うサリアの意見が大半を占めた。
「ねぇイズム、勇者達の動きに変化はないの?」(ネーコ)
「う~ん、そうっすねぇ。いわゆる勇者活動ってヤツをしているみたいっすね」(イズム)
勇者はイズムの分裂体で監視中だ。
因みに、ここで言う勇者活動とは、慈善事業や悪の成敗を指している。
「イズム君、あんまり無理しないでね」(セシル)
「そうそう」(キャロル)
二人はイズム信者、とっても心配性だ。
小さい腕を組むと、
「出来れば…もう少し調査の手を広げたいわね。でもそれには、人手が全然足りないわ。…信用できるメンバーをもっと増やしたいところね」(ネーコ)
幼女の眉間にちょっとだけシワが寄る。
ネーコからのメンバー増員案。
「では、私達が出会った《森の狩人》や《蒼天》パーティーなんかはいかがでしょう?」(メリル)
「それ、えぇやん!」(サリア)
「…なるほどね。メリル、それいいアイデアかも。…ただねぇ、彼らがチャイルドパーティー(CPT)って境遇に納得するの?」(ネーコ)
「その点は大丈夫です、師匠。特に《森の狩人》のセリアさんは相当、私達を羨ましがっていましたから」(メリル)
へぇー、そんな話、初耳なんだけど
「実は、私達のパーティーランク、すでにSランクにまでなってるんですよね」
「そ、そうなの!?」(ヤマーダ)
「何だよ! 知らねぇのかよ!」(バード)
あまり知られてなくて、ちょっとキレ気味。
「ヤマーダさん達のパーティーは別格として、こんなに早くSランクに到達したのは、勇者率いる《自由の翼》か、私達《疾風の剣》くらいなんですよ、知ってました?」(メリル)
はい、知りませんでした
…メリル達って、
結構、頑張ってんだな
「それにCPTになれば、下位とは言え《空間魔法》や《収納》などのレア魔法やレアスキルも使えるようになりますわ」(メリル)
ふ~ん、レアねぇ…
《森の狩人》達にも
メリットはあるって事なのか…
「セリアさん達がこの提案を聞いたら、よろこんで加入してくる筈ですわ」(メリル)
「へぇ~」(ヤマーダ)
結構、メリルって他人のことを
しっかり観察しているんだな
長い説明を終えたメリルに、ヤマーダはそっと《聖水》入りのコップを渡す。
「せやったら、《森の狩人》の確保は決まりやな」(サリア)
「「「はい」」」(ヤマーダ以外の全員)
《森の狩人》を加入にする意見に反対者は出なかった。
話題は変わり、
「でさぁ、マーシャにはどう報告すんの? 《北の里》は見つからなかったって伝えんのか?」
ヤマーダは《北の里》への旅路の結果を、マーシャにどう説明すればいいのか、気を揉んでいた。
マーシャとは北国ゲンクの首都フィルドンの代表者のことで、ネーコ達救世主のファン第一号だ。
帰り道で必ず寄る事になるので、ヤマーダとしては予め完璧な言訳を用意しておきたいのだった。
「まぁ、そうね」(ネーコ)
「…それでいいと思う」
リンも簡潔に答える。
マーシャには北の里の存在を隠す方向で…
「フィルドンの後って、俺らはどうすんの? 《嘆きの洞窟》から首都へ戻んのか?」(ヤマーダ)
ある程度は、
作り話にも信憑性を持たせないと
適当にしちゃうと、
《真贋の目》で直ぐバレちゃうし…
先のスケジュールについてもサリア達と確認しておきたい。
嘘は簡単にバレてしまう。
事実を繋げて嘘を隠す必要があるのだ。
「でもねぇ、先に《北の里》へ訪問をしないと、西や東の里へは行けないわよ」(ネーコ)
「えっ? どうして?」(ヤマーダ)
「順番だもの」(ネーコ)
「だものって! もしかして、里を訪問する順序って決まってんのか?」(ヤマーダ)
「当ったり前じゃない」(ネーコ)
当たり前ではありませんから!
ネーコによると、里への訪問には明確な順番があるようだった。
とりあえず、まとめると
①ある程度、期間を空けてからフィルドンへ戻る。
②北の里は消滅したと説明する。
③その後はノルンへ戻る。
④ただし、北の里を訪れないと次の里へ行けないので、北の里の動きを常時監視する。
となる。
「せやったら、ウチらの活動は首都でやったほうが目立たへんのとちゃう?」(サリア)
「…わたしもそう思う」(リン)
二人が推すのは、首都を拠点にするプラン。
ここでダラダラ過ごすよりは、理に適っているように思える。
「私達はどのようにしましょうか? 首都で合流します?」(メリル)
現在、対外的には首都に滞在中の《疾風の剣》。
師匠と弟子、表世界でも一緒がいいようだ。
「いいえ、合流しないつもりよ」(ネーコ)
「えーーっ!」(メリル)
「メリル達《疾風の剣》は、東国をメインに活動して欲しいのよね」(ネーコ)
「…はぁ」
メリルのテンションが駄々下がる。
「《北の里》の次は、《東の里》へ行くつもり。順番なのよね。それに東国には勇者もいるみたいだし。だから、先に行って勇者達や《東の里》の情報を集めてもらいたいのよ」(ネーコ)
ネーコのプランは、北の次は東で決まりのようだ。
「分かりましたわ」(メリル)
ヤマーダ達と《疾風の剣》の活動方針が決まったところで、エルとブラウニー達が新作の紅茶を持ってきた。
「会議でお疲れでしょう。こちらをお飲みください」(エル)
エルと給仕達がネーコを最初に、円卓へ次々と運んでいく。
そして、何故か最後がヤマーダ。
ネーコはヤマーダの膝にちょこんと座っている。
当然、ネーコに一番近いのヤマーダだ。
しかし、給仕は最後に…
こういうのってさぁ!
普通は、
雑用兼リーダーのオレが最初じゃないの?
そんなミジンコのように小さな器を他所に、
「何、この飲み物! 凄ー旨ー!」(バード)
相変わらずバードの手は速い。
おいテメー!
何、最初に飲んでやがる!
オレ様が先なんですけどー!
エルはなんとなくヤマーダの機嫌が悪くなった事に気づき、話題を変えるべく、給仕を早々に終え、
「ネーコ様、タツヤ様からご報告があるそうです」
すると、
「あっ、そうだそうだ! 忘れてた! エル様、ありがとうございます」(タツヤ)
な、何?
タツヤは《竜の守人》パーティーのリーダーで一応この会議に最初から参加していたが、今迄、一言も発していなかった。
「何の報告なの?」(ネーコ)
相変わらず椅子に座っているヤマーダに座っているネーコは、ヤマーダに頭を撫でろと首で合図をしながら、偉そうに返事する。
「あーはいはい」
言われるがままにネーコの頭をナデナデするヤマーダ。
実のところ、ヤマーダのモフモフ要員はモフリンで十分に足りていた。
しかし、そんなヤマーダの気持ちとは関係なく、ネーコはナデナデを要求してくる。
「オレ達《竜の守人》を手助けしてくれるメンバーが大分増えたんでな。《竜の洞窟》にいる別の群れ、オークロードのリーダーを新たに仲間したいんだ」(タツヤ)
すればいいじゃん
「《竜の守人》では手助けするメンバーが結構多くてな、オレらだけで管理するのもそろそろ限界なんだよ。だからさ、そいつらもオレらと同じようにCPTにしてもらえないか?」(タツヤ)
建設的なタツヤの話に、ヤマーダは否定的な眼差しを向ける。
「大丈夫なのかよ、そいつら?」(ヤマーダ)
口からは拒否反応。
「大丈夫だ!」(タツヤ)
強めに言いきる。
「本当か~? タツヤ達だって、俺達の仲間になるまで、敵対的だったじゃんか。初対面の時なんて、殺す気満々だったぞ」(ヤマーダ)
冒険者と魔物の関係はそんなものだろうが…
「あそこに棲んでるオークロードなんだろ~、本当に信用できる魔物なのか?」(ヤマーダ)
「本当に大丈夫だ」(タツヤ)
本当の本当か?
ちょっとした押し問答に、
「なぁ主、魔物とは本来、自分のテリトリーに入ってこなければ、無闇矢鱈に攻撃してこないもんじゃよ」(ターニャ)
「そうだぞ、お頭」(タツヤ)
「まぁ、とは言ってもゴブリンやオークは元々が好戦的な種族ではあるがな」(ターニャ)
なにそれ?
結局、好戦的なんじゃんか!
「《竜の洞窟》で生活しておる魔物なら、竜神を崇めとるのじゃろうて。エルがおれば何の問題無いじゃろう」(ターニャ)
「姫様のおっしゃる通りです」(エル)
「確かに余所者の俺らには敵対してきたけど、ターニャの姿を見てからは信用してくれたよな。…それに、どうやらクソ勇者が俺達と敵対するように仕向けてたっぽいし」(ヤマーダ)
ターニャの説明は、意外にもヤマーダが納得しやすかった。
実際に体験したのが大きいのだろう。
「タツヤ、因みにチャイルド希望者って何人いるんだ?」(ヤマーダ)
「オークロードが1体、ゴブリンロードが3体の計4体だ」(タツヤ)
「ふ~ん、4人か、結構いるな。《森の狩人》の加入もあるし、《空間魔法》もフィフスやシックスなんかが必要になってくるかもなぁ」
チラッと視線を移し、
「リンとクロードさん、また建物とか家具とか作ってもらえるのか?」
「…大丈夫」(リン)
「任せておけ」(クロード)
二人もあっさり OK 。
《空間魔法》内の建物や家具の製作は、リンとクロードが担当している。
皆が構わないんだったらいいけど…
「反対の人っているか?」(ヤマーダ)
「…」
皆、無言の解答。
「タツヤ、どうやら大丈夫そうだ。後で、そいつら連れてきてくれるか?」(ヤマーダ)
「あぁ、ありがとよ、お頭。会議が終わったら、直ぐに連れていくよ。よろしく頼む」
こうして、会議で確認したい事柄は一通り決まった。
「確認事項はこれで終わりね、各自解散」(ネーコ)
ネーコが終了の合図を出すと、各自楚々草と解散していく。
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30分後
《空間魔法》マイホーム〈リビング〉
タツヤが先程話したオークロードとゴブリンロード達をリビングに連れてきた。
ヤマーダがペコッとお辞儀すると、オークロード達はヤマーダへ向かいピシッと敬礼。
なんか…真面目…
「おいおい、畏まって敬礼なんてすんなよ。俺、そんな偉い人じゃないからさぁ、そんな事されると逆に気持ちが悪いんだけど」(ヤマーダ)
ヤマーダはネーコとモフリンを撫でながら気さくに話す。
「何を言うんだ、ヤマーダ。今や我ら《竜の洞窟》の魔物にとって、お頭は竜神様に匹敵する存在だぞ!」(タツヤ)
えっ!そうなの!
何で、どうして、理由は?
何時、何分、何秒の
地球が何回まわった日から…
…でもタツヤ
たまに、オレを呼び捨てにするよな
本当にオレを尊敬しているか?
「何で俺が、そんな存在になってんの?」
ヤマーダには心当たりがない。
「主よ、それはエルを従えたからじゃろう」(ターニャ)
「ヤマーダ様、姫様のおっしゃる通りと存じます」(エル)
従えたっていうより、
ターニャがいたからじゃないの?
「…なるほどね」(ヤマーダ)
まぁ、そりゃそうか
竜神様の代理を従えたんだよな…
今のオレって竜神様の代理の代理
それとも代理のエルより上だから
竜神様の大代理…かな
考えてみると、ターニャとエルって
凄い存在なんだよなぁ
…多分
「お頭、まずコイツらに名前を付けてやってくれ」(タツヤ)
『『『『ヤマーダ、お願いします』』』』
はぁ~?
お前らも呼び捨てなの?
「…うん、何か名乗りたい名前とかはあるのか?」
ヤマーダが質問すると、
『わたし、ヤマーダは嫌です』(雌のオークロード)
何だと!
この尼!
オレっちに喧嘩売っとんのか!
人様の名前にケチつけるとは!
「どうしてだよ、俺のこと、嫌いなのか?」(ヤマーダ)
『ヤマーダを嫌いなどと、滅相もない』(雌ロード)
呼び捨てで、謙遜するって…
『…ただ、わたしはメスですので、メスらしい美しい名前を戴きたいのです』(雌ロード)
呼び捨てされて、敬われるというよく分からない会話に苦笑いしつつ、名前を考え始める。
「因みに、ゴブロードのみんなはメスなの?」(ヤマーダ)
『おいヤマーダ! 見て分からないのですか? おれ達兄弟がメスに見えるのですか?』
向かって左のゴブリンロードが答える。
どうやらゴブ達はオスのようだった。
魔物の雌雄なんぞ知るかよ!
えーと、
オス3体を従えるメス1体か…よし
「これはどうだ、オークロードの彼女がユリア、ゴブリンロードは左からラオウ、トキ、ケンシロウなんだが」(ヤマーダ)
『おお! よい名前を戴きありがとうございます、ヤマーダ』(ユリア)
「“…やっぱり、呼び捨てなのね”」
ヤマーダは小さく独り言を呟く。
“ユリアが仲間に加わった”
“ユリアは名付きの魔物になった”
“ユリアは進化する魔物に変化した”
“ヤマーダはユリアを従えた”
“ヤマーダとユリアに思考パスが繋がった”
“ラオウが仲間に加わった”
“ラオウは名付きの魔物になった”
“ラオウは進化する魔物に変化した”
“ヤマーダはラオウを従えた”
“ヤマーダとラオウに思考パスが繋がった”
“トキが仲間に加わった”
“トキは名付きの魔物になった”
“トキは進化する魔物に変化した”
“ヤマーダはトキを従えた”
“ヤマーダとトキに思考パスが繋がった”
“ケンシロウが仲間に加わった”
“ケンシロウは名付きの魔物になった”
“ケンシロウは進化する魔物に変化した”
“ヤマーダはケンシロウを従えた”
“ヤマーダとケンシロウに思考パスが繋がった”
“ケンシロウは《一子相伝》スキルを覚えた”
“ケンシロウは愛を知らないため《一子相伝》が使用できない”
はい、いつものヤツ、いつもの…
って、ケンシロウ
何だか凄いスキルを覚えたけど
使えないって…
近くのソファーに座っていたサリアが訝しげに、
「ヤマーダはん、《竜の守人》の時にも感じたんやけど、名前の元ネタって何なん?」
「えっ? 親父のマンガだけど。《竜の守人》は野球のピッチャーが主人公のヤツで、今回は星座の話に暴力で立ち向かう?だったかな。北斗七星がどうとかアベシとか…なかなか、面白いマンガだったよ」(ヤマーダ)
そんなヤマーダの説明に何となく事情を察し、
「ヤマーダはんのマンガ知識がやけに古い理由がよう分かったわ。…さやと、次は7つのボールを集めるヤツかもしれへんな」(サリア)
サリアがその年代のマンガを話すと、
「なにそれ? 親父のマンガには無かったなぁ」
ある意味、その年代の代表作なのに、残念ながらヤマーダは知らなかった。
話題は変わり、
『ヤマーダ、わたし達にもパーティー名をつけていただけませんか?』(ユリア)
普通に呼び捨てだよね…
ユリアのお願いに、
「なぁ、サリア。良いパーティー名ってなんかあるかな?」(ヤマーダ)
「名前がアレなんやし、《星の継承者》なんてえぇんとちゃう?」(サリア)
『おーっ! 良い名前だ、気に入った!』
我が道を行くラオウがサリアの提案を一発で気に入り、拳を天に突きだし硬直。
『兄さんが気に入ったのなら、おれとケンシロウはかまわない』
トキが同意するとケンシロウが、
『ユリアは嫌じゃないか?』
『良い名前だわ、ケンシロウ』
2人はパーティー名に納得して、周りそっちのけで見つめ合う。
「アカン、このままやと兄弟で争う展開になってまうで」(サリア)
「…ならないだろ。おれの従者なんだから」(ヤマーダ)
「ヤマーダはん、ノリやないか。わからんお人やなぁ」(サリア)
“ユリア、ラオウ、トキ、ケンシロウによって《星の継承者》が結成された”
“《星の継承者》をチャイルドパーティーに加えました”
“チャイルドパーティーの魔法とスキルが共有されました”
“チャイルドパーティーに魔法とスキルの一部が共有されました”
“パーティースキル《空船》が解放されました”
“チャイルドパーティーに簡易版《空船》が解放されました”
チャイルドパーティーが増えると
パーティースキルが増える
これも、前回と同じだ
《空船》ト◯オ?
何処かに漕いでいくのかな?
まぁ、空が違うけどね
無事チャイルドパーティーを追加したヤマーダ達。
今後は、《竜の守人》のミナミが《星の継承者》達を指導することになった。
当面は、
タツヤ達とユリア達は同じ《空間》
(フォースホーム)で生活するようだ
「でさぁ、タツヤ。牧場や農場の手が足りないのなら、もっと人手を増やすのか?」(ヤマーダ)
思わず撫でることを忘れて、タツヤに質問するヤマーダに、
「手は止めないの!」
ネーコが文句。
早速、ナデナデを再開。
「わるい、わるい。それでどうなんだ?」(ヤマーダ)
タツヤに聞き直す。
「う~ん…欲しいといえば、欲しいんだが…あまり人数を増やすつもりはないな」(タツヤ)
「えっ、何で?」(ヤマーダ)
人手って言うか、
魔物手は多い方がいいんじゃない?
「主、人にしろ魔物にしろ自分の領域ってもんがあるんじゃ。主の世界はどうだったか知らんが、ここガイアにおいては皆、自分の領域を守るだけで必死なんじゃ…」(ターニャ)
ヤマーダは長くなりそうな気配に、ターニャの喉が渇かないように《聖水》を用意する。
「主の農場や牧場での仕事はのぅ、タツヤ達にとっては大事な領域なんじゃよ」
「え~、そうなのか~?」(ヤマーダ)
「その通り!」(タツヤ)
「魔物を増やして領域が奪われないように、タツヤなりに考えておるのじゃよ」(ターニャ)
《聖水》を飲むターニャに、
「でも、分業とかすれば、もっと自由な時間が出来るんじゃないのか?」(ヤマーダ)
「主よ、時間を余らせて何をするんじゃ?」(ターニャ)
「趣味とか持てばいいんじゃないか…」(ヤマーダ)
「ヤマーダってバカよね、趣味ってなに? 必死に生きるって事以外に何があんのよ」(ネーコ)
「う~ん、旅行とか釣りとか山登り? 周りの大人にはそう教わったような…」(ヤマーダ)
「旅行、釣り、山登りって普通に生きるって事じゃない」(ネーコ)
「いや、そうじゃなくてさぁ…直接生きる為には要らないもんなんだけど、何て言うか…体を動かしたり、楽んだり、何か発見したりって事だよ」(ヤマーダ)
「はぁ? ヤマーダ、その趣味って言葉の意味が全く分からないわね」(ネーコ)
魔物の彼らに、趣味の概念を理解させるのは難しい。
「そうかなぁ? ほら、生きてるとさぁ、疲れが溜まるじゃん…ストレスってヤツ。その疲れを取る為に、趣味を作るんだよ」(ヤマーダ)
本来、ストレスとは、どんな状況下でも発生するものだ。
例えば、大型の草食動物の大半は立って眠る。
それは肉食動物に襲われた際、逃走することが最優先、起き上がる為のほんの少しの時間すら惜しいのだ。
そして、肉食動物から必死に逃走する。
こんな事、初めは相当なストレスになった筈だ。
当然、立って眠れない大型の草食動物も居たのだろう。
だが結局は、肉食動物に食われて絶滅してしまった。
今、そのような草食動物が残っていないのは、淘汰されてしまった証なのだろう。
つまり、
立って眠る草食動物とは、肉食動物に襲われるストレスを克服した結果なのだ。
しかし、人間社会におけるストレスの大半は、地上にへばりついている人間同士の醜い縄張り争いでしかない。
魔物でも、例えば共喰いする、なんてことがない訳ではないが、人間ほど同族同士で争うことは先ずあり得ない。
だからこそ、魔物にはストレスのような概念が存在しないのだ。
「あのさぁ、何言ってんのよ。もしかして、ヤマーダの言う旅行って、旅ってことなの?」(ネーコ)
「そりゃそうだよ」(ヤマーダ)
「何の為に、何処に行くのよ?」(ネーコ)
「いや、だから楽しむため?」(ヤマーダ)
「…ヤマーダ、あなたはこのガイアって世界を…全く理解してない」(リン)
「せやな」(サリア)
「…あなたは〈旅〉って気楽に言ってるけど…〈旅〉は、とても危険で命を懸ける行為なのよ」
「せや」
「だからこそ…命懸けで行商する商会は…人々からとても尊敬されているの」
「せやせや」
そりゃ、そうなんだろうけど…
「そもそも、この世界で自分の好き勝手に生きられる者なんて然う然ういないと思うわ。そんな事ができる存在なんて、一握りの限られた強者のみでしょ」(ネーコ)
そんなの分かってるよ
「だから、そんな強者ではないタツヤ達にとって、自分の仕事を持てるってことは、とっても幸せなことなのよ」(ネーコ)
「えっ? タツヤ達って強者じゃないのか?」(ヤマーダ)
そもそも、ヤマーダの強者の定義は曖昧。
「当ったり前でしょ。強者っていうのは、エルやターニャのような途轍もない力を持った古竜のような特別な存在のみよ」(ネーコ)
喉が渇いたであろうネーコにそっと《聖水》を渡すと、
ゴクッゴクッゴクッ
勢い良く飲み干した。
「主、この世界において、自分の好き勝手に、自由に生きる事が許される者なんて極少数の話じゃよ。大半の者達は、ただただ、その日その日を必死に生きておるだけじゃ」(ターニャ)
「…この世界には、地球のような人間上位の価値観なんて存在しないわ。…すぐ側には、当たり前のように死が存在してる…異世界はそんな世界なの。…わたしだって、冒険者って仕事を生きる為に選んでる。…でも、決して好きで選んだわけじゃないわ」(リン)
ヤマーダを諭すように話す。
「そうかもしれんな。楽しい事、好きな事だけをして生きる。そんな事は、さして重要ではない。そもそも、ヤマーダはネーコの旅が楽しく、好きで同行したのか? そうではあるまい。好き嫌いに関係なく、自分の意思でネーコに同行すると決めたのだろう?」(クロード)
そりゃそうだな
好き嫌いで言ったら、
ネーコの旅が好きって訳じゃないし
「…確かに皆の言う通りだな。偉そうに仕事や趣味がどうこうなんて、俺らしくないな。皆、教えてくれてありがとう。これからもよろしくお願いしまーす!」(ヤマーダ)
常識という地球の鎖が一つ、ヤマーダの認識から外れる。
だが、まだまだヤマーダの認識には多くの鎖が巻き付いている。
「で、結局のところ、タツヤはユリア達に何をさせるつもりなんだ?」(ヤマーダ)
「狩場と漁場の管理を頼むつもりだ」(タツヤ)
「狩場と漁場? そんなもんなんてあったっけ?」
「最近、《異空間》の一部に池を造ったんだ」
「いつのまに」(ヤマーダ)
食用にでもするのかな?
「牧場ってことは家畜でも、飼育すんのか? それに、漁場ってことは養殖?」(ヤマーダ)
「ん? お頭、何を言っている?」(タツヤ)
ヤマーダとタツヤの会話は、いまいち噛み合わない。
「ヤマーダ様、〈家畜〉とか〈養殖〉とか言われましたが、それは何でしょうか?」
偶々(たまたま)皆に紅茶を出していたエルが質問する。
「あー、せやった。ヤマーダはん、こっち世界で《食・べ・ら・れ・る》ためだけに育てられとる動物なんて、おらへんのや」(サリア)
「えっ! それってどう言うこと?」(ヤマーダ)
「乳搾るんに牛や山羊飼うたり、鶏に卵を産ますために舎入すんねんけど、異世界では食肉の畜産を全くせぇへんのや。当然、養殖の生け簀なんてものもないんや」(サリア)
「え? じゃあ、牛肉や豚肉、鶏肉や魚はどうすんのさ?」(ヤマーダ)
「狩る、捕る、釣るに決まっとるやん」(サリア)
「おいおい、もしや! 主よ、地球では、食べるためだけの目的で動物を育てているのか?」
サリアとヤマーダの二人の会話にターニャが驚いている。
「…ヤマーダ。この世界に養殖とかの概念は少ない。…地球では、人が食物連鎖の頂点で、外敵もいなかった。だから、人が増えて、食べ物を育てるなんてことをしていたわ。…でもこの世界には、人よりも強い存在がいっぱいいる」
リンがヤマーダの偏見を嗜めるように説明すると、
「へぇ~…ヤマーダの元居た世界の人間って、自分達の数も管理できない程、愚かなんだな」
通りかかったルルも参加。
「ど、どういう事?」(ヤマーダ)
「だってさぁ、数を管理するって事は、群れを作る上で一番重要なことじゃん」(ルル)
摘まめるお菓子を小脇に抱えて、驚いたように呟く。
数?
それって人の数を管理するってこと?
「ちょっと待ってくれ、ルル! ゴブリンは自分達の集団の人数をコントロールしているって事なのか?」(ヤマーダ)
「はぁ? 何、言ってんの? 当たり前じゃない。どんな魔物だって、リーダーの一番重要な資質は、群れを生活出来る数にどうやって調整するか考えるって事じゃん」(ルル)
調整って?
「えっ? じゃあ、結婚は? そもそも子供はどうするのさ? それに、親はどうなってんのさ!?」(ヤマーダ)
当然の疑問。
「親? そんなの居ないだろう。だって、子供は群れで育てるもんだろう?」(タツヤ)
「そうそう、子供をいくら作っても、群れの食べ物がないんじゃ生きられないし、どうせ子供も直ぐ死んじゃう。全く意味がないよ」(ルル)
「のぅ、タツヤ。主はどうも、混乱しておるようじゃ。実際の話をしてはどうじゃ?」
話をまとめるのが、ターニャは上手い。
「確かにそうですね。ヤマーダ、先ず農場では穀物や野菜を栽培している。で、牧場は農場を手伝ってくれたり、乳や卵を分けてくれる動物を育てているな」(タツヤ)
「それって、牛や鶏や馬だよな?」(ヤマーダ)
オレの認識って合ってんだよな?
「そうだな。牛から牛乳を搾り、農耕を手伝ってもらう。鶏は卵を作り、害虫も駆除してくれるな。馬は乗って移動するためだが、他にもいる」(タツヤ)
「…豚か?」(ヤマーダ)
「あぁ、豚、それとアヒルもだな。野菜や水耕地の雑草を食べてくれるんだ」
「食用って事じゃなくて労働なのか…」
「他にも、狼や鷹なんてのも居るな。狩猟の手助けをしてくれる頼もしいヤツらだよ。後、ヤギ。乳がチーズの原料になる」
「なるほどねぇ」
「まぁ、確かに死んだら食べたりもするが、かと言って態々(わざわざ)食べるために動物を育てたりはしないぞ」(タツヤ)
つまり、動物を食べるためだけに
育てることはしないって事か…
じゃあ、狩ったり捕ったりする場所を
管理するってこと?
また、ヤマーダの常識の鎖が一つ解れる。
同時に、とある疑問も浮かび上がる。
ユリア達にさせたいことって、
狩りや釣りをする場所の管理ってこと?
「えーと、つまり、狩猟する狩場と釣りをする漁場を《星の継承者》には管理させたいって事なんだよな?」
一連のやり取りでヤマーダも何となく理解してきた。
「そうだ。実際、狩場や漁場の管理は結構大変なんだ。動物ってぇのは放っておくと、勝手に数が増えたり減ったりすんだよ。下手すると全滅しちまう。だから、個体数を管理する事が重要になんだよ」(タツヤ)
間引きである。
「例えば、狩場だったら、動物のエリア分けに始まり、枝払い、間伐に植林、清掃などが必要になるんだ。漁場なら、池床の整備や水質の確認、清掃などだな。まぁ、やることは山程あるぞ」(タツヤ)
「へー、なるほどなぁ」(ヤマーダ)
ここら辺のことは、専門家に任せるよ
それにしても、魔物って結構賢いんだな
「じゃあ、ユリア達も頑張ってくれ」
労いも兼ねてヤマーダは、皆に氷の入った《聖水》を配る。
訓練の甲斐あって、氷の精製に成功していたのだ。
「おー、旦那! スゲーじゃないっすか! 氷も操れるようになったんすね」(イズム)
「まぁね」
鼻高々のヤマーダ君。
イズムー!
オレを褒めてくれるのはお前だけだよー!
少し得意気になってイズムにアピールするヤマーダだった。
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2日後の午後
《空間魔法》マイホーム〈リビング〉
《森の狩人》達がリビングへやって来た。
それも大興奮して…
当初、興奮さめやらないため、ヤマーダがリラックスする《聖気》で宥め、落ち着くのを待たなければならない程。
ある程度落ち着くとセリアから、
「この度は私達をヤマーダさんの仲間に加えていただき、本当にありがとうございます。皆さんに少しでも近づけるように粉骨砕身、頑張らせていただきます」(セリア)
「セリア、なんでそないカッチカチなんや?」(サリア)
「当たり前です。いっしょに依頼を受けて、ヤマーダさん達の実力を目の当たりにしたんですよ。私、自分達の非力さを痛感しました。そんな強者である皆さんを前にして、緊張しない訳がありません」(セリア)
セリアの敬意は意気込みからして相当なものだ。
「そんなに緊張しないでくれよ。リラックス、リラックスね」
ヤマーダは彼らの緊張が解れるように《聖水》を配り、気さくに話す。
早速、《聖水》を飲んだ四人は、
「「「「やっぱり旨ーっ!」」」」
“《森の狩人》をチャイルドパーティーに加えました”
“チャイルドパーティーの魔法とスキルが共有されました”
“チャイルドパーティーに魔法とスキルの一部が共有されました”
あれっ?
今回はパーティースキルが増えないな
まぁ、毎回ってわけじゃないか
ちょっとした肩透かし。
「「「こいつはスゴイ! こんなに魔法やスキルが増えるなんて!」」」(セリア以外の三人)
「ヤマーダさん! ありがとうございました!」(セリア)
《森の狩人》メンバーは大満足の様子だ。
「後、念のためにイズムの分裂体を携帯してくれ」
ヤマーダはセリアに分裂したイズムを軽く投げると、セリアは上手に両手でキャッチ。
分裂体はセリアの肩へと乗り込んでいく。
「イズム、セリアMK-2、出る!」
って感じ
皆が落ち着いたところで、
「セリア達は引き続き、首都での活動をお願いするわ」
ネーコが指示。
《森の狩人》の活動方針を告げる。
「分かりました、お任せください」
セリアも二つ返事。
どうやら、自分達の役割が分かっているようだ。
「ところでさぁ、セリア達ってクソ勇者の活動をどの程度知っているんだ?」(ヤマーダ)
「クソ勇者? …そ、それはどういう意味ですか?」(セリア)
「実はさぁ…」(ヤマーダ)
ヤマーダはセリア達に勇者との確執を説明する。
「…という訳で、何でか知らないんだけど、どうもクソ勇者が俺達の行動を邪魔しているようなんだよね」(ヤマーダ)
「はぁ、その話が事実だとしますと、私達の知っている勇者像とは大分異なりますね」(セリア)
知っている勇者像?
「セリアから見た勇者ってのは、どんなヤツなの?」(ヤマーダ)
「聞いた限りの話なんですが、礼儀正しくて品行方正、とても穏やかな性格だとか。更には大変に慈悲深いお方とも伺っておりますが…」(セリア)
はぁ!?
ヤマーダの眉間にシワが寄る。
追加情報として、
「わしは悪代官を懲らしめて町娘を救ったと聞いたぞ」(ライド)
何それっ!
ゴホッゴホッ、いつもすまないねぇ
それは言わない約束だよ、おとっつぁん
よいではないか、よいではないか
悪代官さま、お許しを!
アーーレーーッ!
なんだこの田舎ジジイは
者共、であえ、であえー!
少し懲らしめてやりなさい!
キンキン!
ビシュッ!
ズバシュッ!
この紋所が目に入らぬかっ!
控え! 控えおろー!
まっまさかっ!
ハッハハーーッ!
一件落着!
カッカッカッ!
的なヤツですか?
「オレは荒野の決闘で悪徳保安官を倒したって聞きましたよ」(ジーン)
オイ、キサマ!
それぞれ背中合わせで
3歩歩いてからの速打ち勝負だ
いいだろう!
や、やめて!
わたしのために争わないで!
1、
2、
3 バキューン! バキューン!
ま、まさか保安官の俺が…
速打ちで…負けるなんて…バタン!
チェーン!
カンバッーーク!
的な?
「わたしは悪い領主の無理難題を頭の良さで乗り切ったって聞きましたよ」(トニー)
オイ、ポンネン!
そちに出来ぬことはないと聞く
滅相もない
この屏風の虎を捕まえてみせろ!
ポクポクポクポク…チーン!
分かりました、
捕まえてみせましょう
檻と鎖を用意しましたので
虎をこの屏風から追い出してください
なんと!
捕まえてみせますので、
早く屏風から虎をお願いします!
うっ、ワシが、ワシがまいったのじゃ!
降参じゃーーーっ!
…的な!?
「何だよその聖人は? 滅茶苦茶、胡散臭いじゃん」(ヤマーダ)
ヤマーダにとっての勇者像は陰湿なストーカーで固まっている。
「まぁ、私達も実際の勇者には会ったことが無いので…」(セリア)
「えーっ! そうなのか?」(ヤマーダ)
「はい。勇者が活動しているのは東国です。他国へ出ることもほとんどないそうですし」(セリア)
引きこもりって事?
「まぁ、今まで猫被ってたんとちゃうか?」
サリアも勇者談義に参加してきた。
「どうなのかのぅ、悪い噂を聞かないってことは共通しているな」(ライド)
外面が良くてプライドが高い?
「う~ん、何となく勇者ってヤツの本質が分かった気がするなぁ。粘着質っぽいし、あまり敵にしたくないタイプだよなぁ」(ヤマーダ)
「でもなぁ、ヤマーダはん、掛かる火の粉はこっちから払わなあかんよ」(サリア)
「…サリアちゃんの言う通り。こっちが何もしなくても…向こうから仕掛けてくるかもしれないし」(リン)
サリアとリンの二人には、勇者がこのまま大人しくしているとは思えない。
「アタイは勇者と戦いたい!」(ルル)
言うと思った!
仕切り直して、
「だから、セリア達には首都での冒険者の活動の他に、勇者の情報も集めてほしいのよ」(ネーコ)
「了解です」(セリア)
こうして、ヤマーダ達は着々と勇者対策を進めていった。
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12日後
午後
北国ゲンク《北の里》近辺
PT
ヤマーダ、ネーコ(人化)、リン、サリア、
ルル、クロード(人化)、ターニャ(人化)、
イズム、モフリン
2週間近く、《北の里》から何の音沙汰もない為、ヤマーダ達はフィルドンへ戻ることを決めた。
既にここから引き揚げるための準備を着々と進めている。
と言っても実際のところは、簡易的なダミー用のテントを《収納》に突っ込むだけの話だ。
「あ~ぁ、もうちょい、リンちゃんと訓練したかったんやけど」(サリア)
「…わたしも」(リン)
サリアとリンはここ《北の里》跡地で滞在する?間も、クロードとケンシロウを引き連れて、《嘆きの洞窟》でのレベル上げを行っていた。
「もう十分待って時間を費やしたし、明日からフィルドンへ戻ろうか」(ヤマーダ)
実際は、ヤマーダ達に《変化》した《分裂体》によって、フィルドンまでの旅路を移動し、ヤマーダ達自身は別行動するのだが…
「そうね。帰る準備もそろそろ終わっちゃうし、皆でフィルドンに戻りましょうか!」(ネーコ)
ネーコが周りに号令を掛けると同時に、ヤマーダ達の前方の空間に歪みが生じ、幕が発生。
「あれっ?」(ヤマーダ)
「これって!」(ネーコ)
《空間魔法》か?
「えっ! 《空間魔法》じゃないの!?」(ヤマーダ)
「どうやら、その通りじゃな」(ターニャ)
空間の歪みがドアくらいの大きさになり、幕の向こうから小さなキツネがひょっこりと顔を出した。
早速、
「ルールルルルル、ルールルルルル。はじめまして、おれはヤマーダ。キミは誰だい?」
ヤマーダはアヤカシギツネが警戒しないように優しく語りかける。
『サルだ! 里を襲ったサルがまだいるぞ!』
取り乱し叫びだすアヤカシギツネの小キツネ。
『ちょっと待ちなさいよ、アンタ! 確かにヤマーダは愚かなサルよ。でもアタシの大事なサルなの!』
空間の歪みに戻ろうとしたアヤカシギツネにネーコは《人化》を解いて説明する。
あー、オレは結局、
「愚かなサル」なのね!
ヤマーダがムッとした顔をしている脇で、
『あれ? 同族のお前が、なんで里を襲ったサルの仲間になってるんだ?』(小ギツネ)
どうやら、アヤカシギツネにはヤマーダ達と里を襲った勇者達?との区別がつかないらしい。
『アンタ、ほらよ~く見て、このヤマーダの顔! あなた達を襲ったサルはこんなにカッコよくなかったでしょ』
ネーコが理由を説明すると、
『うん、確かに』
キツネはすんなりと納得した。
「ちょっと…キミ達、失礼だよ、ホントに!」
段々と腹が立ってくるブ男認定のヤマーダ。
『それに、こんなアホな会話もしてなかったような』(小ギツネ)
このアヤカシギツネの性格なのか、思ったことをそのまま口にするヤツだ。
ヤマーダは仕切り直して、
「ルールルルルル。改めて、おれはヤマーダ。連れのアヤカシギツネが成人の儀式を受けるため、ここを訪れたんだ」
ネーコは透かさず《人化》し直してから、
「アタシはセンターのネーコ、ノースには儀式を済ませるために来たわ。里長にお目通りをお願い」
『あたしはノースのナール。ネーコ、ようこそノースへ、歓迎するわ』(小ギツネ)
どうやら誤解も無事に解けたようで、なんとか里に入れる感じ。
アヤカシギツネの里
中央の里がセンターで、
北がノースってことか?
だとすると…
残りはイーストとウエストなのかな?
『ネーコ、里に入るのはあなただけなの?』(小ギツネ)
「アタシの仲間も入れて欲しいのだけど?」(ネーコ)
ナールは少し考えて、
『あたしじゃ決められないから、ちょっと聞いてくる』
ナールはそう言うと、再び歪んだ幕へと消えていった。
するとネーコは、ムッとした表情をヤマーダに向ける。
「ねぇ、ヤマーダ! そのルールルルルルってヤツ。なんか凄くムカつくから、次にやったら噛むわよ!」
えーっ!
「…はい、すみません」(ヤマーダ)
北国のゴローさんの嘘つきーっ!
「それより、ネーコはん。こんなに人間が仰山おって、里に入ってもうてもええのんか?」(サリア)
「…大丈夫…のはずよ」(ネーコ)
微妙な間が…
「おいおい、自信がないのかよ」(ヤマーダ)
ネーコの曖昧な返事に、ヤマーダは戸惑うばかりだった。
----------
2日後
《空間魔法》マイホーム〈リビング〉
ヤマーダ、ネーコ(人化)、ターニャ(人化)、
イズム(人化)、エル(人化)、モフリン
フィルドンへの帰路PT
分裂体(変化)8体、参加希望者
ヤマーダ達は小ギツネのナールから直ぐ返事が来ると思って、その場でひたすら待っていた。
しかし、何のリアクションもないまま、日は暮れてしまう。
更に翌日も…なんの動きもない。
しょうがなく、
とりあえずフィルドンへ戻るという当初の予定に立ち戻って、移動を開始していた。
ただ、実際には、
何時でもフィルドンへ戻ることができる。
イズムを使った瞬間移動だ。
それ故に、
フィルドンへの帰路のメンバーは分裂体と参加を希望する者に絞られていた。
そして、
ヤマーダはいつものように《空間魔法》での~んびり過ごしていた。
今日は、
リビングのソファーに寝そべり、ネーコとモフリンを交互に撫でつつ、防具の加工や魚の下処理を行っている、そんな日だった。
『ちょっと、ヤマーダ! アンタ、魚を触った手で気安くアタシに触れないでくれる』
モフリンがウサギ顔を器用にしかめている。
どうやら、魚の臭いのが苦手のようだ。
オレ…
ウサギのしかめっ面が
判かるようになってきたよ
「あぁ、分かった分かった。でもさぁ、《聖気》や《聖水》、《超涼風》を使えば、簡単に魚臭さなんか消せるんだけど」(ヤマーダ)
ヤマーダはリビングの空間にリラックス《聖気》を充満させて、イライラの回避を試みる。
そして、ご機嫌を取るために《聖水》をネーコ、モフリン、次いでにターニャへと配っていく。
「あんがと」(ネーコ)
『《聖水》で騙されないわよ。まぁ、いただくけど、その手で触らないで!』(モフリン)
くっ!
モフリン、
なかなかやるなぁ…
現在、リビングには給仕のエルを除くと、4人とイズム。
「なぁ、ネーコ。前にも感じたんだけどさぁ、なんで俺、《防具職人》や《漁師》の職レベ上げる訓練させられてんの? 面倒くさいんだけど」(ヤマーダ)
《空気使い》によって、職業が自由に選択できるヤマーダ達。
とは言え、
ヤマーダには冒険者職(戦士、魔法使い、魔物使い)以外の職業に就く意味も、いちいち職業レベルを上げる意味も全く分からない。
「ヤマーダ。アンタ、《空気使い》のお陰で複数の職に付けるのよ! 職業レベルをマスターすれば、次の転職によるデメリットも無くなるじゃない」(ネーコ)
「…うん」(ヤマーダ)
ネーコの言うデメリットとは、《転職》による能力補正の減少の事だ。
例えば、《無職》。
Lv10のマスターとなると、《敏捷》が +10 、《運》が +20 能力補正される。
しかし他の、
例えば《戦士》に転職してしまうと、《無職》の能力補正は失くなってしまい、《戦士》の能力補正が新たに適用されしまう。
《戦士》の能力補正は、
《体力》Lv×2
《攻撃》Lv×2
《転職》後の《戦士》Lv は1になってしまう。
つまり、
《体力》と《攻撃》は共に2増えるのだが、《敏捷》+10 と《運》+20 を失ってしまい、反って能力補正が減ってしまう事になってしまう。
だが、
《空気使い》スキルの所有者と、その影響下にある者は、《職業》をマスターした場合に限り、前職の能力補正を完全に引き継ぐことができるのだ。
これは様々な《職業》をLv10、即ちマスターすればするほど、能力補正がその分増えていく訳だ。
「だから、アンタは積極的に色んな職業をマスターすべきなのよ!」(ネーコ)
色んな職業!?
「えーっ! 俺、既に結構な職業のマスターになってんぞ? これ以上、職業に就く必要なんてあんのか?」
ヤマーダがブー垂れると、
「主よ、前にも伝えたんだが、人族でも魔物でも、そのほとんどが一つか二つの職能を持つ程度で一生を終えるのじゃ」(ターニャ)
「あぁ、聞いたよ」(ヤマーダ)
「幸い主は職業のレベルも上がり易いようじゃし、他の者に真似する事ができんほど多数の職業をマスターするのも一興じゃぞ」(ターニャ)
「姫様のおっしゃる通りです」(エル)
ターニャの提言を、エルが大袈裟に頷く。
ただ、ターニャの見解には少しだけ誤りがある。
ヤマーダの《職業》が上がり易いのではなく、ヤマーダ達の《職業》が上がり易いのだ。
その理由は、ルルのようなゴブリン族の持つ《職業適性》という固有スキルが関係しており、ヤマーダ達パーティーに《共有》されているからなのだ。
更には現在、
仲間のゴブリン族は、ルルだけに止まらない。
ルルを筆頭に、CPTとしてカズヤ、ラオウ、トキ、ケンシロウと4体も居り、《職業適性》スキルも《共有》状態になっている。
結果、パーティーの《職業》レベルがあり得ないほど爆上がりしているのだ。
…まぁ、それならそれでもいいや
ヤマーダの思考は別へと移り、
それにしてもなぁ、
ナールってヤツはどうしたんだよ?
オレ様をサル呼ばわりしておいて…
そもそも、アヤカシギツネの
「ちょっと」って、どんくらいなんだよ?
「なぁネーコ、アヤカシギツネの『ちょっと』ってさ、何日くらいなんだ?」(ヤマーダ)
「はぁ? ヤマーダ、何バカなこと言ってんの? ちょっとはちょっとに決まってんでしょ。数分から数十分に決まってんじゃない」(ネーコ)
「えーっ!」(ヤマーダ)
ネーコはアホな子でも見るような顔をしている。
じゃあ、
なんでリアクションが無いんだよ!
「おいおい、1日以上経ってんだけど?」(ヤマーダ)
「多分、普通に忘れたんじゃないの? まぁ、よくあることよ」(ネーコ)
はぁ?
「えーっ! いやいや、人を散々(さんざん)待たせおいて、そんな事あり得ないんじゃない?」(ヤマーダ)
あの小キツネ、
常識ってもんがなってねぇな!
親の顔が見てみたいんだけど!
これは教育だな、教育!
驚きつつもネーコの頭を撫で続けているヤマーダ。
アヤカシギツネという魔物の生態は到底分かりそうもなかった。
すると《人化》して隣で寛ぐイズム少年から、
「旦那、《北の里》の入り口に空間の歪みが発生したっすよ」
「えっ! や、やっとかよ! よーし、ネーコ。ここは厳しい一言をガツーンとぶつけてやる!」
一行は再び《北の里》の入口へ。
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北国ゲンク《北の里》入口
PT
ヤマーダ、ネーコ(人化)、ターニャ(人化)、
イズム(人化)、エル(人化)、モフリン
ヤマーダ達は空間が歪み続けている前で、今か今かと誰か出てくるのを手ぐすね引いて待っている。
おらーっ!
出てこいやーっ!
ヤマーダの苛立ちは、言葉の銃弾として装填完了!
即発射状態。
----------
数分後
長髪で金髪の女性が小ギツネのナールと伴って、幕から姿を現した。
出やがったな!
って!?
若い女性、それも美人さん!?
女性は20代前半の容姿と優しい雰囲気を身に纏っていた。
顔立ちは間違いなく美人さんで、ちょっとタレ目で泣きぼくろが特徴的。
「フフフッ」
微笑がとっても妖艶。
「ル…」
思わずゴローさんが飛び出しそうになるのを堪え、
「は、はじめまして、俺はヤマーダと言います。こ、この度はご足労いただきありがとうごじゃります。以後、よろしくお願いします」(ヤマーダ)
噛みまくった挨拶を御見舞いする。
「フフフッ」
何事にも動じない。
うわーっ!?
大人のおっとり系!
今迄に会った事のない雰囲気の美人さん。
ヤマーダは極度の緊張でタジタジに…
そんなヤマーダのたどたどしい挨拶に、
「フフフッ、これはこれは、ご丁寧な挨拶をしていただき、ありがとうございます」
美人さんは妖艶な笑みを浮かべている。
「わたくしは、この里で長を勤めております、ユナースと申します」
「ど、どうもです」(ヤマーダ)
ユナースは視線を移し、
「で、そちらが儀式にいらした同族の方ですね?」
ネーコに優しく微笑み掛ける。
「はい! アタシ、ネーコっていいます、ユナース様。急に押し掛けてしまって、すみません」(ネーコ)
「フフフッ、気にすることなんてありませんよ、ネーコさん。そもそも、儀式とはそういうものなんですから。先ずは《空間魔法》でゆっくりとお話しをしましょうか」(ユナース)
ユナースはヤマーダ達を《空間魔法》へと促す。
「あ、あのぅ…俺達がその~…里にお邪魔してちゃっても…大丈夫なんでしょうか?」
恐縮しまくりヤマーダ君の辿々(たどたど)しい質問に、
「フフフッ、大丈夫ですよ。あなた方は…」
ユナースの優しい眼差しに、一瞬だけ光が射し、
「《空気使い》さんに古竜さんですよね? 何の問題もありませんよ」(ユナース)
オ、オレ達の正体を!?
ヤマーダ達の素性など、《邪眼》と《鑑定》で一瞬の内に看破してしまう。
おいおい!
《認識阻害》さんはどうなってんだよ!?
そんな驚きを少しでも誤魔化すように、
「そ、それにしても、こんだけ攻撃されたのに、里の方は大丈夫だったんですか?」
ヤマーダは話題を反らす。
「フフフッ、無傷です。何の問題もありません」(ユナース)
無傷なの!?
ユナースは表情に少し影を落とし、
「まぁ…勇者の方々も根っからの悪人、という訳ではありませんし…」
落胆したかのように、勇者を語る。
「つまり…ユナースさんは、クソ勇者を知ってるんですか?」(ヤマーダ)
「とりあえず、中へ入りましょうか」(ユナース)
ヤマーダ達はユナースに導かれて異空間《北の里》を訪問することに成功する。
----------
《空間魔法》北の里
PT
ヤマーダ、ネーコ(人化)、ターニャ(人化)、
イズム(人化)、エル(人化)、モフリン
里に入ると先ず気になったのは、そこの住民の姿だった。
不思議なことに、女性とキツネの姿しか見つからない。
あれっ?
男の人は?
里の人口はキツネを入れても、ざっと100名程度。
建物は南国のように、一本の柱の上に屋根があり、植物の葉っぱを屋根?としたとても簡素な造り。
壁が何にもなく、形状はほぼパーゴラ。
そんな建物を縫うような道?もちょっとした通路くらいの幅しかなく、土のままで舗装は一切していない。
「ほぉ、里とは質素な所なんじゃのぅ」(ターニャ)
「確かにそうですね。…上位の魔物の棲みかとは、とても思えませんね」(エル)
竜コンビが里への第一印象を話し、繁々(しげしげ)と周囲を観察している。
室内も勝手にジロジロと…
ちょっと失礼なんじゃ…
物珍しそうなターニャ達に、
「フフフッ」
ユナースは優しく微笑んでいる。
「表世界からすると、里の景色は不思議に感じるのも無理からぬ事です」(ユナース)
下界…ですか
「ただ、《空間魔法》の内側は温度や湿気、空気の濃度が調整できますし、外敵も侵入して来ません」(ユナース)
へぇ~、
確かにそうだな~
「ですから、態々(わざわざ)建物を強固にしたり、道を広く整備する必要なんて全くないんですよ、フフフッ」(ユナース)
なるほどねぇ
《北の里》が質素なのは、それで事足りているからなのだろう。
質素で足りている、つまり、安全安心が確保された空間でゆっくりとした生活ができるという訳だ。
逆に、
建物を壁で仕切るのは、風雨や暑さ、寒さの対策が必要だからだ。
建物を塀で囲うのは、防犯やプライバシーのため。
道を整備するのは、流通というよりも軍事的行動を迅速にするため。
つまり、外敵が存在するから余計な物を作らなければならないのだ。
そして皮肉な話、
人間の外敵は魔物よりも同じ人間。
「考えてみると、案外ここって住みやすいのかもしれませんね」(ヤマーダ)
同じように《異空間》で生活しているヤマーダにも、なんとなく質素な理由が理解できる。
ヤマーダも《空間魔法》での過度な装飾が嫌いだった。
「なぁ、ネーコの故郷もこんな感じなのか?」
ヤマーダの率直な疑問。
「えぇ、似たようなものね」(ネーコ)
「ふ~ん」(ヤマーダ)
アヤカシギツネの里は、何処も似たような構造らしい。
外敵の全くいない、
天候不順のない安全な生活かぁ
話を変え、
「あの~、ユナースさん。先ほどから、里へ早く戻りたいように感じましたけど、何か理由でもあるんでしょうか?」
ヤマーダがずっと気になっていたユナースの態度。
「あぁ、それはなぁ、主」
ターニャから説明するようだ。
「あのまま外に長居すればのぅ、色々と感づかれる可能性があるからなんじゃろう」(ターニャ)
感づかれる?
「誰にさ?」(ヤマーダ)
「それは勿論、勇者達に決まっておろう」(ターニャ)
「オ、勇者!?」
居もしない勇者に、ヤマーダは驚いた。
「ヤマーダ様。状況から察するに、この里を襲ったのは勇者の可能性が高いですよね」
ターニャに代わり、エルが説明を続ける。
「あぁ」(ヤマーダ)
「犯罪を犯した現場に誰かが向かっているとして、ヤマーダ様がその犯人だったとしたら、現場に向かう誰かをどのように思いますか?」(エル)
「そりゃ、変な証拠が出てきたら困るし、行かないで欲しいよね」(ヤマーダ)
ハッとした顔で、
「って! そう言うことか!」
ヤマーダはやっと気づく。
「勇者にとって、主の存在は目障りなんじゃよ」(ターニャ)
「そちらの古竜様のおっしゃる通りかと。今の勇者はとても危険です。用心深く疑り深い性格になってしまいました。そして、歴代の勇者の中でも随一の強さを誇っています」(ユナース)
アイツって、そんなに強いのか…
「何故、里を襲ってきたのか検討もつきませんが、勇者はヤマーダ様の行動を監視したい筈です。再び里の存在に気づいてしまえば、必ずや襲ってくるでしょう」(ユナース)
よく、火事の現場に放火犯は戻ってくると言う。
勇者はどうやら《転移》ができる。
いつなんどき、勇者が《北の里》へ戻ってくるか分からない。
いっそ《空間魔法》の《異空間》に隠れた方が何倍も安心できるのだ。
「…まぁアイツ、かなり粘着質だったからなぁ」(ヤマーダ)
そうやって話しているうちに、ヤマーダはある疑問が浮かんできた。
「ユナースさん、ここの食糧って大丈夫なんですか?」(ヤマーダ)
「…今のところは大丈夫です」(ユナース)
返答に間が…
ヤマーダは今のやり取りで、何かを感じ取った。
「今のところ」か…
今、8月ぐらいなんだから…
…日本だったら、
来月から作物を収穫する季節か
仮に地球と同じように、
こっちにも春夏秋冬があるとすれば…
勇者に焦土とされた焼け野原に
収穫前の作物があったのでは?
ユナースさんの《空間魔法》の中
つまり、
目の前の空間には土がとても少ないし、
農作物もないようだ…
もし、ここ里の中で作物を育てていない
とすると…
これは…
「なぁ、エル。俺達の《空間魔法》で育てている作物とか狩場の食料って、多少の余裕はあんのかなぁ?」(ヤマーダ)
「そうですねぇ…ざっと今後10年、自給自足できる程度には在庫してますが?」(エル)
「うん、そうね」(ネーコ)
ネーコもヤマーダPTの食料事情に詳しいようだ。
「えぇーっ! そんなにあんのか?」(ヤマーダ)
流石に10年分とは思いも寄らなかった。
「ですが、ヤマーダ様。10年分と一口に申しましても、現在の我々の人数から算出してものになります。今後、我々メンバーが増強する事で、10年分は短縮されるかもしれません」(エル)
まぁねぇ
何千、何万も急にメンバーが増えちゃったら、
下手すりゃ1日分にもならないよな
「また、元々ネーコ様の《空間魔法》はレベルが非常に高いため、《異空間》も広く、更には時間を止めることも可能となります」
時間を止める?
「時間が止まっているならば、作物は全く痛みません」
腐らないって事か!
「《異空間》での栽培や狩猟には、ヤマーダ様が持つ《農民》や《猟師》職による補正もございますので他の作物との比較はできません」
おーっ!
苦労して転職した職業が
役に立ってくれてるのね!
「他にも《空気使い》による最適な環境により、最大限の効率で収穫や狩猟が可能となっております」
《聖気》や《聖水》、《超涼風》だな
「へぇ~、そんなにネーコの《空間魔法》って凄いのか」(ヤマーダ)
「ネーコ様だけでなく、ヤマーダ様のお力のお陰でもあります」(エル)
ヤマーダもしっかり立てるあたり、エルの人心掌握はかなりのもの。
オレ、《空間魔法》を
気軽に《マイホーム》として使ってたよ…
「仮に食糧が不足するようでしたら、まだまだ余っている場所は幾らでもあります。ですので、食糧を増やすことは可能です」
増産できるって事?
人手は足りなくなるんだろうけど…
「つまり、現在、我々は最適な環境による育成と恒久的な保存が可能な状況となっており、食糧はほぼ無制限に作る事が出来ます」(エル)
無制限!!
ヤマーダの知らぬ間に、パーティーの自給自足はほぼ完璧となっていたのだった。
「ただしヤマーダ様、備蓄している食糧10年分とは、あくまでも今の我々の人数であれば、との事をお忘れなく」(エル)
当然、
「もし、里の人達に俺達の食糧を配給したら、どうなるのかなぁ?」(ヤマーダ)
《北の里》へ分配した場合も知らずにはいられない。
「5年程度に短くなります」
まだ、5年分もあんのか!?
《竜の洞窟》に居るヤマーダ傘下の魔物達はかなりの数になっている。
《竜の守人》タツヤを筆頭にその配下の魔物が居り、更には《星の継承者》ユリア達も居るのだ。
100人程度が増えても、備蓄している食糧で賄えそうだ。
作っているのは、タツヤ達だしなぁ…
オレの物って訳じゃないし、
《北の里》へ分け与えるなら
タツヤの了解は取らないとなぁ
「…まぁ、今後も収穫や狩猟、漁を行いますので減ること自体、皆無とは思いますが」(エル)
説明を終えたエルに、ヤマーダは炭酸を入れた《聖水》をそっと渡す。
『だ、旦那ーっ! その《聖水》、シュワシュワじゃないっすか!?』(イズム)
気づいてくれるのはお前だけだよ…
ヤマーダのイズム信頼度が 10 上がった。
いざって時は、
《北の里》のキツネ達を助けてあげよう
ヤマーダは、既に《北の里》への助成を念頭に置いていた。
----------
《空間魔法》北の里〈ユナース邸〉
PT
ヤマーダ、ネーコ(人化)、ターニャ(人化)、
イズム(人化)、エル(人化)、モフリン
ユナースに案内され、里のほぼ真ん中にある一際大きい建物へと入るヤマーダ一向。
周りの建物と同じ造りだが、広さは倍ほどある。
屋内は中央に屋根を支える大きな柱がある。
だが、壁といった間仕切りはなく、レースのカーテンのような布が天井から垂れ下がり、この布によって仕切られ、内部には和らいだ光が差し込んでいた。
ちょっと神秘的
「こちらへどうぞ」(ユナース)
促されたリビングのような室内には、藁で作られたソファーが3脚あり、ヤマーダ達を奥のソファーへ薦める。
開口一番、
「ユナース様。あたし、儀式を知らなくて…詳しい事を教えていただけますか?」
ネーコは儀式の話を切り出す。
「ネーコさん、成人の儀式とはそれぞれの里長が巫女としての素養のある者に秘術を伝授するための修行の一環なんですよ」(ユナース)
「へぇ~」
何故か、隣で聞いてるヤマーダが感心する。
「フフフッ、故郷の秘術は《空間魔法》と《鑑定》の2つですが、どうやら身につけているようですね」
「はい!」(ネーコ)
「会得するまで、どのくらい掛かりましたか?」(ユナース)
「…2年くらいです」(ネーコ)
2年!
「そうですか…当然、こちらでも同じくらいの期間掛かってしまうのが一般的です」
おいおい!!
2年もここに居なきゃならんの!?
「本来、里の秘術とは一朝一夕に会得できないものなんです」
「はい、分かっています」
だが、ネーコの不満そうな表情からは、納得してない様子。
「…ですが、そのぅ…2年も掛かってしまうものなんですか?」(ネーコ)
「そうですねぇ…」(ユナース)
ユナースはネーコの一挙手一投足と観察している。
「まぁ、ネーコさんの能力を視る限り、そこまでは掛からないでしょう」
「ホントに!?」
思わずヤマーダが口を挟む。
「ちょっと、ヤマーダ!」(ネーコ)
「ごめんごめん」(ヤマーダ)
「フフフッ、そうですねぇ…2~3ヶ月と言ったところでしょうか。なにしろ、ネーコさん。既にあなたは良いパートナーを見つけているようですからねぇ」
ユナースは横目でヤマーダを見つめる。
「…はい、よろしくお願いします」
ネーコは頬を染めて、頷いた。
儀式の会話はこれで止まった。
どうやら、儀式の打ち合わせは終わったようだった。
ヤマーダはユナースの膝あたりをボーッと眺め、
2~3か月も掛かるのか…
やっぱ、彼らを援助してやんないと!
「あの~、ユナースさん。ネーコがこれからお世話になりますので、食糧くらいは用意させてもらえませんか?」(ヤマーダ)
「それは、援助ですよねぇ? …いえいえ…我ら里は自主自律の精神です。…ヤマーダさん達にご迷惑はかけられません」(ユナース)
もしかして、一度は断るってヤツ?
「援助なんて堅っ苦しいもんじゃないですよ」
「ですが…やっぱりいただけません」
二度目も拒否。
その後、
何度も薦めてみるが、ユナースは頑なに固辞してきた。
…参ったなぁ
ユナースさん達がひもじいと、
オレらも遠慮して食えなくなっちゃうよ
そんなヤマーダの心情に気づいたのか、
「のぅ、ユナースよ。この際、我が主に仕える気はないかのぅ?」(ターニャ)
「はい?」(ユナース)
「援助された食糧を労働で返すのなら、問題無かろうて」
「そういうことですか」
「それにのぅ、お主と我が主が主従関係になれば、こちらとそちらの《異空間》も自由に往来出来るようになるじゃろうし、悪い話ではなかろう」(ターニャ)
ターニャの説明からすると、
ユナースがヤマーダと主従関係を結ぶ事で、どうやら《思考パス》の影響し、それぞれの《空間魔法》の《異空間》への往き来が出来るようになるらしい。
「おー! ホントかっ! さっすがターニャ。ぐっどアイデア!」
ヤマーダは満足の笑み。
「ヤマーダさん、本当によろしいのでしょうか?」(ユナース)
「気にすることはありません。ヤマーダ様と姫様のお二人にかかれば、このようなこと問題にすらなりません」(エル)
あれっ?
オレの許可は?
ターニャの提案には、《北の里》にマイナスとなる要素は全くなかった。
『ユナース様、良い話ではありませんか!』
会話をこっそりと聞いていた里の住民も喜んでいる。
提案自体、不思議と里長ユナースのプライドを傷つけるものではなかった。
「どうだろうユナースさん、俺と主従関係ってイヤかもしれないけど、里の皆ためって事でさぁ」(ヤマーダ)
「里の皆」というキラーフレーズがユナースの心を捉える。
「ありがとうございます、ヤマーダさん。《空気使い》様に仕えるなんて、とても光栄です。是非、ご厚意に甘えさせていただきますか?」(ユナース)
「どうぞ、甘えてください!」(ヤマーダ)
“ヤマーダはユナースを従えた”
“ヤマーダとユナースに思考パスが繋がった”
“ネーコとユナースに思考パスが繋がった”
“《空間魔法》の共有化に成功しました”
おーっ、ターニャの言った通りだ!
「なぁ、ターニャ」
「なんじゃ、主?」
「この《異空間》の術者がユナースさんだって最初っから判っていたようなんだけどさぁ、なんで判ったんだよ?」(ヤマーダ)
「フゥッ…」
ターニャからため息が…
「主よ、《鑑定》や《竜眼》は共有されとるんじゃ、主でも使えるじゃろう?」(ターニャ)
「…あぁ」(ヤマーダ)
それって…つまり
「…これからは、主もスキルに慣れる練習をキチンとするべきじゃな」(ターニャ)
あえて、追及するような事は言わない。
「でもさぁ、《空間魔法》を使うモンが、ユナースさん以外も居るかもしれないじゃんか?」(ヤマーダ)
「はぁ…」
ターニャは明らかに呆れモード。
二人のやり取りに見かねて、
「ヤマーダ様、姫様は里の者を全て《鑑定》したんですよ。そもそも《北の里》で《空間魔法》を使えるのはユナースさんだけです」(エル)
「えっ!?」(ヤマーダ)
「因みに私も存じておりました」(エル)
「ええっ!!?」
ぜ、全員を《鑑定》したのかよ!
「でもさぁ、イズムだって分からなかったよなぁ?」(ヤマーダ)
「嫌っすねぇ、旦那。アッシはそんなに鈍感じゃないっす。里に入って直ぐに気づいちゃったっすよ」(イズム)
「えええっ!!!?」
「モ、モフリンは…気づかなかったよね?」(ヤマーダ)
『ヤマーダ! アタシ、そんなにバカじゃないわ!』(モフリン)
「ええええっっ!!!!?」
…モフリンにまでバカにされちゃった
…マジかよ!
本当にオレだけなの?
あえてネーコには聞かない。
怒られる事が確定しているから。
ハァ~
…もう少し真面目に
《鑑定》を使うようにしよう
そんなこんなでヤマーダは最初の目的地である《北の里》へ無事?到着することができたのだった。
これから、ネーコの修行が始まる。
第一部 完
ステータス一覧
ヤマーダ
レベル・21
ネーコ
レベル・32
リン
レベル・38
サリア
レベル・34
ルル
レベル・30
クロード
レベル・35
ターニャ
レベル・250
イズム
レベル・34
エル
レベル・70
モフリン
レベル・20
活動内容一覧
ヤマーダPT
拠点:《北の里》付近→中央国ノルン道中
ヤマーダ、ネーコ、リン、サリア、クロード、
イズム、ターニャ、モフリン
・《食糧保管庫》の管理
《疾風の剣》
拠点:中央国ノルン→東国テーベ道中
メリル、フィン、セシル、バード、キャロル
・武器、防具の仕入れ、作成、修理
・薬の仕入れ、管理
・たまにヤマーダ達の手伝い
・勇者の動向調査new
《竜の守人》
拠点:《竜の洞窟》
タツヤ、ミナミ、カズヤ、お手伝いの皆さん
・《竜の洞窟》の管理
・農場の管理
・牧場の管理
・牧草地の管理
・買い出し
・たまにヤマーダ達の手伝い
《星の継承者》new
拠点:《竜の洞窟》
ユリア、ラオウ、トキ、ケンシロウ
・狩場の管理
・池の管理
《森の狩人》new
拠点:中央国ノルン
セリア、ライド、ジーン、トニー
・勇者の動向調査
《ユナース》new
拠点:《北の里》跡地
ユナース、ナール、《北の里》の住民
・《北の里》の管理
エル、ブラウニー達
拠点:《空間魔法》
・マイホームの管理
・円卓会議棟など、各施設の掃除
《空間魔法》一覧
ネーコの《空間魔法》
入口:北の里道中→ノルン道中
・円卓会議棟
ヤマーダの《空間魔法》
入口:北の里道中→ノルン道中
・マイホーム
・牧草地
リンの《空間魔法》
入口:北の里道中→ノルン道中
・造林
ルルの《空間魔法》
入口:北の里道中→ノルン道中
・食糧保管庫
・冷蔵室
サリアの《空間魔法》
入口:北の里道中→ノルン道中
・農地
イズムの《空間魔法》
入口:分裂体のいる各地、10→50ヶ所
・移動用ポータル
ターニャの《空間魔法》
入口:北の里道中→フィルドン
・未設定
エルの《空間魔法》
入口:北の里道中→ノルン道中
・未設定
メリルの《空間魔法》
入口:ノルン→テーベ道中
・《疾風の剣》宿舎
タツヤの《空間魔法》
入口:《竜の洞窟》
・《竜の守人》宿舎
・農地
・狩場
ユリアの《空間魔法》new
入口:《竜の洞窟》
・《星の継承者》宿舎建築中new
・狩場new
・池new
セリアの《空間魔法》new
入口:ノルン
・《森の狩人》宿舎建築中new
・大森林整備中new
ユナースの《空間魔法》new
入口:北の里跡地
・北の里
第一部はここで完結します。
第二部は勇者との対決を軸にのんびりした旅を行う予定です。




