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《空気使い》って?  作者: 善文
13/134

ストー登場

ライバル登場回です。

翌日


北国ゲンク首都フィルドン〈マーシャ宅〉


パーティー(PT)

ヤマーダ、ネーコ(人化)、リン、サリア、

ルル、クロード(人化)、ターニャ(人化)、

イズム、エル(人化)

《疾風の剣》メンバー


 《空間魔法(マイホーム)》で朝食を摂ったヤマーダ達と《疾風の剣》は《分裂体(イズム)》を使って、フィルドンに戻っていた。


 方法は、(フィルドン)で待機しているイズムの《分裂体》が《空間魔法》で《※異空間(ゾーン)》への出入口を作る。

※《空間魔法》の内部の名称


 その《異空間(ゾーン)》をパーティースキル《空間共有》によって《空間魔法(マイホーム)》にいるヤマーダ達と共有させる。


 イズムの《異空間(ゾーン)》を経由して、街にいる《分裂体》の出入口へと移動するのだ。



 《分裂体(イズムズ)》の《空間魔法》による《異空間(ゾーン)》は一つしか存在しない。

 《分裂体(イズムズ)》で共有されているためだ。


 しかし、その《異空間(ゾーン)》への出入口は《分裂体(イズムズ)》の数だけ作ることができる。


 単純に言って《分裂体(イズムズ)》の数だけ出入口がある《異空間(ゾーン)》だ。



 ヤマーダ達は早速、マーシャ宅へ行き、《竜の洞窟》での顛末(てんまつ)を説明していた。


「彼女が竜神様から管理を任されたエンシェントドラゴンのエルです。えーと、竜神様の代理人?になるのかな」(ヤマーダ)


 メイド服をスマートに着こなしたエルが見事な御辞儀(カーテシー)を決め、

「初めまして、マーシャ様」

 と、丁寧に挨拶する。


「態々(わざわざ)足を運んでいただき、ありがとうございます、エル様」

 古竜と聞いて、マーシャも(うやうや)しくお辞儀を返す。


「今、説明した通りなんだけど…魔物の討伐依頼って、この報告で完了扱いになるのかな?」(ヤマーダ)

 少し不安気だ。


「私達も保証しますわ」

 《疾風の剣》リーダーのメリルが援護してくれる。


「ほぉ~」

 マーシャはメリルの変わり(よう)を面白そうに眺めていた。


「…内容を聞く限り、依頼は完了しておりますね。まぁ、エル様という、とんでもない証人もおりますことですし」(マーシャ)

「そう言ってくれて助かったよ」(ヤマーダ)


「フフッ、もしよろしければ、ここでエル様の本来の姿を…」(メリル)

「大丈夫!! ですから!」

 メリルの冗談を真に受けてしまうマーシャ。


「皆様の事はちゃんと信用しておりますよ。…フフフッ、それにしても、救世主様達は竜神様まで手懐けてしまうんですね」(マーシャ)


「それは師匠達が規格外、ですからね、フフフフッ」(メリル)

「確かにそうですねぇ、フフフフッ」(マーシャ)


 二人は仲良く笑いだした。



「では、ギルドの方にも完了報告をしておきますね。《疾風の剣》の皆さんもそちらで構いませんか?」(マーシャ)

 メリル達に最終確認する。


「構わないですわ。それと、マーシャ。私達《疾風の剣》はヤマーダさん達PTのチャイルドパーティーになりましたので」(メリル)


「ほぅ、それは珍しい! なるほど、メリルさん達は余程、救世主様達を気に入られたんですね」(マーシャ)


「まぁ、そんなところですわね」(メリル)


 メリルはヤマーダ達との新たな関係をマーシャにしっかりと伝えておきたかったようだ。


 もうすぐ、この街を立ち去るために…



 話題は変わり、

「ところで、その後の、街の人達の健康は大丈夫なの?」

 ネーコは何気(なにげ)に、この前の病気を気にしていたのだ。

 プライドを傷つけたことなので…


「お陰様(かげさま)で皆さん、健康です」(マーシャ)


「そう、それなら良かったわ」(ネーコ)

「…安心した」(リン)


 治療に当たっていたネーコとリンの二人も、ホッと胸を撫で下ろす。



----------

昼食


《空間魔法》マイホーム〈食堂〉


 その後、ギルドで魔物討伐?の報酬とチャイルドパーティー登録の手続きを行っているうちに、昼食の時間になってしまったヤマーダ達。


 《空間魔法(マイホーム)》へと帰ってきたヤマーダPTと《疾風の剣》は昼食の支度を始める。



 昼食が出来上がる頃には、《竜の守人》も合流してきていた。


「いただきまーす!」(ネーコ)

「いただきまーす!」(他全員)


 ヤマーダ達の第一声の挨拶は、必ずネーコから始める。


「うわっ! やっぱ、(うめ)ーよなー、ルルの料理は!」

 早速、バードが料理に手をつけると絶賛を始めた。


『お(かしら)達は、毎日こんな食事(めし)を!』(タツヤ)

『あたし、《料理人》になろうかな…』(ミナミ)


「うちも誰か《料理人》にしなくちゃ!」(メリル)

「なぁ、セシル。お前、《料理人》をやれよ」(バード)

「あんたがしなさいよ!」(セシル)

「そうよ!」(キャロル)


 食事になると《疾風の剣》と《竜の守人》の話題の中心は誰が料理するのか、毎回揉めているようだった。



「そんなことより、マーシャの依頼も完了したし、今度は《北の里》の情報を集めるわよ」

 本来の目的を忘れないように注意するネーコ。



 食後、ネーコに先導され、代表のマーシャ、ギルドなどの主だった場所を訪れたが、有力な情報は得られなかった。



----------

午後


北国ゲンク首都フィルドン〈街中〉


情報収集班

ヤマーダ、ネーコ(人化)、ルル、イズム、

ターニャ(人化)


買出班

リン、サリア、クロード(人化)


 街での情報収集を諦め、北へ向けて出発しようとしていた矢先、

『旦那! 怪しいヤツが《水源》にいるっす!』

 肩に乗っているイズムから不審人物?の情報が舞い込んだ。

 ヤマーダはサリアの提案で、《水源》に《分裂体(イズム)》を配備していたのだ。


「ソイツ、どんなヤツだ?」(ヤマーダ)


  まず、種族でもいいから

  不審者の情報が知りたい


『えーと、人族…いや、魔族かもしれないっすかねぇ』(イズム)

「魔族だって!!」(ヤマーダ)

『いや! でも、おかしいっすね。《鑑定》が(まった)く効かなかったっす』(イズム)


  えっ!

  スキルでも封じられたのか?


『でも、頭では魔族って(おも)っちゃうっすね。…なんかコイツ、ヤバい感じがするっす』(イズム)


  もしかして、リンの持ってる

  《認識阻害》や《誤認》ってスキルか?


「イズムは気付かれないように、不審者(ヤツ)を尾行してくれ」(ヤマーダ)


  緊急職員会議だな!


 《分裂体(イズム)》に監視させ、ヤマーダは(みんな)を集めることにした。



----------

《空間魔法》マイホーム〈リビング〉


 急遽、リビングに集合したヤマーダPTのメンバー。


不審者(ソイツ)がエルを(そそのか)して、アタシ達にちょっかいを出して来たヤツに違いないわ。なんとしても、捕まえるわよ!」

 ネーコは目に炎を灯らせ、不審者(ヤツ)を捕まえる気満々だ。


「なぁ、イズム。ソイツは強そうか!?」(ルル)

『《鑑定》できないんで、よく分かんないっすよ~、ルルっち』(イズム)


「ホンマに、エルはんらを騙しとった魔族(ヤツ)(おんな)しなんやろかなぁ?」(サリア)

「それ以外には、考えられないわよ!」

 ネーコには不審者イコール、エル達が会った魔族、との数式が組み上がっている。


「まぁ、そう結論を()かさんと。不審者(ヤツ)が厄介なレアスキルなんぞ持っとったらアカンやん、まずは不審者(ヤツ)を監視して様子を見ようや」

 こういう時のサリアは、とても慎重派だ。


「…わたしもサリアちゃんの言う通りだと思うわ」

 冒険者としての経験からか、リンもサリア案のように慎重の姿勢。


「私は先手必勝だと思うが…」

 クロードはやられる前にやる考え、つまりネーコ案だ。


「アタイは戦いたい! 最近、全然魔物と戦ってないし」

 ルルはそもそも、ネーコ案…なのだろうか?


「ワシは(あるじ)に従うぞ」

 ターニャは相変わらずヤマーダに丸投げの中立だ。


「エルはどうなんだよ?」(ヤマーダ)

「私はただのメイドですので、皆さんのご意見に従います」(エル)


  エンシェントドラゴンが

  ただのメイドの訳ないだろう!


  もういいや…


  えーと、

  ネーコ案に3票

  サリア案に2票

  中立に1票か…


  つまり、

  オレの答え次第では仲間の気持ちが

  バラバラになっちゃうかもな…


  よし!

  ここは、()いとこ取りでいってみるか


「なぁネーコ、不審者(ヤツ)が何かする前に戦うって姿勢は大事だから、まず、不審者(ヤツ)の近くまで行ってみよう」(ヤマーダ)

「そうね!」(ネーコ)

「やっつけてやろう!」(ルル)


「ちょっとちょっと、少し様子を見てみようよ。なぁ、ちょっとぐらい待っても、遅くないんじゃない?」(ヤマーダ)

「えーっ!」(ネーコ)

「戦えないのかよ!」(ルル)

 気持ちを高ぶらせていたネーコとルルには、急ブレーキを掛けられ、かなり不満顔だ。


「サリアの覚えた《召喚魔法》も使ってみてさ、監視の仕方も色々と試してみようよ」(ヤマーダ)

 ネーコの頭を優しく撫でながら、柔らかい口調で説明する。


  ルルもナデナデしてやんないと


「まぁ、ヤマーダがそこまで言うのなら、仕方がないわ」(ネーコ)

「えーっ! …まぁ、ネーコがそういうなら…」(ルル)

 二人に上手いことナデナデ攻撃が通じたのか、イケイケどんどんの高まった気持ちを落ち着かせ始めた。


「サリア達もそれでいい?」(ヤマーダ)

「無茶せーへんなら、そんでええよ」(サリア)

「…私も構わない」(リン)



 何とか話がまとまったので、ヤマーダ達は行動に移す。



  不審者を監視するメンバーは、

  オレ、ネーコ(人化)、リン、サリア、

  ターニャ(人化)、イズムの6人


  ルル、クロードさん、エルの3人は

  《マイホーム》での留守番組



PT

監視班

 ヤマーダ、ネーコ(人化)、リン、サリア、

 ターニャ(人化)、イズム

待機班

 ルル、クロード、エル



  さっき、イズムの《分裂体》を使って

  不審者(ヤツ)のことを

  タツヤ達《竜の守人》へ伝えると、

  3人がレベル上げも兼ねて

  監視に同行したいとのことだ


  タツヤ達は、

  ルルが何度も進化してることを聞いて

  触発されたようだ


  タツヤ達って意外と上昇志向なんだよ



PT

監視班

 ヤマーダ、ネーコ(人化)、リン、サリア、

 ターニャ(人化)、イズム

 《竜の守人》メンバーin

待機班

 ルル、クロード、エル



  サリアの覚えた《召喚魔法》


  この魔法はかなり特殊で

  術者と信頼関係にある動物や魔物、精霊を

  《召喚魔法》のレベルに応じた数と種類、

  呼び出せるそうだ


  元々、

「なんやカッコえぇ職業やん、この《召喚士》っちゅうヤツ」

  なんて言って、《召喚士》って職業に

  就いたサリアだったけど


  実はオレ達、《召喚魔法》の使い方って

  よく知らなかったんだよね


  ほら、先生とか、いないし


 サリアは大分(だいぶ)前から、《召喚士》のレベルが7まで上がっており、この世界でも数少ない、と言うかたった一人の《召喚魔法》の使ったことのない《召喚士》になっていた。


  でも偶々(たまたま)、

  エルが《召喚》を詳しく知ってたんで

  サリアに教えてもらったって訳だ


 元々、竜族の古竜(エンシェントドラゴン)には、従者と呼ばれている精霊が付き従っており、特に翼竜は多数の精霊を使役していた。


  エルなりに、無自覚とはいえ

  サリアに大怪我させてしまったことを

  気に病んでいるようで


  サリアの役に立ちたかったみたいだからな


  ちなみに、エルは手本として

  ブラウニーを7体、召喚してみせた


  そのブラウニー達は、現在、

  《マイホーム》の家事手伝いをしている



  ブラウニーって幼女みたいな姿だから

  メイド服を着て、仕事をしていると、

  おママゴトしてるみたいな感じになるよな



 そして現在、サリアが《召喚魔法》で召喚できるのは、鳥みたいな動物とバッタみたいな昆虫の二種類だった。



----------

そろそろ夕方へ差し掛かる頃


北国ゲンク首都フィルドン近郊〈水源〉


PT

ヤマーダ、ネーコ(人化)、リン、サリア、

ターニャ(人化)、イズム

《竜の守人》メンバー


 不審者(ヤツ)を監視するため、ヤマーダ達は(フィルドン)からイズムの《空間魔法》を利用して《水源》の近くへ移動し、現在は不審者(ヤツ)の近くの茂みに身を潜めていた。


「“なぁ、タツヤ。お前達が会った魔族って不審者(アイツ)か?”」(ヤマーダ)

 茂みから不審者(ヤツ)にバレないように小声で話し出す。


『“そんな気もするし、違う気もする”』(タツヤ)

 かなりの遠目から確認する二人。


「“分かんないのか?”」(ヤマーダ)

『“無茶言うなよ、お頭。こっからじゃ、遠すぎるぜ”』(タツヤ)


 確かにタツヤの言うとおり、この茂みからは不審者(ヤツ)の顔が確認できない。



ドガッ! バギッ! ドゴッ!

 監視の間も遭遇してくる魔物は、タツヤ達《竜の守人》によって片っ端から討伐されていった。



 この付近にいる魔物は、ゴブリンとスライム、角ウサギ程度。

 簡単なレベル上げには、もってこいの強さというか弱さだった。


 当然、ヤマーダ達は戦いに参加していない。


「なぁ、タツヤ。疲れちゃったんなら、俺、変わっちゃうよ」(ヤマーダ)


 監視するのがあまりにも暇なため、淡い期待を込めて魔物の相手を交代するかタツヤに()いてみる。


『全然、大丈夫だお(かしら)。俺はもっと強くなって、オークキングになりたいからな』(タツヤ)

 《人化》を解き、魔物姿でのびのび戦うタツヤ達。


 オークキングまでの道のりは遠い。


  いいなぁ…

  楽しそうだなぁ…



 そんな感じで《水源》の近くで潜伏していると、

「旦那、魔族(ヤツ)の様子がおかしいっす。何だかアッシ達に気づいているようっすね」(イズム)


  俺達の気配に気づいた?


  それとも、

  《未来視》みたいな未知のスキルか?


「どういうこと?」(ヤマーダ)

「今、ヤツは隠れ家?にいるんすけど、慌てて家の中の物を片っ端から《収納》?してるようっす。何だか…そう! 夜逃げするみたいっすよ」(イズム)


  夜逃げ?

  なんで急に?


  おいっ、それって、

  隠れ家を引き払うつもりなんじゃ…


  つーことは、ヤツって

  《収納》スキルを持っていて、

  認識を阻害することができて、

  未来も予知するっことなの?


  そんなの、完全無欠な能力じゃねぇか!


  そんなスゲー魔族(ヤツ)

  オレらなんかで監視出来るのか?


「どないするんや?」(サリア)

「捕まえる?」(ネーコ)

()っちゃおうよ、ヤマーダ!」(ルル)

 三者三様の答え。


  急に言われても、分かんないよ!


「え、えーと…イズムはバレないように不審者(ヤツ)に引っ付いて、監視を続いてくれ」

 ヤマーダがとりあえずの対応を指示する。


『分かったっす』(イズム)


 ヤマーダの煮え切らない態度に、

「イズム、《円卓会議棟》に集まるように、タツヤ達に伝えて!」(ネーコ)

『了解っす』(イズム)



----------

夕方


《空間魔法》円卓会議棟


 ヤマーダ達と《竜の守人》は急遽、円卓会議棟に集まった。


「急で悪いけど、これからを不審者(ヤツ)をどうするか話し合うわよ」

 ネーコが一旦、仕切り直す。


不審者(ヤツ)がどうやって知ったのか分からないけど、アタシ達のことがバレてるようね!

 開始早々、ネーコが口火を切る。


「お(じょう)、本当に不審者(ヤツ)が俺達の存在に気づいたのか? 偶然かもしれんぞ」(タツヤ)

「それは無いわね!」

 ネーコはキッパリと断言する。


「どうしてそう言いきれんだ?」(タツヤ)

「タツヤ、今何時だと思う?」(ネーコ)

「時間か? 良く分からんけど、夕方ぐらいか?」

「そうよ! これから夜になって、外は益々(ますます)危険になる頃よ。なのに、なんで態々(わざわざ)、こんな時間になってから(アジト)を引き払う必要があるのよ?」

 ネーコの指摘は的確だった。


 この異世界において、夜行動する冒険者や商人はまずいない。

 夜になると、夜行性の魔物に襲われる危険性があるからだ。


 それにも関わらず隠れ家を引き払う理由は、危険を察知したからに他ならない。


「“このままじゃ、ヤツが逃げちゃうよ”」

 ヤマーダのぼやきが(かす)かに聞こえた。


(あるじ)、確かに不審者(ヤツ)には逃げられるかもしれんが、不審者(ヤツ)の能力の一端は垣間(かいま)見れたぞ」(ターニャ)

「えっ! どうやって?」

 ヤマーダには、ターニャの発言の真意が(わか)らなかった。


不審者(ヤツ)は異世界人とみて、まず間違いじゃろう」(ターニャ)

「えっ!?」

 ヤマーダはターニャの言葉に驚いてしまい、言葉を失っている。


 ターニャからは、ナンと《異世界人》との単語が出てきたからだ。


(あるじ)、よく考えてみい。そもそも《収納》なんてスキル、この世界に存在しないんじゃぞ。そんな発想自体が異世界(ここ)には無いからのう」

「なるほど」(ヤマーダ)


「せやなぁ」(サリア)

「…確かに」(リン)

 《転生者》二人の言葉には、実感が込められている。


「そして、不審者(ヤツ)の危機を察知する能力は、自分の身に危険が及ぶ数時間前しか(わか)らんのじゃろう。逆に言えば、それ以前には発動できないはずじゃ」(ターニャ)

「何で?」(ヤマーダ)


「もし、本当に全てが見通せるのでしたら、もっと早くに逃走できたはずです」(エル)

「せやなぁ」(サリア)


「それに、イズム様にも今のところ気付いていないようですし」(エル)

「確かに」(ヤマーダ)

『エル様の言うとおりだ!』(タツヤ)


「最後に感じることは、不審者(ヤツ)は能力がとても低いか、ワシらの能力をある程度、把握できるのじゃろう」(ターニャ)

「私達と一度も対戦して来ませんでしたので」(エル)

「そういうことか!」(ヤマーダ)



 竜コンビの的確な推察に納得していると、

『ヤバいっす! 不審者(ヤツ)が住処の建物を燃やしているっす! 何処かに逃げるつもりっすよ!』(イズム)

「イズム、急いでそっちに行く! 《空間魔法》を!」(ヤマーダ)


 イズムが《空間魔法》の出入口の(オーロラ)を展開すると、

『ヤバいっす! 不審者(ヤツ)がなんかするっすよ!』(イズム)


 ヤマーダ達が《空間魔法》の《異空間(ゾーン)》へ行動を開始した為、逃亡を始めるようだった。


「イズム! 分裂体でヤツを追えるだけ追ってくれ!」(ヤマーダ)

『分かったっす。ってあっ! 不審者(ヤツ)が《転移》したっす!』(イズム)


  おい!

  いきなり、《転移》かよ!


「まだ追ってるか?」(ヤマーダ)

『大丈夫っす。まだ捉えているっす』(イズム)

 なんとか、不審者(ヤツ)の腰袋にしがみついて一緒に《転移》した《分裂体(イズム)》。


「そこが何処だか、解るか?」(ヤマーダ)

(きった)ねー部屋っす、ってまた《転移》したっす!』(イズム)

 更に《転移》する不審者(ヤツ)


「まだ、追えてるのか?」(ヤマーダ)

『なんとかへばりついてるっすけど…』(イズム)


『げっ! また《転移》! …旦那…すまないっす…振り切られたっす』(イズム)


 間髪いれずに再々《転移》した不審者(ヤツ)


 不審者(ヤツ)の腰袋から振り落とされたイズムは取り残されてしまったようだ。


  3回連続《転移》!

  何者だよ不審者(コイツ)


「イズム、これはしょうがないさ。不審者(ヤツ)の方が用意周到だったんだよ。どうせこの先も《転移》を繰り返してるかもしれないしさ」(ヤマーダ)

『…旦那』(イズム)

 ヤマーダは左肩に乗っているイズムをそっと撫でる。


  これはしょうがない、

  しょうがないさ…


 そしてヤマーダは自分を落ち着かせる為に、もう片方の右手でネーコの頭も撫でる。


(あるじ)、今回はヤツが一枚上手だったと思うぞ」

 ターニャがヤマーダを心配して寄ってきたので、左手の仕事をターニャの頭を撫でることに変更し、右手は引き続きネーコを撫で続けた。


  そうだよなぁ、

  そうなんだよなぁ…


 こうしてスキンシップすることで、ヤマーダは少しづつ落ち着きを取り戻してきた。


「ねぇイズム、不審者(ヤツ)が2回《転移》した場所に《分裂体》はいるの?」

 現状を確認する為、ネーコが質問する。


(あね)さん、そっちは抜かりないっすよ』(イズム)

「今度、改めて時間を作ったら、その転移先を調査しなくちゃね」(ネーコ)


 今の話を聞いていたタツヤが、

「じゃあ、そっちは我ら《竜の守人》が調査しとくぞ」


「タツヤ、くれぐれも用心するのだぞ」

 クロードが即座に忠告する。


  でも、根本的な話

  不審者(ヤツ)って敵なのか?



 謎の不審者を取り逃がしたヤマーダ達。

 当初の目的へ戻り、北へと旅立つ。



活動内容一覧


ヤマーダPT

拠点:旅先を順次

ヤマーダ、ネーコ、リン、サリア、クロード、

イズム、ターニャ

・《北の里》訪問

・《食糧保管庫》の管理


《疾風の剣》

拠点:北国フィルドン→中央国ノルンnew

メリル、フィン、セシル、バード、キャロル

・武器、防具の仕入れ、作成、修理

・薬の仕入れ、管理

・たまにヤマーダ達の手伝い


《竜の守人》

拠点:《竜の洞窟》

タツヤ、ミナミ、カズヤ

・《竜の洞窟》の管理

・農場の管理

・牧場の管理

・牧草地の管理

・買い出し

・不審者《転移》先の調査new

・たまにヤマーダ達の手伝い


エル、ブラウニー達new

拠点:《空間魔法(マイホーム)

・マイホームの管理(メイド)

・円卓会議棟など、各施設の掃除



《空間魔法》一覧


ネーコの《空間魔法(サードホーム)

入口:《西の里》道中

・円卓会議棟


ヤマーダの《空間魔法(セカンドホーム)

入口:《西の里》道中

・マイホーム

・牧草地


リンの《空間魔法》

入口:《西の里》道中

・造林


ルルの《空間魔法》

入口:《西の里》道中

・食糧保管庫

・冷蔵室


サリアの《空間魔法》

入口:《西の里》道中

・農地


イズムの《空間魔法》

入口:分裂体(イズム)のいる各地、10ヶ所

・移動用ポータル


ターニャの《空間魔法》

入口:《西の里》道中

・未設定


エルの《空間魔法》

入口:《西の里》道中

・未設定


メリルの《空間魔法(ファーストホーム)

入口:ノルン道中

・《疾風の剣》宿舎建築中new


タツヤの《空間魔法(フォースホーム)

入口:《竜の洞窟》

・《竜の守人》宿舎建築中new

・農地new

・狩場new



----------

2週間後


北国ゲンク《西の里》道中


PT

ヤマーダ、ネーコ(人化)、イズム、

ターニャ(人化)


 ヤマーダ達は鬱蒼(うっそう)としたジャングルをただひたすら北上していた。


 その道中も勘が鈍らないように、タツヤ達《竜の守人》とリンの混成PT、サリアとルルとクロード三人の即席PT、これらのPTをローテーションして交互に戦闘を行っていった。


 (ちな)みにヤマーダとネーコ、ターニャ、イズムの四人は、戦闘参加メンバーとして固定されている。


「なぁ、イズム。あれから不審者(ヤツ)を見かけてないんだよな?」(ヤマーダ)


 あの後も、ヤマーダはイズムに定期的に魔族?の動向を調査させていた。


『そうっすねぇ、アッシの情報網も《分裂体》で結構、広がっているんすけどねぇ。全く見つからないっすねぇ』(イズム)


 《分裂体(イズム)》は町や洞窟、森や山など、50ヶ所に渡って広がっている。


『ヤマーダ、《聖水(おみず)》が飲みたい!』(角ウサギ)

「お前は中々(なかなか)か尻尾を触らせてくれないよな」(ヤマーダ)

 ヤマーダは角ウサギをモフりながら、《聖水》を飲ませる。


『アンタ、勘違いしないでよ。アタシ、そんなに気安くないわ!』(角ウサギ)


 モフりたい衝動に()られたヤマーダは、たまたま友好的だった角ウサギを仲間にし《モフリン》と名付け、モフモフ要員としていた。


「“生意気なのよね、あの(メス)は!”」(ネーコ)

 小声ながらも、プンプンが伝わってくる。


 そして、ネーコの頭も常に撫でている。



----------

 ヤマーダは不審者についての情報を整理してみる。


  不審者(ヤツ)の2ヶ所の転移先


  中央国(エスタニア)の東にある

  ザルツと言う炭鉱の町の廃屋と


  東国(テーベ)の首都アーセンの北にある

  レムと言う港町の空き家だったんだよなぁ


 タツヤ達《竜の守人》に不審者の転移先を追跡調査させた結果、転移先がそれぞれ別の国であることが判明していた。


 だが、不審者とおぼしき者の足取りはパッタリと途絶えていた。



『ヤマーダ、アタシもしっかり撫でなさいよ!』

 ネーコが《人化》を解いて、ヤマーダの首の定位置に巻き付いてくる。


「分かった分かった。そんなにカリカリしないでさぁ、ほら、《聖水》でも飲んでさぁ」(ヤマーダ)


 モフリンを仲間にしてからというもの、ネーコが《人化》を解いて、ヤマーダへ巻きつくことが多くなっていた。



----------

「…はぁ」

 ヤマーダは大きなため息をついた。


(あるじ)、ため息などついて、どうしたのじゃ?」

 ターニャは、少し元気のないヤマーダを心配している。


「この前さぁ、タツヤ達がエスタニアに追跡調査しに行ったろう…それで分かったんだけど。なんか俺、エスタニアの首都以外の町でさぁ、指名手配になっているみたいなんだよ」(ヤマーダ)

「…(あるじ)、もしやなにか悪いことでもしたのか?」(ターニャ)

「そ、そんなこと、するわけないでしょう!」(ヤマーダ)

 ターニャにも冤罪をかけられ、マジギレしている。


「善良な俺からさぁ、お金を盗んで殺そうとまでしたクソ連中がいてさぁ、そいつらが(アルト)の権力者とつるんで、俺を指名手配にしたらしいんだよ…エスタニアの国中だよ! 国中!」(ヤマーダ)


 ヤマーダが首都(ノルン)にいるとき、サリアによって冤罪は証明された。

 また、ニーバでもギルドの依頼をこなしたりして冤罪を証明した。


 しかし首都(ノルン)(ニーバ)以外では、相変わらず指名手配となっていたのだった。


「…はぁ、これも不審者(ヤツ)の仕業かなぁ?」(ヤマーダ)

『そんなの違うわよ。単にあの頃のヤマーダが無用心だっただけでしょ』(ネーコ)


 何でも不審者の仕業(しわざ)にするヤマーダに、ネーコは少し(あき)れ、少し楽しそうに返してきた。


不審者(ヤツ)のことだけど、名前が無いと呼びづらいし、ストーカーみたいだし、ストーってしない?」


 ヤマーダのどうでもいい提案を聞いて、

『へー、いいわね、面白いじゃない。そうしましょう』(ネーコ)



 ヤマーダのこういったところを、ネーコはなんだか憎めない。



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更に3日後


北国ゲンク《悠久の山脈》南側入口


 ヤマーダ達は、北国(ゲンク)を南北に分断する山脈の山裾へ到着していた。


 山脈は東西に向かって伸びており、端っこは全く見えない。


「これからどないするん?」

 サリアからストレートな質問が上がる。


「…ここを山登りするのは…ちょっと大変」

 リンの言う通り、山肌の傾斜は30度以上と非常にキツく、所々では滑りやすい岩肌も露出していた。


 そのため、登山するにしても、容易でないことは簡単に予想できた。


  トレッキングシューズや

  ザイル、ピッケルなんてないぞ!


『ちょっとアタシ、見てくるわよ』(モフリン)


 モフリンが《飛行》スキルで上空から調査に行ってしまった。



----------

数十分経過


 しんどそうな表情で、モフリンが帰ってきた。


『あー、疲れたわ』(モフリン)

「モフリン、お疲れさま」(ヤマーダ)


 ヤマーダは準備していた《聖水》をそっと渡し、疲労を回復させる。


『それで、どうだったのよ?』

 ネーコが尋ねると、

『向こうの方に山道みたいのが見えたわ』

 モフリンが東の方角を指差した。



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北国ゲンク《悠久の山脈》山道


 モフリンが見つけた山道は、蛇行しているので先があまり見えない。

 また、しっかりと整備されている訳ではないので、路上に石が沢山落ちており、デコボコしてとっても歩きづらい。

 ただ、それなりの道幅は確保されていた。


(あるじ)、これからの山道は道幅も広い。馬車をメインにした方が良さそうじゃぞ」(ターニャ)


  確かにそうだな


  …でも結構、デコボコだよ

  …馬車の振動で酔っちゃいそう


「悪くないね。ネーコ、それでいいかな?」(ヤマーダ)

『そうね、その方が良さそうね』(ネーコ)



 ターニャの提案でメンバーを入れ換え、馬車で山道の登り始めた。



----------

数時間経過


PT

ヤマーダ、ネーコ、リン、ルル、サリア、

クロード、ターニャ(人化)、イズム、

エル(人化)、モフリン


 ヤマーダ達は相変わらず山道を進んでいる。

 山道はつづら折りになっていて、上を見上げれば山頂が近くに見えているのに、なかなか登頂出来なかった。


  この山脈の魔物は、

  オーガ in オーガ

  rarely コカトライス

  or グリフォン 程度だ


  あー、英語懐かしい


 ヤマーダは、難関として名高い《嘆きの洞窟》を単独PTで踏破した為、山脈の魔物なんぞと(あなど)っていた。


『ヤマーダ、この山脈にいる魔物達は相当強いぞ。油断するな』(クロード)


  油断もなにも、瞬殺してますよ


「クロードさん、そんなに山脈(ここ)の魔物って強いですかねぇ?」(ヤマーダ)


 ほぼ一撃で討伐されていく魔物に、ヤマーダには脅威を感じる隙間がない。


『私達が苦もなく魔物達を倒しているように見えるのは、《支援魔法》と《空気使い》スキルで能力を強化されているからだ』(クロード)


 確かにクロードの言うとおり、支援(バフ)弱体化(デバフ)がなければ能力的には、ヤマーダ達と魔物達にそれほど差はない。


『私、個人の力ではまず勝てん。それほど、ここの魔物は強いのだ、忘れるなよ』(クロード)

「せやで」(サリア)


「なるほど、分かりました、サリア、クロードさん」(ヤマーダ)


 ヤマーダには異世界(こっち)で生活した経験がほとんど無く、考え方もまだまだ幼かった。


 そのため、クロードはヤマーダにとって、教師のような存在だった。


  現在のパーティー編成は、

  前衛と索敵に、リンとルル

  中衛と防御に、サリアとクロード

  遊撃に、イズム

  後衛に、オレとネーコ


  オレの護衛に、ターニャ

  愛玩動物に、モフリン


  そして紅茶を入れる、エル


  以上、最強の布陣だ



PT編成

前衛

 索敵・攻撃 リン、ルル

 遊撃    イズム

中衛

 魔法・防御 サリア、クロード

後衛

 支援・回復 ヤマーダ、ネーコ

 護衛    ターニャ、モフリン

 給仕    エル



  いつもの通り、

  オレはこの無駄に長い山脈に来てから

  魔物を1体も倒していない


  ターニャに至っては、

  オレ達の仲間に入ってから1度も

  戦闘に参加したことがない


  あぁ、それと、

  オーガってホントに強いみたいだ

  試しに、瀕死のオーガの止めを

  モフリンにさせたら、

  いきなりレベル MAX and 進化可能だって


  とりあえず、

  角ウサギ → 耳長ウサギ に進化した


  て言うか、進化かこれ?


  …まぁ、角が無くなって

  モフりやすくなったけど



----------

午後


《空間魔法》円卓会議棟


 一旦、《マイホーム》で昼食をとり、円卓会議棟で経過報告を行う。


 今回は、チャイルドメンバー全員出席しているので、人数も多い。


  おっ!

  タツヤ達もちゃんと《人化》してる


 円卓会議棟は《人化》が原則だった。



「では、始めるわよ」(ネーコ)


「師匠、無事《嘆きの洞窟》を抜けましたわ。今、(ニーバ)に滞在中です。それと、要所要所に《分裂体(イズム)》さんも配置しておりますわ」

 まず、《疾風の剣》代表のメリルから近況が報告された。


「ご苦労様、後で《空間魔法》の手解きをしてあげるから」(ネーコ)

「ありがとうございます! 師匠!」(メリル)


 メリル達《疾風の剣》はフィルドンから中央国(エスタニア)首都(ノルン)へ拠点を移すための旅をしている。

 その際、立ち寄った町や道中の要衝に《分裂体(イズム)》を配置することも役目の一つだった。


「メリルから見て、何か気になるようなことってあった?」

 ヤマーダの問いかけに、

「そうですわねぇ…あっ、そうそう、(ニーバ)でヤマーダさん達のお知り合いにお会いしましたわ」(メリル)


「えっ! 誰?」(ヤマーダ)

「《森の狩人》のセリアさんと《蒼天》ジン君ですわ」(メリル)


  誰だ?

  そんなヤツら知らないぞ


 ヤマーダが記憶の棚を家宅捜索している。


 サリアが気をきかせて、

「《森の狩人》は、ウチらと一緒にオーガを討伐した人らや。ほら、一緒にギルドのオッサンを助けたやんか」

「あーっ!」(ヤマーダ)


「《蒼天》は《嘆きの洞窟》でターニャに助けられとったエルフPTやろ」(サリア)

「そうだ! そんなこともあった!」

 やっとヤマーダの記憶の棚卸しが終わる。


「ところでメリルさぁ、(ニーバ)で俺って、指名手配になってたりしないよね?」(ヤマーダ)

 嫌な予感がしたので、再確認する。


「町への入口門やギルドでそんな話は聞かなかったわ」(メリル)

「よかった」(ヤマーダ)


「でも、(ニーバ)の領主は色々やってるみたいでしたわね」(メリル)

「まぁ、何処の領主もそんなもんやで」(サリア)


 ヤマーダに対する(ニーバ)の実情は確認できた。



 《疾風の剣》から活動と(ニーバ)近況の報告が終わった。



 話題は変わり、

「タツヤ達は、一緒に戦闘してるし、ちょくちょく会ってるから、特に報告ってないよなぁ?」(ヤマーダ)

「あぁお(かしら)、大体は問題無いな」(タツヤ)

「んっ?」(ヤマーダ)


 タツヤが何か引っ掛かった物言(ものい)いをする。


(ちな)みに、細かい問題は何かあるってことなの?」

 気になって、ネーコが尋ねると、

「あ、あぁ、新しく仲間にした連中が…いるんだが…」(タツヤ)


  へぇ、いつの間に


「元からいる連中と色々揉めてな…」(タツヤ)


 タツヤに詳しい話を聞いてみると、仕事の良し悪しの違いと、誰がリーダーなのかでギスギスしているらしい。


「まぁ、元々オークは縄張り意識が強いからな、どうしたもんか…とな」(タツヤ)



 ヤマーダの膝の上に座るネーコの頭を撫でながら、ヤマーダも一緒に考えてみることに。



 《ホーム》の施設や設備を充実させるため、タツヤ達《竜の守人》には魔物の仲間を募集してもらっている。


 ヤマーダ達はサリアの提案で、新しい作物の栽培や、牛・馬・豚・山羊・鳥などの家畜の世話など、手広く始めるようになっていた。


 その結果、農場や牧場での仕事が増えてしまい、単純に魔物手(ひとで)が不足してきたのだ。


 そこにきて、新しい従業員と古参の従業員の確執である。


「なんや、吸収合併された社員さんが、合併元に出向(しゅっこう)せなあかん感じやん」(サリア)


「うーん、もしかしてタツヤは、前からいる仲間と、新しく加わった仲間に同じ仕事をさせているのか?」(ヤマーダ)

「当たり前だお(かしら)、差を付けない方が良いに決まっているだろう?」(タツヤ)


  いやいや、そりゃ、駄目だろう

  プロとアマチュアを同じに扱うとは…


  少年野球で言ったら

  小学生1年と6年が同じチームみたいな


  いやもっとかなぁ


  F1レースに、三輪車で出る感じ?


「タツヤ、どうせなら農場と牧場の作業を新旧で分けてみるとか、敷地が広いならエリアで分けるとかしてみたら?」(ヤマーダ)

「…なるほど」(タツヤ)


「確かに一遍(いっぺん)に教える方が、タツヤにとっては楽だろうけど、オークロードでも個々で性格って違うんでしょう?」(ヤマーダ)

「あぁ」(タツヤ)

「そうですね」(ミナミ)


「だったら、仲間を無理やり一括(ひとくく)りにしなくてもいいんじゃないの?」(ヤマーダ)

「せやな、学校や会社みたいなちんまい空間で作業せなあかん訳やない。《空間魔法(こっち)》にはぎょーさんの土地もあるんやし」(サリア)


 タツヤは少し考えて、

「…言われてみるとその通りかもしれん。これからはそうやってみる」



 こうして、定期的な報告会も終わり、山登りを再開する。



----------

そんなこんなで1週間後

午前も終わり頃


北国ゲンク《悠久の山脈》山道


PT

ヤマーダ、ネーコ(人化)、リン、ルル、

サリア、クロード、ターニャ(人化)、

イズム(人化)、エル(人化)、モフリン


 標高1200m。

 ヤマーダ達は昼食の時間の少し前に無事、山頂まで登頂することに成功した。


 (いただき)といった明確な天辺(てっぺん)はなく、(みね)が稜線として、ただただ長く、だらだらと続いているだけであった。


 ただし、山頂(ここ)からの見張らしは最高だ。

 はっきりとした晴天。

 山頂(ここ)の周りに樹木が全く生えておらず、裾野の方まで視界を遮るものがない。

 また、この景色に、眺望を妨げる無粋な人工建造物の姿も存在しない。

 もしかしたら、天体望遠鏡を使えばエルフ達の建物が見えるかもしれないが、肉眼での確認はとても困難だった。



「ヤッホー!」(ヤマーダ)


 テンションの上がったヤマーダが、早速山彦に挑戦する。


 しかし、

「…帰ってこない」(ヤマーダ)


「ヤマーダはん、ここは一直線状の山脈やし、向こうにも(ヤマ)さんがおらんと、こだまは返らへんのとちゃうんか?」(サリア)

「確かに」(ヤマーダ)


 サリアにもっともな指摘をされ、項垂(うなだ)れる。


「ねぇ皆、今日はここで昼食にするわ」(ネーコ)

 せっかちなネーコの性格からすると、意外な提案。


「うん! アタイもここで食べたい!」(ルル)

「せやったら、メリル達も呼ばへんか?」(サリア)

「アッシはタツヤさん達を連れてきますね」(イズム)



 山頂での大所帯ランチパーティーが始まる。



----------

昼食中


PT

ヤマーダ、ネーコ(人化)、リン、ルル、

サリア、クロード、ターニャ(人化)、

イズム(人化)、エル(人化)、モフリン

《疾風の剣》メンバー

《竜の守人》メンバー


 ヤマーダが無印の熟成生ハムを頬張っていると、これから向かう山道を男女6人のパーティーが登ってきた。


「“…ヤマーダ、(アイツ)らに気をつけて!”」

 明らかに警戒したリンから、小声で注意を受ける。


 登頂した男女PTの代表とおぼしき青年が近づいてくる。


 青年は高そうなミスリルの装備を身に(まと)っており、身長は180cm位と長身で、茶色い短髪の清々しい容姿だった。


「やぁ、初めまして」(青年)

「はっ、初めまして」(ヤマーダ)


「俺はオーウェン」(オーウェン)

「ヤ、ヤマーダです」(ヤマーダ)


 初の真面(まとも)っぽい冒険者に、終始押され気味のヤマーダ。


「《自由の翼》というPTのリーダーで、一応勇者もやっている」(オーウェン)

「お、俺もこのPTのリーダーです」(ヤマーダ)


 二人はなんとなくの流れで握手する。


「いやー、勇者様ですかぁ。本物の勇者様って、始めてお会いしましたよ」

 勇者に会って興奮ぎみのヤマーダ、意外とミーハーだ。


「ほーう、中々美味しそうだね。お金を払うので、俺達にもその料理を頂けないかな?」(オーウェン)

「そんなそんな、別に無料で構いませんよ。ルル、彼らの分もお出しして」(ヤマーダ)

「ちょっとヤマーダ!」(ネーコ)

「えーっ!」(ルル)


 ルルはとても分かりやすい性格をしていて、仲間とそれ以外では態度があからさまに違う。


「まぁ、構わないけどさ…ただ、有り合わせになるからね」

 下手に出たヤマーダの態度に不満顔のルル。



 食事を人数分用意して、《自由の翼》に配膳していく。


「…確かに旨い」

 早速、黒髪の女性が一口運び、小さく唸る。


 その女性の動向を、ターニャは眼を細めて観察していた。


「あのぅ、オーウェンさん達はこの先へ何か用事があったんですか?」(ヤマーダ)

「あぁ、ちょっとした確認で訪れたんだよ」(オーウェン)


「もしかして、勇者の仕事ってヤツですか?」(ヤマーダ)

「それは教えられません!」

 オーウェンの隣に座っている同じく黒髪の女性が代わりに拒否してきた。


「“おいっ! ヨシュア”」(オーウェン)

「“かまわないわ!”」(黒髪の女性)

 二人はヒソヒソと話している。


「では、もしかして、アヤカシギツネの里をご存知ですか?」(ヤマーダ)

「さ…さぁ、知らないなぁ。(みんな)は知ってるか?」(オーウェン)


 《自由の翼》の他のメンバーに確認するが、肯定的な回答は出なかった。


「“なんやコイツら、誤魔化しおって。《真贋の目》がビンビン反応しとるんやでぇ”」

 サリアも勇者(オーウェン)達を警戒し始めた。



----------

 その後、勇者一行はさっと食事を終える。


「ヤマーダ、君のパーティーは大所帯なんだね」(オーウェン)

「え! えぇ」(ヤマーダ)


(ちな)みに聞くんだが、この先へは何をしに行くんだ?」(オーウェン)


「それは…」(ヤマーダ)

 オーウェンの質問に、ヤマーダが返事をしようとした時、

「この山の魔物達の生息調査よ」

 ネーコが速攻で答えをはぐらかした。


  ネーコ、何で嘘を?


「“なんだ? なんで勇者様に嘘なんか…”」

 ヤマーダは怪訝(けげん)な顔をして、小声でリンに囁く。

「“…勇者が先に嘘をついた”」(リン)

「えっ!?」(ヤマーダ)

 思わずヤマーダの口から驚いた声が漏れた。


  どういうことだ?


「なるほど…魔物の調査…」(オーウェン)

「えぇ」(ネーコ)

「せや」(サリア)


 三者三様の表情をしている。

 よく見ると、サリアの顔色が青く緊張しているようだ。


「それはそれはご苦労様。お互い頑張ろう」

 オーウェンは含みのある言い方をしてくる。

「そうね」(ネーコ)

「せやな」(サリア)


「…じゃあ、俺達はこのへんで、お(いとま)するよ」(オーウェン)



 そう言い残すと、《自由の翼》はヤマーダ達が来た方向へと下山していった。



----------

昼食後


「なぁ、ネーコ。なんであんな適当な嘘をついたんだ?」

 ヤマーダはネーコの言動が府に落ちない。


(あるじ)、それはなぁ…」

 ターニャから説明をはじめる。


「さっきの勇者(オーウェン)なんじゃが、不審者(ストー)と同一人物じゃと思えたからじゃよ」(ターニャ)

「えぇー!」

 驚いた声を上げたのは、ヤマーダだけだ。


  あれ?

  (みんな)は気づいていたの?


「どうして、(みんな)はそんなことが判るんだよ?」(ヤマーダ)

「旦那、勇者(ヤツ)を《鑑定》しなかったんすか? 勇者(ヤツ)自身が名乗った《勇者》ってこと以外、全く確認できないっすよ」(イズム)

「せや。ホンマに勇者なんかもホラ吹いとるんちゃうか」(サリア)

 まだ、サリアの顔色は元に戻っていない。


「えーとっすねぇ、《認識阻害》スキルは間違いなく持ってるっすよ。あと、アッシが前に見た不審者(ストー)と似た雰囲気だったんす」(イズム)


 イズムの報告の他にも、

(あるじ)、ワシの《竜眼》で確認したんじゃが…」(ターニャ)

「えっ! 確認できたの?」(ヤマーダ)


 《竜眼》というスキルは《鑑定》の上位互換のようなスキルで、《認識阻害》などの阻害系スキルの影響を受けない。


「《認識阻害》の他に、《鑑定》、《収納》、《誤認》、《転移》、《危険予知》なんてスキルも持っておったのぅ」(ターニャ)


  そんなに持ってんの!


(あるじ)は顔に出るタイプじゃし、(あるじ)以外には、ワシからこっそり《念話》で伝えたんじゃ」

 ターニャからの身も蓋もない告白。


  えーー!

  オレ、そんなに顔に出るのか?


 ヤマーダ的には仲間外れにされたことよりも、ポーカーフェイスを疑われたことの方がショックのようだ。


「それにのぅ、連れておった《自由の翼》のメンバーも相当胡散臭いぞ」(ターニャ)

「せやな」(サリア)


「まず、昼食に感心しておった黒髪の女性は、間違いなくワシらと同じエンシェントドラゴンじゃ。しかも、ワシの見知った顔のような気もしておる」(ターニャ)

「私もです」(エル)


「エルフの《賢者》も連れておったのぅ」(ターニャ)

「《賢者》!?」(ヤマーダ)


「それに《調停者》もおったぞ」(ターニャ)


  《調停者》?


「ヤマーダはん、勇者(ヤツ)と事を構えるにしても、今やったらとても無理やで。勇者(ヤツ)を相手するんはものごっっつぅ準備せんと、勝たれへんで」

 説明するサリアの顔色は、未だに優れないようだ。


  うん?

  なんで勝つこと前提なんだ?


「…わたし達には、《認識阻害》と《誤認》がある…《鑑定》されないから…勇者(あっち)には、わたし達の情報は判らなかったはず。…けどヤマーダ、直接こっちに探りを入れてくる…勇者の度胸は相当なものよ」(リン)


 リンは勇者(オーウェン)の行動を冷静に分析していた。


  リンも敵認識してるの?


「イズム、さっき頼んでおいた、勇者(ヤツ)の追跡はどうなったの?」(ネーコ)


  おい!

  いつの間に、頼んだんだよ!


勇者達(ヤツラ)、アッシらと別れた後、直ぐに《転移》したっすね」(イズム)


  《転移》!?

  それって不審者(ストー)と同じか!


  いや、そもそも、

  不審者(ストー)って敵なのか?


「多分ここはアーセンって街っすね。前に不審者(ストー)を見失った場所の感じに近いっす」

 イズムは《分裂体》による尾行を見事に成功させていた。



 不審者(ストー)の正体が人間の勇者?オーウェンであろうと想定し、ネーコ達はチャイルドパーティー2組と共に勇者対策へと動き出した。



----------

10日後


北国ゲンク《悠久の山脈》北側入口


 山頂から北に向かって山道を下り、10日が経過した頃、やっと北側の山裾まで辿り着いたヤマーダ達。



 ヤマーダ達が《北の里》らしき開けた場所に到着すると、一面焼け野原の状態になっていた。






ステータス一覧

(9話からの変化)


ヤマーダ

職業・農民(Lv7→10)、商人(Lv5→10)

   武器職人(Lv6→10)

   竜の使徒(Lv1→5)new

   防具職人(Lv1→5)new

   染織職人(Lv1→10)new

ギルドP・B

レベル・19→21

魔法・同時魔法(Lv1→5)new

スキル・言語理解(Lv8→9)、耕作(Lv7→10)

    連作回避(Lv7→10)

    品種改良(Lv7→10)

    交渉(Lv5→10)、商売(Lv5→10)

    値切り(Lv5→10)

    武器錬成(Lv6→10)

    武器強化(Lv6→10)

    武器修繕(Lv6→10)

    並列思考(Lv1→5)new

    高速思考(Lv1→5)new

    防具錬成(Lv1→5)new

    防具強化(Lv1→5)new

    防具修繕(Lv1→5)new

    明瞭彩色(Lv1→10)new

    保護彩色(Lv1→10)new

    脱色(Lv1→10)new


ネーコ

職業・僧侶(Lv7→10)、薬師(Lv1→7)new

レベル・30→32

魔法・空間魔法(Lv8→9)、回復魔法(Lv7→10)

   支援魔法(Lv7→10)

スキル・支配の眼(Lv2→4)、人化(Lv6→7)

    変化(Lv6→7)、瞑想(Lv7→10)

    薬草採取(Lv1→7)new

    調合(Lv1→7)new

    薬効向上(Lv1→7)new


リン

職業・探検家(Lv9→10)、騎士(Lv1→6)new

レベル・31→38

スキル・罠外し(Lv9→10)、交渉(Lv9→10)

    隠密(Lv9→10)

    薙ぎ払い(Lv1→6)new

    急所突き(Lv1→6)new

    浄化(Lv1→6)new


サリア

職業・召喚士(Lv7→10)、僧侶(Lv1→6)new

レベル・30→34

魔法・召喚魔法(Lv7→10)、光魔法(Lv7→10)

   闇魔法(Lv7→10)

   回復魔法(Lv1→6)new

   支援魔法(Lv1→6)new

スキル・瞑想(Lv1→6)new


ルル

種族・ゴブリナシェフ→ゴブリナロードnew

職業・料理人(Lv6→10)、騎士(Lv1→6)new

レベル・27→40→1→30

スキル・料理(Lv6→10)、発酵(Lv6→10)

    熟成(Lv6→10)

    薙ぎ払い(Lv1→6)new

    急所突き(Lv1→6)new

    浄化(Lv1→6)new


クロード

職業・戦士(Lv6→10)、魔法使い(Lv1→3)new

レベル・30→35

魔法・火魔法(Lv1→3)new

   水魔法(Lv1→3)new

   風魔法(Lv1→2)new

スキル・突き(Lv6→10)、旋回切り(Lv6→10)

    身代わり(Lv6→10)


ターニャ

職業・戦士(Lv3→4)

スキル・突き(Lv3→4)、旋回切り(Lv2→3)

    身代わり(Lv2→3)


イズム

職業・僧侶(Lv2→8)

レベル・2→34

魔法・回復魔法(Lv1→8)、支援魔法(Lv1→8)

スキル・能力吸収(Lv2→3)、瞑想(Lv2→8)


エル(12話からの変化)

職業・家政婦(Lv1→10)new

スキル・竜眼(Lv4→5)、鑑定(Lv5→6)

    裁縫(Lv1→10)new

    洗濯(Lv1→10)new

    掃除(Lv1→10)new



名前・モフリン

種族・角ウサギ→耳長ウサギ→川ウサギ

年齢・10歳女


職業・無職(Lv-)、索敵技士(Lv1→10)

   漁師(Lv1→3)


レベル・2→40→1→20

体力・104(+13)

魔力・87

攻撃・78(+19)

防御・77(+5)

知識・91

敏捷・132(+35)

運・95(+40)


人化時装備・かわいいピンクの多節杓+10

      (攻撃+13)

      かわいい水色のポンチョ+4

      (防御+5)

      かわいい水色のサンダル+4

      (敏捷+5)


魔法・なし


スキル・健脚(Lv4→10)、宿泊回復(Lv-)

    時間回復(Lv-)、スキル補正(Lv-)

    索敵(Lv1→10)、デブリ(Lv1→10)

    消音移動(Lv1→10)

    釣り(Lv1→3)、投網(Lv1→3)

    潜水(Lv1→3)


所持金・0G

所持品・(《収納》内を除く



活動内容一覧


ヤマーダPT

拠点:《北の里》付近

ヤマーダ、ネーコ、リン、サリア、クロード、

イズム、ターニャ、モフリンnew

・《北の里》訪問→滞在中new

・《食糧保管庫》の管理


《疾風の剣》

拠点:中央国ノルン

メリル、フィン、セシル、バード、キャロル

・武器、防具の仕入れ、作成、修理

・薬の仕入れ、管理

・たまにヤマーダ達の手伝い


《竜の守人》

拠点:《竜の洞窟》

タツヤ、ミナミ、カズヤ

・《竜の洞窟》の管理

・農場の管理

・牧場の管理

・牧草地の管理

・買い出し

・たまにヤマーダ達の手伝い


エル、ブラウニー達

拠点:《空間魔法(マイホーム)

・マイホームの管理(メイド)

・円卓会議棟など、各施設の掃除

次話は北の里です。

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