洞窟探検4日目(最終日)
洞窟編完結です。
翌日
北国ゲンク《竜の洞窟》最深部付近
パーティー(PT)
ヤマーダ、ネーコ(人化)、リン、サリア、
ルル、クロード(人化)、ターニャ(人化)、
イズム(人化)、
《疾風の剣》メンバー
《竜の守人》メンバー
ヤマーダ達は最深部手前まで来ていた。
ここまで来ると、洞窟の形状が一本道の通路から、広間のような大空間に変わり、所々建物が建ち並んでいて、地下都市のように見える。
中央の一番奥には、遠目だが祭壇が薄らと見える。
「なぁ、タツヤ達は竜神様に会ったことって有るのか?」(ヤマーダ)
『あぁ、お頭、何度か拝見したことはあるぜ。だが、俺達は竜神様の言葉が話せない。だから直接、会話したことはないな』(タツヤ)
竜って、念話とか出来るんじゃないの?
タツヤの話からすると、どうも竜神は社交的なタイプではなさそうだった。
「ターニャ、今ので何か判ったか?」(ヤマーダ)
「今のところ、よく分からんな。出会った時のヤツの強さからすると、エンシェントドラゴンとは思うんじゃが、多分若い個体なのじゃろう。ワシもよく知らないな」(ターニャ)
会話が通じるか分からない、っと
「この前はいきなり攻撃してきたけど、このまま何の準備もしないで大丈夫なのか?」(ヤマーダ)
ターニャからの詳しい情報も無く、ヤマーダは不安になってきた。
「なぁ、主。ヤツは…我らを襲うつもりなぞ、なかったかもしれんぞ」(ターニャ)
「じゃあ、何で? 攻撃してきたのに?」(ヤバい)
「主。そのことなんだが…もし、ワシが本気で攻撃したら、どうなると思う?」(ターニャ)
どうなるって…
えーと、
オレの、攻撃は 91 で
ターニャの、攻撃は 823 だから…
823 !?
ターニャの言葉で、やっとヤマーダは竜族の強さが桁違いだと気づく。
「…もしかして、ターニャが本気を出せば、世界を破壊できるぐらい凄いのか?」
「今まで、本気を出したことは無いが…多分、大陸程度なら消し飛ばす事ぐらいは出来よう」
マ、マジかよ!?
「じゃあ、もしかして、目の前を飛竜が通り過ぎただけで、サリア達は大怪我したってことなの?」
ターニャの話にネーコが割り込んできた。
自動車に轢かれた、みたいな
「そうかもしれん、と言うことじゃ」(ターニャ)
飛竜と同じ竜族ターニャの意見に、ヤマーダ達のテンションは一気に下がった。
「…お、おいおい、そんなバケモノ…俺達でどうすんだよ?」
バードは完全に戦意を喪失してしまう。
こらゃあ、ダメな空気だな
…空気…そうか!
ヤマーダはリラックスする《聖気》で皆の周囲を満たし、不安を取り除こうと試みる。
バードの青ざめた頬に少し赤みがさした。
何とか、不安を減らさないと!
「なぁ、皆。とりあえず竜神様に会ってさぁ、話しを聞いてみようよ。もし、悪気がなければ、案外簡単に解決出来るかもしれないしさ」
楽観的な解決策を提案するヤマーダ。
一度、沈んだ気持ちを引き戻せるか?
「ヤマーダ、もし話の通じない飛竜だったらどうすんだよ?」
尚も、バードは否定的だ。
「確かに対策は必要ですね」(フィン)
…しょうがない
「その時はターニャ頼む! 助けてくれ」(ヤマーダ)
「うーむ…」(ターニャ)
ターニャは良いとも悪いとも言わない。
そんな重い雰囲気を、
「…わたしはヤマーダの意見が正しいと思う」(リン)
「ヤマーダの言うことに一理あるな」(クロード)
「…」バード
バードの表情に、いつもの余裕が表れてくる。
リンとクロードの二人がヤマーダの意見に賛成したので、バードの不安が軽減されたようだ。
「アタイも構わないよ」(ルル)
「アッシはどこまでも旦那にお供します」(イズム)
ルルとイズム(人化)の二人は、まずヤマーダの意見を反対しない。
「…主がそう申すなら…」
やはり、ターニャは乗り気じゃない。
「なぁターニャ。もしもの時は、少しでいいから手伝ってくれよ?」(ヤマーダ)
肩や腕を揉んだり、頭を撫でたりしてターニャの機嫌を取ってみる。
「…ぅむ…まぁ、今回はワシら竜族が絡んでおるしな。よかろう、主の命に危険が迫ったら、手助けしてやろう! (まぁ、そんな心配もいらんと思うがな)」
渋々、ターニャが了解してくれた。
こうして、助っ人ターニャの参戦も決まる。
「分かりました。私達も微力ながら助成します」(メリル)
『ヤマーダ、竜神様は俺達に任せろ』(タツヤ)
チャイルドパーティー達も参戦する。
後はこの二人か…
「なぁ、ネーコ、サリア」(ヤマーダ)
「何よ?」(ネーコ)
「…」(サリア)
「竜神様と戦うことが目的じゃないんだ」(ヤマーダ)
「…そうね」(ネーコ)
「確かになぁ」(サリア)
「フィルドンからの依頼でもあるんだしさ。まず、竜神様と話してみようよ」(ヤマーダ)
ヤマーダはネーコとサリアの頭を撫でながら懇願する。
「しゃーないな。でもヤマーダはん、もしもの時はしっかりウチを守ってーな」(サリア)
「あぁ、任せろ!」(ヤマーダ)
「分かったわ。ただし、ヤマーダはくれぐれも油断しないのよ!」(ネーコ)
「…はい」(ヤマーダ)
…ネーコ、一言余計だよ
ヤマーダ達の思いが一つになった。
「じゃあ皆、竜神様の元へ行くわよ!」(ネーコ)
ネーコの掛け声で、竜の洞窟最深部の祭壇に向かうヤマーダ達。
洞窟探索も最終章に…
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北国ゲンク《竜の洞窟》祭壇
古ぼけた祭壇には、お供えの水樽が沢山積み上がっていた。
その水樽の奥に、8メートルは超えるであろう首の長い蒼竜が目を閉じ、横たわっている。
「(ほぅ)」
蒼竜を見たターニャは、少し微笑んでいるようにも見える。
コ、コイツは!
ターニャを想像通りの竜姿とすると
竜神様は翼竜って感じだな
トカゲ顔のプテラノドンかな
蒼竜は侵入者に気づいたのか目を開けると、ヤマーダ達一人一人に視線を泳がした。
どうやら、ヤマーダ達を観察しているようだ。
そして、長い首を一気に持ち上げる。
デ、デカイぞ!
あまりにも巨大な首に、内心ビクビクのヤマーダ。
『なんだ、人間ども! 私に何か用か? (コヤツらが例のサルどもか?)』
ゆっくりとした口調で口を開く蒼竜。
ターニャに比べれば少し劣るかもしれないが、それでも蒼竜の威圧感は半端ない。
「う、う、うぁ…」
バードの足腰は、ブルブルと震えている。
よ、よ、よし…
ビ、ビビるな、オレ!
「お、俺はヤマーダ、あ、あなたが竜神様ですか?」(ヤマーダ)
声が度々(たびたび)裏返っている。
『竜神? 私はエル…うん…そういえば、爺さんがそんな風に呼ばれていたような…』
蒼竜からの返事の感触は、思っていたよりも悪くない。
「フフッ」(ターニャ)
そしてどうやら、竜違いのようだ。
雌の竜なのか
「え、えーと、エルさんは、ここで生活をしているんですかねぇ?」
まだ少し、ヤマーダの緊張は続いている。
『えぇ、かれこれ30年程ね。爺さんからこの塒の管理を頼まれたのよ (この女性…)』
エルは、何度もターニャと視線を交錯させていた。
「フフッ」(ターニャ)
会話をしてみると、悪い竜じゃなさそうと分かる。
30年の間、
ここにはコイツしかいないの?
って事はやはり、
オレたちを襲った?のは
コイツで間違いなさそうだ
「こ、この前、洞窟の外のジャングルを急いで移動してましたよね? な、何かあったのですか?」
ヤマーダが確信に迫る質問をする。
『あぁ…ある魔族と会ってね』
蒼竜の雰囲気が少し変わった。
『その魔族が言うには、アヤカシギツネを連れた人族の一行が、この大地に災いを振り撒いているって話よ』
ヤマーダ達をギロリと睨む。
それってどう考えても、オレ達だろ
…にしても、魔族かよ!
『それは、アタシ達の事のようね』
悪びれる様子もなく、ネーコは《人化》を解いた。
『では、お前達が災いの元凶か!?』
アヤカシギツネを凝視するエル。
身体から急激な威圧感が漏れだした。
「ムッ! (やれやれ)」(ターニャ)
「ヤバい、ヤバいんじゃないのか?」(バード)
「ヤマーダ、殺るの?」(ルル)
「…ちょっと無理!」(リン)
「アカンやん! ヤマーダは~ん!」(サリア)「師匠、何でそんな事を!」(メリル)
「だ、旦那~、ヤバいっすよ~」(イズム)
「「もうダメよ!」」(セシル、キャロル)
「アワワワ…」(フィン)
ヤマーダ達の精神は崩壊寸前だ。
そこへ、
『おいおい、それは話が違うじゃろう。そもそも主達は、災いを振り撒いてなどおらんぞ』
《人化》を解き、古竜に戻ったターニャ。
『エル、もしやワシまで災いなのか?』
そうターニャが説明すると、
『ま、まさか…そのお姿! 闇の竜姫、ターニャ姫様でいらっしゃいますか?』
エルの態度が急変する。
「うむ、今はヤマーダ殿を主と仰いでおる」
再び《人化》したターニャがヤマーダにそっと抱きついた。
そんなターニャの態度をみて、
「もしかして、ターニャって結構有名な竜なのか?」
ヤマーダが気さくにターニャへ話しかける。
すると、
『おい、キサマ! 姫様に失礼だぞ!』
エルからこっぴどく叱られる。
「じぁあ、これからターニャ様って呼ぶか?」
真顔で問いかけるヤマーダに、
「主、コイツの言うことなど真に受けんで良い! 今まで通り、呼び捨てで頼むのじゃ」
ターニャは気さくに応じてくれる。
「そう? ターニャもそう言ってるし、エルも良いだろ?」
ヤマーダが問いかける横で、ターニャはエルを鬼の形相で睨み付ける。
『うっ! …姫様がそう仰るのでしたら』
従うしかない立場のエルだった。
「フ~…何とか助かったぁ…」(バード)
ヤマーダ達は竜姫の機転?のお陰で、無事竜神との戦闘を回避した。
場が収まったところで、
「なぁエルはん、どないな訳でウチらに攻撃してきたん?」
被害者であるサリアの疑問には棘があった。
『何を言っているんですか? 私が姫様達を襲う訳がありません!』(エル)
キッパリと否定した。
「エル、実はのぅ。ジャングルでお主に会うた時、主の連れのサリアがお主に大怪我させられてのう。ワシらは理由を確かめに、ここまで来たのじゃ」(ターニャ)
『そのような事が…』(エル)
ターニャの発言にエルは明らかに狼狽えた。
『大変、申し訳ありません!』
エルは長い首を下げ、所謂土下座をしている。
『私は迂闊にも魔族の口車に乗ってしまい、洞窟が気になるあまり、戻ることで頭が一杯になってしまいました!』(エル)
土下座は伏せまで下がっている。
このままだと、
エルの身体は地面にめり込んでいくぞ!
「なぁ、サリア」
早速ヤマーダは、サリアの頭を撫で始める。
「ちょっとした誤解のようだし、エルを許してあげようよ。このままだと、エルの身体が地面にめり込んで、マントルまで行っちゃうよ。ほら、《聖水》でも飲んでさぁ、機嫌直してよぉ」(ヤマーダ)
《聖水》を渡すと、サリアを撫でたり、耳に息を吹きかけたりして宥めてみる。
次いでに、他のメンバーへも《聖水》を忘れない。
「こしょばいてぇ!」
ヤマーダの密着プレイに、流石のサリアも照れてきた。
「プハァ~! いやぁ、旦那の《聖水》は別格っすねぇ」
セシルとキャロルに抱きつかれているイズムは、我関せず。
お前、空気読まないねぇ
イズムの豪快な飲み姿に、エルも恐る恐る口をつけ、
『…旨っ! この《聖水》旨すぎる! (もしや?)』
ヤマーダを繁々と見て、エルは何かに気づいた。
「んっ! エルも気付いたようじゃな」
そんなエルの反応に、ターニャは満足げだ。
『ヤマーダ様、私も姫様に同行したいんですが、構わないでしょうか?』
しおらしくなったエルが、同行を希望してきた。
「うーん…皆に聞いてみないと分からないけど…そもそも、竜神がここを離れても問題ないの?」
ヤマーダはもっともな理由を口にした。
『ん? 何を言ってるんです? 竜神は私の爺さんであって、私ではありません』(エル)
「そうなの?」
管理を任されたんじゃないの?
ヤマーダはエルの無責任な言動に、
「でも、ここの管理を頼まれたんでしょ?」
『えぇ。ですが、既に30年も管理しておりますから、私の役目は終わりました』(エル)
えっ?
《竜の洞窟》に竜がいなくてもいいの?
何か詐欺じゃねぇ?
「タツヤ達はいいのか? 代理だったとは言え、この洞窟から竜がいなくなるぞ」(ヤマーダ)
『我らは構わんぞ。竜神様に遣えているわけでも無いしな』
意外なほど、タツヤはアッサリしている。
どうやら、エルがこの洞窟から出ていっても、別に問題なさそうだ。
「皆はどう?」
「反対だわ! ヤマーダ、前にも言ったけどパーティーメンバーはもう充分なの。これ以上増えると連携が取れなくなるわ」
ネーコがもっともな意見で反対する。
こりゃ、
ただの仲間ってのは許してくれそうにない
何かしら、
エルの利用価値が必要だな
…よし、この手でいくか
「確かにネーコの言う通りだね」(ヤマーダ)
「だったら、エルの仲間入りはなしで…」
ネーコに被せるように、
「ただ、スタメンだけでいいのかなぁ? ほら、補欠もいた方がいざって時に、役立つと思わない」(ヤマーダ)
「う~ん、そう言われると、そうかも…」(ネーコ)
ネーコの頭を撫でながら、上手く誘導する。
よし! もうひと押しだな
「エルはさぁ、家事とかはできるの?」(ヤマーダ)
『はい、竜族の中でも飛竜の私は器用な方ですから、なんの問題もありません』(エル)
「なら、俺達がピンチの時は、積極的に助けるってことで、普段は空間魔法の管理を頼めるか?」
『それなら、構いません』
「どう、ネーコ! これならいいでしょ」(ヤマーダ)
もしも話も挟み、エルの必要性をまとめると、
「うん…確かにメイドが欲しいと思っていたし、しょうがないわね。認めるわ」
ネーコもようやく納得してくれた。
「エル、これからよろしくね!」(ネーコ)
“エルが使役された”
“エルと思考パスが繋がった”
“エルがパーティーに加わった”
“エルの魔法・スキルが共有された”
おぉ、
ターニャのときは駄目だったけど
竜族の魔法とスキルが共有されたぞ!
“古竜を完全に従えたため《竜の使徒》へ転職が可能になりました”
“《竜の使徒》に転職しますか?”
おぉ、
こいつは多分、レアな職業だな
転職、転職っと
“ヤマーダは《竜の使徒》に就きました”
ん?
あれ?
ヤマーダ
職業・竜の使徒(Lv1)new
これだけ?
…何も変わらん
竜の使徒・
古竜と心を通わせた、竜の良き理解者。
レベルが上がると、古竜の秘術《同時魔法》、《並列思考》、《高速思考》を使えるようになる。
能力補正は全能力値、Lv×5。
ただし、能力補正はLv5以上に到達した場合に限られる。
レベルが上がると、か
つまり、今は意味ないのね
ヤマーダが肩透かしを食らっている内に、
「これが《人化》ですか」
早速、使いこなす蒼い髪、美少女エル。
外見は高校生くらいだろう。
切れ長の目が、やり手社長の雰囲気を醸し出している。
場の空気をぶち壊すように、
「そろそろ昼食だよ!」
ルルがいつものように昼食の合図を送ってきた。
それを待っていたかのように、《空間魔法》に入っていくメンバー達。
「ほれ、エルも行くぞ」(ターニャ)
「はい! 姫様!」
エルの返事は、嬉しさで少しだけ周りよりも声が大きかった。
こうして、ターニャの先導でエルも無事、マイホームの地を踏むことができたのだった。
ヤマーダは、そっとサリアに近づき、
「なぁ、さっきは気を使ってくれてありがとうな、サリア」
ヤマーダはサリアに優しく礼を告げる。
エルと接するサリアの小刻みな震えを見逃さなかった。
「さ、さぁ、気にせんと、ランチやランチ」(サリア)
今までのエルとのやり取りと、最後のヤマーダの言葉で、サリアのトラウマはだいぶ解消されていた。
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昼食後
《空間魔法》サードホーム〈円卓会議棟〉
ヤマーダ達は食後の休憩も兼ねて、サードホームの円卓会議棟で意見を交わしていた。
サードホームとはネーコの《空間魔法》を利用した異空間のことだ。
席次は決まっていて
まず、オレ が入り口から奥の中央の席
そして、オレの膝の上に、ネーコ が座る
ヤマーダの席は、室内全体をよく見渡せる場所にある。
そしてそこには、室内で一番豪華な椅子が置かれている。
あー、慣れない椅子だよ…
もっと簡単なパイプ椅子が気楽なんだけど
ヤマーダが左右に首を振ると、副司令官の二人が仲良く喋っていた。
オレの左には、リン
右には、サリア が座る
今度は、後ろを振り向く。
円卓席ではないが、オレの後ろ
左手に、ターニャ
右手に、ルル だ
左の司令官側に目を戻す。
リンの左に、クロードさん
当初、円卓は4人
サブとして、
オレの後ろに2人だったんだよな
あの小ぢんまり感が懐かしい
チャイルドパーティーも増えたことで、中華料理のテーブルくらいだった丸卓は、ちょっとしたステージくらいまでに拡張された。
まぁ、オレ、不参加が多いから
こんなデカさとは知らないけど
右に視線を移す。
サリアの右に、メリル
続いて、フィン、セシル、キャロル
また、左へ。
何故か
リンとクロードさんの間に、バード
クロードさんの左に、
タツヤ、ミナミ、カズヤ
皆が着席したのを見計らい、エルがお茶とお茶うけを配膳していく。
最後に給仕として
ターニャの左に、エル だ
今日のお菓子はなんだろなぁ!
そんなヤマーダを置いて、
「では、始めるわよ」
ネーコがいつもの開始宣言を告げた。
「まず、確認したいんだけど、タツヤ達とエルは魔族を見たのよね。どんなヤツだった」
ネーコが最初の議事を進める。
「あぁ」
タツヤは《人化》姿で答える。
「はい」(エル)
「だが実は、魔族に間違いないのだが、よく覚えていないんだ」
「あたしも」
「おれもだ」
タツヤ、ミナミ、カズヤの順に答える。
ちなみに、
円卓会議は《人化》を原則にしている
会議の席に、
ゴブとかがチョコンと座って居たら
笑っちゃうよね、普通
「私も魔族だと記憶しているはず…ですが、姿形を覚えていません」
メイド服を着たエルが最後に答えた。
「これは、難儀なことやで」
難しい顔のサリア。
「何で? 魔族には違いないんでしょ?」
ヤマーダはネーコの頭を撫でながら、疑問を口にする。
「ちゃうちゃう、相手は魔族かどうかも怪しんとちゃうかってことや」(サリア)
「ちゃう」が多いなぁ…
魔族じゃないってこと?
「えっ、それってどういうことだ?」(ヤマーダ)
サリアの返答に、更に混乱してネーコの頭を撫でる手が止まる。
「ヤマーダ、手が止まってる」(ネーコ)
「あぁ、ゴメンゴメン」(ヤマーダ)
撫で撫でを再開させる。
ネーコは開始宣言から今まで、事の成り行きを見守っているだけで、会話には積極的に参加しない。
「なぁリンちゃん、教えたって」
サリアがリンにバトンタッチした。
リンに変わるんだ…
リンにも会話に参加させたいのかな?
リンは、色々と考えてから話すタイプの人だ。
会話のボールを投げ掛けられない限り、自分からボールは拾わない。
「うん…わたしのレアスキルに…《認識阻害》と《誤認》があるの。…このスキルを使えば相手に…自分の正体を偽ることが出来るわ」(リン)
《認識阻害》、《誤認》!?
そんなスキルもあんのかよ!
既にリンのステータスを見ているヤマーダが、単に忘れていただけだ。
「とすると、魔族じゃない他の誰かが、そのスキルを使っていれば、魔族かどうかも分からないってことか?」(ヤマーダ)
「…そうなるわ」(リン)
それじゃあ、手がかり無しじゃねえか
「その場合、相手は異世界から来たと考えるのが妥当じゃろう」
ターニャが重要なことを告げた。
異世界から来た!?
「そのことなんやけど、ヤマーダはんには黙っとったけど、わたしとリンちゃんは転生者なんや」(サリア)
「…言わなくてゴメン、ヤマーダ」(リン)
「えーーーーっ!」
何故かヤマーダだけが驚いた声を上げる。
って、あれ?
何でオレだけが驚くの?
もしかして、
転生者って珍しくないのか?
それとも前に二人へ聞いたっけ?
「実はチャイルドパーティーになったとき、サリアのステータスを《鑑定》で確認して、気がついていたわ」
メリルまでもが、さらっと告白する。
メリルとは
昔っからの付き合いみたいだし
「あんなにレアスキルを持ってんのは、異世界人に決まってんだろ」
バードですら、当たり前のように告げた。
オマエ、なに知ったかしてんの?
それにオレ、
この世界に来て、まだ3ヶ月程度だよ
知ってる訳ねーじゃん
「じゃあ、魔族のことは今後も継続して調査ってことよね」(ネーコ)
ネーコは撫でられていても、ちゃんと議事を進めている。
話は変わり、
「次は、チャイルドパーティーの《疾風の剣》と《竜の守人》の活動方針ね」(ネーコ)
「あれこれ命令して、あまり、みんなの行動を縛りたくないな」
ヤマーダなりの意見を伝える。
「私達は《嘆きの洞窟》を抜けて、中央国を拠点にします。後、《空間魔法》の設備も充実させたいですね」(メリル)
メリルの意見に、
「あのさっ、エスタニアってどこ?」
とハテナな表情のヤマーダ。
「アタシとヤマーダが出会った国でしょ!」
すっかり忘れていたヤマーダへ、間髪いれずネーコフォローが入る。
因みに、メリルの《空間魔法》をファーストホームと命名している。
単純にメリル達が、「一番が一番良い」と言ったからなのだが。
「メリル、中央国はキナ臭い所やでぇ。十分気いつけとき」(サリア)
「えぇ、分かったわ」(メリル)
サリアの忠告を素直に受けとり、《疾風の剣》の活動方針が決まった。
「念のために、イズム(分裂体)を持っていってね」(ヤマーダ)
「旦那、アッシにお任せっす」(イズム)
イズムの一部が分裂し、メリルの肩に乗っかった。
「我らは、今後も《竜の洞窟》を管理する。《空間魔法》の農場や牧場などの管理も忙しいしな。あいつらも頑張ってくれるだろう」(タツヤ)
あいつらとは以前、タツヤが提案してきたお手伝い用の魔物達の事だ。
従業員を増やす計画は着々と進行しており、今では10体のオークが汗水垂らして働いている。
今後を考えて、タツヤにもイズム(分裂体)を携帯させた。
「では、チャイルドパーティーの活動方針は以上で決定ね」(ネーコ)
ネーコって、見た目は少女だけど
しっかりしてるよなー
会議も佳境に入る。
「最後に、フィルドンの魔物討伐の依頼をどうするかね」(ネーコ)
最後の議題は依頼の件だ。
「もしかすると、水源と竜の洞窟の調査によって、完遂したのではないか?」(クロード)
なるほど!
クロードの話は、意外にも的を射ていた。
「…わたしもそう思う」
リンも同意見だ。
「そうね。では、代表のマーシャに今までの経緯を詳しく話してみましょう」
うまい具合、ネーコが議題を端的にまとめた。
「これで方針は決まったわね」(ネーコ)
「せやな」(サリア)
「じゃあ、会議は解散よ」(ネーコ)
「各自、ちゃっちゃと明日の準備して、はよクソして寝ようや」(サリア)
「了解!」(一部を除いた出席者達)
クソって…
サリアさんは
なんてお下品なんザマショ!
こうして《竜の洞窟》の探索は、予想外に竜神を仲間にするという結果で、無事終了したのだった。
名前・エル
種族・エンシェントウインドドラゴン
年齢・121歳女
職業・無職(Lv-)
レベル・70
体力・204
魔力・185
攻撃・293(+10)
防御・296(+2)
知識・205(+1)
敏捷・297(+11)
運・197(+20)
人化時装備・竜爪の剣+4(攻撃+9)
竜の髪飾り(防御+1)
竜のメイドフク(防御+1)
竜のリストバンド(攻撃+1)
竜のサンダル(敏捷+1)
竜のアミュレット(知識+1)
:(竜シリーズ装備)
魔法・時空魔法(Lv4)、古代魔法(Lv3)
竜魔法(Lv4)、封印(Lv2)
スキル・竜眼(Lv4)、宿泊回復(Lv-)
時間回復(Lv-)、スキル補正(Lv-)
鑑定(Lv5)、長寿(Lv2)、飛行(Lv-)
雷撃(Lv5)、雷耐性(Lv5)
所持金・30,300G(サリアから譲与)
所持品・(《収納》内を除く
パーティー活動方針
ヤマーダ達
フィルドンへ依頼完了報告の後
《北の里》訪問
《疾風の剣》
中央国エスタニアへ
《竜の守人》
引き続き《竜の洞窟》管理
農場、牧場、牧草地の管理




