リンの冒険⑤(リン視点)
《ソフィーヌ商会虐殺事件》の捜査は、完全に行き詰まっていた。
足取りの多かった犯行も2月以降、パッタリと無くなってしまい、盗賊連中が虐殺されるような事件も鳴りを潜めてしまっていた。
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《空間魔法》マイホーム〈リビング〉
いつものように昼食をとった後、リン達と《疾風の剣》パーティー、アヤカシギツネのナースは《空間魔法》のリビングで今後の活動についての話し合いをしていた。
「ねぇ、リン。これからどうするの~? 事件も無くなっちゃったしさ~、調べるにしてもさ~、物証が少なすぎるっていうか~」
アドバイザー役のナースの愚痴が止まらない。
「…うん…分かってる」(リン)
「…うむ」(クロード)
「あちしとしては~、一旦、切り上げてさ~、何処かへ冒険したいって思うの~」(ナース)
「はぁ~…」
リンから溜め息が漏れる。
…始まったわね
ナースというアヤカシギツネは、頭脳明晰で推理力が高く、洞察力にも優れている。
しかし、大きな弱点があった。
それは、
「なんかさ~、もう飽きちゃったっていうか~」
物凄く飽き性な点だ。
「いや~、ナースさん。ほら、まだ1ヶ月しか捜査してませんし…」
会話の潤滑油、フィンが上手くいなすのだが、
「いやいや! もう1ヶ月だよ~」
ナースの我慢の限界はとっくに越えているようだ。
「あちしの予想だと~、犯人ってさ~、もう犯行を辞めちゃったのかも~って思うの。だってさ~、あれから全然犯行しなくなっちゃったし~、達人クラスの凄い奴がそう簡単に尻尾を掴ませるとは思えないのよね~」
「うむ…確かに…」(フィン)
「だっからさ~、頭をリフレッシュさせるためにも~、ワクワクする冒険を始めようよ~?」(ナース)
「はぁ…」(リン)
2度目の溜め息。
まぁ、ナースの言うことにも一理あるか…
「…分かったわ」(リン)
リンが渋々納得したところで、
「あら~、ナースちゃんじゃないの? どうしたの~?」
西の里の里長、アヤカシギツネ族の族長であるユノーラがリビングにひょっこりと姿を現す。
「げっ! オババ!」
ナースのあからさまに嫌そうな声。
「そこっ! オババって言わないっ! ユノーラお姉さんでしょ~」
中々のドスが効いた声。
「いや~。だって、あちしのおばあちゃんじゃ~ん」(ナース)
「おばあちゃんも言わないっ! 事実だとしても、そこはお姉さんって呼ぶものなのよ~」(ユノーラ)
…お姉さんって
確かに外見は
「たいへんよくできました」なんだけどね
「あちし~、嘘、嫌いだし~」(ナース)
「ナースちゃん! あんまりしつこく失礼な言葉遣いだと、可愛いボーヤにナースちゃんの恥っずかしい過去をポロッと話しちゃうかもよ~」(ユノーラ)
「ユ、ユノーラお姉さ~ん、だ~りんには話さないで~」
ヤマーダ絡みになると、途端に素直になるナースちゃん。
恥ずかしい過去…ちょっと気になる
話題は代わり、
「あのさ~、ユナースちゃんが我が儘を言ってるって小耳に挟んだんだけど」(ユノーラ)
ボソッと、
「“流石、耳年増”」
そんなナースの言葉に間髪いれず、
「あぁっ! 今、なん言った!?」(ユノーラ)
鋭い目つきで睨みつける。
こ、怖っ!
端から見ているリンにも緊張が走るほど。
「あははは…うんとね~、ママが人族達の態度にブチギレしちゃってさ~、サリア達《ヤマーダーマヤ会》と喧嘩しちゃったんだよね~」(ナース)
喧嘩っていうより、嫌悪じゃない?
「へ~、そうなんだ~。でも、ボーヤも人族みたいなもんでしょ~? 里の恩人のボーヤのお仲間さんと敵対するとはどうかと思っちゃうんだけど~」(ユノーラ)
ユノーラの言う〈人族みたいな者〉。
この言葉からも、ユノーラはヤマーダを人族と同一の存在とは断定していない。
「ほら~、だ~りんって半年ぐらい行方不明だったし~…それにウチのママってスゲー頑固じゃん。だからさ~、拗れに拗れちゃってさ~」(ナース)
ユノーラはニヤッと笑うと、
「へ~、なら…」
ナースの背筋に嫌な予感が…
そして当然リンも、
何だろう…ろくでもない気がする
これから話すユノーラさんの言葉って
一言も聞きたくないわ
リンとナース、心の中では繋がっていたりする。
「フフフッ、ナースちゃんがチョコっと行って、仲直りさせなさいな~」(ユノーラ)
「え~っ!」(ナース)
えっ!?
ちょっと待って!
ユナースさん達は人族を嫌って
わたし達から別れたのよ!
そんな事、無理に決まってるじゃない!
「いや~、オバ…お姉さんがそう言ってもさ~、あのママだよ~。あちしの言葉なんて1つも聞く耳を持ってないんじゃない~?」(ナース)
またまたニヤッと笑うと、胸元から手紙を取り出し、
「ジャンジャジャーン! はい、これ! これをユナースちゃんに見せれば、一発解決よ~」
ユノーラの説明には肝心の内容がなく、よく分からない結論のみ。
「えっ、何なのよ~、これ!?」
徐に手紙を開こうとするナースの頭を軽くチョップすると、
「はいはい、ナースちゃん宛てじゃないんだから、勝手に見てはダメよ~。勝手なことしたら、ボーヤに言いつけちゃうかも~」(ユノーラ)
一瞬で顔色の変わったナースは、
「そ、それはやめて!」
ナースも素直に胸元へと手紙をしまう。
う~ん…
手紙の内容が凄く気になるわ…
リンも手紙の内容が知りたくなってきた。
「リンちゃん。悪いけど、ナースちゃんと一緒にユナースちゃんの所に行ってきてくれないかしら~?」(ユノーラ)
「えっ!?」(リン)
ほら来たわ!
「…それは…構わないけど…私達に会ってくれるか…」(リン)
「まぁ、ユナースちゃんがあんまり面倒なことをグチグチ言ってるようなら、ガツーンと一発ブン殴っちゃいなさい。あの娘って昔から頑固なところがあるからね~。あっ、そうだ! ナースちゃんも恨みの一発を顔面に入れたいんじゃないの~?」
「いやいや…あちしのママだし~…それにあちし、今はだ~りんと一緒だしさ~、恨みってほどのことも…」
「ふ~ん…まぁ、いいわ。兎に角、北の里の同胞が《空気使い》のボーヤと仲違いするのは良くない事なのよね~。よろしく頼むわ」
こうして強引に、北の里へ行くことになったリン達。
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北国ゲンク・《北の里》周辺
リン、クロード(人化)、ポチ、ポッポ
メリル、フィン、セシル、バード、キャロル
ナース(人化)、何故かヤマーダとネーコ
それぞれリーダーの肩にイッズーム
「あのさ~、ここって何処よ?」
全く事情も分からず、拉致に近い状態で連れてこられたヤマーダ。
「あちしの実家!」(ナース)
「へ~…で、ここに何の用なの?」(ヤマーダ)
「そりゃ~、あちしとの仲をママに報告するためよ~」
『フンッ! ヤマーダさぁ、嫌なら嫌ってちゃんと断らないと』
お目付け役のネーコがムッとして、お小言を言う。
ネーコも、いつものようにヤマーダの首に巻き付いて同行していた。
そんなヤマーダ達の周囲には、一面雪原が広がっている。
また、その雪原にはしっかりと育った樹木の類いが一切なく、若々しい苗木のような低木ばかりだった。
これは…そうっ!
まるで焼き畑農業のように、一度、森を燃やし尽くしてから出来上がった若々しい草原のような感じだった。
「ヒックション!」
ヤマーダがくしゃみ。
「…さ…寒い……でも……ネーコのお陰で…首筋は暖か~い」(ヤマーダ)
『そう? 確かにちょっと肌寒いかもね』(ネーコ)
ここの外気温について、二人?の感想は違っていた。
ヤマーダにとっては北国の冬寄りの春、ネーコにとっては南国の暖かい冬…程度なのだろう。
ヤマーダの言うとおり、確かに寒いわ
春先のこの時期だと、
北国の春は
まだまだ先って感じなのね
「だ~りん、ほら~、早くあちしに抱きつかないと凍死しちゃうわよ~」
ナースがこれ幸いと嘘情報を散りばめる。
「マ、マジ!?」(ヤマーダ)
しかし、そんな情報も、
『そんな訳、ないでしょ!』(ネーコ)
「…厚着すれば…大丈夫」(リン)
二人の言葉で払拭された。
「それにしてもここの景色、かなり変わってしまったなぁ。そう思わないか、ヤマーダ?」(クロード)
「えっ? いや~、そうなんですか? 懐かしいもなにも、俺には初めての景色なんですけどね」(ヤマーダ)
「そ、そうか…」
以前のヤマーダを知っているクロードとしては、現在のヤマーダとの間には何となく壁を感じる。
「…それでナース…北の里に入る方法って」(リン)
「う~ん…待つしかないんじゃない?」(ナース)
「「『『えっ!』』」」(リン達)
「「「「「えーっ!」」」」」(メリル達)
「『うぇーーっ!?』」(ヤマーダとネーコ)
ど、どうしよう…
リンの頭に過去の嫌な出来事が…
ま、まさか…
あの時みたいに…
何週間も待つの~!?
約1年と半年前、初めて北の里を訪れた時、当時のヤマーダパーティーはここで2~3週間の足止めを食らっている。
結局、リンは途中から、あまりにも待たされ過ぎて魔物退治をして時間を潰すようになっていた。
「ちょ、ちょっと待ってください。もしかしてナースさん、北の里との連絡手段って、一切無いんですか?」(フィン)
「当たり前~♪ 当たり前~♪」(ナース)
フィンの質問に、ナースはちょっとした鼻歌で返した。
これは長期戦の匂いがするわね
すると何かを思い付いたヤマーダが、
「なぁ、ネーコ。ちょっといいか?」
ネーコを少し離れた所に座らすと、
「俺さぁ、考えたんだけど。こんなのはどう? ルールルルルル、ルールルルルル」
ネーコに向かって謎の〈ルールル〉を唱え始める。
『ムカッ!』
途端にネーコの機嫌が悪くなり、
『ヤマーダ! 噛むわよ!』
「えっ!? な、なんでよ? キツネに鉄板の〈ルールル〉が効かないの!?」(ヤマーダ)
「あ~、何かそれ、あちしもムカつく!」
おっとりしていて穏和なナースですら、急に機嫌が悪くなった。
「えーっ!?」(ヤマーダ)
どうやらアヤカシギツネに〈ルールル〉は逆効果のようだ。
こうして、ヤマーダ唯一のキツネコミュニケーション、略してキツコミは封じられてしまった。
あ、あれ?
〈ルールル〉って、もしかして…
ゴローさん?
アンタ、世代が違うでしょ!
それ、わたしの親の世代!
見た目では、ヤマーダとリンの年齢に大した差は感じられない。
しかし実際のところ、ヤマーダ15歳に対してリンは異世界で17歳と地球で12歳の合計29歳。
年齢的には、ほぼダブルスコアだったりする。
何でヤマーダが知ってるのよ?
わたしだってDVD世代なのに…
確かにヤマーダは、年齢的には若い。
だが、第二次ベビーブーム世代の父親の影響をモロに受けて育っていたので、古い世代の知識も兼ね備えていたのだ。
それも、偏った古い知識を…
………
それに〈ルールル〉って、デジャブ…
「むぅ…まさか必殺キツコミが封じられてしまうとは」(ヤマーダ)
「…なにそれ」(リン)
「必殺にしては、ダメダメ~」(ナース)
『とっても不愉快!』
そんな憎まれ口を叩いても、ネーコはヤマーダの首へ直ぐ戻ってくる。
会話をもとに戻し、
「う~ん、これからどうしましょうか?」(フィン)
「とりあえずここに、だ~りんとあちしのマウィスッウィートホームを建てるってのはどう~?」(ナース)
『アンタ、勝手に…』(ネーコ)
「う~ん…なんと言うか、人様の土地へ勝手に家を建てるのはどうかと思うぞ」(ヤマーダ)
そこなの!?
愛の巣は認めちゃうんだ!?
ネーコはナースを少し睨むと、
『それにアンタ達と違って、アタシ達はそんなに暇じゃないから』
「それはそうかも…」(ヤマーダ)
ヤマーダ達にはわたし達って
そんなに暇人に見えてるのかしら?
「あの~、私達も暇って訳では…」(メリル)
「あぁ! 寒ーっ! とりあえず、イズムがここに残って、俺達はさっさと帰ろうぜ」
猫族のバードが真っ先に音を上げるような発言。
コタツで丸くなりたいの?
「それ賛成ーっ!」(セシル)
「わたしもーっ!」(キャロル)
ここぞとばかりに賛成する二人。
『ボ~ッと、ここで待ってるのもどうかと…』(ポチ)
『ボク、飽きちゃったよ』(ポッポ)
「…私は…ユノーラさんから頼まれた者として…もう少しここに残るわ」(リン)
「そ、そうか! リンが残るなら私も残るぞ!」(クロード)
「だったらさ~、ネーコかナースのどっちかが残った方がいいんじゃないの? だって、人間のリンと《人化》したクロードさんだけで本当に大丈夫なの? 北の里ってリン達人族の事を嫌ってんだろ?」(ヤマーダ)
「…えぇ」(リン)
そんなこんなでヤマーダ達が《北の里》の入り口でバタバタしていると、
『あっ! あれっ? ヤマーダじゃん!』
いつの間にか出現した幕からヒョッコリと小ギツネが顔を出していた。
『アンタ、誰なのよ?』
ネーコは小ギツネを知らないような反応。
『ネーコじゃん!』
逆に小ギツネは知っているようだ。
『アタシ、アンタを知らないんだけど』(ネーコ)
今度はナースを見つけると、
『それに! 姉ちゃんだ!』(小ギツネ)
「おーっ、あちしの可愛(かぁ~い)いナールちゃ~ん」(ナース)
「えっ? ナール!? ナースの妹?」(ヤマーダ)
会話からすると、ナースの妹のようだ。
『そ~なんだよ~、どう? 凄~可愛(かぁ~い)いでしょ~』
初めて見る、シスコン気味のナース。
………
わたしには同じキツネにしか見えない
ヤマーダの感想も、小ギツネとしては可愛いのかもしれないが、
「俺としては、ネーコの方が可愛いと思うけど…」
ネーコで見慣れてしまっている。
そんなヤマーダの発言に、
『ニュフフ…やっぱり!』
ネーコはデレて、ご満悦の狐顔をしている。
『久しぶり、弟弟子』(ナール)
『はぁ!? 弟弟子!?』(ネーコ)
「あ~、そ~いや~、ネーコってママから秘術を習ってたわよね~。そういう意味じゃ、ナールちゃんの弟弟子って事になるわよね~」(ナース)
「えっ? そうなんだ」(ヤマーダ)
『な、なんでよ!?』
ネーコにとっては受け入れがたい事実。
「そりゃ~…ネーコの《転位》ってウチのママから教わったもんだし~、そうなるとママの弟子って事になるわよね」(ナース)
『そう! それに、ナールの方が先にママと修行してたから、順番は先! 兄弟子なの! エッヘン!』
二本足で立ち上がると、器用に前足を組んで偉そうなポーズを取る小ギツネのナール。
ネーコは即座に《人化》すると、
「じゃあ、アンタに《人化》ができるかしら?」
ちょっとキレ気味に挑発する。
ネーコの《人化》は本物の人族にしか見えない。
それもそのはずで、ネーコの《人化》スキルのレベルは既に9まで上がっている。
これは《北の里》の里長ユナースのレベルよりも上なのだ。
そもそも、アヤカシギツネ族の中でも《人化》レベルが9まで上がっている者は非常に少なかったりする。
『うぅぅ…い、今…練習中だもん!』
ちょっと押され気味のナール。
ナールは《人化》が得意ではない、というか全く使いこなせていない。
「そもそも、アンタが兄弟子っていうんだったら、当然《転位》もできるんでしょうねぇ!」(ネーコ)
『うぅぅ…』(ナール)
実はナール、まだ《転位》も使えていない。
一族として一番重要な《空間魔法》ですら、使えるかどうかあやしい状態だった。
「《人化》も《転位》もろくすっぽ使えないクセに、随分と偉そうな態度をしてくれるじゃないの!」
今度はネーコが腰に手を当て、仁王立ち。
『うぅぅぅぅ』
堪らず、ナールは威嚇の唸り声をあげる。
「え~、どうなのよ~、どうなのよ~」
『うぅぅ…』
少女姿のネーコが上から余裕で睨みつけ、おでこをナールの頭にグリグリと擦り付けている。
うわ~
不良がメンチを切ってる時みたい
「まぁまぁ、ネーコもナールちゃんも、そんなこと言わないで~。ほら、だ~りんも止めて止めて」
背中を押され、無理やり揉めている二人の間に割り込まされるヤマーダ。
フォローのつもりで、
「ま、まあ、ここは、何だ…二人とも、冷静になろうよ」(ヤマーダ)
そして、
「………」
次の言葉が続かない。
終いには、
「…っていうかさ~…俺達って何しにここへ来たんだっけ?」
完全に目的を忘れてしまっていた。
《人化》を解いてヤマーダの首筋に戻ると、
『あれっ!?そういや~、何だっけ?』
ネーコもすっかり目的を忘れている。
「イッズームは覚えてる?」(ヤマーダ)
『ユノーラさんのお使いっすよね』(イッズーム)
「あぁ、そうだそうだ」(ヤマーダ)
えっ?
マジで忘れちゃってたの!?
はぁ…しょうがない…
「…ねぇ、ナールちゃん…お母さんのユナースさんに…取り次いでもらえないかなぁ?」
リンはかなりのお願い口調。
『えっ? まぁ…いいけど…里のオッチャンもオバチャンもリン達ヤマーダーマヤ会のやり方、メッチャ嫌ってるよ~』
…そうなんでしょうけどね
そこへ思い出したかのように、
「あっ! そうそう…ナールちゃんさ~、この手紙をママに渡してくれる~?」(ナース)
お胸に手を突っ込むと、少しだけくしゃくしゃになった手紙を取り出した。
『うわ~』
まるでばっちい物でも触るかのように、指先で手紙を摘まむと、
『姉ちゃんが自分で渡せば?』
あからさまに嫌そうな返事。
「ほら、あちしとママってバチバチだったじゃんか」
『うん』
妹ナールも認めるほどのバチバチ感。
妹公認でバトッてるの?
「…ユナースさんとナースの関係って…そんなに悪いの?」(リン)
『う~んとねぇ、姉ちゃんがパパと抱き合ってチューしてたところをママに見られてから、しょっちゅう殴りあってたよ』
「…」(リン)
抱き合ってチュー!?
なにその近親相姦な関係は!?
「…お前さぁ…何、やってんの?」
ヤマーダもちょっと引いている。
「違う違う! 今はだ~りん一筋だよ~。ほら~、ここも新築だし~」
女性のデリケートな部分を指差すナース。
「へ~、そうなの?」
ヤマーダの視線がナースへ向く瞬間に、
「グハッ!!」
ネーコの目潰しが炸裂。
『ヤマーダ! アンタはマジマジと見ないの!』(ネーコ)
一息つくと、
『じゃあ、これをママに届ければいいの?』(ナール)
「そうなの、あちしの可愛(かぁ~い)いナールちゃん~。お願いね~」(ナース)
『キモッ! ちょっと行ってくるね』
そう言い残すと、ナールは幕の中へと消えていった。
…妹に気持ち悪いって思われてるナース
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すっかり夕方に
リン、クロード(人化)
ヤマーダ、ネーコ、ナース(人化)
肩にイッズーム
ターニャ(人化)、ミシェル(人化)、エル(人化)
「…来ないわね」(リン)
「…あぁ」(ヤマーダ)
あれから既に5時間。
アヤカシギツネの『ちょっと』はやけに長い。
待ちくたびれたヤマーダは近場を雪掻きしてから、《土魔法》で地面を固めると、《空間魔法》のリビングにあったソファーをここ《北の里》の入り口に持ち出して、一時的な野外リビングとしていた。
そして、
野外リビングの周りには、ガンガンの焚き火。
今では、この空間も室内のように暖かくなっている。
《疾風の剣》パーティーのメリル達はとっくに帰ってしまった。
ポチとポッポの良い子の二人も、そろそろお昼寝の時間。
「のぅ、主よ。そろそろ、帰らんか?」
竜族のターニャが提案。
とりあえずナールを待たなければならなかったので、入れ違いとならないように昼食をここで取ることに。
すると、竜族の三人娘が一緒に昼食をつきあってくれ、その後もヤマーダ達の話し相手になってくれたのだ。
「そうですなぁ。もう、今日は解散しますか?」(クロード)
『そうねぇ…』(ネーコ)
皆の気持ちは「帰りたい」
「なぁ、ナース。キミら、アヤカシギツネにとっての〈ちょっと〉ってどのくらいなの?」(ヤマーダ)
「そりゃ~、普通は数分から数十分よね~」(ナース)
そりゃ、そうよね
「あれっ? …もしかしてさぁ、ナールって〈ちょっと〉とは言わなかったのかなぁ」(ヤマーダ)
『確かに〈ちょっと〉って言ってたわよ』(ネーコ)
わたしにも、そう聞こえたわ
「あのぅ、ヤマーダ様。ここで待機するにしても、数名だけでよろしいのではないでしょうか? 交代制にいたしていかがですか?」(エル)
「なるほど! 確かにそうよね~。ここでダラダラ待っていても、ナールが何時来るかなんて、ちょっと分かんないしね~」(ナース)
なんだろう…
アヤカシギツネって時間にルーズなの?
「そういうことでしたら、私が代わりに待機しますよ」
ミシェルが見張り役を買って出てくれた。
するとヤマーダ達の目の前に、急に幕が現れ、
「リン! 勇者の足取りが掴めたわよ!」
メリルが至急の知らせを持ってきてくる。
「えっ!? それは本当なの!」
いつのも口調と明らかに違うリン。
知らせを聞いて、思わずソファーから立ち上がる。
「で、でも…」(リン)
今はナールちゃんを待ってて動けないわ!
ユノーラさんも裏切れないし…
メリルの急報を聞いても、リンの腰は重かった。
「なぁ、リン。ここは俺達に任せて、急いで行ってみたら? 抱えてる依頼の方がユノーラさんの依頼よりも先の話なんでしょ?」
ヤマーダが助け船を出す。
「そうそう~、ここはだ~りんとあちしに任せて行ってきなよ~。ほら、実家への挨拶って目的もあるし~」(ナース)
『何よっ! それっ!』(ネーコ)
ナースのちょっとした発言にも、ネーコは敏感になっている。
「まぁ、リンも頑張りな~」(ナース)
「…うん…ナース、ありがとう…私、行ってくるね」(リン)
「リン、私も一緒に行くぞ!」(クロード)
リンは《ソフィーヌ商会虐殺事件》の重要参考人である勇者の確保に向けて、新たに動き出した。




