女王離宮って、どんなとこ?
バリッボリッ!
「ふ~ん、なかなか綺麗じゃん」
ゴブリナクイーンのルルは《ヤマチ》を軽くつまみながら、《女王離宮》の感想を言う。
巨大な中央広場に驚いてから、20日。
案内役のオーガがやっと《女王離宮》に到着したのだ。
そこでオーガは分裂体を使ってヤマーダ達に連絡を送ってきた。
いざ、ルルが《女王離宮》にお邪魔する話となるや、またもやダイヒョウと《ロイヤル》のオルトス君が同行することとなった。
二人はルルを一人にはさせたくない。
そして、
今は《女王離宮》の入り口。
《女王離宮》
正面は、エジプトのアブ・シンベル大神殿を彷彿とさせる4体の座ったオーガの像が天井につく勢いで聳え立っている。
そして、総勢100人のメイド服を着た女性の魔物が左右二列に並び、一斉に、
『『『女王様、お帰りなさいませ』』』
と恭しく一礼してくる。
そんなメイドさん達に対して、
『フンッ! こんなの人が並んでるだけですよ!』
ダイヒョウの批判はとても辛口。
アトラクション系の《女王宮殿》の運営責任者サイドのダイヒョウとしては、《女王離宮》は商売敵のような存在。
どうしても、良い気分にはなれないのだ。
「なんか、あの像! 威圧しているみたいですし、僕もどうかと思いますよ!」
ダイヒョウに同調するオルトス君。
彼は、《空間魔法》の中で自由に出入りできる《女王宮殿》の賛成派で、如何わしい《深淵の迷宮》最下層にある《女王離宮》には断固反対の立場。
本音は気軽に行けないからで、ルルの御所としては否定的だった。
そんなダイヒョウ達二人の脇で、
『あ~、ヒルダさん。これ、見つけましたのでお渡ししますね』
迷宮の住民、オークキングが今回同行していた《サリア組合》のヒルダに古びた剣が渡される。
剣を見たヒルダの第一印象、
「う~ん…汚い…」
確かに汚ならしい剣。
古びてボロボロの鞘に、何かの液体でヌッルヌルになった柄。
こんなのが、ヒルダが必死になって探していた《創世の剣》…らしい。
「思っていた剣とは、そのぅ…大分違います…」
ヒルダの表情は冴えない。
そして、
なかなかオークキングから《創世の剣》を受け取ろうとしない。
『あの~、早く受け取ってくれません…汚いので』
剣を持ってきたオークキングも顔をしかめて〈汚い〉と言ってしまうほどのアレだった。
あんまり聞きたくもないのだが、
「ち、因みにこの剣は、何処にあったので?」
ヒルダは聞かずにはいられない。
『汚物処理の区画ですね、スライムさんが見つけてくれましたね』
オークキングが言う〈スライムさん〉とは分裂体の事だ。
当然、ヒルダの肩にも分裂体が乗っている。
「あ、あの~、イッズームさん…」
ヒルダは、なんで教えてくれない、といった表情。
『いやぁ、もし見つかった場所を素直に言っちまったら、ヒルダっち、受け取らなくなりそうじゃないっすか』
知ってて言わなかったイッズーム。
「はぁ…」(ヒルダ)
『でも、良かったじゃないっすか! ウンコから見つかったとしても!』(イッズーム)
「……」
最早、ヒルダは何も語らない。
とりあえず、
「あの~、そこの地面に置いてもらえます?」
ヒルダは手渡しを拒み、あれだけ探していた《創世の剣》を無礼にも地べたに…
『えーっ!』(オークキング)
しょうがなく、オークキングは《創世の剣》を地べたに置く。
すると、
バシャーーーッ
ヒルダは高圧洗浄機並みに《水魔法》で《創世の剣》洗い始めた。
洗い始めて10分
洗浄?
消毒?
それにしても、長くね~
相当洗ったお陰か《創世の剣》の鞘の装飾はすっかり剥がれ落ち、金属が剥き出しとなってきた。
柄のヌルヌルもキレイに取れたが、同時に持ちやすく巻いてあった縄も一切失くなり、これまた金属の地肌に。
「とりあえず、これぐらいでいいかな」
やっとヒルダの洗浄作業が終了する。
ツルツル、ピカピカになった金属剥き出しの柄を握り、鞘から刀身を勢い良く抜くと、
ジャリン!
歪な金属が擦れ合う音。
刀身を見ると、
「錆び錆びでボロボロ…」
ヒルダのガッカリした言葉が。
過去、《創世の剣》だったものは見るも無惨に錆びついて、刀身はちょっと触ると赤いサビが手についてくるほどだった。
ちょっと、期待しちゃったけど…
そりゃ、そうだよな…
長年、汚物に浸かってたんだし、
錆びもするよ
ヤマーダも少しガッカリ。
「折角だし、綺麗に修理してみたら? ヒルダだって、その剣のせいで殺されちゃったんでしょ?」
確かにヤマーダの言う通り、このボロボロサビサビの剣探しを口実に弟から殺されている。
「ハーーァ…そうですね…そうします」
明らかに負のオーラを纏ったヒルダの表情は冴えない。
その後、ヒルダはトボトボと幕へと消えていった。
『あ~ぁ、盛り下がっちゃったよ。やっぱり迷宮なんか、ダメなんだよな!』
これ幸いと、ダイヒョウが《女王離宮》の欠点を捲し立てる。
『こ、これからズラ!』
気を取り直して案内役のオーガが左右のメイド達の真ん中を堂々と先導していく。
ズンズンと歩くヤマーダ達。
4体のオーガの像の真ん中には、これまた大きな観音開きの扉があった。
そして、それが態々(わざわざ)閉まっている。
ん?
なんで閉まってんの?
どうせ開けんのに…
これは《深淵の洞窟》住民の演出なのだろう。
ヤマーダ、首にネーコ、肩にマサオ、ルル、ダイヒョウ、オルトス君、それぞれの肩に分裂体、それと案内役のオーガが門の前に到着する。
「なんで、閉まってんの?」
ルルの素朴な疑問。
そうそう…
『ルル、アンタ、嫌われてんじゃないの?』
「嘘…」
ネーコの容赦ない言葉にルルは傷つく。
そんなこと、言うなよなーっ!
…思ってても
ヤマーダも若干思ってたりする。
すると、
『じょ、女王様! そんなことないズラよ! 演出ズラよ! ほれ、早く開けるズラ!』
急いで、両脇に立つ門番のようなオーガに開けさせる。
キーーーーーイ
甲高い音を響かせ、大きな扉が開いていく。
しかし、扉の先は少し暗い。
そして、狭い。
まるで通路のようだ。
そして、通路の先は眩しく光っていた。
『じゃあ、オラについてくるズラよ』
案内役のオーガは通路を光の方へとズンズンと進んでいく。
通路の途中には、左右の分岐がある。
だが、オーガが真っ直ぐ進むのみ。
試しに分かれ路の脇の壁に立て掛けてある板を覗くと、
なになに、
右手は、「観客用通路」
左手は、「観客用通路兼選手控え室」
選手控え室?
なんだろう…
嫌な感じしかしないんだけど
薄暗い通路を抜けるとそこは!
「うわっ! 凄っ!」
ヤマーダは思わず歓声を上げる。
光の先、そこは円形のグランドになっていたのだ。
そして、グランドの床には綺麗にタイルが設置されている。
招待された当の本人は、
「わーっ! 何ここ! 広くてスゴーい!」
満更でもない様子。
そして、グランドの脇にはドーナツ状の観客席。
観客席から一斉に、
『『『女王様ーーっ! バンザーーイ!』』』
地響きにも近い歓声が!
どうやら《女王離宮》は、古代ローマのコロッセオのような造りをしているのだ。
ワーーーーッ!
鳴り止まない歓声。
「うわーっ! 何なの! 何なの!」
ルルはメッチャ興奮している。
そこへネーコが、
『なんか、闘技場みたいよね、ここ』
ネーコの言葉を聞いて、
「えっ! 嘘っ! ここで戦えるの!」
テンションが最高潮に!
他にも驚いている人達。
『ま、まさか…女王陛下のご興味を!』
「ルルさん、戦うの好きだから!」
呆気に取られるダイヒョウとオルトス君にはまさかの展開。
《女王宮殿》はアミューズメントを主軸に置いていたが、《女王離宮》は闘技場としていたのだ。
当然、ルルの興味は、
「ねぇねぇ、ここってアタイも戦えるのか?」
いきなり、戦いの話?
『当たり前ですズラ。ここは女王様が存分に戦えるの場所なんですズラ』
「マジマジ! マジ最高!」
そんなルルの言葉を聞いて、案内役のオーガはダイヒョウに向かってニヤッと笑った。
その顔を見て、
『くーーっ! 抜かったーーーっ! 女王陛下の大好物を出してくるとはーーっ!』
ダイヒョウは相当、悔しそうだ。
「で…でも、ルルさんを満足させる強さを持った魔物など」
オルトス君も苦しい言い訳。
「アタイ、早く戦いたい!」
早速、ルルのテンションが猛烈に上がる。
すると大声で、
『皆の者ーっ! 女王様が戦いを熱望してるーっ! この機会に女王様と戦いたい奴は居るかーっ!』
案内オーガが宣言する。
『『『オーーーーッ!』』』
大観衆も大熱狂!
円形の観客席から一斉に、
『オレ、戦うぞーっ!』
『オラが勝ーーっ!』
『ワシもやるのじゃ~!』
『やったるでーっ』
『オラ、ワクワクすっぞ!』
参戦希望者が名乗り出てくる。
なんとその数、1,000体以上!
流石にその数は大変なので、くじ引きで10体を選出することになった。
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第一試合
『じょ、じょ、女王様、よ、よ、よろしく、お、お願いしま…す』
ど緊張したゴブリンロードが最初の相手。
「あ…うん、緊張しなくてもいいよ。ちゃんと手加減するから」
ルルは余裕の表情。
不思議だよなぁ…
女王様って言ってる相手と戦う?
普通、遠慮しない?
ヤマーダには、尊敬する相手と拳をぶつけ合う気持ちなどは一切分からない。
「ワクワク!」
ルルはメチャクチャ楽しそう。
『ぐぬぬ…』
ダイヒョウはさっきから『ぐぬぬ』ばっかり。
「“やっぱり、ルルさんにはこういったバトル系が必要なんだよな”」
オルトス君は今後の事をブツブツと検討中。
そんな中、案内オーガが、
『始めズラ!』
戦闘開始の合図!
先ず、ゴブから仕掛ける。
真っ直ぐルルに突っ込むと、
ピュッ!
ゴブリンロードが得意とする《騎士》職《薙ぎ払い》をお見舞いする。
スカッ
ルルはそれを易々とかわす。
ゴブは《薙ぎ払い》の遠心力を利用して、もう片方の腕からの裏拳。
スカッ
それも易々とかわし、二人は距離を取った。
『『『ワーーーーッ!!』』』
会場は割れんばかりの歓声。
「じゃあ、こっちから行くよ!」
言葉と同時にルルの姿が《短距離転位》によって消えると、
バゴッ
ゴブのお腹にルルのパンチがめり込んだ。
『う…うぐ…』
ゴブはお腹を押さえて踞ってしまう。
『それまで! 勝者、女王様!』(案内オーガ)
『『『ワーーーーッ!!』』』(大観衆)
そんな光景を見て、
ルルに挑むのって無理ゲーなんじゃない?
まぁ、みんな、楽しんでるみたいだけど…
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その後の9試合も当然、ルルの圧勝。
なんか、弱いもの苛めなんじゃ…
そして、合計10試合戦った当のルルは、
「あーっ! 面白かった! ここ、なかなか良いじゃん!」
かなり評価が高い。
『お気に召したズラか?』(案内オーガ)
「うん! 最高だね!」
ルルの機嫌はとても良い。
『じゃあ、ここに住んで…』
「嫌! アタイの住まいはマイホーム1択だから!」
アッサリと断っちゃう。
『良かった…』(ダイヒョウ)
「ふぅ…」(オルトス)
ホッと胸を撫で下ろす二人。
女王様も参戦する変わった武闘大会はこうして始まった。
毎月8日、《女王離宮》で行う名物武闘会。
参加条件・女王様を敬愛する者
選定条件・くじ引き、外れた者は参加費用返還
参加費用・1ヤザル(今後)




