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巻き込まれイベント。


 今日はお兄様と一緒に論文を提出しに、王都の中央省庁や政府機関が数多く立ち並んだ地域に来ている。こういうところに来るだけで、ちょっとできる子になった気分になれてしまう私。


 いかにもエリートっぽい人たちとすれ違いながら無事に書類を提出し、帰りの馬車の中から外をぼんやり見ていると、貴族の貴婦人を乗せた馬車がやたらと入っていく施設があった。


「ねぇお兄様、あの建物は何?」

「ああ、あれは騎士団の建物だね。」

「なんであんなに貴婦人がたくさん入っていくのかしら?」

「きっと騎士団の公開練習の日なんだろうね。見に行く?」

「いいの?」

「もちろん。今日はこの後の予定は空けてあるから。」

「ありがとうございます。お兄様。」


 中に入ると、一般用の観覧席と貴族用の観覧席があり、どちらも着飾った女性達が沢山いた。


「想像以上に沢山の人がいるのですね。」

「あ~・・・今日は来ない方がよかったかもね。」

「?」


 きいやあああああ!!と可愛さからはかけ離れた黄色い声が上がってそちらを見ると・・・・


 ジーク様だった。


 な ん と い う ヒ ー ロ ー り ょ く。


 まだ確実じゃないけど、仮にジーク様が私の事を好きでいてくれるとしたらすごくないか?狙ったかのように活躍をアピールできるなんて。流石だ。モブの私とは大違いだ。自分の婚約者様の主人公(ヒーロー)力に私は(おのの)く。


 もしかして、王都でお買い物してたら不良に絡まれたところを助けてもらえたりするんだろうか、とワクワクする。――いや、無いな。そのイベント発生のためには私にもヒロイン力が求められる。残念ながら私にヒロイン力は無い。もしあったら、学園でいじめられたりとか、攫われかけたりとか、ストーカーみたいな人に絡まれたりしてるところを助けてもらえたりとかして、ジーク様との間にハラハラしたりキュンキュンしたりドキドキする展開が待っていたはずなんだ!


 私にヒロイン力があれば、こんな地味に何もなくただひたすら時間が経過するなんてことは絶対にない。今までの私なんてエスパルマに行った以外は、モブらしく普通に学生生活を頑張って過ごしていただけだ。今回のイベントは、きっとジーク様のヒーロー力にモブの私が巻き込まれたに過ぎないのだ。


 自分のモブ加減に悲しくなっていると、お兄様が心配そうにこちらを見ながら私に「帰る?」と聞いてくれる。


「いえ、大丈夫です。見ていきます。」

「そう?帰りたくなったら言ってね?」


 こうして見るとジーク様もすごいチートだなぁ。まだ体は出来上がってないのに、あんな大人の騎士団の人たちと渡り合……うどころか余裕で勝っている。うわ、やばい!かっこいい!!なんか綺麗だ!!動きとか目で追えないくらいすごいけど!



「・・ジーク様ってすごいんですね。」

「まぁ、僕と父上が婚約を了承する程度にはね。努力家だし才能もある、家柄もいい。女好きなタイプじゃなかったからリアを任せてもいいかと思ったんだけど。」


 お兄様が目が全く笑っていない笑顔になり黒いオーラを放ちはじめる。周りの気温が下がった気がした。


「や、あの。喧嘩両成敗といいますか・・・。今回は私にも全く非が無いわけでは無かったので。」

「そんなことない!」

「いえ。私がしっかりし始めたのはジーク様の気持ちが私から離れたことがきっかけですから・・。」

「リア。・・・実はね、リアがエスパルマに出発した翌日にジークハルトが家に来たんだよ。」

「えっ?」

「追いかけていきそうだったから、止めたんだけど…。その後はずっと騎士団でしごかれてるって聞いてたけど本当だったんだね。」


 お兄様…そういうことはもっと早く言ってくれないと!もしかしてエスパルマ行くの心配してくれて来てくれたのかな。え?え?期待しちゃうよ?


 ジーク様が何かするたびに周りからため息や黄色い歓声があがる。


「・・・ジーク様は昔からご令嬢から大人気だった、とエリーから聞きました。私は・・周りの事があまりよく見えておらず、そんな事さえ知らずに、ただジーク様との婚約が嬉しくて毎日幸せでした。私の脳内がお花畑だったのもあるのでしょうが、ジーク様が私が不安になるようなこともないくらい、他のご令嬢を見たりしないでいてくれたのかな、って今はそう思います。」

「・・・リア。確かに、僕も安心していたくらい、あいつはしっかりしていたけど。」


 お兄様が気遣わし気な顔で、優しくなでてくれる。


「それなら、やはりジーク様を唆したメアリーが1枚上手だったのでしょう。私は恋愛という名のバトル・ロイヤルで強敵に吹っ飛ばされそうになっただけです。」

「リア、本当に変わったね。」


 お兄様の頬が引きつっている。うん、私強くなったよ!だって、エリーだってアシュレイだって支えたいし。


「ふふ、ありがとうございます。」


 ジーク様を眺める。なんとなくクロヒョウみたいだな、と思った。鍛えられたしなやかな躰と黒髪の下の青い目が獲物を前にした肉食獣みたいだからかな。


 やっぱり、かっこいいなぁ。真剣な表情も、騎士服を着ていても分かる無駄なく引き締まった躰も、ズボンに浮かぶ大腿部の筋肉の筋すらも。男らしさを感じてしまって胸がキュンとする。


 貴婦人やご令嬢達がきゃあきゃあ言うのも分かる。少年と青年の間の今だからこその、精悍さと儚さとを併せ持った独特の妖しい色気がある。


 こうやって数多くの女の子達の中からジーク様を見ると、本当に遠いな・・って思う。手紙とか薔薇とかで舞い上がっていたけど・・ちょっと不安になってきた。


「…帰ります。」

「そう?じゃあカフェでもいこうか?」

「はいっ!」


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