エリザベス・コート
(5月18日 土曜日:48日目)
今日は5月の2回目のサロンです。
私たちのサロンは学園内でも話題のサロンとなっているらしく、今回はまだお話ししたことの無い、お近づきになりたい先輩をお呼びしたけど、皆さん喜んで参加してくれた。
「今、学園内で一番話題のこのサロンに呼んでもらえて本当に光栄だよ!皆に自慢しなくちゃね。」
と言って頂けたし。
「このサロンは、上級生から『天使のサロン』と呼ばれているのよ。」
なんて言ってくれる先輩もいた。アシュレイは、見た目天使だもんなぁ。最近は一緒にいすぎてそんな風には見えないけどさ。毒舌で鬼畜なんだよ?何だかんだ優しいけどさ。
打合せ通り、今回は2曲普通に歌い、3曲目で少し振付して歌ってみた。
先輩たちもいるし、ドン引きされないか不安だったけど、大好評を収めました!
そんな感じで平和に終わり、反省会も終わった。
だけど、今日はアシュレイとルドには帰ってもらってエリーに残ってもらった。
ここは、サロンを開かなければ、学園の庭園でもだいぶ奥まったところにあるので滅多に人は来ない。
「リア、今日はどうしたの?」
私は言葉を探したけど、見つからず、単刀直入に言おう・・・としてやめた。
「ねぇ、エリー。私、1曲エリーの為に歌いたいの、聞いてくれる?」
私は、前世の自分が好きだった、恋人に向けた曲とも大切な友達に向けた曲ともとれる曲を歌う。口下手な私よりも言いたいことが伝わる気がしたのだ。
「・・・素敵な曲ね。」
エリーのアイスブルーの瞳が揺れている。
「あのね、私最近強がってたの。本当は、ジーク様を見るたびすごく辛かった。でも、辛い自分をさらけ出せなくて、平気なふりして、エリーに講釈をたれてたの。ごめんね。」
「リア。ううん、別にそんなことは全然何とも思っていなかったわ。だけど、強がらせちゃってごめんね。私が別れたほうがいい、とかキツイこと言っちゃったからだよね。」
「それは関係ないよ。いつも話を聞いてくれてありがとう、エリー。」
ふふふ。とお互い笑いあう。
「…エリーさ、最近寂しそうな目をよくするよね?何かあったの?」
エリーが目を見開く
「月曜日も最後寂しそうだったし、今日のサロンの時も…。無理に話そうとしなくていいけど、何かあったら頼ってほしいな。私強くなりたいの…私もエリーを支えられるように。」
「・・・。」
エリーが泣き出しそうな顔で黙った。
ややあってエリーが重圧に耐えるかのような息苦しそうな声でつぶやく。
「私は、リアにそんな風に言ってもらえるような人間じゃないわ。」
「・・・。」
「・・私は、成長していくリアに置いていかれたかのように焦って・・皆の人気者になっていくリアに寂しさを覚えて、しっかりしていくリアに私の存在意義を見出せなくなって!!前のリアに戻ってほしい、なんて思ってしまうような!・・・そんな・・人間なの。」
エリーの目から一粒の涙がはらりと落ち、形のいい頬をつたう。
「ごめん、こんな性格で。リアはもうしっかりしてるし、学園でも人気者だよ。・・・もう私なんて必要ないよ。」
エリーが自らを嘲るように歪んだ笑みをみせる。
私がエリーの心に寄り添わず、一人で突き進んできてしまったからだ。
「私はエリーのことを、人類で一番仲いいと思ってるよ。・・・今までずっと頼りない私を守って支えてくれたよね?本当にありがとう。」
エリーの細い肩がビクリと動く。
「エリー、私はエリーが守ってくれるから側にいたわけじゃないよ。エリーの事が好きだから側にいたの。エリーはどうしてそんなに強くあろうとするの?」
エリーが斜め下を見つめたまま、ぎゅっと苦しそうに眼をつぶる。
しばらくしてから、エリーが迷子の子供のような顔で私を見つめる。
「それは…強くなければ男性にいいように扱われてしまうからよ。」
「・・どうしてそう思うの?
・・・もしかして、エリーのお父様とお母様を見て・・・エリーがお母様を守りたいと思ったからなんじゃない?」
エリーの瞳が逃げ惑うように小さく揺れる。
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(エリー視点)
私の実家は騎士の家系で、父はとても厳格な人だ。母は、古き良き貞淑な妻を絵に描いたような性格で、父の言う事には逆らえなかった。
父は、兄と私にとても厳しかった。兄や私が言われたことをできないと、父は母を厳しく叱責した。手をあげることは無かったけど、火がついたように怒る父は酷く恐ろしかった。
―――やめて、おとうさん。おかあさんをいじめないで。
―――やめて、おとうさん。わたしがんばるから。
―――わたし、いいこになるから。
言葉にすることはできなかった。でも、父から母を守る為にも私は強く賢くなろうと思った。
不甲斐ない兄にも腹が立った。
父が母を厳しく責めている時にも、兄は私と共に息を殺しているだけ・・。
―――どうして、おにいちゃん...どうして、おとうさんをとめてくれないの?
―――どうして、おにいちゃん…どうして、おかあさんをまもってくれないの?
どうして?
・・・分かっている、分かっていた。子供の私達に出来ることなどなく、止めに入れば更に父の怒りに火をつけてしまいかねないと恐れていることも。
兄は家の空気を明るくしようとするかのように、明るくポジティブな性格に育った。
厳しく恐ろしいだけの父、明るく優しいけど頼りない兄。…だから母のことは私が守らなくては、と思うようになった。男の子に負けないように強く正しくあろうとしていた。
「ど…して?なんで分かるの…?」
そんな最初のきっかけのこと自分でもすっかり忘れていたのに。
「これでも6歳の頃から一緒なのよ。もしかしたら。って思っただけで。」
そうだ…初めてリアを見たときお人形のように可愛くて仲良くなりたいと思ったのと同時に、6歳の私はこんな可愛い子が母みたいになってはいけない、私が守らなくてはいけないと思ったのだ。
「エリーのお母様は弱い人なんかじゃないよ。・・耐えるっていうのは凄く強くないとできないことだもの。
・・・エリーだってかよわい女の子なんだよ。強くなくたっていいんだよ。」
―――本当に?・・・私は私が強くなければ、母に必要とされない気がする。家族の中での私の存在意義は無くなってしまう気がする。私が・・・私が、いらない子になってしまう気がする。
・・・リアは私が強くなくても、私を必要としてくれるの?
「エリーは本当はどんな子になりたいの?」
・・どんな風に?私はどんな風になりたいんだろう?
「・・甘えていいんだよ。エリーは1人じゃないよ。私もいる。どんなエリーでも必要ないなんて絶対に無いんだから!・・・私にもエリーを守らせてよ。エリーも可愛い女の子になって。」
ああ、そうか。・・・私はずっとこんな風に言われたかったんだ・・・自分でも気づかなかった、誰かに言われたかった言葉を紡いでくれる。
感情が溢れて涙が止まらない。
「わたし…性格、よくないっ。」
兄とは反対に私はネガティブな性格になった。人に嫌われることが怖く、いつも最悪を想定して生きている。でも、無駄にポジティブで一人で突き進む兄よりかはマシだと、心のどこかで馬鹿にして自己肯定していた。
それだけじゃない。男は馬鹿で浅はかな生き物だと見下して、そんな馬鹿な男から馬鹿にされないように強くなろうとしていた。私は――― 私はこんな自分が大嫌いだった。
本当はずっと誰かに守ってもらいたかった。本当はいつも不安で怖くて、外では強い自分だけど、1人になると泣いていた。
リアのことも私が守らなければならない、何もできない子だと勝手に思っていた。頼ってもらえることで必要とされていると、愛されていると思うようになっていたのに。
「そんな事ない。もう、7年も一緒にいた。エリーのとはよく知ってるよ。・・・大好きだよエリー、何年たっても。」
変わりたい。
本当は誰かに愛されたかった。
私も恋がしたかった。
心の中の何かを溶かし出すかのように涙が止まらなかった。




