奇襲。「ごめん、不謹慎かもしれないけど…怒った顔も可愛いね。」
日付書くようにしました。目安なので深く考えていません。すみません。
(5月6日 月曜日:36日目)
日曜日から追い込むように勉強した中間テストも終わり、燃えカスとなり、サロンでの打ち上げも終わった、今日は月曜日。
学園につくとすでに中間試験結果がはりだされていた。
分かったことと言えば、私の周りが優秀すぎるといった点だろうか。学年1位がアシュレイ、2位ライナス(統一試験組)、3位ルド、4位ヘンリー(統一試験組)、5位エリー・・・10位 私。
「へぇ、リアも頑張ったね」
「あぁ。とても1か月前までは王様の名前すら知らなかったとは思えない結果だな」
アシュレイとルドが含み笑いで言ってくる。
「女子の中では2位よ!!すごいわ、リア!!」
「ありがとうエリー!!エリーもさすがだね!自慢の友達だよ」
私は男2人をスルーしてエリーと喜びを分かちあう。
そんな感じでいつもの4人で話していると、教室でいざこざが勃発した。
あ~、周りの3人の性格が大人びてるから忘れがちだけど、みんな13歳だもんなぁ。中には4月生まれで早々と14歳になった子もいるんだろうけど。前世では「思春期」と呼ばれるお年頃だ、喧嘩することもあるだろう。
どうやら、伯爵家の生真面目な感じの眼鏡君、キース・ルルドが、平民で統一試験組のライナスをマナーのことで馬鹿にしたのがきっかけらしい。…招待カードか。確かに、カードの種類とか出す時間とか色々小難しいよね。
ライナスも、平民にしたらかなり整った顔で体格にも恵まれ、頭もいい。この学園に来るまではイケメンの神童扱いだったのだろう、自分に自信があるから貴族相手でもひかない。
ん~、厄介なことになりそうな予感。
誰か止めてくれないかな。
周りを見渡すと、うまく表面上は隠してるけど皆楽しそうに見てる。多少娯楽がないと人は不健全になるんだなぁ。
私の周りの3人は全く興味なさげだけど。特にアシュレイに関しては目が冷たすぎて怖い。
「なんだよ、馬鹿らしいちっぽけなルールばっかり拘りやがって! 非効率にもほどがあるだろ!そんな些末なことばかりに拘ってるから、成績も今一つなんじゃねぇの?」
・・・おぉーっと。気持ちは非常に分かるけど、それはタブーだよ。
クラスの中でも血筋を誇るメンバーの目がきつくなった。
いままで、ぽやっと生きてきた私はこの世界の常識を知らなさ過ぎて、前世の常識の方がなじんでしまっている。
なので私は、『和を以て貴しとなす』精神の日本人気質なのだよ。みんなで仲良くやろうよ~、どうせ社会に出たらいやでも争うんだからさ、ほんと「やだなぁ、せっかく今まで仲良くやってこれてたのに」
しまった。ぽつりと口からこぼれてしまった。どうしてこう私は迂闊なんだ!
そして、そんな大きな声じゃないのに、何故みんなこちらを向くんだ。これでは、関わらないっていう選択肢が潰えてしまうではないか。
エリーは不安そうにアシュレイは楽しそうにこっち見ている。
う、しかたない、腹をくくろう。
とはいえ、どうしたものか。
私はすぐさま脳内サーチエンジンを使い前世を検索する。
検索ワードは「叱る」、するとすぐにヒットが出てくる。
【関西弁で叱られたい】
【イケメンに優しく叱られる】
【仕事ができない上司】
思わず鼻水が出そうになった。
そして上2つの願望と妄想の知識が一瞬でダウンロードされる。
いや、ちがう!ヤメテー!これじゃないんだよー。
ああ、どうしよう…。
前世の私は事なかれ主義だったようだ。結局どうしたらいいのか分からない。
正論で女の子に注意されるとか、それだけで相手の自尊心傷つけちゃうしな〜。
私は今や客寄せパンダ、しかも「目指せアイドルポジション(笑)」なので、下手なことを言えない。
こらー!男子掃除しなさーい!!みたいな学級委員的な事は絶対にアウトだ。
興奮した13歳達をまず、話を聞ける状況にしてやらねばならない。・・・となると奇襲。ねこだましか。
前世の上目遣い、褒める、ってやつに頼ってみるかなぁ。
13歳だし、失敗してもいいよね?
私はことり、と席を優雅に立ち、少年たちの方に進む。
アシュレイを真似て微笑む。
「でしゃばっちゃってごめんね?
でも…2人とも真剣に物事のあり方やお互いの将来のことを考えていて、そういうところすごいな…と思うの。なのに…なんか悔しいね?」
少し上目遣いで見て軽く首をこてんとする。
お、2人とも紅くなって固まった。
効果はばつぐんだ!
わかるだろうか?いや、わかって欲しいこの気持ち!
もし自分が怒りまくってるときに、異性に「ごめん、不謹慎かもしれないけど…怒った顔も可愛いね」とか「そういうまじめなとこ、可愛いと思うよ」なんて言われたら、それ以上怒れなくなってしまうということを!!
ましてやイケメンに言われた日には「ちょっ…や…何言ってるのよ!?」なんてツンデレてしまうだろう。
だから、私は彼らに『そういうところすごーい!!』と褒めてみたのだ。
前世の自分の妄想に感謝と祈りをささげる。
どうか成仏してくれ。
2人ともイライラした気持ちは吹き飛んだみたい。
よかった~。奇襲作戦はひとまず成功!
でもここで辞めたら女子の目が怖いから続ける。
女子ウケを目指して背筋を伸ばし凛としたイメージを大切にする、でも男子たちの思春期のガラスの自尊心を傷つけないよう、怯えた野良猫に相対するように。
コワクナイヨー!オイデオイデ。
「ライナス、貴方は統一試験で入ってきた凄く優秀な人だよね? この学園を卒業したら法衣貴族になる。 これは、あくまで私の考えなんだけど…社交界っていうのは顔の見える人達だけで作るカタチのない村なの。そこを分けるのはお互いの不文律の約束を守れるか守れないか。…もしかして、学園に入った時に、周りの人をよく見ましょう。って説明を受けたんじゃない?」
「あ、ああ。最初に統一試験組だけの説明会の時、受けました。 周りの貴族の人たちがどう振る舞うのか観察しなさいって」
「そうなのね。いろんな細かいルールは私たちが同じ仲間だって示し合うためのものなの。 社交界に出入りする家庭で育った者なら知ってるルールだけど知ってる?って。 知らない人は仲間ではない新参者だと。分別のない人や品のない人を社交界に入れない事で、権力がそういった人達に恣意的に利用されないようにお互い牽制しあってる部分もあるんじゃないかな?
細かいルールも多くて、私もまだまだな所もあるの。一緒にこの5年で頑張っていきたい…だめ、かな?」
最後だけちょっと上目遣いにしてみる。
「う。や、その…」
ライナスがまごついてる間に、もう1人のターゲットに向く。
すまんね、私はチキンハートだから早く終わらせたいんだ。
「ルルド様も、ライナスのことを真剣に考えてあげていたから、教えて差し上げたのですよね? 素晴らしいですわ。一緒に学年全体で高め合っていこう、と。あえて憎まれ役をかってでようと。貴い精神ですわ。これからも学年みんなで仲良くやっていきたいですわ!ねぇ、ベティー?」
ここでクラスで1番身分の上の者に丸投げする。
私はここでフェードアウトしたい。
これ以上どうしていいかわからないんだ。
心臓だってドクドクしてるんだ!
「え?え、ええ!素晴らしい精神ですわ!」
ベティーが拍手をするとクラス全員に電波していく。
そりゃそうだ、社長が拍手してるのに拍手しない平社員はいない。
終わった・・・私はバレないように息を深く吐く。
70点といったところか。まぁ、初めてにしてはうまくできた方だろう。
そんなクラスの拍手を切り裂いたのは、同学年にはない落ち着いた艶気を含んだ低い声。
「…りあ」
ふと、そちらを見る。
予想通りの人間がいた。漆黒の髪の美少年、ジークハルト・マグノリア。
来た。ここだ。




