方向性の決定
朝起きたとき、私の視界はやけにすっきりしていた。うん、目は腫れぼったいけど、今まできらきらしたお花畑のように見えていた世界が、現実として冷静に視えていた。
素敵な本屋や映画に出会ったとき、自分という人間が少し変わるように、私も前世を思い出して考えがすこし変わった。
いや、恋人(婚約者)にほぼフラれたショックと前世の恋愛面における酸いも辛いもを見たせいで、ちょっとやさぐれたし、達観してしまったようだ。つまり、考え方がかなり変わった。
どうやら前世の私は、日本という国のどこにでもいるような普通の女子で、顔は中の中、メイク技術で中の上といえる女子の顔面ヒエラルキーの階層にいたらしい(本人による本人のための社会リサーチによる)。
まぁ、そんなことはどうでもよくて。どうやら前世では1度だけ本気で恋をして、でも、飽きられてしまったことがあるようだ。
前世は、好きすぎてなんでも相手の言う通りにしてあげて……飽きられた。
そのあとは、企業戦士として一所懸命仕事をしているところでダイジェストは終わった。そのあとは思い出そうと思えば思い出せるけど、今はそんなところではない。
そう、彼のことだ!
前世の記憶を思い出す、ていう超常現象を起こしすくらい私を追いつめた婚約者様のことだ。
私はとりあえず、今後の方向性を決める。
「①彼(の気持ち)を取り戻す。
・・・②もし、もし、彼が無理だったら他の優良物件を落とす」
前世の私の記憶からいけば、②を本命にして、①ができたら儲けもの。という考えの方が正解なんだと思う。新しい相手を落とすより、自分に飽きてしまった(冷めてしまった)相手を落とすほうがかなり難しいみたいだし。
「しかも、名前すら呼んでもらえないとか…」
以前は、『リア』と愛称で呼んでくれていたのに…。泣きたい。
ジークハルト様は、私との婚約を破棄したいのかもしれない。
彼の気持ちを取り戻すのはかなり絶望的といえる状況。
――でも、諦めるなんて嫌だ!
私の育ててきてしまった想いは、あんな目を向けられても、あんな言葉を言われてしまっても、消えてくれないのだから。――一緒に過ごした楽しかった思い出があるから。泣いていた私を優しくあやしてくれた彼を覚えているから。毎日強い人にボコボコにされても果敢に挑んでいく少年が眩しかった。
自分で自分のことを馬鹿だとは思う。
でも、後悔はしたくない。
だから、彼の気持ちを取り戻す努力をする。
だめだったとしても…なにもぜすに婚約破棄だなんて、悔しいじゃない。
やってやろうじゃないか!
足掻いてみせよう!
見せてやろう、私のホンキというやつを!
*
覚悟は決まったので、さっそく朝の支度を開始する。
侍女のニーナに髪をセットしてもらいながら、ずっと恋愛に関する細かい前世の知識を思い出していた。
私はジークハルト様が初恋だから男性の心の機微なんてわからないし、悲しいことに前世の私もテクニックなんて持っていなかたみたいだけど、すがれるのは前世の私の知識と経験しかない。魂が一緒のせいなのか、前世の知識はなぜかすごく心に刺さるし、すんなりと受け入れられるのだ。
とりあえず、恋愛・美容に関する前世の知識のインストールを優先する。
「アメリア様、準備ができましたよ」
!?
相当集中していたようで、侍女のニーナに声をかけられて驚いた。けど、それ以上に鏡に映る自分を見てさらにびっくりしてしまった。
なんと、でかでかとしたリボンをカチューシャみたいにして頭のてってぺんで結んでいた!!
不思議の国のアリス風とでもいうのだろうか?
可愛いけど、たぶんこれ、男ウケヨクナイヨー!
いつもと同じセットなのに、前世の知識を得て自分を冷静に見える今、このビジュアルはいただけない。前世でいうところのヨーロッパ系の顔立ちとはいえ。
でも、あることを思い出して、今日はそのままつけていくことにした。
ちなみに、前世のダイジェストを見た後、細かい知識などの記憶は、あの時どうだっけ?と思うたびに思い出せる感じ。