「悪役令嬢転生もの」にみる普遍的な真理。
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回シニカルな表現が出てきます。私は転生ものも、知識無双ものも大好きなので否定したり、けなしたりといったような意図は全くないのですが、ご不快に思われる方がいたら誠に申し訳ありません。温かい目で見ていただけたら幸いです。
(7日目日曜日)
怒涛のような1週間だった。婚約者に(ほぼ)フラれ、前世を思い出し、アシュレイと出会い、自分の知識の無さにびっくりし、人前で歌わされ―――まだ1週間しかたっていないことが恐ろしい。確実に人生で1番濃い1週間だった。
ぼーっとしてると侍女のニーナがやってきた。
「お嬢様、お疲れですね…。慣れない環境の上、平日は予習と復習にすべてを費やしていましたしね。今日は午前中だけ勉強をして、午後はお休みにしましょう」
「ほんと??」
「ええ。お嬢様は頑張っておられます。今までやってこなかったからか、面白いように知識を吸収していますし、元のあたまは悪くなかったのですね」
「ふふ。お父様とお母様に感謝しなくてはね!」
「嫌味にいちいち反応しないところはお嬢様の美点ですね」
午前中の勉強を終え、だらしなくベットに横たわる。普段なら怒られてしまうけど、今日だけはニーナに見逃してもらった。本当に今週は疲れたのだ、主に精神的に。
平日は勉強に追われて、ろくに自分の時間もなかったので、やっと前世の知識とゆっくり向き合える…。
そう、私は少女マンガとか乙女ゲーム転生ものをゆっくり楽しみたかったのだ!いつも、必要にかられて高速で概要だけ思い出すようにしてたけど、これで味わえる!
ふははは!
結論から言うと、超面白かった。
1人でベッドの上でニヤニヤしたり、時に吹き出して咳き込んでいた私を見たニーナからは「辛いのだったら、学園を辞めてもいい」と言われるくらいに心配されてしまったけど。
ひとつ、自信を持ったことがある。
前世の経験から得た仮説は正しかったんじゃないか?と。
「悪役令嬢転生もの」を見ていると、多くの場合、主人公は死亡・没落ルート回避のため、それまで大好きだった人から、距離を置こうとし、その結果、疎まれていたのに、向こうから追われているではないか!
これは、私の『押してだめならひいてごらん?』作戦と全く一緒だ。主人公たちはそんなこと全く意識していないようだけど(これがモブと主人公の違いなんだろう)。
完全に自分のものだと思っていたものが、急に離れていくとき、人は執着をみせる。
転生悪役令嬢たちもそうして、執着心を煽り、自分に興味を引かせ、その際変わった自分をアピールし(彼女たちは偶然だったけど)、最後は両想い、または他の優良物件とハッピーエンドだ!
素晴らしい。実に素晴らしい。私の作戦の有効性が証明されたような気がした。
疑ってごめんよ、前世。
しかし、同時に私は気がついてしまった。
もし、エカテリーナ様が『ざまぁ』をしてしまったら、殿下と一緒にジーク様にもそれなりの罰が下ってしてしまうのではないかと。
ジーク様が罰を下されてしまうか否かは、メアリーにどれだけご執心で、どれだけ周りが見えなくて、どれだけやらかしてしまうかにもよりけりだけど。
むぅー。
今、メアリーの周りとエカテリーナ様の周りがどんな感じなのか圧倒的に情報が足りない。
エカテリーナ様がザ・悪役令嬢なのか、それとも正しい事してるだけのいい人なのか。
ちなみにこの国における婚約は、学園を卒業するまではそこまで深い意味を持たない。昔は家同士の繋がりの為にとても重要視されていたけど、200年前にエイン学園ができてからは、徐々に自由恋愛が推奨され始めた…というのが建前で、思春期の子供達を集めてしまっが為に、痴情のもつれからの婚約破棄が多発してしまい、長い年月とともに、エイン学園を卒業するまでの婚約は『親公認のお付き合い』程度のものとなれ果ててしまったのだ。
親同士はできたらこの家の子と結婚してほしいと願い、婚約契約を結ぶ…白紙にするときはその契約の規定に従う。ただそれだけのものに。
だけど、王族の婚約は昔ながらの正式な婚約で破られたことは無い。
なので、メアリーの行為で問題になるのは第2王子様に対してだけなのだ。私は文句を言える立場ではない。特にエデン家もマグノリア家も自由恋愛主義なので違約金も発生せず、ただ親を通して白紙にします、と伝えるだけで婚約関係は無くなる。
悲しきかな、モブの設定の軽さ。軽すぎる。
主要キャラ(?)のエカテリーナ様は婚約破棄なんてされたら王家にたっぷり文句も言える立場なのに。超有力な公爵家だし。
話がそれた。エカテリーナ様が『ざまぁ』するとして、最悪を想定すると、ジーク様が廃嫡されてしまう可能性がある。これまでジーク様が卒業するまでに、気持ちを取り戻せばいいと思っていたけど、事態はもっと急を要することかもしれない。
どうやら、『ざまぁ』は卒業パーティーで行われるのがセオリーらしい。王子殿下とエカテリーナ様は今年の3月に卒業を迎えられる。…なんと、あと1年しかない!
ざまぁ、に巻き込まれないようにするためには年内には結着させときたい。早いうちにエカテリーナ様がざまぁをする予定かどうか確認しなくちゃ。まず、情報収集からだね!
あと、もう一つ分かったこと―――知識無双について。
前世の自分は女子力は……無かったみたいだ。
それどころか色んな知識が……無かったみたいだ。
おいぃ――! 前世のわたしぃ!!
しょうがないよね、わたしだもんね。がっくし。
シャンプーとかトリートメントとか作りたいけど、作り方が分からない。
それどころか、料理だって大さじ小さじを計りながらでしか作れないような人間だったのだ!
同じ魂なんだな、とつくづく思う。残念さが一緒だ。
なんで、転生ものの主人公はそんなに知識が豊富なのか……みんな頭がいい。
シャンプーとか化粧品とか調味料の作り方を知ってるなんてすごいよ。
グーグル先生のいない今は無理だよ……。
なんで転生してお菓子作れるの?あんまり作ったこともないけどお菓子って分量が大事なんでしょ?みんな覚えてるの?女子はみんなレシピ見なくてもお菓子作れるの?それとも私が残念なの?ふぇぇん。
前世の私は残念ながらまったく活かせそうな知識がない。化粧の方法なら得意分野だったんだけどなー。
唯一、法学部出身で小さい企業の法務部勤務だったらしく、法律の知識は微妙にある。そう、弁護士とかじゃないから微妙にしかない。給料アップのためにいくつか資格は持っていたみたいだけども。
あまりの自分の知識の無さに涙がでた。
華々しく色んなことにチャレンジして成果をだすという、「ジーク様にぎゃふんと言わせちゃうんだから作戦!』は始まる事もなく終わりを告げてしまった。くすん。
まぁ、知識無双は諦めよう。
ビューラーくらいはニーナに頼めばできそうな気もするので、早速絵にかいて、ニーナに相談しに行こう。
他の転生ものの主人公たちに比べれば、あまりにも小さな前世知識の活用だけど、美容業界においては大きな一歩のはず!




