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プロローグ

 淡く輝くプラチナピンクの髪にとろりとしたはちみつを溶かしたような琥珀色の瞳の美少女と、その美少女を囲うように甘い微笑みをたたえながら侍る、様々なバリエーションに富んだイケメンたち。


 そのイケメンの中の黒髪碧眼の美少年が私の婚約者のジークハルト様だ。


 うん、詰んだ。

 たぶんこれ乙女ゲームだ。

 いや、乙女ゲームじゃないかもしれないけど、完全に逆ハーを完成されてしまった後だ。

 そして、もしこの世界が、乙女ゲームにしろ、漫画にしろ、私は婚約者を取られるのに、そのエピソードがストーリーに出てこないくらいのモブの配役だ。


 ははっ。  ……笑えない。



 *



 私が前世の記憶を思い出したのは、まさに、昨日のことだった。

 私は伯爵家の娘、アメリア・エデン(13歳)。

 父と母と年の離れた兄に何不自由なく愛情いっぱいに育てられてきた。鮮やかな金髪に空色の瞳の甘い感じの少女で…(昨日までは)ピンクにリボンにレースが大好きな砂糖菓子のような女の子だった。



 そして、私の婚約者様は、騎士団長を多く輩出してきた武の名門マグノリア侯爵家の長男ジークハルト・マグノリア(16歳)。

 ジーク様とは私が7歳、ジーク様が10歳の時に出会った。婚約者候補として、両親に引き合わされたときに私は彼に一目ぼれした。その後、1年くらい様子見の期間を経て、正式に婚約者になった。


 会うたびに、かっこよくて優しくて、まるで絵本の中の王子様が抜け出してきたかのような彼にどんどん惹かれていった。(いや、今となっては、オウジサマ(笑)とか思うけど、昨日までは本気で思ってた。)



 ジーク様が先に学園に入学するまでは、3日と空けずにお互いの家で会っていたし、ジーク様が入学して1年目は手紙を頻繁にやり取りしていたし、長期休暇の度にジーク様が会いに来てくれていた。


 彼が2年生となった頃から、彼の態度が少しよそよそしくなり、忙しいから手紙のやり取りもやめようと言われてしまった。(この時点でおかしいと気付こうよ、という感じがするけど、私の頭の中はお花畑だったのだ。)


 そして、彼が3年生となった去年は、忙しいという理由で長期休暇も1度も会えず、誕生日もプレゼントが送られてきただけでメッセージはなかった。(終了。はい、恋愛しゅーりょー。もうこの時点で恋愛関係は終わってるよね。)



 私は、大好きなジーク様に1年ちょっと会えなくて、本当に寂しくて会いたくて、そんな中で、昨日の入学式でやっと会えた。

 感動の再会だと思った。


 だけど、そう思っていたのは私だけだった。

(そりゃそうだ!)


 久しぶりに会えたジーク様に、私は喜色満面で話しかけた。


「ジーク様!!ご無沙汰しております。お元気でしたでしょうか?」


「あぁ…うん。君も変わりなさそうでよかったよ。じゃ、私は忙しいからこれで…」


「―――っ!」


 ジーク様はちらっとこちらを見ただけで、目も合わせてくれなかった。


 鈍い私がやっと分かった瞬間だった。

 ――彼がずっと連絡をくれなかったのは忙しかったからじゃなく、私から彼の心が離れてしまったからなのだと!

 現に、そのとき話しかけたのも、彼が1人で廊下で誰かを待ってるように佇んでいたからなのだ。私を待っていてくれたのかと期待した私は悪くない…はず。待ち人が来るまでも話したくないほど煩わしかったのかと思うとツライ。


 その時の私は、どうして急にそんな風になってしまったのかよくわからなくて、自分が知らないうちに何かしてしまったのかと不安にかられたのだった。


「あの…わたくし何か…ジーク様のお気に障るようなことを…して、しまいましたでしょうか?」


 そして、ジーク様は眉尻を少し下げて言った。


「エデン嬢、そういうわけじゃないんだけど…。僕自身の問題…いや…ごめんね。率直に言うと僕はもう君に興味がないんだ」



 そのあとはどうやって戻ったか覚えていない。部屋に戻るなり泣いて泣いて脳みそまで溶けてしまうのではないかというくらい涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったとき、「あのときもこんな感じだったなあ」と思ったのだ。


「あれ?」と思うのと同時に


 突然、頭の中に映画のように1人の女性の人生のダイジェストが流れた。なんてことない1人の人間の喜びあり、悲しみあり、笑いありの話だ。――それは、日本人女性だった前世の私の人生だった。



 前世を思い出した後、私は気絶するように眠りに落ちた。



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