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恋占い陰陽師  作者: 新島馨
秋・女神の恋煩い
9/21

第九話

 報告を終えた千早が休憩室で朝食を食べてくると言うので、頼子はデスクルームに1人残った。

 頼子の頭の中には、先ほど千早から報告を受けた件と、昨日の記憶が巡っている。

 昨日頼子はとある客に指名され、その客の元へ赴いていた。

 美門光政の元に。

 アルカナの上層部から一等客を確保できるかもしれないまたとないチャンスを頂いたから、くれぐれもよろしく頼むと極秘に打診された。寸前までその一等客候補の名前すら知らされず、指定された都内一流ホテルのれんすとらんん個室へやってきた。

 少し遅れて到着した男の姿を見て、ああ、なるほど、と合点がいった。

 待ち合わせ場所に現れたのは、ミカドホールディングスの創業一族の御曹司、現代に蘇った光の君、今様源氏と呼ばれる美門光政。先日頼子の部下が世話になった相手だ。

 メディアを通してなら見たことはあるが、直接相対すると、西洋美術のような完成された美貌と凍てつく雰囲気もあいまって、ただひたすら圧倒される。

「美門光政と申します。今日は急なお願いをしてしまって申し訳ありませんでした」

「とんでもありませんわ。アルカナコーポレーション占術課第三支部から参りました、吉田頼子と申します」

 恭しく頭を垂れて、懐から出した名刺を差し出した。光政からも名刺を差し出され、丁重に仕舞う。

 ミカドホールディングスは自社で陰陽師を抱えているはずだ。もしもミカドホールディングスが他社と契約するとなったら、陰陽師業界の勢力図は大きく傾く。

 できれば会社規模の契約を取りたいところだが、占術課、しかも恋占いに特化している第三支部の頼子を指名してくると言うことは、光政個人の依頼だろう。だが、これが今後の足がかりになる可能性は大いにある。

 それに御曹司の色恋沙汰とは面白すぎる。世の女性や週刊誌の記者たちにとっては垂涎ものだ。 

 そして頼子の勘が正しければ、今様源氏の心を射止めた紫の上はとんでもないダークホースの筈。 

「今年の夏、私は1人の女性に助けてもらいました」

 その時に思いを馳せているのか、メディアを通して見たどの美門光政より美しかった。

 まさしく恋をしている人の表情である。

「彼女の名前は高遠千早。アルカナの所属の陰陽師であり、あなたの部下です」

 絶世の美男子にこんな表情をさせるのが、あの最強と謳われたホークアイとは、にわかには信じがたい。

「私は今までまともな恋愛というものをしたことがありませんでしたが、まさか40を目前にして一人の女性に恋い焦がれるなんて夢にも思っていませんでしたよ」

 苦笑を浮かべながら光政が語るが、その様さえ絵になる。

「……正直申し上げまして、高遠は自身の恋愛ごとには全く無関心です。気のない絶世の美女を振り向かせるより至難の技でしょう。私共も全力を尽くしますが、予想以上に色のない返事になる可能性が高いのです。それでも彼女に挑みますか」

 まるで格闘技の試合を申し込むかのような言い回しだが、対象があの高遠千早なのだから仕方ない。もはや異種格闘技戦である。

 頼子の言葉に、光政は悠然と笑みを浮かべる。その微笑には嘲笑が含まれており、頼子は背筋が凍る心地がした。

 年は頼子の方が上だ。それなりの人生経験を積み、キャリアを重ねてきたつもりだ。若造とまではいかないが、年下の男に凄まれて反射でも怯んでしまったことが悔しい。

「私が途中で辞めるような男に見えますか」

「いいえ全く」

 彼の武器は美しい容姿だけではないということを思い知らされる。

「どんな手段を使ってでも、彼女を手に入れたい思いました。彼女の身内であるあなたに助力を請うという反則気味な方法を使ってでも。いい年をした男が情けないと笑ってください」

 光政が苦笑を浮かべる。

 反則ギリギリという自覚はあったのか……と頼子はそこに驚いたが。

 この戦いを制するのは、果たして今様源氏かホークアイか。非常に難しい案件だが、戦いの行く末を特等席で観戦できるチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。

「恋を前に人は平等かつ無力なものです。性別も年齢も立場も関係ありませんわ」

 だからこそ恋は人を狂わせる。絶世の美貌を誇るこの男でさえも。

「ならば、哀れな一人の男にご助力願えませんか」

 もともと頼子には選択肢は存在しないのだが、わざわざ伺いを立ててくるのがいじらしい。

 久しぶりに手応えのありそうな案件に、頼子の口元が無意識に弧を描いた。

 困難な道こそ歩く甲斐があると思う者。

 彼女もまた戦う人だ。




 日が沈みかけた夕方のビジネス街。その最寄駅の正面入り口で、千早と若宮、そして上野は、足元から這い上がってくる寒さを必死に耐えながら深緒を待っていた。

「寒さが身に沁みるな……」

「あんたは羽毛があるからまだマシでしょうに」

 いつもの飾り気のないスーツに防寒、機能性重視のシンプルなコートを羽織った千早。その左肩には若宮が小さく丸まって止まっており、千早は苦笑をこぼした。若宮の羽毛のおかげで、千早の左肩もほかほかである。

 今からのことを考えるとあまり目立つわけにはいかないので、若宮ごとマフラーで首元を覆う。 

「動物型の式神って暖をとる時にいいっスよね……へっくし!」

 千早の後ろから、身を縮ませた上野がよちよちとやってくる。

「若宮貸してあげようか?」

「いや、不釣り合い感が半端ないんでやめときます」

 肩に若宮を乗せた上野を想像する千早。確かに彼に鷹は似合わないかもしれない。

「……ゴールデンレトリバーとかなら似合うかもね」

 一生懸命考えた末、上野に似合いそうな動物型の式神を提案してみる千早。すると上野がじとりとした目で見つめてくる。

「……式神でゴールデンレトリバーっているんっスか」

「探せばいるかもよ」

「どう考えても弱そうなんっスけど」

「上野くんの式神の場合は、女子受けが良かったらいいんじゃないの?女子好きそうだけど。ゴールデンレトリバー」

「確かに好きそうですけど、陰陽師としての何かを見失っている気が……」

 ぶつぶつとつぶやく上野を放置して、千早は端末で深緒の意中の相手の情報を確認していた。

「それにしても深緒様もメンクイねぇ」

 深緒の意中の相手は、斎藤佳久さいとうよしひさ。東京の商社に勤めるエリートサラリーマンで、京都には出張でやって来ていたらしい。あとは生年月日から家族構成、出身校、学生時代に所属していた部活やサークル、取得している資格に既往歴から女性遍歴までと調査は多岐に亘る。写真も数枚入手して来たらしく、学生時代から最近のものと思えるものまで網羅されていた。

 華のある美形、という訳ではないが、柔和な顔立ちをしており、優しそうな垂れ目が印象的な男性だった。一目でいい人なんだなぁと分かる。

「神様って本当に不公平ですよね」

 千早の携帯を覗き込みながら、ぽつりと上野がつぶやいた。

「上野君がそれを言ったら、世の中を生きる男子に袋叩きにされるわよ」

 満面の笑みを浮かべながらぺろっと舌を出す上野を、秋rた表情で見る千早と若宮。

 ぺろっと舌を出して絵になるのはポメラニアンだけだという認識は改めるべきかと、千早は割と本気で思った。

 冗談にも思いっきり乗ってくる男。それが上野和希である。

 それが上野だからな、で許されるのも彼のスキルだろう。

「相変わらずチャラチャラした男ねぇ」

「うわお!?」

 突然横に現れた深緒。上野は芸人のように大げさに飛び上がった。カラスに荒らされた生ごみを見るような目で上野を見つめる深緒。

 深緒が上野の横に並べば、年の離れた妹に見える。妹が反抗期を拗らせているようだが。

 深緒の気配をかなり前から察していた千早は、慌てることなく頭を下げる。

「本日よくお越しくださいました。斎藤様との再会がつつがなく終わることを祈っております」

 斎藤の名前を出した途端、深緒の顔から険しい表情が彼方へと消え去り、一気に頰を紅潮させる。外見相応の少女らしい表情だ。

 今日に至るまで、深緒を根気強く説得した千早と上野は深緒の気が変わらないか気が気ではなかった。


「嫌よ。何故私が行かなくちゃいけないの」

 2回目のカウンセリングでまずは相手に会いに行きましょうと提案した。

 だが、深緒は何故自分から会いに行かねばならないと、受け入れる気が全くない。

 人間の元へわざわざ自分から足を運ぶなど、普通の神様なら嫌がることは分かりきっていた。だが、今回ばかりはそれを曲げてもらわなければならない。それがどれだけ大変なことか。

「恋愛とはただひたすら献身することなんです」

 ギブアンドテイクが成立するのは両思いの関係のみだ(そうとも限らないが)。片思いはただひたすら献身あるのみ。

「……何故人はそこまで尽くすのか、私には理解できないわ」

 深緒が眉間に深いシワを寄せてぼそりとつぶやいた。

 人のように恋愛がしたいとのたまいながら、自分から動くのは嫌だと言う。神が神たる所以ではあるが、これではいつまでたっても進まない。

 深緒とて分かってはいるのだろうが、できるかどうかは別の話だ。数百年行きて来た神としての矜持を、たった数日前に抱いた淡い恋心が覆すことは難しいだろう。

「人は愚かな生き物ですから」

 千早は苦笑を浮かべながら答えた。

 愚かゆえに愛しい。その欠点すらも。

 深緒は未だに眉間にシワを寄せたまま膨れている。

 さてどうしたものかと千早が頭の中で策を巡らせようとした矢先、隣に控えていた上野が緊張した面持ちで口を開いた。

「もしも女の子が突然自分の元へ俺にやって来たら、普通の男なら絶対嬉しいですし、深緒様のような美しい方が来てくださったのなら、意識せずにははは入られませんよ」

 いつもなら軽薄そうな印象を受ける上野の笑顔だが、今は何故かとても安心させられる。

 常日頃が軽薄そうに見えるからこそ、いざという時の真剣な表情に真実味が増す。本人がそれを自覚してやっているのかどうかは分からないが。

 深緒は上野の言葉を理解した途端、一気に顔を真っ赤にさせた。

「わっわたっ、私はっ……!」

 上野の言葉が嬉しいと思いながらも、このまま素直に上野の助言通り従うのは恥ずかしいのだろう。あと一押しだ。

「深緒様はもう一度斎藤様にお会いしたくありませんか?」

 選ばれる道は当人の意思に於いてのみ選ばれるものではなくてはならない。

 千早たちが後押しできるのはギリギリここまでだ。あとは本人の意思に任せるしかない。他人が口を出せばその道は歪んでしまう。

 深緒とて早々に千早たちの意図に気づいていた。だが、山よりも高いプライドが邪魔をしている。それを乗り越えられるかどうかが勝負だ。

 深緒は千早の問いにパクパクと口を何度か開いて、やっと言葉を声に乗せる。

「っ、あいたい……」

 やっとの思いで深緒の意思によって選ばれた道。千早と上野は高い高い一山を越えて、そっと一息ついた。これがまだ女将だとは信じられないが。


 千早は今日ここに至るまでの過程を思い出し、深緒の気が変わらないうちに斎藤には出て来てほしいと切に願った。

「もうそろそろ出てこられる筈です。私たちは近くで控えておりますのでご安心ください」

 深緒はこくんと頷いた。

 彼女の表情には恥ずかしさと戸惑い、そして彼にもう一度会える嬉しさが入り交じっており、千早は微笑ましく思った。

「あとこちらは何かあった時の連絡手段です。使い方を説明しますね」

 千早はコートのポケットに入れていた携帯電話を深緒に渡す。

「ち、千早、私の格好はおかしくない?」

 携帯を受け取った後、深緒はソワソワと忙しなく自分の格好を確認する。

「ええ。本日もとてもお美しいですよ」

「そう……」

 千早が答えた後も、深緒は髪を手櫛で整えている。何かしていないと落ち着かないのだろう。

「では私たちは一旦離れますね。ご武運をお祈りしております」

「え、ええ」

 千早たちは一礼して雑踏に紛れ込み、深緒の姿をギリギリ確認できる位置で彼女の姿を見守る。横に並んで車止めに浅く腰掛けて足を組み、じっとその時を待つ。

「こうして見ると普通の恋する女の子って感じっスね」

 深緒の姿を横目で確認しながら、上野がつぶやく。千早はずり落ちそうになっているマフラーを巻き直しながら笑みを浮かべた。

「バカね。正真正銘の恋する女の子なのよ」

 恋する女性は何よりも美しい。眩しいものを見るように、千早は目を細めた。

 上野は自分の頭の中で考えをまとめる為に、ゆっくりと瞬きをする。

「千早先輩はどんな人がタイプなんっスか」

 今度は千早が瞬きをする番だった。

「突拍子のない質問ねぇ」

「天下無敵のホークアイの恋愛遍歴が気になって」

 酒も入らずこの寒空の下で恋バナができるものだろうか。普通は浮かれた頭とテンションでするものではなかろうか。

 だが別に隠すこともないので、千早は淡々と上野の問いに答える。

「好きなタイプは束縛しない人、かなぁ」

「それを第一条件であげるところが千早先輩らしいっスよね」

 はははと何故か乾いた笑みを浮かべる上野。そうかなぁと首をかしげる千早に上野は質問を重ねる。

「他にはなんかないんっスか?」

「特にないよ。ていうかまず想像ができないっていうか」

「いや、自分がどんな人と付き合いたいとか、あるでしょ?」

 上野の問いに千早は少々考え込むが、やはり具体的なイメージは全く浮かんでこなかった。

「恋愛に憧れはあるけど、自分の世界とは別次元って感じなのよ。お高い洋服やアクセサリーの写真を雑誌で見てるのと同じっていうか」

 その時の上野の絶句した表情といったら凄かった。財布や携帯を落としたと知った時と同じ表情だった。

「恋愛なんてそんな高尚なもんじゃないと思うんですけどねぇ。それこそ千早先輩の思い込みじゃないっスか?」

 千早が目を丸くさせて上野を見つめると、上野は思わず口を滑らせてしまったと思ったようで、あわあわと慌てだした。

「いや、えっと、そういう意味ではなくてですね……!」

「大丈夫大丈夫。怒っていないから続けて」

 不意に予想していなかったことを言い当てられて驚いただけだ。

 上野は言いにくそうにもごもごしていたが、千早の視線に負けて腹を決めたらしい。真面目な表情で千早を見つめ返す。

「できないって思ってたらできないですよ」

 占術は自分自身や自分に近しい人に対しては使うことができない。客観的視点と思考を見失うからだ。陰陽の術は生まれ持った才能だけでは成り立たない。情報の収集と物事を客観的に分析する力も必要とされる。

 いくら冷静に客観的に自分を分析したところで他人にはなれはしない。本人の見えるものと他人に見えるものは全く異なる。己の背中を己の目で見ることができない事と同じだ。

「憧れてるのなら、諦めたらダメです」

 上野の言葉が言い訳ばかりしていた怠惰な自分に突き刺さる。

「そうね」

 いつのまにかできない理由を考えていたのではなく、できない言い訳を探していた。

「私もまだまだね」

 上野に言われた言葉は、いつも自分が仕事で後輩に言っていた言葉だった。人には偉そうに言っておきながら、自分が素知らぬ顔でその言い訳を口にしていたことが恥ずかしい。

「千早先輩もたくさん恋してくださいよ。相談ならいつでももらいますし。あ、相談料は請求させてもらいますけど」

 いつものおちゃらけた上野の言葉に、千早は思わず笑みをこぼした。

「ああ、主役のお出ましね」

 気配を感じた千早が顔を上げる。駅にやってくる人波に混じって、写真の人物が駅に向かってくる。深緒の思い人の斎藤がやってきたのだ。

 スーツをきっちり着こなし、派手さはないが清潔感があり、柔和な顔立ちもあって老若男女誰にでも好かれそうな人だ。

「見るからにいい人そうっスね」

「ええ。神様に魅入られるだけあるわ」

 深緒は顔を真っ赤にしながら斎藤に声を掛けた。斎藤は突然声を掛けられて目を丸くさせていたが、やがて目を細めて顔をほころばせた。どうやら深緒のことを覚えていたようだ。

 深緒には先日のお礼に食事に誘うようにと教えている。なんとかその旨を伝えたようだが、斎藤は後頭部を掻きながら少し困ったような表情を浮かべた。

 しかし二言、三言言葉をかわすと斎藤は携帯を取り出して操作し始めた。あたふたしながら携帯を操作する深緒の手から携帯を受け取る。連絡先を交換しているようだ。操作を終えると斎藤は笑顔で深緒に手を振って駅の方へ歩いて行った。

 斎藤の背中が見えなくなってから、千早たちは深緒の元へ向かう。

「深緒様、大丈夫でしたか?」

 千早が声を掛けるも頰を真っ赤にさせたまま、駅の方をポーッと見つめている。

 根気強く深緒が現実に戻ってくるのを待っていると、やがて千早の存在に気づいた深緒が更に顔を真っ赤にさせる。

「だ、だだ、大丈夫よ!」

「首尾はどうでしたか?」

 上野が柔らかい表情を浮かべて深緒に問いかけると、深緒は耳まで真っ赤に染め上げて俯いた。「今日は予定があるから後日改めて、ということになったわ……あと、連絡先を交換してくれた」 

「じゃあこれからメールと食事会の作戦会議をしないといけませんね」

 張り切っている上野の声に、深緒は楽しそうに頷いた。

「早速歌を考えなくちゃ」

 安心したのも束の間。深緒の言葉に千早たちはぴしりと音を立てて固まった。

「えっと……深緒様……? 歌、とは……」

 答えはなんとなく想像できたが確かめずにはいられず、上野が恐る恐る尋ねる。

 一方、問われた深緒はというと「何言ってんだこいつ」と言いたげな表情で上野を見つめ返した。

「和歌に決まってるでしょう。今時の若者は恋しい人に和歌を送ることも知らないのかしら」

 一瞬空気が凍り、油が切れたブリキの玩具のような動きで上野が千早を見つめてくる。

 深緒が生まれた時代は明確ではないが気が遠くなるほど遥か昔のこと。自分の生まれた付近の時代で流行が止まっているのだろう。

 文明を積極的に取り入れて生活する神もいる。若宮など人に使役される神などはその傾向が多い。

 深緒の装いは現代風なので価値観も現代よりなのだと勝手に思い込んでいた。

「えっと……深緒様、現代では和歌のやり取りはあまりされていないんです」

 あまりどころかほぼないと思われる。否、もしかしたら和歌を送り合う古風なカップルもいるのかもしれないが、多数派ではないだろう。

  言葉を慎重に選びながら深緒に伝えると、深緒は珍しく外見に相応のキョトンとした表情を浮かべた。

「それ、本当なの?」

「はい」

 千早が頷くと、深緒は数秒間無表情で黙り込み、やがて途方にくれた顔で千早を見上げた。

「歌が送れないのなら、私はどうすればいいの?」

 そして上野主催の恋愛メール講座第一回を、急遽近場のファミレスで開催し、その日のうちになんとかメールを一通送ることができた。どうやら斎藤は最近仕事が立て込んでいるようで、Xデーは来週末に決まった。

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