9羽
俺はおばさんを見れなかった。
ただ、これからは宮の事を何も知らず生きていくんだと思う。
俺は宮じゃない、宮の人生は俺の人生じゃないから、宮を知らない俺になるんだろう。
きっとこの感情も古びて、俺の生きていく中に、捩曲げられて残ってしまうのが悔しい。
鮮やかな憎しみと人にびくつく事、そして宮が死んだ安堵。
誰も宮を見ていなかったんだろうと思う。
俺は見えていた自分と宮から目を反らして、死を止めなかった。
それが、俺がなりたい事だったのかも知れないから。
ただ、何もわからずに自分の価値を押し付ける世の中や周りを馬鹿馬鹿しいと思う。
そして俺も同じだった事を知る。
吐き気のような胸が苛々とする。
このくだらない胸糞が悪い感情を殺せたらいいのに。
最後に家族の物で首を吊った宮は幸せだった部分もあっただろうと思う。
そして結局宮は押し付けられる何かの中で
俺にやっと死ぬといえたのかも知れない。
ただ、宮が幽霊だったら、また沢山吐き気の疼く、
傷を受けてもう死ねずにまた傷を作るのだろう。
一生傷ついて癒えるのは家族も仲間も皆死んだ時かもしれない。
でもきっと宮は救われない。
地獄なんて俺は知らないから、死んだ時の感情で俺は止まれない。
ただ、早く宮が焼かれて俺から消えてしまうのが怖いのと
腐っていくあいつでなくなった体が怖い俺は早く焼かれてあの死体を消してほしいと思っている。
おばさんが震える、渇いて切れて傷から肉が見える口でいった
「死んだら駄目よ」
俺は少し鈍った目でおばさんを見て
ハイと答えた。
俺はハイ、しぬなら1番幸せな時に死にます。
そう心で思った。
死んだら俺も腐っていく。
何が違うんだろう。
宮の家から出ると太陽が上から見下ろして居て、影が色濃く出来てまるで肉体がない宮がいるようだった。
俺も宮を殺した1人だったんだろう。
帰り道は明るく、影が濃かった。
光りが強いとこんなにも影が浮き出るんだ。
自分の闇がひどくわかりやすく、目に見える。
携帯がガタガタと震える、体に震えが来る。
ガタガタと代わりに震えているような携帯をとると電話が来ていた。