第1話 フルツホルツの森で
世界の名はシレンティウム
命が光り、また巡る。生まれた者たちはやがて死に逝く。
変わらないものはなくて、飽きることもない。
森は眠れるものの寝床になり、目覚めるその時まで見守り包み込む。
命は巡る、春が訪れるように。
優しく緩やかに静寂に確実に。
私が生まれてから何度と季節は巡り、命は消えて、変化が過ぎたのだろうか?
長命種族 エルフ
魔術師ダヴィーラ・アストゥルム
それが私
世界の小さな命の名前だ。
少しだけ長く生きすぎた私は里を離れて、世界の中心である森に住んでいた。
森の名前はフルツホルツ。
この世界のなくてはならない存在、母なる恵み、命の終始。
『あら?あなたは人ではないの?』
目の前の木が話し掛けて来ても驚きはしない。
この木は他の木と流れる時間が違うのか、とてものんびり屋であると私は第一声で思った。
「エルフと言う種族だ。命の短い人ではない」
木は平和ボケしていた。
『へー。エルフって始めて見たわ!エルフさん、また私と話してね』
それにマイペースで呑気。話し掛けてきたばかりなのに勝手に話を終わらせて、光合成の為に眠ってしまった。
「……」
それが約500年も前のフルツホルツの森での出来事。
まさか更に500年、自分の片割れを待ち続けることになるとは思ってもいなかった。