8-5 隠密
気が付くと、私は廃墟に立っていました。
未だぶすぶすと煙が立ち上るこの瓦礫の街を、私は覚えています。
「あなたの記憶を再現してみたの。少し悪趣味かしら?」
「とっとと始めてください」
「クク、威勢がいいのは良いことね。続けなさい」
シトリスは徐に足元の石片を拾い上げ、シューミルの方へ放る。人間離れした速度まで加速されたそれはシューミルの頬すれすれを飛び去り、すぐ後ろの崩れかかった建物にとどめを刺した。
「今から私は100人であなたを捜索し、見つけ次第殺しにかかるわ。あなたは殺されないよう、それを合計30人、殺しなさい。それが訓練の内容よ。治癒力は最大限に引き上げているけど、治癒出来ないくらいに一瞬でバラバラになったら・・・・どうなるかしらね? それでは、訓練、開始」
そう言うと同時にシトリスは姿を消す。仕切り直しということらしい。
私はまず、近くの崩れかけの家に隠れました。ルールは把握したつもりです。
最初に石を投げたのは、見つけたら容赦しないということと、見つかるような戦い方ではダメだということをつたえるためでしょう。
そして、こんな場所を選んだ理由は・・・あの時と同じことを繰り返させないためでしょう。
私の故郷であるヤラトゥの国が隣国に攻め込まれた時、私は何もできずに物陰で泣いているだけでした。
そうしてお母様や妹たちと一緒に捕まって、奴隷にされたのでした。
ここは、ボロボロになってしまったヤラトゥの街を、そっくりそのまま再現してあります。
そして、まるで自分にだけ、生き残る選択肢を選びなおせるチャンスを与えてやったと言わんばかりのこの訓練。今まで見てきたどんな人間よりも最悪で、最低の、悪魔みたいな人間だと思いました。
私は夏芽姉さんの短剣を握りしめ、じっと息を殺し、感覚を研ぎ澄まします。
ほどなくして、あいつの足音が聞こえてきました。こっちの方へ向かっているようです。
そのまま、そのままじっとやり過ごし、足音が通り過ぎてから、私は建物から顔を出し、こちらを見ていないことを確認してから、走り出しました。
足音を消して走るのは、猫獣人の十八番です。息を止めて、なるべく大きな瓦礫の上をバランスを崩さないように飛ぶようにして走り、背後から首元めがけて短剣を突き立てます。
「訓練の意図を理解していたようね。まずは一人目。合格よ」
首に短剣を突き立てたまま満足そうにそう言い、そして黒いヘドロのようなものに溶けてしまいました。
私は短剣を拾い、ヘドロを軽く払って、次を探すべく廃墟を駆け出しました。
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「イライラしすぎよ。少しは落ち着いたらどう?」
夏芽が紅茶を注ぎながらそう言う。
そう言われた稔も、わかってはいるようだが、それでも落ち着ききれないようだった。
「今はどっちが心配?」
ゼフィーは敢えて二つの心配事の内容を言わない。三人とも、よく分かっていたからだ。
「ユートたちは大して心配じゃねぇ。問題は何しでかすかわかんねぇアイツらの方だ」
「同感ね」
「ゼフィーもそう思う。それで、どうする?」
気軽にどうする?なんて言っているゼフィーだが、稔も夏芽も、それが戦いを仕掛けるかどうかを指していることは分かっていた。
「あーあ、軍部、ねぇ・・・」
大きく伸びをしてみたが、解決策は浮かばない。頭から焦燥感を追い出さなくては考えも出たものではない。それが容易ければ苦労はしないのだが。
「何が目的だと思うか?」
「征服?」
「ゼフィーたちが攻めてくるのを待ってる、って風にハッタリかけられてる可能性もあるよ?」
「いずれにせよ、迂闊に動けるものではない、よなぁ・・・」
そこでまた話が一回りし、全員が黙ってしまう。
「ま、私はいざという時が来る前にユート君が帰ってきてそれで話が動くと思うけどね」
「ほう? 根拠は?」
夏芽の一言に、稔が興味深そうに身を乗り出した。
「わざわざ訓練をさせた理由が彼を戦力として駒にするため以外にあるとしたら、それは彼が実は実力者で、それを隠している、ということを見抜いた上で先手を打って潰しに来ている、くらいしか考えられないわ。多分アイツは負けるつもりなんてさらさらないでしょうし、それもゼロに等しいのだけどね」
「あはは。ちょっと失礼だけど、ゼフィーもユートは弱いと思うよ。こっちに来たての人に求めるのも間違いだけど、ユートは人殺しに慣れてないからね」
ゼフィーも同調する。今まで誰かが口にしたことは無かったが、三人の共通認識としてあったのも確かだ。
「それもゼフィーが防護魔法かけておじゃんにしちまった訳だがな・・・それでも続けるってことは、それだけの利益がある、もしくは・・・・いや、きりがないからやめておくか。とにかく今は、二人が無事に帰ってくることを祈っておくか」
「それが妥当ね」
三人は部屋に戻り、各自自分の作業を始めた・・・・・・




