7-7 みんなの平日(ゼフィー編)
「ゼフィーはね、たくさん絵を描くんだよー!」
ここはゼフィーの部屋。可愛いぬいぐるみがいくつも置かれた部屋に、ユートは呼ばれていた。
シューミルは昨日と同じく夏芽さんに料理を習っているので、ここにはいない。
「あ、お兄ちゃんは適当にそこに座っててねー!」
目の前にカンバスが置かれた、青い椅子に腰掛ける。布がかかっているので中は見えないが、思っていたより本格的らしい。
「あ、それは気が向いたら描いてるやつで、いつもはこんなの描いてるよー!」
今度は普通の紙の束を渡される。どうやら漫画のようだ。こっちのほうがらしいなと思った。
内容は・・・・神の子に生まれ変わって異世界に転生した主人公が、何でもできるが自由気ままな乱数調整能力に性別を変えられたりふりまわされたりする話のようだ。
「で、これが続編」
次の束は、さっきまで戦ったり遊んでいたキャラクターが・・・なんというか・・・・アレをアレしてあーなっているというか・・・女の子同士のエロの塊だった。
「はは・・・らしいですね」
言動や行動を見ていてもわかったが、やっぱり・・・・・・
女の子といちゃつきたいだけじゃないか!!!
最初は何となく性別転換にロマンを感じていただけだと思っていたが、夏芽さんに無駄に近づいていたりやたらシューミルと一緒に風呂に入ろうとしたりギルティどころじゃない。悪人ではないのだろうけど・・・
帰ったらシューミルに注意するよう言おうと決心し、それが伝わらぬよう何食わぬ顔で漫画を返した。
「読みたくなったらいつでも言ってね!」
「わ、わかった・・・・ゼフィーは昔から絵を描いていたの?」
もちろん昔とは、転生する前ということである。確か科学者だったと聞いたが、絵が相当上手なのも事実だ。
「うーん、普段は忙しかったからあんまり描けてなかったけど、コミケに出したりはしてたよー?」
この手のやつは生前からの趣味だったと。なんとなく予想はしていた。
「いやー、夏芽も稔も冷たいんだもん。せっかく作ったこれを読んでくれないしさー」
足をバタバタしながら不平を言う。まぁ仕方ないと思うぞ・・・。
「そうだ! お兄ちゃんにはいいものを見せてあげるよ」
そう言って立ち上がる。そしていきなり服を脱ぐ・・・・なんてことにはならなかった。心底安心した。
机の奥から赤いまん丸のスイッチが一つだけついたリモコンを取り出し、手渡してくる。
『押して!』
黄色と黒のテープで縁取られたボタンにはそう書いてある。
「これは?」
「なんだろうねー。えへへへへー」
なんだろうって、一目見た時から自爆スイッチか何かだと思うのだけど。出来れば押したくない。
「早く早くー!」
ゼフィーの顔色をうかがうが、騙してやろうという様子には見られない。が、これといって安全なものを手渡しているようにも見えない。なにせゼフィーなのだ。何がどうなるかわかったもんじゃない。
「押してゼフィーと楽しいコトしないー?」
黒目の大きな可愛い目が、試すような挑発的な視線を送ってくる。どうさせたいのかがわからない。
「んんー?」
・・・・・ええい面倒だ! と覚悟を決めて押した。すぐに部屋の奥からモーター音が聞こえ始めた。まずい!と身構えたが、爆発はしなかった。
天井から、ミラーボールのような何かがゆっくりと現れる。そして、回転し始めた。
それと同時に、注意がミラーボールに向いて油断していたところに、ゼフィーがぎゅっと抱き着いてくる。
「うわ!?」
「稔も夏芽もね、押してくれなかったんだよ。ありがとね。お兄ちゃん」
言い終わらないうちに、ミラーボールが輝きを増す。すぐに何も見えなくなった。
残るのは抱きしめたままのゼフィーの感覚だけだった。
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「・・・・ここは?」
気づけば、辺りの風景は大幅に変わっていた。ぬいぐるみもカンバスも机も、さらには窓すらない、石造りの何もない部屋だった。多分地下なのだろう、ひんやりとした空気に包まれている。
「ついて来て」
いつもとは違う静かな口調で、奥の鉄扉を開けて入る。その先も薄暗い通路となっていた。
「あれはね、転移呪文を起動させるスイッチだよ。今度からは勝手に押さないでね」
「いや、さっきのはゼフィーが押せっていったんじゃ・・・」
「うん。だけど本当に押してくれるなんて思ってなかった」
声は落ち着いているのに、何故か普段よりも嬉しそうに聞こえた。ユートはますますこの少女、いや、科学者のことがわからなくなってしまった。
「ここはね、ゼフィーの研究室。ゼフィーの第二の故郷にある、秘密の部屋。ここに来たのも、ここに来ることができたのも、ゼフィーとお兄ちゃんだけだよ」




