7-6 みんなの平日(稔さん編)
ユートは走っていた。
赤茶けた大地はとても硬質で、負担をそのまま返してくる。
普段より足が重い。息が切れる。一週間弱監禁されていたのだから、体力が落ちているのも無理はない。むしろあの時あれだけ動けたほうが不思議だ。アドレナリンというものは恐ろしい。
「よーし、そろそろ休憩」
ピッ、とミノルが笛を鳴らす。ユートは肩で息をしつつ、歩速を緩めた。そのまま倒れこんでしまいたいのを我慢して、クーリングダウンに徹する。
一方で、一緒に走っていたミノルは、息一つ乱れていない。
「体力の問題も多少はあるとは思うが・・・やっぱ《再生力》を鍛えないとな」
ミノルに渡された腕時計を確認する。30分ほど走り続けていたようだ。かなり限界だった。
ユートは今日、ミノルと一緒に訓練をすることにしている。格の違いは数日前に思い知ったので、少しでも早く強くなろうと思ったのだ。
「部活動とかはやってたのか?」
「はい。体操をやってました」
「そうか。それなら運動音痴って訳じゃないな」
何かに納得したように大きく頷き、それじゃあ少し授業と行こうか、と言った。
「さて、お前さんのスキル、〈連鎖する四肢〉には、どんな使い方がある?」
「遠くにあるものを触ったり、〈身体収納〉と組み合わせてトリッキーに戦ったりでしょうか。あと抑え込まれても使えるので、いざと言う時にも役立ちます」
「そうだな。ほかには?」
「えーっと・・・・・わからないです」
「そうか。じゃあそれを考えよう。そろそろ気づいているとは思うが・・・・」
そう言いながらミノルは体勢を低くし、そして一気にジャンプした。体が自分の身長程に飛び上がった。
「どう考えても生身の人間にゃあ、どこぞの配管工でない限りこんなことは出来ねえ。この世界で物を言うのは基礎体力よりスキルの強さだ。基礎体力をおろそかにしろって言うわけじゃねぇが、それだけじゃスキルを鍛えた相手には絶対に勝てない」
次は何やら呟いてから、もう一度ジャンプする。今度は自分の身長の二倍くらい飛び上がった。
「もちろん魔法も大切だが、魔力に限りがある。その限りを取っ払うにはどうすればいいか。わかりやすいところなら《再生力》を鍛えることだな。つまり、全てはスキルに帰結するってわけだ。センスを磨くのは後でいい」
その言葉はこの世界の基本理念を示すためのものだったのだろうが、ユートは突き放されたように感じた。
今の自分もとい今の自分が持っているスキルに、ナツメやミノルと渡り合えるだけの力はないのではないかと思ったからだ。
見た目がどうこうというより、性能や出来ること、一貫性が遠く及ばない。
「・・・・って、諦めたくなるだろう?」
思考を見事に言い当てられる。正解なのが悔しい。
「だからこそもっと、自分のスキルについて知るべきだ。詳しく知ることでまた別の使い方が生まれる。すると、ここが足りない、もっとこうできたら、と改善策が生まれてくる。それをお前さんのスキルの意思が、きっと具現化してくれるだろうな」
最初は誰だってそんなもんだ。何も持たないのとでは全然違うさ。と言いながらまたしゃがみ、今度はそのまま地面に手をつき、土をひとつかみ、手に取った。
「俺も最初は〈化学変性〉一つだけだった。それもかなり不便で、作った物は全て中に爆弾が組み込まれる余計な細工付きでな。それでも色々作っているうちにだんだん威力を調節できるようになったり、最後には爆弾が組み込まれなくなったんだ」
「それは困りますね。ってことはナツメさんもそうだったんですか?」
「あぁ、たしかナツメも最初は〈吸血〉だけだって言ってたな。つまりはどれだけ育てることができるか、発想力と意思が大事ってこった」
〈化学変性〉に失敗して怪我してばっかりだったから〈炎化〉が出来たんだぜ? と一人で笑う。ユートは少しだけ安心した。
「ってことでスキルについて色々試して、詳しく知ること。それが自分を知ることにもつながるし、今後の大きな課題でもあるな」
自分を知る・・・・か。ただ単に知ると言うだけでなく、深く理解することが必要なのだろう。
「じゃ、そろそろもう一本走ろうか」
「え!?」
「どうした? さっき基礎能力も必要だと言っただろうに」
・・・・・・・その後もさんざん走らされたり筋トレさせられたりして、次の日には激痛に襲われることは自明の理なのであった。




