7-3 悪魔と不死鳥
丸々1話戦闘だと時間がかかりますね。次回も日曜日投稿です。
「じゃあ・・・いくぜ。〈炎化〉」
ミノルが炎を纏う。陽炎で体の輪郭がぼやけるその様は、さながら炎そのもののようだった。
「ふふ・・・おいで?」
懐から銀のナイフを取り出し、人差し指を撫でる。ぽたりと垂れる鮮血が地面についた刹那、
「〈血染めの月〉〈血操術〉」
ナツメを中心に血溜まりが広がり、ナツメの姿が消える。代わりに何体もの血人形がぬるりと姿を現す。一体一体はそれぞれの武器を持っていて、何らかの言葉を呪詛のように呻き続けている。
「取り込んであげる」
さらに〈傀儡〉を発動、血人形はゾンビのようにミノルに群がる。
「こんな雑兵けしかけてどうしようってんだぁ!? 〈炎の脈動〉ッ!!」
叩きつけられた拳は地を砕き、そのヒビからは炎が噴き出す。血人形をまとめて蒸発させるつもりらしい。
「甘いわぁ♪」
がら空きの背中に、〈血の回廊〉で移動したナツメが心の底から愉快そうに攻撃を仕掛ける。
しかし、それも〈未来予測〉で察知していたのだろう。横に転がって避ける。
「うーん。今日はちょっと控えめだねー。タイクツ」
ゼフィーがつまらなそうに石を弄びながらそう言った。これで地味とか嘘だろ・・・?
すぐ目の前まで血染めの月による血溜りが広がっていて、その上で赤い怪人が呻きながら戦っている。
ゴシックドレスに身を包んだナツメはいつの間にか銀のナイフから髑髏のついた錫杖へと持ち替えていて、その尖った先端をミノルの背に突き立てようとしている。
何度か掠めているようだが、〈炎化〉の効果なのか、傷口はすぐに再生している。それどころかそこから炎が噴き出すせいで、血人形は次々と蒸発していく。次の瞬間には無駄と言わんばかりに再生するのだが。
そんな地獄のような光景のどこが、地味なのだろうか。
シューミルはナツメにあの術を使われたことを思い出しているのか、怯えて顔を青ざめさせていた。こっちが常識的な反応・・・でいいよね? 目の前の出来事を受け入れつつある自分が怖い。
ほどなく、状況が動く。
「ああもうキリがねぇ! カタ付けっぞ!! 〈不死鳥〉ッ!」
ミノルを包む炎がみるみるうちに増していき、ついに巨大な火の鳥へと姿を変えた。不死鳥は大きく一声嘶き、その朧な嘴から炎を吐き出した。
血人形は跡形もなく吹き飛ばされて、後には赤熱した地面が残るのみだ。血溜まりも消え、ナツメは丸腰となった。
「さ、そろそろ本気を出しますの。〈悪魔返り〉」
体が形を失い、ぬるりと再構成される。肌は生を感じさせないほど白く、深緑の髪の上には角がのっかっている。ドレスも背中が開いた妖艶な物に代わっていて、赤黒い羽と尻尾が見えている。手足のように操る血人形もあって、吸血鬼を彷彿とさせた。
不死鳥の吐く灼熱を杖の一振りで弾く。炎は飛散し地を焦がし、空を焼いた。ゼフィーの障壁魔法越しでも、熱と光の肌を焼くような感触がここまで届く。
ナツメはお返しとばかりに杖から魔法を放ち、吹雪を巻き起こす。巨大な氷柱を雨のように降らせ、甲高く哄笑している。
不死鳥はその破壊の嵐に対応しきれず、ついに蹲って固まってしまった。
「防戦一方・・・ナツメの方が強いのか?」
「うん? まぁ実際すべての実力で言ったらナツメの方が強いかな。でも、どうだろうねー?」
悪魔は不死鳥に魔法攻撃を浴びせ続けている。その炎の翼で防いでも、いくつかは的確に体をとらえているようだ。これでは勝ち目はないだろう。
そう思った瞬間。
音が消えた。
次の瞬間辺りが白い光に包まれ、爆炎が障壁を覆い、やがて打ち上げ花火の何十倍も胸を打つ音が遅れてやってくる。障壁のおかげで爆風こそなかったものの、驚くどころの騒ぎではない衝撃がユート達を襲う。
「――――――――――!」
ゼフィーが慌てて何かを叫ぶと、障壁が黒く変色し、音を遮断した。
そこでやっと、自分の耳が働かなくなっていることに気づく。一瞬で大きな音を拾いすぎたせいだろう。シューミルも同様のようで慌てていた。
「はい、これで治したから大丈夫っ!」
ゼフィーが治癒魔法をかけてくれた。するとたちまち元の状況に戻り、無事に音が聞こえ始めた。と言っても外からの音は完全に遮断されているらしく、聞こえるのはゼフィーの声と驚きの余り泣き始めたシューミルのしゃっくりだけだが。
「いやー、大変だったねー。もう少しで壁が壊れちゃうとこだったよー?」
冗談じゃない。明らかに即死確定だ。
「あ、その時はその時でなんとかしてたから安心していいよ! さ、そろそろここから出よう!」
ゼフィーが黒い障壁を解くと、辺りの光景が目に飛び込んできた。
元々草木豊かな地ではなかったので変わり果てたと言うほどではないのだが、地面が大きく抉れ、あちこちから煙が上がっている。
そしてその中心に、膝をつくミノルと、無傷で杖をつきつけるナツメ。
「まだやるかしら?」
「いいや、降参だ。やっぱこれでも駄目かぁ・・・・」
大の字に寝ころび、悔しそうに笑う。
この自爆技のような攻撃をどうやって避けたのかも気になるが、それ以上にナツメが耐え切れなかったらどうするつもりだったんだ? 多分ゼフィーがなんとかするんだろうが・・・
「仲間を信用するのも大切だよ!」
考えていたことを見事言い当てて返事がくる。自分でも状況についていけずに頭が回っていない自覚はあった。
「とまぁ、こんなもんだ。年上の意地で本気出したが、見事に負けちまったよ」
「ふふ、この場では私が年上ですの。負けるわけにはいきませんわ」
二人がこっちに歩いてくる。さっきまで殺し合っていた者同士とは思えない爽やかさだ。二人にとってはスポーツ感覚なのだろう。
「さて、そろそろ魔物も集まってきただろうし、ちゃっちゃと帰ろうぜ」
ミノルは平気そうな顔で荷物を背負いなおして、そう言ったのだった。
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がんばります。それではまた来週。




