6-14 告白(特別)
七章でやる予定のことを六章に詰めることになったので、四月に入っても一時六章のままです。
それでは本編どうぞ。
「この家、シューミルにはとっても変に見えるよね」
「はい。勝手を覚えるのに少し時間がかかりそうです」
「うん。・・・・その事なんだけど、シューミルにとっては変に見えるこの家って、俺にとっては普通の家なんだ」
「―――どういうことですか?」
シューミルは困ったような顔をしている。それだけここは奇でしかないのだろう。
「俺が生まれて、育ってきたところは、ここじゃないんだ。何処か別の世界の、日本って国。そこでの当たり前が、この家なんだ」
「二ホン、ですか・・・?」
やはり聞いたことが無いようだ。まあ期待はしていなかったが。
「例えるなら、シューミルの故郷はヤラトゥって国なんだよね? そこからモーガンさんのいたリュートの国までは、どうやって来た?」
「えっと、馬車に乗せられて来ました」
「そうだね。少し遠くても、船とか馬車とかを使えばいつかたどり着けるよね」
「はい」
「だけど俺の場合は、歩いたって船に乗ったって飛んだって帰れない。女神様が向こうからこっちに送り込んだんだ。その時にもらった能力が邪教徒扱いの原因になったんだろうね」
ようやく話の概要が分かってきたのか、目は伏せたままだが、頷き始めた。突拍子もない話をされた割に呑み込みが早いのはシューミルが賢いからなのか、俺が変な人だと思われていたからなのか・・・・気にしないようにしよう。
「たぶん、下の階にいる人たちもおんなじ世界から来ているはずで、だからこそここを作れたんだ。」
日本にいた頃のかけがえの無い記憶、この家はその象徴のようだった。ナツメが家の中で口調を変えているのも、この家は日本に存在していて、自分は日本人なのだと思いたかったからなのかもしれない。
ユートとしても気持ちは日本人のつもりだ。異世界に転移するという非日常が日常になったとしても、それは変わらないと思う。
「ご主人様」
「ん?」
「ご主人様は、帰りたい・・・ですか?」
俯いたままで、言葉を選びながらも鋭い質問をしてくるシューミル。今度は、こっちが驚かされる番だった。
帰りたいか。その時々で嫌なことはあっても、慢性的にそうは思っていなかったと思う。
「帰りたい・・・・帰りたい、か。つらいこともあったし、嫌なこともあった。―――だけど、帰りたいかって聞かれたら、わからない」
ここに来てから受けた温かさや、経験の一つ一つは、日本では到底することのできない、大事なことに違いない。
「でも・・・帰りたいと思っているとしたら、この世界が嫌だから逃げたい、ってわけじゃないと思う。少し疲れちゃったから、息抜きにちょっと帰ってみたい。きっとそんな気分」
心の中にじっと留まっているもやもやは、そうやってしか言葉にできそうになかった。
「勿論もうあの国には戻れなくなっちゃったし、これからも旅をしたらああいう目に遭うかもしれない。だから、少なくとも一時は、ここにとどまると思う。やっぱり俺が元々住んでいたところとは全然違うし、世の中に対する嫌悪感も、ちょっとはあるんだ」
シューミルはやはり俯いたままだ。まともに答えを出さなかったせいか、困らせてしまったのだろう。こちらもいたたまれなくなってきたので、逃げるように後ろを向き、視線を窓に移した。
大きく息を吸い込んで、ゆっくりと細く吐き出す。外は感想した赤い大地が広がっているのに、心の中は梅雨のようにじめじめしていた。
「ご主人様」
振り返る間もなく、後ろから服をつままれた感覚。
「シューミルはご主人様がどんな人であっても、ついて行きます。・・・ご主人様はシューミルにとっても・・・特別・・・ですから」
心臓が跳ねる・・・・・と、同時に、心当たりに引っかかり、冷や汗が出てきた。
「ひょっとして・・・・・聞かれてた?」
殆ど無意識だったが、シューミルの傷を治させてほしいと頼んだ時に特別だのなんだのって言ったような気がする。その気持ちに嘘は無いが、本人に聞かれているとわかっていたら言わなかった・・・と思う。
対するシューミルは、
「獣人は耳がいいんですよ?」と言った。
振り向くと、向日葵のような笑顔。心の底から、笑っていた。
「そりゃあ、ちょっと恥ずかしいかな」と笑い返す。
二人とも、少しだけ頬が赤かった。窓から見える景色ほどじゃなかったけど。




