6-11 復讐の騎士
(19日一時頃)サブタイ設定を忘れていたので追加しました。
「ちょっと、待ってもらえませんか?」
その声の主は、落ち着き払っている。講和を促すような優しさだが、一分の隙も無い。
「どうせこの国には戻らない。オマエらにはどっちでもいいことだろ」
「・・・・・ふむ。確かに事実上はそれでも全く差異はありません。神は無益な殺生は好みませんから」
言葉とは裏腹に、静かに剣を正中に構える。どうやらこれは無益な殺生には当たらないらしい。
「ただ、私が邪教徒を生かしたままみすみす見逃すとでもお思いでしょうか? ――――それに警邏騎士団団長の名もあることですしね」
一瞬で場を埋めた殺意の奔流に、この人間が何故団長たるやを垣間見た気がした。
「わざわざ捕縛してから処刑、の必要は無いのか」
「ええ。逃走を図ったため殺害、これで誰もが納得します」
ロイツェフさんが露わにする怒りの感情に、思わずたじろぐ。動揺が相手にも伝わってしまったのか、ロイツェフは次の瞬間には足を動かしていた。
咄嗟に〈身体収納〉で盾を呼び出しガード。すんでのところで命中は逃れた。
「シューミル! 先に逃げてろ!」
シューミルは一瞬戸惑ったようだが、「信じてます!」と叫んで海に飛び込んだ。ロイツェフさんは興味が無いらしく、剣をそのまま押し込んでくる。
恐ろしい筋力だ。それでいてまだ余裕が見て取れる。ユートは盾を手放し距離を取った。
「それがあなたが邪教徒として受けた能力ですね? まるで奇術のようです。狂っています」
すぐに距離を詰め、肩口目がけて剣を突き入れてくる。ユートは剣で弾いた。
「ただ、私の敵ではありません」
引き戻された剣を突きなおす。顔のすぐ横を切っ先が駆け、肌が薄く切り裂かれた。血が流れているのか、熱い。
このままマトモに戦っていては勝ち目は無い・・・・・・。やはりこうするしか道は無いだろう。
「〈死の欲動〉」
唱えた瞬間意識が弾き出され、代理の意識が体を支配する。
それは攻撃を的確に予測し、悪意のある人間を正確に、かつ狡猾に排除する。
「本気を出してきましたか。それでは私も全力でかかると致しましょう」
剣を構えなおし、大きく息を吸い込むロイツェフ。走り出すと同時に、何かを唱えているようだった。
「【加速】、【疾風】、【雷脚】、【力鎧】」
魔法を重ね掛けするたびに、素早さが増していき、ついには目で捕らえるのも難しくなってしまった。
一方自分のほうは、恐るべき速度で繰り出される連撃を、初動を見極めることによる未来予知じみた予測守備で、〈連鎖する四肢〉も活用して何とかいなしている。
が、人間の次元を超えた戦いに、先に音を上げたのはユート、いや、ユートの体だった。
元々数日監禁されていたこともあってか、体力に限界がきてしまったのだ。
動きが一瞬遅れ、その瞬間には肩に切っ先が突き刺さっていた。
今まで空を漂っていた意識が、痛みとともに体に呼び戻される。
そうして発生した更なる隙に、剣を手放したロイツェフが蹴りを繰り出す。
脛当てがどてっ腹に命中し、数メートル吹き飛ばされる。
衝撃で刺さっていた剣が抜け、血がどっと溢れる。痛みで思考が鈍化する。空気を吐き出しすぎて息ができない。
「こんなものですか」
少し失望したように、ユートの手から離れた剣を蹴飛ばし、海に落とす。
そうして今度は自分の剣を拾い上げ、ユートの首元に寄せた。
「私の両親は、いや、私の出身である村の人間は、邪教徒に殺されてしまったのですよ」
お前もその一味だろう、暗にそう言われている気がした。
「全員が虐殺、家財道具も全て略奪され、火を放たれて焼け落ちました」
嫌な記憶を思い出しているせいなのか、先ほどまではピタリと止まっていた切っ先が、いつの間にか震えていた。
「そんな中隠れているだけだった自分が嫌で、その憎悪だけで今の地位まで上り詰めました。邪魔な人間には容赦しませんでした。きっと私の心は、邪教徒よりも穢れているのでしょうね」
震えを隠したいのか、それとも手慰みなのか、撫でるようにユートの体に傷をつけていく。痛みはとっくに全身に回っていて、もうどこをケガしているのかよくわからなかった。
「いずれにせよ、これで私の目標へと前進したわけです。記念すべき一歩に、女神の祝福あれ」
首元目がけて剣を振り下ろす。抵抗の余地はもうなかった。
お互い、薄々気付いていたことなのかもしれないけど、シューミルと、もう会えないな・・・
ユートが諦めの沼の中に意識を手放そうとした、その時だった。
「お兄ちゃんは、まだここで死んじゃったら駄目だよ?」
そんな、鈴の音のような女の子の声と、剣を弾き返したらしい金属音が、鼓膜を揺らした。
(この章は三月を超えても多分)もうちょっとだけ続くんじゃ。
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