6-10 死の欲動
なんか猛烈に伸びていたので嬉しくてもう一話投稿しました。
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すぐ下では、自分が兵士と戦っている。いや、戦っているというよりかは、蹂躙していると言ったほうが正しいくらいのワンサイドゲームだ。
兵士の突き出す槍をすれすれで躱し、拳で鎧の隙間を突き意識を奪う。そして得た槍で今度は剣を捌く。
魔法を行使しようとする者がいれば、すぐさま【射撃】。魔力の流れを乱して発動を阻止する。
それでも捌けない時は、左腕から〈連鎖する四肢〉。〈身体収納〉で取り出した盾を使って受けていた。
最初は数十人居た兵士だが、まだ意識を保っているのは7、8人くらいだ。
映画のワンシーンのような洗練された戦いを、自分が今行っている。
もちろん、ユートにそんな真似ができる筈がない。
今体を動かしているのは、自分ではないのだ。
《女神の悪戯》が生み出したスキル、〈死の欲動〉は、どうやら自分を自動的に操縦してくれるスキルらしい。
それの効果なのか、今は半透明になって幽霊のように上から自分を見下ろしている。周りにはそれが見えていないようだ。
とは言っても別にこの体を動かせるわけではないので、透明人間として宙に浮くメリットなど無いのだが。
ユートは今、達人級の動きをする自分をウットリと眺めていた。
もし自分に、最初からこの位の力があったのなら、最初からシューミルを守れていたのだろう。
そんな純粋な善意が、最強への憧れと結びつく。
もっと強くなりたい。失敗をしない、完全な行動をとれるようになりたい。
そうこう考えているうちに、残るはあの女一人だ。
音は聞こえないが、こちらを指さしながら怒りを露わにして口汚く叫んでいるのがわかる。
魔法を発動しようとして、同時に放たれた三発の【射撃】に妨害されている。
どうやら今体を動かしている〈死の欲動〉というスキルは、戦いに関してはユート以上の知識を持っているようだ。
どうやらスキル内の〔意志〕が作り出したようだし、操縦しているのもそれなのかもしれない。
短剣を抜いて迫ってくるが、全く動じず幾度かの切り付けを躱し、回し蹴りを腹に叩き込む。
体をくの字に折って噎せる女に追撃で気絶をプレゼントし、端に逃がしていたシューミルの手を引き物陰に隠れる。これで目撃者は浮浪者が数人だけだろう。
また意識が薄れていくのを感じた。スキルの効果が切れて、元に戻るのだろう。
ユートは完全勝利を噛み締めつつ、目を瞑った。
目を開くと、シューミルが心配そうな目でこっちを見ていた。
「ここでもたもたしていたら大変だ。すぐに逃げよう」
シューミルはこく、と頷く。ユートは繋いだままの手を引いて走り出した。
出来るだけ古い道を通るようにした。人目を避けやすいと思ったからだ。
騒ぎになるまでにそう時間はかからないはずだ。それまでに何としても国を出なければならない。
馬車は惜しいが、この際諦める方が得だろう。自分達の命には代えられない。
この国は城壁が大きいので、すぐに外周まで来ることはできた。ただ、どこかにヒビがあるわけでもなければ、上ってどうにかなる高さでもない。結局は門まで行かねばならないのだ。
最終的に強硬突破を選ぶことになるかもしれないが、アシが無い今、追われるような真似は避けるべきだろう。
荷物に紛れ込むか、旅人と入れ替わるか・・・どちらにせよ完全に犯罪である。
ただ、そんなことはもうどうだっていい。この国の人間がどうなろうと構わない。
心の中でそう叫んで、アズキやゴンの顔がちらついた。いや、あいつらだって他の人にだってああやって友好的に接するのだろう。それに、邪教徒だと思われている今では・・・・
近くにあった小石を蹴り飛ばし、ネガティブな想像を塗りつぶす。どちらにせよもうここには居られないのだから、数日前に知り合った人間のことなんてどうでもいい。
ここに来た時もそうだったが、門は魔道具を使って検査していたようだ。通らないほうがいい。
それだったら、どうしよう・・・・?
そう考えつつ歩くユートの前にあったのは、一つの樽だった。中には氷と魚が入っているようだ。
魚・・・・・そうか、海だ!
海を使って城壁の外まで泳ぎ切れれば、何とかなるかもしれない。
「シューミル、泳げるか?」
「はい。大丈夫だと思います」
質問の意味を察してくれたらしい。決意を固めた目でこっちをじっと見返している。
「生きて帰れるよう、女神に祈っておこう」
肩の力を抜くべくそう冗談めかして、今度は港に向かって走り出した。
港へは、人目を避けながらでも五分程度でたどり着いた。一週間もまともに動いていなかったが、体がなまる程度でそう衰えはしていなかったので、泳ぐのも大丈夫だろう。
幸か不幸か、今は漁の季節らしく、新型魔道具の開発の話もあり、かなりの人がいた。ここから見つけ出すのは至難の業だろう。
「あとは怪しまれないよう人気が無い水辺に行くだけだ」
「はい」
人とすれ違うたびに緊張が走るが、シューミルの手を握って必死に誤魔化す。
そうして数分後、無事に人気の無い海岸を見つけることができた。
「出来るだけ水にぬれても重くならない服装にしよう。シューミルはそこで着替えてきて」
練習着として買っていた、スウェット生地の服を手渡す。すぐに物陰で着替えて戻ってきた。
着ていた服を受け取り、〈身体収納〉で体に収納しておく。溶けて体に吸い込まれていく服を、シューミルは怯えた目で見ていた。ああ、これはまだ見せていなかったっけ。
「これもスキルの一つだ。・・・詳しいことは後で話すから、今は信じてくれ」
「―――はい」
「ある程度沖まで行けたら掴まれる物を渡すから、そこまでは急いで泳ごう」
「はい」
海にも魔物はいるのかもしれない。油断はできない。
「それじゃあ、行こうか」
「はい」
息を吸い込んで、飛び込もうとしたその瞬間、
「追いかけっこは、ここまでにしませんか?」
声のほうを向くと、立っていたのは鎧をまとう長身痩躯の剣士。右手には抜き身の銀剣が握られている。
紛れも無い、ロイツェフさんだった。




