6-9 邪教徒
「被告人、ユート ヒイラギ。率直に聞きましょう。あなたは邪教徒ですか?」
群衆がざわついている。自分の心中はざわつくどころではない。
こっちを見つめる王様の目が厳しくなる。早く答えないと。
「――――ぁあ、えっと・・・」
言葉が出ない。声が震える。自分がどうしていいのかわからない。
「黙秘ですか。それでは検事クリル、証拠を提示してください」
「はい。被告人はクラリス国際魔法学校の特別入学希望者でした。そこで魔力検査を行ったところ、異常な結果を示したため捕縛し《女神の加護》スキルより〈人体解析〉を使用した結果、邪教徒の印である《邪神の恩恵》スキルを検出いたしました」
すらすらと読み上げる女。群衆も納得しているようだ。
「待った。その特別入学なのだが、推薦書はどこから出ている?」
「商人貴族の、モーガン一族からでした。本人の印も捺してあります」
「ふむ。今後は少し関わり方を考えねばならんな」
王と裁判長の会話を聞いてやっと、モーガンさんのことを忘れていたことに気づく。これは迷惑所の騒ぎではなってしまう。
「待ってください!」
声が上ずったが、何とか伝わったようだ。
「被告人。今までの説明や証拠に間違いがありましたか?」
「いえ。その推薦書は本物ですが、モーガンさんは関係ありません!」
「モーガンさんは、ですか。それは自供と見て構いませんか?」
考えのない発言の言葉尻を拾われてしまった。
「い、いえ・・・邪教徒なんかじゃ・・・・」
「それでは、スキルが検出された理由は?」
何も言い返せない。魔女裁判どころか、普通の裁判でも負けそうだ。
「どうやら、反論の余地はないようですね。何か意見はございますでしょうか?」
王は首を横に振った。女は勝利を確信したのか、こちらに挑発的な笑みを向けている。
「それでは被告人ユート ヒイラギは有罪、法に基づき死刑が課されます。それでは、これにて閉廷といたします」
逆転要素などどこにもない。手首にはまる錠のせいで、足掻く手段もない。
縄を引かれる。兵が進むにつれ、群衆が割れる。皆が嫌悪と好奇の入り混じった視線を向けてくる。
自分はここにいて良い、居られる存在ではないという意識が心を支配し、黒く染めてゆく。
学校の前を通り過ぎる。校旗があっちへ行けと言わんばかりにはためいていた。生徒にももう話が周っていたのか、何人も見物人が出てきていた。当然だろう、入学希望者が邪教徒だったのだから。
その中の一人と、ふと目が合う。アズキだった。
アズキは顔を歪めると、俯いて群衆の中に消えてしまった。どういう感情だったのかはわからないが、とても悔しくなった。
それから暫く歩いて、街の外れに見えてきたのは断頭台だった。イメージ通りの大きく分厚い刃が、てっぺんで止まっている。
ここまでついてくる物好きは殆ど居なかった。代わりに、ここはスラム街になってるのか、浮浪者が何人もうろついていた。
先導していたあの女が歩を止め、振り返る。そして感情の無い目で、問った。
「女神様は慈悲深い。言い残すことはあるか?」
何も言わず首を振ろうと思った。が、一つだけ気になることがあった。
「シューミルはこの後どうなる?」
女は眉を顰め、思い出したように言った。
「ああ。〈人体解析〉にも反応はありませんでしたし、望むのなら解放しましょう。無益な殺生はしない、これも女神の教えです」
「そうか。それだったら、お前らが与えた傷を、最期に治療させてくれ。シューミルは俺の特別なんだ」
「ふむ・・・・・・それでは、手足を縛った上で監視の上なら認めましょう」
手足を縄できつく縛られ、石に固定される。その上、兵士に武器を突き付けられた。その代わり、魔法とスキルを封印してきた手錠が外れる。
乱暴に引っ張ってこられたシューミルに、縛られたままではあるが手を近づけ、念じる。
もちろん、今までに治癒魔法を使ったことは無い。それでも、今なら使える気がした。
ボロボロになったシューミルの肌を見つめ、傷が戻るイメージをする。傷から受けた痛みを想起しながら、ひたすらに念じる。
「【小癒】
ポッ、と明るい光が灯ったかと思うと、シューミルの傷が少しづつ、癒え始めた。
そのまま集中を切らさないように、場所を変えていく。
戻れ、戻れ・・・それだけを考えながら、治癒魔法を行使する。《再生力》により自分にはあまり必要無い魔法だが、イメージさえすれば発動はできるようだ。
右腕、左腕、足・・・次々と癒していく。傷が癒えるのと同時に、傷つけた連中への怒りがふつふつと沸いてくる。
最後に、顔を癒そうと頬に手を持っていき、そこで気づく。
シューミルは、泣いていた。あの獄の中で見た涙と同じ、辛さを噛み締めた涙だ。
傷が全て癒えた途端、堰を切ったように泣きだす。鼻声で、いやです、いやですと訴えている。
・・・・・・こんな目に遭ったのは、誰のせいだ?
自分のせい? いや、俺は悪くない。
きっと全部、こいつらが悪いんだ。
《邪教徒》呼ばわりしやがって。犯罪者扱いでシューミルをいたぶりやがって。
どうせ死ぬんだ、というやけっぱちが、許さないという殺意に転化する。
それは油に点火するが如く、一瞬で燃え上がった。
周りは全て武器に囲まれている。動けば即座に殺されるだろう。
「終わったな。これで満足か?」
嘲笑うような女の声。二度と聞きたくなかった。
今から〈身体収納〉を発動、取り出した果物ナイフを素早く投げれば、あいつに怪我くらい負わせられるかもしれない。
怒りのままにスキルを発動しようとしたその時、脳裏にピピッ、という電子音が聞こえた気がした。
『スキル〈死の欲動〉を作成いたしました。スタンバイ完了です』
ひび割れた金属音が、日本語で話しかけてくる。
見まわすが、誰かが喋った気配は無い。
もしかして、これがスキルの〔意思〕なのか・・・?
それがどんな効果なのかも、ここで使えるものなのかもわからない。
それでもユートは、錠が両の手に再びかかる直前に、呟いていた。
「〈死の欲動〉」
意識が、ふっと途切れた。




