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6-8 献身の限度

今回は少し鬱いです。書くのも大変でした。

ご注意を。




「それで・・・・そんな目に遭ったのか?」


咄嗟に聞き返すその声は、掠れて上ずっていた。


「はい。けど、大丈夫です! すぐ直りますから」

「そんなわけないだろう!!」


声の震えをはき出して、怒鳴ってしまった。


「そんなにされるくらいだったら言って――――」


そこから先は出てこなかった。「軽々しく口にするな」と言ったのは自分だ。


程度はどうであれ、シューミルはその言いつけを守ったのだ。現に、話されていたらもっと状況は悪くなっていただろう。


「―――――すまない」


それから先は、一言も続かなかった。




____________________________________





次の日の朝、食事を持ってくる時に、シューミルが連れていかれた。


シューミルは失礼しますと言って出て行った。表情は崩さなかった。


そうして夕方、傷を増やして返ってきた。


次の日も、また次の日も。同じようだった。


シューミルは何も喋らない。それが向こうの目論見とわかっていても、心の傷は怒りと悲しみを生み続ける。


そうして、六日目の夕方。いつまで続くともしれない苦しみで、精神はすっかり疲弊していた。


最後にいつ寝たのかもわからない。暗い檻の中で、朝夕の食事だけで時間の流れを感じ取る。


先ほど帰ってきたシューミルはもう満身創痍だ。自分のせいでこうなってしまったと責める思考は数日前から止まったことがない。


けど、自分を邪教徒と認めたくないがために、もう話していいよという一言が出ない。


先が見えない以上、このままにするのが最良の行動とはいいがたい。ただ、自分が怖いがために何もできないのだ。


「・・・・・・ごめん」


今まで何度そう言っても、大丈夫です、としか返ってこなかった。


けれど、今日は違った。


返事が来ない。闇にすっかり慣れてしまった目には、俯いたままのシューミルが映るだけだった。


そうして暫くして、最初に耳を刺激したのは、必死にこらえられたしゃっくりだった。


「シューミ「嫌じゃないのに・・・・泣いちゃってごめんなさい・・・」


震える声で、シューミルが遮る。


一番辛いのはシューミルだ。それはわかっていたはずなのに、自分は苦しめられている、辛い、などと思っていた自分に気づかされる。


それは後悔ややるせなさに変化して、自己嫌悪へと向かう。


それを振り払うには、自分が覚悟を決めないと。


「うん。シューミルにはずっと酷い目に遭わせてしまってごめん。ここまで頑張らせてしまってごめん。あとは、自分で何とかするよ」


できるだけ気楽に言ったつもりなのに、もっと泣かせてしまった。


そして、こちらにふらふらと近寄ってきて、数秒後には抱きしめられていた。


「私はご主人様に助けられて、今生きています。ご主人様がその命をどう使おうと、私は何も言いません。だから、ご主人様の一番いいようにしてください」


震えた声で、そう言う。それが犠牲になっても構わないという意味とは、少し違う気がした。


何より、それに甘えてしまっては、本当に人間ではない邪な存在になってしまいそうな気がした。


「いや、あの時に言っただろ? 俺たちは仲間だって。だから主人と奴隷じゃなくて、仲間でありたいんだ」

「無理ですよ! こうなったらもう、無事に済む方法なんて、無いんです・・・。だから、ご主人様だけでも、助けさせてください・・・・・」


叫ぶようにそう言って、泣き崩れる。


もう、綺麗事の希望論で済む話では、無くなっているのだろう・・・・・・・・


縋って泣くシューミルに、どうしてやることもできずに、そのまま、夜を明かした。





次の日。いつもシューミルを連れ出しに来るいかつい男は来なかった。


代わりに、いつかの女がやってくる。前にも増して冷たい目だった。


「出なさい」とそれだけを言い、椅子から手錠に付け替える。


手錠についた縄を引かれ、外へと連れ出される。一週間弱も体を動かさなかったせいか、体が重かった。


そして、暗い廊下を通り、扉から直接外に出される。朝日が眩しかった。思わず手で遮ろうとして、手錠がかかっていることを再認識させられた。


それから、黒い幌のついたぼろぼろの馬車に乗せられる。その間も、監視されているようだった。


どこに向かうのだろうか。そう考える間もなく、馬は足を止めた。


「降りろ」


女にそう言われる。勝ち誇るような雰囲気だった。


馬車を出ると、辺りは群衆でいっぱいだった。その中心には、煌びやかな服を着た脂ぎった男と、枯れた黒服の老人がいた。


「それでは、審問を開始致します」


老人のその一声で、やっと気づく。


これは魔女裁判だ。と。


慌てて辺りを見回すが、中心人物はそこの王と思しき男、裁判長と思しき老人、そして、検事と思しきこの女だけだ。弁護などつくわけがない。


「被告人、ユート ヒイラギ。率直に聞きましょう。あなたは邪教徒ですか?」


ユートは背に冷や汗が伝うのを感じた。




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