6-4 ルール無視の直接攻撃
「さあいよいよ始まりますチャンピオン戦! 勝つのは不動のチャンピオン、クロエ先生か、はたまた期待のルーキー、ユート選手か!?」
ゴンの煽りに合わせて奥のほうから出ていく。観客は増えていたが、打倒先生を期待して見に来ているというより、先生相手にどこまで頑張れるか見に来ていると言ったほうが正しいようだ。本気で応援してくれているのがシューミルだけなのは見ていてわかる。
クロエ先生と呼ばれた人は、凛とした顔立ちの女性だった。少し吊り目なので、キツイ印象を与えるが、これはこれで美人だ。
「時間が惜しい。とっとと終わらせようか」
見た目通りの性格らしい。観衆の目を気にせず、軽くこちらを威圧してくる。
本気で油断できない相手なのだろう。マッドブッチャーやサヘルとは違う、別の強さを感じる。
「それでは、最後の最後、決勝戦、始めていきましょう。ユート選手、魔力と筋力、どちらを選択しますか?」
「魔力でお願いします」
「それではクロエ先生、どちらにしますか?」
「無論、筋力だ」
こともなげに言い放ち、魔道具と手を組む。何としても先生を倒したいと言っていた理由が何となくわかった気がした。あくまでこれ、魔道具の腕相撲大会だよな・・・?
「そ、それではそろそろ試合開始といきましょう。皆さんもご一緒に! レッツ、腕相撲!!!」
開始の笛と同時に、四割ほどの魔力を籠める。
「なかなかやるようだが・・・いつまでもつかな?」
先生は涼しい顔―――とまでは行かないが、まだまだ余裕はあるらしい。腕の位置も、中心で拮抗している。
「それならッ・・・!」
残りの二割も、活動できる最低量を残して魔道具に籠める。先生の表情が少し揺らいだ。
さらに押し返そうとする力が強まった気がしたが、それでもまだじりじりと腕は左に傾いてゆく。
観客の声も、男の実況も、遠くに行ってしまっていた。そのくらいの集中で、魔力を操る。
もう少しだ・・・・!
マットに先生の手の甲が触れる瞬間、
「〈魔功術〉」
そう呟く低い声。
それと同時に、機械的なまでの圧倒的な力量がかかり、手の甲は百八十度ひっくり返ってしまった。
あまりの逆転に、会場がざわつく。
「しょ、勝者、クロエ先生!! まさかまさかの十五連勝だぁーッ!!!」
ゴンがそう叫んでいるが、集中と疲労から抜け切れないユートには理解が追い付かない。
「待った。これは私の負けだ。元が魔力とはいえ、スキルの使用はルールに書かれていなかっただろう? よって私は規定外の行動により敗退、それでどうだ?」
「おっ? おう、そうだな―――――ここでクロエ先生、スキル使用により規定違反で敗退! よって、優勝は、ユート選手でしたぁぁぁぁッ!!!」
やっと意識がはっきりしたころに気づいたら腕を持ち上げられていて、驚いている観衆より驚くユートなのであった。
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「ってことで、これが優勝の商品だ。さすがにあの試合を見せられて、俺も挑戦するぜってのはいなかったから、晴れて優勝だ。おめでとう」
手渡されたのは、「第一回魔法力・腕力腕相撲大会優勝」と書かれた指輪型の魔道具だった。
説明を聞くに、魔力が流れている場所を探知しやすくするための補助輪のようなものらしい。
「本当は黙っていてもよかったのだが、生徒と変わらん年齢の者に全力を出すのはいかがなものかと思ってな。見事な魔力量、見事な扱い方だったな」
クロエ先生が後ろから褒める・・・・が、あまり褒められているような感じがしない。
「ただ、冒険者なのだろう? 相手がスキルを使用することも計算に入れるべきだな」
そういう所が大人げないんですよ、と言おうと思ったが何故か怒られそうな気がしたのでやめておいた。
ここでガチンコ勝負で腕相撲挑んで腕増やして競り勝ってみたかったけど自重しておこう。入学する前から学校を追い出されそうだ。
「確かに冒険者ですが、紹介を貰ったので来年から入れてもらうことになります」
ゴンは素直に喜んでくれている。クロエ先生は・・・・眉毛を少し動かしただけで大して興味がないようだ。入学してからもこの先生には苦戦を強いられることになりそうだ。
「おっ、そろそろ親交戦が始まるな。ってことでここはもう閉めたいんだが、いいか?」
ゴンがテントに休止中の札をかける。先生はいそいそとどこかへ行ってしまった。
「そうだね。俺もそれを見に行くつもりだから、ついてきてもいいか?」
「あー、俺たちは参加者だから、少し場所が違うんだ。案内してもいいが、観客ならそのまま向こうに歩くだけだな」
「そっか。それじゃあ先に出ておくことにするよ。また学校であったらよろしくおねがいします。それでは」
シューミルを連れて、テントを出る。人はかなり減っていた。ほとんどの人が親交戦を見に行っているのだろう。
「親交戦、ってどんな物なのか聞きましたか?」
「いや、楽しみにしとけって言われて聞いていないよ。シューミルは?」
「いえ。私もです」
まぁ、知らなかったからと言ってどうというわけではない。観客とは気楽なものだ。
楽しみだなー、と呑気なことを考えながら、ユートは会場へと向かった。
余分な話で二話もとりましたね。次回からちゃんと話が進みます。




