5-9 水晶の女神
勝手にランキングの方がものすごく伸びているようです。ありがとうございます。
多分次々回の投稿時から連投出来そうです。
今回は女神編です。
どこまでも続く蒼に染まった世界。つい先程まで目に映っていたのは暖かな宿と猫耳少女の黒髪だったのに、眠りにつくと同時にそれが一瞬で塗りつぶされてしまった。
ここに来るのも六度目。ここに転移してから五週間、つまり一か月と少し、過ごしていることになる。
「お迎えに上がりました、ユート様」
これまでの災難とそれでも生き延びているという奇跡を今更のように実感しつつ、天使の案内に従い目を閉じる。体がふわりと浮き上がった。別の場所に転移したようだ。
「ようこそ。我が館へ」
低めの声。それと同時に香水のようなきつい匂いが鼻をつく。
これ、不味い奴じゃ・・・・・
恐る恐る目を開く。立っているのは赤や紫で構成された暗い部屋だ。光源は横にある暖炉と、奇妙に輝く水晶だけだ。
そしてその大きな水晶の先に、修道女のような格好をしたミラが俯いて座っている。どうやら今回のテーマは占い師らしい。
古典的かつイメージ通りな水晶式でよかった。と、ユートは少し安心した。余談だが、歴史上には羊の内臓で占いをする占いがあるらしい。
「ゆるりと寛いでいただけるのは良いことですが、そろそろ始めましょう。こちらに座ってください」
俯いたまま、着席を促してくる。言葉遣い一つとっても、突然狂ったことを始めるような危険人物には見えない。どうやら今回はアタリだったようだ。
「それでは始めましょう。まずは貴方の記憶を読み取らせていただきます。額を向けてください」
おでこに、ひんやりとしたミラの手が触れる。これは勝手な推測だが、年上に見えるミラの方がいい人だったり、安全に事が進んだりするような気がする。
「はい、ありがとうございました。次に、貴方の周りに起きた異変や、貴方の今の現状に対する不満など、そのような伝えておきたいことはありますか?」
「いえ、特には。あ、先週ここに来た時にスキルに〔意志〕を加えられたらしいんですが、〔意志〕って何ですか?」
何気ない質問のつもりだったのだが、ミラは少し驚いたように見えた。
「もしよければ、もう一度確認させて頂けませんでしょうか?」
「はい、いいですけど・・・・」
すぐにもう一度、ミラの手が触れる。
「――――ありがとうございました。まだ質問に答えていませんでしたね。〔意志〕とは、スキルに自律性が芽生えたということです。貴方の考えや欲求に基づき思考をサポートしたり、新たにスキルを作成してくれます。現に今も、スキルを作成中のようですよ」
つまりミラの悪戯と気分に左右されないまま、自分の望むとおりにスキルを作れるわけか。ただ、そもそものスキルが《女神の悪戯》な訳だから、結局変なものが出来そうな気が・・・・考えるのはやめておこう。
「最後に、貴方の未来を占いましょう。心を空っぽにして、目を瞑って下さい」
分身体とはいえ、女神であるミラの占いなのだから当たるかもしれない。少し期待しつつ、指示に従う。
瞼の裏で、水晶の光がより強く輝いたのがわかった。
「――――――見えます。硬い殻から抜け出せない貴方と、それを打ち破ろうとする何か。そして、殻をすり抜けて入り込んだ・・・これは希望のようなものでしょうか」
どういう事だろう。抽象的過ぎてわかりづらい。
「貴方にはこれまで同様、いや、それ以上に変革が訪れるでしょう。それを切り拓くのは、貴方自身と、貴方にやってきた希望だけです。この希望は既に貴方の周りや、貴方の中にいるのかもしれません。あ、もう目を開いてもよろしいですよ」
言われたとおりに目を開くと、ミラの相も変わらず人間離れした美貌が、こちらに花が咲くようなまっさらな笑みを向けていた。思わず、少し心拍が上がる。
「あ、ありがとうございました」
「はい。貴方は災難の神様と幸運の女神、両方に愛されているようですね。貴方の選択が貴方を左右するという事を忘れないよう、気を付けてください」
「はい。わかりました」
「ああ、お帰りは向こうの扉からどうぞ。扉をくぐったら、貴方は夢から目を覚まします。―――頑張って、生き抜いて下さいね」
「はい。ありがとうございます」
ユートは丁寧にお辞儀をし、示された扉の方に行く。大きな木製の扉は、近づくとひとりでに開いて、真っ青な空間を映し出していた。
これから訪れる波乱は、進歩を生むのか破滅を生むのか。どちらにせよ、精一杯生き抜こうと覚悟を決めるのだった。
ユートは扉をくぐり、また青に飛び込んだ。
本章はこれにておしまいです。読了ありがとうございました。
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