4-8 冷酷の女神
何時の間にか閉じていた両目を開くと、そこは限りなく広がる蒼一色の空間。
七日間ぶりに訪れたここは、何度来ても平衡感覚を失いそうになる。何せ、壁や天井どころか、地面がそこに存在しているのかも曖昧なのだ。風もないし、音も聞こえない。極限まで情報というものを削がれた空間だ。
「ユート様。お迎えに上がりました」
いつも通り死角から呼びかける、天使の落ち着いた声。それに従い、目を瞑る。
一瞬の浮遊感。直後、ユートは白い部屋にいた。
部屋というよりは城に近い。すべてが大理石のようなひんやりとした材質で形作られていて、滑らかな曲線や壁に施された細やかな彫刻が荘厳な雰囲気を醸し出している。
「転移者、ユート ヒイラギ」
女性の声。声のする方を向くと、そこにはいつぞやの幼女ミラが座っていた。
城と同じ材質の椅子に腰かけるミラ。その姿は最初に見たものだ。
だが、格好は前のだぼついたパジャマではない。白一色のワンピースだ。頭には飾りが乗っていて、しゃんとした印象を受ける。
「ミラ・・・? だよな?」
「そうだ。って何をするやめr———」
はっ、いかんいかん。そんなマトモな本物がいるわけないと疑って頬をつねってしまった。
「コホン。次やったら殺す」
威厳は中途半端に保ったまま、さらっと脅される。本当に殺しかねないから怖い。
「で、なんで本物が来たんですか?」
「これであなたがここの世界に転移してから一か月近く経つわけだし、報告によると色々大変な目に遭ってるようだし・・・べ、別にアンタに会いたかった訳じゃないんだからね!! ——————なんてツンデレ晒すと思ったかバーカバーカ!! 残念だったな! クハハハハ!」
ああ・・・やっぱりミラだ。脳ミソに濃硫酸でも流れているのだろうか。ミカエルさんに頭グリグリの刑に処されればいいのに。
「・・・・んで、結局なんで来たの? まあ変なの寄越されるよりかはましかもだけど」
「実際の所、一か月経ったから精密検査という話は確かだ。分かったらとっとと我に首を垂れよ」
無駄に腹立つ言い方。幼な顔によるドヤ顔の煽りスキルの高さを実感する。
小学生くらいの身長を思い切り見下してやった。
ミラはそれをいつにない鋭い目つきで睨み返し、怒りを込めて言った。
「首を垂れよ。そのまま首をへし折られたくなかったらな」
「んぐぅっ!?」
ミラが指先を下に振った瞬間、自分の体重の数倍の重量がかかる。ユートは抗いきれずに地に伏してしまった。
「ふん・・・・思いあがるのも大概にするがよい」
動けないユートの頭に、乱暴に触れる。記憶を読み取っているようだ。
「期待はしていなかったが・・・まあ良いだろう」
何やらぼそぼそとつぶやき、もう一度額に触れる。ミラの幼手から光が迸り、頭に鋭い痛みが走る。
「先ほどの馬鹿で帳消しどころか消し炭にしてやろうと思ったが・・・気が変わった。貴様の加護に〔意志〕を加えておいた。これからは貴様の努力と意志次第で、能力が変化するだろう」
意志を加える・・・? 能力が変化する・・・? 何を言っているんだ・・・・・?
「せいぜい、生きたいように生きることだな・・・・。命が呑み込まれる、その時まで」
そう言い、立ち去ろうとするミラ。
「待てっ・・・・」
「・・・・・?」
「オマエは、本当に本物の女神か・・・・?」
「・・・・・さあな」
フッ、と不敵な笑みを浮かべて、ミラはそのまま何処へと消えていった。
姿が見えなくなると同時に自分にかかる圧力が更に増して、ユートはまた意識を無理やりに飛ばされたのだった。
日曜日から新章です。評価、ブクマやポチッ☆など、ありがとうございます。
最近改善点が自分でも目に付くので、感想とかで教えてくれるとうれしいなぁ(チラチラ)




