4-6 一時の別れ?
城門の前。一回り大きくなった馬車に荷を積み終えたユートに、モーガンさんが話しかける。
「もう出発するのね。旅の安全を祈るわ」
「ありがとうございます。泊めてくれたり、紹介状を書いてくれたり、色々と助かりました。・・・・この馬車も、大事に使います」
モーガンさんはそれを聞いて、少し不思議そうな顔をして、すぐに笑む。
「ふふふ、何を辛気臭いことを言っているのかな? もう会えないとは限らんのだぞ?」
「へ? どういうことですか?」
それはだな・・・と悪戯っぽく笑い、どこからともなく地図を取り出す。
「これは我がモーガン商店の支店分布だ。君が向かうクラリスには支店があるのだよ。実際君に会った時もまた別の支店からここへ向かっていたわけだし、気が向いたら私もそっちの方へ向かうかもしれん。紹介状の中にそっちの方への手紙も入れているから、用があったら尋ねてみてくれ」
「そうだったんですか。ありがとうございます」
その返事に満足したのかは分からないが、モーガンさんはうれしそうにしている。
「それとも、会えなくて寂しく思うくらいに惚れてしまったのかい?」
「それは傲慢ですか?」
「うっ・・・・君も痛い事を言うね」
「モーガンさんに習いましたから」
じゃあ、また会えるよう祈ってます、と軽口を切り上げ馬を動かす。モーガンさんは手を振って見送ってくれた。
ユートの旅が、また始まった。今度は一人ではなく、新しい従者も一緒に。
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「よし。今日はこの辺にしておこうか」
川のほとりに馬車を止め、周辺の木に繋ぐ。地図によると、明日には森を抜けて平原に出られるだろう。
「明日からは小さな村を経由して行けるから、野宿は今日までだね」
「はい。それでは私は水を汲んできますね」
シューミルがバケツを取って川の方に行く。出発してから三日目。野宿の準備にも慣れてきたようだ。
「じゃあ火を焚くか・・・【火炎】」
魔法は便利だ。種火を保存する必要もなくなるし、何より簡単に点けなおしができる。
前のように連鎖する四肢を発動させながら魔力を増やす訳にはいかなかったので初級魔法で練習していたが、それが功を奏したのか発動が以前に比べスムーズになっている。
推測するに、新しく生成した腕を構成するのは魔力なのだろう。この世界で分子云々の常識が使えるのかどうかすらわからないが、通じるとすれば腕を構成しているのは魔力以外では説明がつかない。
しかし、そうなると今度は身体収納が説明つかなくなるわけだが・・・やはり向こうに存在しなかったものを組み合わせて考えるとどこか無理が生じてしまう。
魔力に「体の一部」意味を持たせ、きちんと形作るわけだから、中級魔法までの練習になるのは頷ける。
あのアホ女神の悪戯はきちんと毎度役に立っている辺り、文句を言おうにも言い辛い。
そんなことを考えているうちに、シューミルが戻ってくる。ユートはそれを煮沸しながら、シューミルに問った。
「前にステータスを見た時に魔力が低かったと思ったんだけど、獣人自体がそういう種族なの?」
「はい。その代わり少し純血の人間よりも身体能力が高いですし、若干ですが魔力を感じることが出来ます」
「へー。どんな感じなの? 見えるとか? においとかするの?」
「凄い人は見えたりするって聞いたことはありますが、私は周辺の魔力の多さがなんとなくわかるだけです」
魔力が見える、か。本によると万物が魔力を持っているようだし、それを識別できると透視が出来たりするのかな? サーモグラフィーみたいに見えて。
「シューミルは魔法使ってみたいと思う?」
「うーん、便利になるのなら使いたいですが、そこまで必要に感じたことはないです」
モーガンさんから習っていないのもそのせいだろう。人族の奴隷は初級魔法だけ一通り習うと言っていた。
クラリス国際魔法学校では入学者が奴隷を連れることは認められているらしいが、授業中にどうするのかまでは書かれていない。同伴可能なら一緒に習わせるのもいいかと思ったが、確かに使えないものを習う必要は無いだろう。
今行っている煮沸も、回復系の初級魔法である浄化で一瞬なわけだが、実際に見たことが無いので発動できなかった。
冒険者には有難い魔法だと思うので、早めに習得しておきたいのだが、うまくイマジネーションが湧かない。
「考えても詮無いことか。飯にしよう。シューミル、携行食料を取って来て」
「はい。しばらく待ってください」
今は目の前のことに集中していよう、と思い直すのだった。




