4-3 進路相談
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僕の進路もモーガンさんに相談したいなぁ・・・
「昨日初級魔法を教えて、今日は中級魔法だなんて、凄く不思議なことをしている気がするけど、今日は中級魔法を教えるわ」
今日のモーガンさんは杖を持っている。年代物らしく、少しぼやけた銀色をした錫杖だ。
「鞭じゃなくて杖も使えるんですか?」
「うーん、杖は基本的に魔力を行使しやすくするための媒体として使うだけだから、杖の使い方自体に個人差はないわ。ただ、棒術について訊いているのなら無知よ。剣術は多少嗜んでいるけどね」
中級以降の魔法を発動する場合どうしてもある程度の時間がかかってしまうらしく、戦闘ではそれが命取りになることもあるため、魔法を素早く発動するために杖を使うそうだ。
ただ、杖にも性格というか性能のようなものがあり、それによって属性ごとに魔法の威力が上下したり、発動難易度が変わってきたりするそうだ。
「射撃と初級魔法の違いは魔力に意味を持たせるかだったけど、初級魔法と中級魔法の違いはわかるかしら?」
ユートが読んだ二冊の本はかなりいろはから教えてくれるものだったので、中級魔法については存在以外記述されていなかった。
「規模が違う・・・・とかでしょうか?」
「うーん、規模が違うのはもちろんのことなんだけど、ちょっと足りないわね。土塊だったら土の塊を出すみたいに、初級魔法は各属性の象徴を出すことだけだけど、中級魔法はそれにさらに行動をのせるの。つまり、小雷で出した雷を一点に集中させて狙いに向けて飛ばすことで、雷鳴にする、みたいなもの。上級魔法はそれの規模がさらに大きくなったものだわ」
・・・つまり、ファムが使っていた火連槍は、火の初級魔法火炎を槍状に固めて、狙いに向けて発射する中級魔法だったということか。
「それともう一つ、大きな差があるわ。中級魔法からはパターンが無限にあるってことなの。例えばまた雷系で例えると——————【発光体】」
モーガンさんの頭の上に、光る球体が現れる。どうやら照明のようだった。
「さっきの小雷を威力調整して、照明として使えるようにしたものなの。・・・まあ、照明魔道具があれば更に発光させて目くらましにする以外必要の無い魔法になっちゃうんだけどね」
モーガンさんはこれをすぐに消して、やっぱり魔法は疲れるわ、と言った。
「それじゃ、後は自分で色々想像しながら試してみること。ああそうだ、魔力が余るようだったら吸魔の奪撃で分けてくれないか?」
「えぇー・・・まぁ、いいですけど。必要分だけにしてくださいね?」
「すまないね。吸魔の奪撃」
「にしても、なかなか便利なスキルですよね。魔力を奪ったり、触るだけで相手を昏倒させられるなんて」
「いや、そうでもないわ。 媒介に魔力を使うし、下手に強者に使おうものなら逆にこっちが吸い上げられるわ」
・・・つまり自分はまだまだ弱いんですかそうですか。まあ知ってたけど。
実際、剣術も見よう見まねで、スキルの使用法も相手の知識の無さを利用した初見殺しのごり押ししかないからなぁ。もう少し何かを極めるのもいいかもしれない。毎日の基礎トレーニング以外に何か組み込んでみようか。
「ま、取り敢えずは目下の魔法、っと。【火連槍】」
ファムの使っていた火連槍を想像しながら放つ。が、炎はくねくねと揺れた後、ばらばらに散ってしまった。
難しい。これを何本も同時に作って放つのだから、かなりの難易度だろう。
「意識を集めたい一点に集中するようにするといいわ。喩えるならば狙いに意識を投げる感じね」
「はい!」
やりごたえを感じながら、ユートは二度目の火連槍を発動させる。
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「・・・・・・で、それが行き過ぎてこうなったと」
モーガンさんが怒気をはらんだ様子で的を指さす。それは先ほど発動した魔法のせいで黒焦げになっていて、今もぶすぶすと煙を上げている。
「一体どんな魔法を使おうとしたんだい? まずこれほどの魔力を一度に込められるのも不思議なのだが・・・」
「えへへ、モーガンさんの雷鳴です」
「何!?」
モーガンさんががばっと振り向く。
「私はあれを一度しか見せていないはずだが?」
「ええ。それを真似しようと何度か試したら出来ました・・・・ただ、やっぱり発動に時間がかかりました。三十秒くらい集中していたような気がします」
モーガンさんが顔に手を当ててなんてこった・・・と俯いて見せる。まぁ、この魔法が雷のイメージなのは分かっていたから、一度見るのも二度見るのもあまり変わらない気がするけど。
「よし。決めた。これをもって私は君への教育を放棄する!」
モーガンさんが立ち上がってきっぱりと言う。
「君にこれ以上教えられることは無いわ。私は君ほど呑み込みの早い奴は見たことがないし、聞いたこともないわ。君がこれ以上の成長を望むのなら、君はもっといい先生を探すべきだ」
「そうですか・・・・モーガンさんの喩えは結構わかりやすかったのでもっと教わりたいと思ってた所なんですが、駄目ですか?」
モーガンさんは困ったように口元に手を当てる。
「・・・・なんというか正直な所、君の才能といい不思議な面をそのまま燻らせておくのがもったいなく感じるのだよ」
「?? どういうことですか?」
「まあ、これを見てくれ」
モーガンさんに羊皮紙を手渡される。上の方に大きく『クラリス国際魔法学校 入学者募集!』と書かれている。
「魔法学校・・・ですか?」
「そうそう。確か来月くらいに入学試験が行われたはずだから、魔法を学びたいのならここをおすすめしようと思ってな。ここから南の方にあるクラリスという国の学校だ。この辺りなら最高クラスの学校だ」
この前本を買ったとき、「学生かい?」と訊かれたのはそういうわけか。
「試験といっても魔法適性を測るだけだ。貴族の推薦書があればな」
「推薦書・・・ですか。でも、貴族の知り合いとか居ませんよ?」
モーガンさんは得意げにウインクをして人差し指で自分を指している。
「えっ、モーガンさんって貴族だったんですか!?」
「・・・完全にそう思われていなかったことが少し気に食わないな。まあ末端も末端だから、あまり主張していなかったのも確かだが」
言われてみれば、この屋敷を持っている時点でそれなりにお金持ちなわけだし、名の通った商人はほとんどが貴族だという話は読んだ気がする。
「それで、さっき調べてみたら、どうも私でも推薦書が書けるらしい。書類を書くだけなら書いてやろうかと思ってな」
「いいんですか!?」
と、話がトントン拍子に進んでいるが、一つ心配の種がある。
「・・・でも、お高いんでしょう?」
「まぁ大体は貴族階級のものだし、値段については否定しないが、入学金はこの前の依頼の報酬で足りるだろうし、後のお金は休みの日に冒険者としてお金を稼ぐだけでもぎりぎり足りるという話は聞いているわ。学生向けに優先依頼があったりするみたいだしね」
流石に『今なら10パーセント値引きして○○円!!』みたいなことにはならなかったけど、それなら大丈夫かもしれない。
「確かにいいかもしれませんね。考えてみます」
「移動のことも考えると、少し余裕をもたせるなら今週中に出たほうがいいかもしれないわ」
「はい。今夜じっくり考えてみます」
「うん、それでいい。それじゃあ本日の魔法練習は終了! あ、それと、今後ここでの魔法練習は禁止するわ!」
しっかりと念を押されて、ユートは庭を後にした。




