3-16 癒の女神
青い世界が広がる。
「これで三週間経ったのか。案外早いかな」
こっちに転移してから、色々と忙しかったこともあり、時間が短く感じる。もう少し腰を落ち着けてもいいとは思うが、突発的に問題のほうがやってくるし、知識面など慢性的な問題も片付かないままだ。生活環境が変わるということの大変さを再認識する。
「お迎えに上がりました。柊様」
「うん、おつかれ。目をつぶればいいんだっけ?」
いつものように目を瞑ってすぐ、浮遊感。その後、女神のもとに送られる。
落ち着いたお洒落な内装の建物に飛ばされた。カウンターのようになっているところには、食器やティーポット、何種類かのコーヒー豆がならんでいる。どうやら喫茶店らしかった。
ただ、代わりにミラの姿は見えない。辺りには誰もいないのだ。
「ここで待てってことかな?」
手近な席に座る。なかなか年季が入っていて、しっかり手入れがなされているようだ。
前回みたいに悪趣味なのが待ってなくてよかった、と心底安堵しつつ、くるくるとまわるシーリングファンを眺める。
ふと、それから目を離すと、次の瞬間にはここに最初から居たかのように、あちこちの席に客が座っていた。従業員と思しきピンクと水色と紫色で色違いになった服を着た三人の女の子が、せっせとコーヒーを運んだりしている。
「ごめんなさい、遅くなりましたー」
声のするほうを向くと、髪をクリーム色に染めたミラがいた。ふんわりとした、どことなく掴み所の無い不思議な雰囲気を漂わせながら、向かいに座る。
「あっ、オリジナルブレンドをお願いします」
ピンク色の服を着た店員を呼び止めて、注文する。二本指を立てたのは、自分の分も頼んでくれたのだろう。
「気に入っていただけましたか?」
「はい。すごく落ち着く感じですね。前のより断然いいです」
というよりあれと比べることが間違いでしたね、と内心付け加える。ミラは喜んでいるようだった。
「それでは、さっそく記憶の確認をさせて頂いてよろしいでしょうか?」
ミラが頭に手を伸ばす。おでこに、ひんやりとした感触。
「はい。ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。ところで、これってなんでやってるんですか?」
「それはですね、世界に問題が生じていないか、記憶を通して確認しているんですよ」
「へぇ。それって転移した人じゃないと駄目なの?」
「そうですね。昔は一部の人を選び出して行っていたそうですが、その人が宗教を始めてしまって、それで戦争が起こったのでやめたそうです」
なるほど。道理でこっちの世界で中心となっている宗教がミラ教なわけだ。名前をどこで知ったのか不思議だったけど、一つ謎が解決されたな。
「お待たせしました。オリジナルブレンドです」
紫色の服を着た従業員が、コーヒーを二杯、運んできた。あまりコーヒーについて詳しいわけではないが、かなりおいしかった。ミラもやはりこれですね、とにこにこしている。
そういえば、さっきコーヒーを運んできたこの子も天使なのだろうか? 一部の人には別の意味で天使と呼ばれそうな容姿ではあるが、この店もミラが用意したものだろうし、本当に天使なのかもしれない。
「何か、問題点や要望など、ありませんか?」
「うーんと、よく考えたら能力はシューミルに明かしちゃったし、今更変えられたりしたらそれはそれで困るしな・・・・」
それに、今週は全体的にスキルが大活躍だった気がする。少し油断したら後に引けなくなったな・・・
「そうだ、知識面が薄いことはどうにかなりませんか?」
言葉の翻訳や読解をつけてもらって、何を贅沢なと思わないこともないが、一応聞いてみる。〈鬼神の魔眼〉あたりがもうちょっといろんな説明をつけてくれたらうれしいのだが・・・
「すみません。一定量以上の記憶の改竄は規定上不可能となっております」
「そっか。ま、それはおいおい自分で勉強していくよ。初見のほうが楽しいって意見もあるしね」
「そうですか。ありがとうございます」
なんとなく予想はしていたけど、言語理解は記憶の改竄だったのか。魔物と話せるレベルの改竄ってすごいな。まぁ、あの時の帰りに見かけた野良猫に話しかけてみたら言葉は通じなかったようだし、一定知能が必要なのかもしれないけど。実は他の記憶も書き換えられていたりすると・・・・いや、怖いから考えるのはやめておこう。
「それじゃあ今回はいいです。また何かあったら今度言います」
「そうですか。それでは、またお会いしましょう」
「ええ。ありがとうございました」
週末に会うのは毎回この人でもいいんだけどな・・・・と思いつつ、再びユートは眠りにつくのだった。
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それでは、よいお年を。>⋂(・ω・)⋂<




