3-15 成長
「ただいま。ん、どうした?」
部屋に戻ると、シューミルは部屋の隅で座っていた。
「ごめんなさい!」
開口一番、謝られる。
「へ? 何のことだ?」
「勝手に部屋に居てしまって、勝手にユート様の奴隷になる風になってしまって。迷惑ですよね」
落ち着いてきたせいか、ネガティブになっているようだ。
「別に迷惑じゃないよ。何かに切羽詰まってるわけじゃないし、人手が増えるのは助かるしね。それに、シューミルと任務こなすのは、ちょっと楽しかったし」
「でも私、なにか役に立つようなことが出来るわけでもありませんし・・・」
「それは後々覚えていけばいいさ。それとも、仕事ができないからって他に売り払ったりしちゃうような冷たい人に見えた? さっきもモーガンさんに『謙虚で傲慢な所が微塵もない』ってベタ褒めされて焦ったんだぜ?」
大げさにおどけてみせる。シューミルの表情が少し和らいだことに安堵する。
「あーでも、一つ・・・いや、二つお願いしていいかな?」
「はい。何でしょうか」
「あのスキルだけど、実は他にも似た感じのスキルがあって、それも含めて他言無用でお願いしたいんだ。それと、もう一つスキルがあって、ステータスを確認するものなんだけど、それでステータスを見てもいいか?」
「はい。別に構いませんが・・・」
「うん。それでそのスキルなんだけど、俺がステータスを見てる間、物凄く嫌な気分になるかもだけど、そこはごめんね?」
「わかりました」
許可とったよ? ちゃんと許可とったからね? と自分に言い訳してから、〈鬼神の魔眼〉。
シューミル /女性-15歳 奴隷
体力 110/110
魔力 8/8
腕力 42
知力 43
敏捷 73
耐性 73
スキル
《短刀術Lv4》(体力小強化)
敏捷が高い。スキル効果を抜いたらぎりぎり負けていたところだ。道理で貫き蜂に追われたときについてこられたわけだ。
「ところで奴隷って、こういうとこにも表記されるんだね、シューミル?」
シューミルは何かを堪えるような目でじっとこっちを見つめている。ああ、スキル使いっぱなしだった。
鬼神の魔眼の効果を止めると、緊張が解けたように肩を下した。
「ごめんごめん。やっぱ気持ち悪かった?」
「・・・・・はい。ぞっとしました。疑うわけではありませんが、本当にステータスを見ていたのか気になるくらいでした」
少し青ざめている。でも許可とったからね?
「・・・・まあまあ、ステータス確認は終わったから許してな。ところで、俺は別に奴隷を買ったりしたことはないし、あまりそういう階級の知り合いとかもいないから、奴隷の扱いとかってあまり知らないんだよね? 何かに規定されてるの?」
「えっと、それではこれを見てください」
後ろを向いて、急に上着を脱ぎだす。ちょっと焦ったが、すぐに背中のあたりに目が行き、納得する。
背中には、硬貨くらいの大きさの黒い紋章。鞭を型取っているようだった。確か、モーガンさんが書いていた書類にもこの紋章がつけられていたような気がする。
「私は戦争奴隷となり、モーガン商店に買われました。そこで奴隷の刻印を受けたので、モーガン奴隷商の紋章がつけられたのです。これは消すことは不可能になってます」
「奴隷であることで出来なくなることとかはあるの?」
「ギルドへの所属が不可能になります。ただ、ギルドに所属した持ち主様が依頼を受けた場合、それを代行することは可能です。他には、奴隷だけで国の出入りも・・・基本的には不可能です」
「奴隷に対する命令ってどの範囲まで可能なの?」
「生命に関わらない限り可能・・・ですが、実際の所はそれが守り切れていないという話はモーガン様から伺いました」
多少おびえているシューミルに、いや、流石にそこまでのことは頼まないよ? と念を押しておく。
正直なところ、シューミルが風邪をひいている間に呼んだ本には奴隷についてはあまり書かれていなかったから、奴隷関係の知識とかは殆ど無いといっていいい。まだまだ知識不足だ。
「ま、他におかしいところがあったら逐次言ってね。今日はもう遅いし、明日寝坊しないように寝よっか」
「はい。あ、明かりは消しても大丈夫です」
「ん? いいの?」
「はい。多分・・・・大丈夫だと思います。自分がおびえていた何かが、解消できた・・・・気がするので。それに、ずっとこのままというわけにもいきませんし」
「そっか。よかったよかった」
彼女なりに、何らかの心境の変化があったらしい。少し、うれしかった。
「それじゃ、おいで」
「はい。失礼します」
前よりも少し近くで、シューミルと眠りにつくのだった。




