3-10 召喚した骸骨剣士は味方だと思った?
「逃げろぉぉぉぉおおお!!!」
激しい既視感を感じつつも、リンリンアルさんの手を引いて逃げる。今度は様子を伺いながらのバックダッシュだ。
対するマッドブッチャーの方はというと。
「グルルオォ!!」
大剣を振り上げ、大きく横薙ぎ。
ブオンッ、と後ろで大きな音がする。
「ど、どうにかしてアルぅ・・・・・」
リンリンアルさんが泣きながら縋り付いてくる。ええい走りづらい。
「取りあえず撤退! 逃げ切れなかったら・・・・・その時だ!!」
「そんなひどいアルー」
確か、町までは十五分ほど。それまでにどうにか撒けるといいが・・・・・
「グオッ!!」
すぐ後ろでまた空を斬る音が聞こえたと思ったら、次の瞬間にはマッドブッチャーの巨躯が目の前に。
「おいちょっと待てよ・・・」
余りの素早さに絶句。逃走の不可能を悟る。
あと一度、空振りさせて、そこに一撃与えよう。そう思い、マッドブッチャーを睨みつける。
「オオォ・・・」
が、マッドブッチャーは動かない。こちらの出方を待っているのか・・・?
だとしたら、頭もいいのだろう。これはいよいよ勝ち目がないかもしれないな。
「んああもう駄目アルー!」
「ちょっ・・・」
緊張に耐えかねたリンリンアルさんが、町に向けて一直線に走り出す。
が、それに追い打ちの手は入らない。マッドブッチャーはこちらをじっと見ている。
「リンリンアルさんには興味はないのか・・・・?」
頭を整理するための、独り言のつもり、だったのだが。
「グオォ・・・」
マッドブッチャーが大きく頷く。
「え?」
今のは、完全に首肯・・・だったよな?
「お前・・・・言ってることがわかるのか?」
「グオ」
再び首肯。伝わっているらしい。ひょっとすると、翻訳のせいかもしれない。このグオグオ言ってるのも、聞こうと思えば聞けるのか?」
「じゃあ、その剣を置いてみてくれ」
自分の剣を投げ捨て、こちらも敵意がないことを伝える。
「ワカッタ」
耳には獣の唸り声が入ってくるのに、頭には日本語になって返ってくる。意識してみればちゃんと聞こえるのだ。
マッドブッチャーがのっそりと剣を置く。
「オマエハ・・・・ナカマカ・・・?」
「よくわからないが、一応俺は人間だ。お前と戦いたいわけじゃない。この先にある薬草が欲しくて来た! どうか譲ってくれないか!」
「ワカッタ・・・・・・ガ・・・オマエ・・・・オレト・・・タタカウ・・・」
「出来れば戦わない方向性で駄目か?」
「オレ・・・ツヨイヤツトタタカウ・・・ツヨクナル・・・」
・・・・・どうやら、腕試しがしたいのか?
「うーん、ちょっと考えさせてくれ」
困る振りをして、〈鬼神の魔眼〉。
マッドブッチャー/オス
体力 532/532
魔力 0/0
腕力 170
知力 44
敏捷 92
耐性 67
スキル
《虐殺者Lv58》(首狩り・全能力上昇)
《狂戦士Lv58》(狂化・体力低下・腕力上昇大)
・・・・手短に言おう。勝てない。
王魔狼の時は接近して素早さを無くして泥仕合に持ち込んでそれでもリュミさんの剣がなかったら死んでた、って所なのに、これとどう戦えと。多分一撃貰って即死でおしまいだと思う。
「俺じゃないと駄目か? 心当たりが一件あるんだが」
「ツヨイホウ・・・」
どうだろうか。一度も使ったことがないからよくわからないが。
「まあいい。それじゃ、これと戦ってくれ。〈喚命術―暗闇―〉」
ネーミングからして、召喚系の魔法だろう。黒紫に輝く魔法陣が現れる。いかにもといった雰囲気だ。魔力をありったけ込めてやる。
キイィィィィィィン、と金属音を響かせ、魔法陣が光を強め、やがて消える。
現れたのは、マッドブッチャーと同じくらいの大きさの、骸骨剣士だ。金色の鎧を着て、曲刀を構えている。
オォォォーン、と風のような声を上げて、剣を振り上げ、降ろした先は、ユートの脳天。
「・・・・・は?」
目の前で起きた出来事に理解が追い付かず、対応が遅れる。召喚したのに仲間じゃないのか?
ガキィン! と金属が触れ合う音と、飛び散る火花。
剣を受け止めたのは、マッドブッチャーだった。
「グオォォッ!」剣を弾いて、胴に肉切包丁を叩き込もうとする。
「オーン」それを器用に捌く骸骨剣士。スキを見ては一撃を加えようとしているようだ。
骸骨剣士はマッドブッチャーに比べ速さや力は劣るようだが、技能が高い。
「す、すげー・・・」正直、それしか出てこない。語彙力なんて気迫に吹き飛ばされた。
高次元で行われる戦闘を見つつ、ユートは巻き添えでミンチにならないよう隅に隠れる。
にしても、このスキルは危険すぎる。マッドブッチャーと互角に戦う魔物を呼び出した上に、それが制御不可とかどれだけアホなスキルなんだ。ミラらしいといえばらしいが、それで死にかけるのは御免だ。
これもリコール出来ないものか・・・と考えていると。
キィン! と一際激しい剣戟の音と同時に、鈍色の塊が飛んできて、ユートの鼻先を掠めていった。
肝が冷える感覚を味わいつつ、飛んで行った先を見ると、地面に突き刺さる骸骨剣士の曲刀。どうやら勝者はマッドブッチャーのようだった。
マッドブッチャーの肉切包丁は骸骨剣士の首元で止まっている。どうやら殺しはしなかったようだ。
「いやーこりゃ敵いませんわーっはっはっはー」
突如、陽気な声が聞こえ、ボンという音とともに、骸骨剣士から煙が噴き出る。
煙が切れて現れたのは、一回り小さなユートと同じくらいの身長の骸骨剣士だ。
「こりゃあわしの負けですわ。完敗。くやしいたけ~。はっはっはー」
下らないギャグを言っては一人で笑うミニ骸骨剣士。今までの気迫はどこかに消えていた。
「ナンダ・・・・・コレハ・・・・・」
マッドブッチャーも困惑している。
「ん? わしはな。むかーしに死んでまった剣士の亡霊や。戦いたい戦いたい思っとったらこのにーさんが呼び出しよるでな。ひっさしぶりに大暴れしたろ思て、勇んで出てきたらこのザマ、あっちゅう間に敗者や。あっ、わしは骸骨やけどちゃんと歯はあるで? ちゃーんと寝る前は歯を磨いとったでな」
「グオォ・・・・?」
話が読めないマッドブッチャーを、まぁ、満足しただろ? と宥める。それで納得したのか、座り込んでしまった。
「にーさんもにーさんやがな。戦いたくて呼んだんやと思てたから本気でいってまったやないの。最初に相手はこのデカブツやてゆーてーな」
「そ、そもそも見境なく攻撃してくるなんて聞いてないぞ」
「ん、この術の特徴を知らんねんな。これはまだ暴れ足りんってやつの魂を呼び出して、それを倒すことで配下に加えるっていう悪魔召喚やで? なんもしらんとこれ使ったんかいな?」
「まぁ・・・・」
「ま、わしを倒したんはにーさんの配下なわけやし、今回はわしの負けでええわ。これでわしは好きな時に呼べるから、一暴れしたくなったら呼んでーや」
配下という単語にピクリと反応したマッドブッチャーをそれは後で誤解を解くからと説き伏せて、取りあえず骸骨剣士を一旦帰らせることにした。
「ああ、それともう一つ。わしの名前はサヘル。スキル名の後につけて使えば気ぃ向いたら出たるわ。ほなー」
シュワシュワと音を立てて煙に消える。
「喧しかった・・・・」
「グオ・・・」
緊張と驚愕の連続分の疲弊がどっとでてきて、つい座り込んでしまうのだった。
その後リンリンアルさんがどうなったかは誰も知らない・・・(嘘です)




