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3-6 オチ(物理)


「これでよし・・・・・と」


照明魔道具の明かりをつけて、ベッドに腰かけたシューミルに言う。シューミルはやはり緊張しているらしい。困ったような顔であちこちを見まわしていた。


「今日は明かりをつけたまま寝てみようか。もしかしたら少し寝辛いかもだけど、これでよくなるはずだから」

「はい。迷惑をかけてしまってすみません」

「ほら、俺だってこれで上手くいけば報酬も貰えることだし、お互い様だよ」


明かりをつけたまま寝ることにした理由は二つある。一つは暗闇があの洞窟に似ているという事。昼間は大丈夫なようなので、昼と同じように明るくすればいいと思ったのだ。もう一つはやけっぱちのプラシーボ効果狙いだ。明かりをつけたまま寝ると睡眠の質が落ちるとは言うが、この際仕方が無いことだろう。


「では・・・失礼します」


昨日よりも遠慮がちにはいってくる。ユートは気にしなくてもいいと囁きつつ、シューミルを軽く抱き寄せた。本当に安心させようと思ってはいるが、半分くらいは欲望なのは言うまでもない。このくらいの役得は許してもらおう。


ゆっくりと蒼交じりの黒髪を撫でていると、シューミルはすぐに眠りに落ちたようだった。慣れないことで疲れたからかもしれない。昨日より表情が柔らかい気がする。


ほっぺをつつきたい欲求に耐えながらも、ユートも眠りについた。



その夜、シューミルが叫びだすことは無かった。




「どうやらうまくいったようじゃないか。君に頼んで正解だったよ」

「いやいや、まだ解消できたって訳ではないですし、条件付きですから」

「まあ何にせよ、進展があったのは安心したよ」


いつものように大量の朝食を詰め込むモーガンさん。その目元には昨日と違ってくまがあった。


「寝てないんですか?」

「まあね。君がシューミルにぴったりなせいで気が気でなくてな」

「えっ、見てたんですか!?」

「ふふふ、冗談だよ。起こしにしたメイドから聞いただけさ。実際の所はただただ黙々と仕事をしていただけさ」


心底楽しそうに笑うモーガンさんを半眼で睨む。「おっと、見つめてあげるのはシューミルにしてくれ」まったく、この人は本当に冗談が好きな人だなぁ。


「ともかく、今日はギルドの任務でもこなしてきますよ」

「ああ。頑張ってきてくれ。それじゃあ、また夕食にでも」


また皿の上にあったはずの料理は忽然と消えている。


「早食いすると太りますよー」


余計な世話を後ろから寄越して、モーガンさんが出ていくのを見送った。





「今日はモーガンさんの依頼じゃなくて、ギルドの依頼で、えーっと、『シーチの実を集めてくる』だね。猫だし何となく木登り出来そうかなー、って思って選んだんだけど、どうかな?」

「はい、大丈夫です」


城門をくぐって、森の目の前。ギルド依頼書を見ながら、確認する。


「ちょうどそこにある木がシーチの木だね。木にも雌雄あって、これは実がなってない雄の木だから、前と同じように迷子防止のマーカーをつけながら雌の木を探そう」

「はい。これと似た木を探せばいいんですね?」

「うん。それじゃあ出発しようか」

「はい」


―――――そうして、木を探して森の中を歩くこと数十分。


「あっ、あれでしょうか?」

「おお、多分それ。サンキューシューミル。早速登ってみよう」


シューミルが見つけたシーチの木の下に向かう。下から見ても、いくつもの実が見えた。シューミルは私が登ると言ったが、回収の手間も考えて二人とも登ることにした。


「おお、結構高いなぁ。森の中でも高めの木なんだな」


樹上からの視野は、かなり広い。丁度よく隣の木の枝が近くになかったら、登るのは大変だっただろう。


「じゃあ、シューミルはこっち側。この籠に入れてってね」

「はい。わかりました」


ゴルフボール大の赤い実を、籠に入れていく。小学生の時にやったリンゴ狩りと比べても、こっちのほうが何倍も難しいし、職人らしくてカッコいい。


仕事をしているという実感を嬉しく思いつつ、手の届く範囲のシーチの実を集め終える。


「シューミル、そっちは?」

「一つだけ届かないのがあって。取ってくれませんか?」


確かに、丁度届かないところに一つ、実があった。


「こういうのって見逃したくなくなるよね」


なんて言いながら、手を伸ばす。が、ぎりぎり届かない。


「ほっ、あとちょっと。とっ、とうっ、おっし取れってあああ!?」


シーチの実をもぎ取った瞬間、ミシミシと大きな音がする。慌てて幹に手を伸ばしたが、間に合わない。


「わああああああ!?」

「ひゃあっ!?」


そのまま枝は折れ、がくんと視界が落ちる。数秒後には尻の痛みとともに、地上の光景があった。


「痛ぅ・・・シューミル、大丈夫か?」

「ヒッ・・・・・」


シューミルの方を向くが、返事は無い。こっちをみて、怯えている。


「どうした?」


視線につられて振り返る。そこには。


茶色の球体が、転がっていた。


中からは、羽を持った虫が出てくる。


『まあいい、貫き蜂には気をつけろよー』


そんなことを言っていた熊獣人さんの言葉がフラッシュバックする。


「逃げろぉぉぉぉおおお!!!」


シューミルの手を引いて、ユートは走り出した。



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