3-3 モーガンさんがかんがえたさいきょうのだきまくら
「・・・・・・・と、いうわけで今日は成果は無かったです。はい」
「まあいいさ。でも、状況はわかっていただけただろう?」
「そりゃあもう。痛いほどに」
「ふふふ。まあ、当方にも適任者は居ないんだ。頼むよ」
「・・・・・・まあ、一度引き受けたことですし、まだやってみますけどね」
「うむうむ。感心感心」
夕食後の報告。何も結果は出なかったのに、モーガンさんはどこか楽しそうだ。
「そうだ。ヴァルトスパイダーの糸は集まったか?」
「三十本、でしたよね? 集まりましたよ。帰ってくるときに執事に渡しておきました」
「助かる。その分の報酬だ。受け取ってくれ」
鉄貨を数十枚、渡される。実はこっそり帰ってくる前に糸の相場を調べておいたのだが、それより大分多い量だった、二割増しというとこだろうか。
「ああ、多少加えてあるのは、シューミルを連れて行ってくれる分の経費のようなものだ。気にしなくていい」
とか言っておいて、さらに何かをさせるつもり・・・かと疑ったが、そうでもないようだ。モーガンさんが企んでいるときの雰囲気を大体読み取れるようになってきた。
「じゃあ、受け取っておきます」
「うむ。明日も頼んだぞ」
「はい」
お礼の意味も込めて、出来るだけ深くお辞儀をして部屋を出る。
「で、どうしてこうなったし」
ユートの部屋。もう寝ようかと思ったタイミングで、ドアをノックする人影。
開けてみると、シューミルが立っていた。なにやらモーガンさんから手紙を預かってきたらしい。
『この子、夜になるとパニック起こしちゃうようだから、一緒に寝てあげて』
そして最後ににっこりマーク。それだけ書かれた適当なものだった。
さては最初からこれを治させるつもりだったな・・・・
よくよく考えてみれば、多少感情が薄い位で奴隷の仕事が務まらなくなるとは思えないし、頼んだことがこなせるならなお良いじゃないか。
「嵌められた・・・・・・」
「いかがなされましたか?」
「ん? ・・・・ああ、モーガンさんから内容は聞いてないの?」
「はい」
「一緒に寝ろってさ。君と」
手紙を見せる。一部読めない所があったらしく、読みを説明してあげた。
「迷惑をおかけして・・・・・すみません・・・」
申し訳なさそうに謝罪。非常に落ち込んでいるようだった。
「まあ、頼まれたことだし、気にしなくていいよ? あー、けど、ちょっと情況を教えてくれないかな?」
さらにシューミルの表情が暗くなる。
「私も人から聞かされただけで、全く覚えていなくって・・・・・すみません」
「あー、ま、良い良い。気にしなくて大丈夫」
微妙なフォローをしてみたものの、結構心配だ。一体どうしろと。下手に慰めたりしたら、逆に怖がらせてしまってストレスになりそうだ。
「それではその・・・・失礼します」
お辞儀をして、そろりと部屋に上がり、部屋の隅のほうに座り込む。
そしてそのまま、そこで目を瞑る。
「え、そこで寝るの!?」
「お邪魔でしたら場所を変えましょうか?」
「い、いや・・・流石に体も痛くなるだろうし、それじゃ何で頼まれたのかも解らなくなるから・・・そのー、一緒に寝ないのか?」
シューミルはしばし考え、そうでしたか。それでは。と言って立ちあがる。
「夜伽の相手はしたことが無いので、至らぬ点もあるかもしれませんが、よろしくお願いします」
「ん?」
よ・・・とぎって何だっけ?
「いやいやいやいやそそそそそうじゃなくて」
「?」
勘違いをしたシューミルに説明しなおすのに、さらに十分近く要することになったのだった。
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眠れねぇ・・・・・・・・
魔道具の明かりを消した真っ暗な部屋。ベッドの中で羽毛布団にくるまっている。すぐ下にはシューミルの大きな耳がある。シューミルの方は寝てしまっているのだろう。大したものだ。
ユートが最後に女の子と一緒に寝たのは、小学生の頃まで遡る。それも妹だ。そんな曖昧で中途半端な経験がどう活きると言うのだろうか。
つまり何を言いたいかと言うと、ユートは今、ド緊張の中にいるのである。
シューミルが隣にいると、少しあったかくて、良い匂いがして、柔らかくて、ものすごく快適だ。
ただ、それが獣人の女の子であることが問題なのだ。男子高校生のリビドーとかいうやつがあーしてあーなりそうだ。
ぴくり。シューミルの猫耳が震える。ふわふわそうな毛と、あどけない表情がしっかり慣れてしまった目に映る。そういえばシューミルって何歳なんだろう。〈鬼神の魔眼〉で調べてもよかったが、野暮なので止めておいた。
すー、すー、と断続的に寝息が聞こえる。この状況で寝られるのが多少羨ましい。
ユートは猫を飼ったことはないのだが、猫の可愛さを延々と語る友人がいたので、猫に関する知識は多少ある。な、撫でたい・・・
ユートが悶々とすごす間にも、時間は刻々と過ぎていくのだった。




