2-7 殺意の狂人
「さあ、どうやって殺してあげようかな?」
男が不敵に笑い、大剣を構える。洞窟なら狭くて使いづらいかと思ったが、期待しないほうがいいだろう。出来るだけ徒手空拳で戦うかのように見せかけながら、回避の態勢に入る。
勝算がある、というのは今現在ユートが武器を持っていないという事にある。ユートの剣は、今(身体収納)によって体内に収納されているのだ。
至近距離に近づき剣を取り出すことで、不意を突く一撃。正攻法で勝てる気はしないので、それにかかっているということになる。
チャンスは一回きり。胸が高鳴り、一秒一秒がゆっくりに感じる。
が、一度きりの大勝負なら、何度も日本の方でくぐってきたつもりだ。王魔狼の時だって、なんとかなった。
男が大剣を振り上げる。それを合図にして、振り下ろすよりも早くユートは男の懐目がけて走り出す。
体をひねってすれすれの所で一撃目を躱し、二撃目の横振りの動作に入る前にはもう回り込んでいた。
「チィッ!」慢心していたのか、予定を崩された男はニヤニヤを止め、本気の目になる。横振りを諦めバックステップ。距離を離すつもりなのだろう。
ただ、それも計算に入れてある。ユートは潜り込むように態勢をかがめ、すかさず右の拳を放つ。
男が大剣の角度を変え、拳を弾こうとする。だが、ユートの狙いは拳を当てることではない。
「(連鎖する四肢)、(身体収納)っ!」
(連鎖する四肢)で伸ばした腕から、(身体収納)で剣を取り出し、肩目がけて突き込む。ユミナさんに狩りに誘われたときに一度された、居合のような攻撃から発想を得て技術がなくても能力が使えるなら発動できるよう、応用したものである。
「くッ・・・・! 化け物かよ・・・」
確かな手ごたえが、小さな呻きと共に返ってくる。だが、ユートは動きを止めない。
「戻れっ!」
腕を消して、自由になった剣を今度は自分の腕で拾い上げ、畳みかける。
二撃、三撃、ユートの剣が焦る男の体を浅く裂く。しかしダメージは確実に蓄積しているものの、致命打とは言い難い。
「調子こいてんじゃねェよクソがァ!!」
傷ついた左肩を放棄し、片手だけで大剣を振るってくる。先程のような鋭さや正確さは無いが、それでもなお余りある力量と気迫で押した、一直線な殺意のこもった剣撃だ。剣で防ぐこともままならず、ユートは防戦一方になる。
「死ねェェェ!」
フェイントを仕掛けてタイミングをずらし、斬線に入ってしまったユートの首を狙った、全力の一撃。
腕を消すまでは痛いけど、腕を犠牲にして防げるか・・・? とスキルを発動させかけたユート。が、その剣が振り下ろされることは無かった。
恐ろしい速さで飛び、正確に男の右手目がけて突き立った、銀のナイフ。モーガンさんのものだった。
「ふぅ。なんとか間に合ったな」
ナイフを投げ終えた態勢のまま、盗賊を片付け終えたモーガンさんが言う。
直後、男の手から落ちた大剣が地面に突き刺さり、男も倒れる。
「まだ・・・・・殺させろ・・・」
手に刺さったナイフを引き抜き、ナイフに塗られた即効性の麻痺毒に抗いながら、剣を取ろうとする。
「私達はお前の相手ができるほど暇ではないのでな。一旦眠ってもらおうか。(吸魔の奪撃)」
瞳孔を確かめて男の意識がないことを確認してから、深くため息をつく。
「まさか互角に渡り合えて、ほぼほぼ倒してしまうとはな。正直君があいつの相手を買って出てくれたときはほっとしたものだ。改めて礼を言う。ありがとう」
「いえいえ、最後のアレが無かったら大変なことになってましたよ。・・・・まあ、お礼は期待しておこうかな」
「ははは、こりゃあ値切ろうにも値切られなくなったようだな。君も手堅く痛いところを狙うね」
モーガンさんに引っ張られて立ち上がり、笑いあう。腕については気づかれなかったようだ。
「さて、それじゃあもう盗賊は殲滅したみたいだし、はやくあの子の母親を助けてあげようか」
「そうですね。シューミルに早く会わせてあげましょう」
そういって、ユートたちは奥の扉を開けた。
―――――――――そこに何が待っているとも知らずに。




