2-1 ボケ不在の恐怖
2章は、変化的な何かです。
「戻ってきたか・・・・・・」
もう日は上っていた。九時前後だろうか。
馬車が狭かったせいもあり少し身体が痛かったので、少し久しぶりのストレッチをする。数日寝ていたわけだし、少し衰えているかと思ったが、そうでもなかった。
多分王魔狼を倒したときにスキルのレベルが上がったんだろうな、と思いつつギルドカードを確認する。
ユート ヒイラギ/男性-17歳
体力 180/180
魔力 35/35
腕力 50
知力 63
敏捷 72
耐性 40
スキル
《身体術Lv17》(敏捷強化・回避小上昇・体力強化)
《剣術Lv5》(剣威力上昇・剣耐久上昇)
《女神の悪戯Lv2》(鬼神の魔眼・連鎖する四肢・身体収納)
《再生力Lv3》(体力自動小回復・魔力自動小回復・状態異常回復)
全体的にスキルが伸びている。それと《女神の悪戯》に一つスキルが増えている。これがミラが追加でくれたやつだろう。
戻ったら必ず確認すること、と言われたことだし、発動してみるか。
「〈身体収納〉」
発動した途端、アカリからもらった剣が身体に突き刺さった。
「痛っ!・・・・くない?」
剣は出血も無いままユートの腕に埋まっていき、完全に見えなくなった。恐る恐る身体を動かしてみたが、全く痛みはなかった。
「身体収納・・・・ってそういうことだよな」
身体に道具を入れることができるらしい。
これは便利なスキルだなぁ。
「っておい! 発想の源が変わってないぞ!!」
そんな一人ツッコミも森林に囲まれた街道に吸い込まれて、誰かに聞こえることはなかった。
「クソ女神め・・・使いづらいやつばっか・・・・〈身体収納〉、〈身体収納〉・・・・・」
馬車の上で、ぶつくさ文句を言いながらユートは身体収納を発動させ続ける。消費魔力についても確認してみたが、魔力は消費しないようだ。
携行食糧や日用品が、次々と身体に飲み込まれていく。さっき馬車や木を収納しようとしたら弾かれてしまったため、ある程度の大きさだと収納できないか、あるいは・・・・・
どろりと溶けて身体に飲み込まれようとする鉄鍋が、突如元の形に戻って弾かれる。
「やっぱり体積か・・・・この分だと自分の体積と同程度くらいか」
次は取り出し。剣を呼び出そうと思ったら即時に現れ、さして音もしなかったので、取り出しに限っては人前で使っても大丈夫かもしれない。
街につくまでには必要なものを決めて、できるだけ収納してから行こうと決心したユートであった。
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その翌日。
「〈連結する四肢〉、〈連結する四肢〉〈連結する四肢)・・・・・・・はあ、何やってんだろ俺・・・・」
魔力成長のためとはいえ、片腕を隠して出したり消したりするのは結構苦痛だ。常に人の目を気にしなければいけないし、何より出した時の濁った音が気持ち悪すぎる。
考えて欲しい。独りで経のように同じ言葉を唱え続け、バックグラウンドにぐじゅぐじゅとグロ音声。それを延々と繰り返すのだ。
かと言って魔力を増やすのに絶好のチャンスであることに変わりはないし、機会があれば魔法を習うことも視野に入れているのだ。自分が貧乏性だとは思わないが、この時間は無駄にしたくない。
もっと効率よく魔力を使うためにも早急に魔法を習得したほうがいいな・・・・ん、誰か来たか。やっと休憩だな。
馬車が荷を引く音が聞こえたので、後ろを振り向く。
ユートのものより数倍大きい馬車が来ていた。いや、後ろに何台かつないでいるようだし数倍どころの騒ぎじゃないな。御者台も立派に装飾をあしらった屋根付きの豪華なものだ。
若干の敗北感を味わいつつ、中に乗っているのはどんな人間だろうと追い越し際にのぞき込む。
「やぁ」
中に居た人間に声を掛けられる。優しい声だったが、ユートは思わず息をのんでしまった。その男が、とても異質だったからだ。
タキシードに、シルクハット。それだけだと日本のマジシャンのようだが、その男はさらに、真っ白なフルフェイスの仮面をつけていた。そしてその奥からは、獲物を見るかのようにギラギラ光る、愉悦を含んだ青眼が覗いていた。
「フフフ、驚くことはありませんよ。別に捕まえて奴隷にしようなんて腹積もりではありませんから。商売ですよ。おっと、申し遅れましたが、私は奴隷商のモーガンと申します。お一人旅のようでしたし、興味があられるようですから、奴隷の一人や二人ほど、いかがかと思いまして」
馬車越しに丁寧に挨拶をし、手のひらで後ろの荷馬車を指す。中には奴隷がいるらしかった。
「ユートだ。残念だけど別に他人を雇うほど忙しくも無いんでね」
所持金的な問題を強がりで隠して答える。実は奴隷という存在を目の当たりにしたことが無いので少し怖いと言った理由もある。
モーガンさんは「おや、そうでしたか。それではまたいつか、物入りの際は是非モーガン奴隷商を宜しくお願いします」と馬鹿丁寧に答え、馬をむち打ち追い抜いた。
後に続くのは、屋根はあっても幌が破けていたり、油が回っていないのかギシギシと音を立てる馬車ばかりだった。中には、奴隷と思しき人達が俯いて座っているのが見える。逃走防止だろう、手錠ががっしりとはまっていた。
「うわぁ・・・・・」ユートは絶句し、そのまま奴隷商を見送るのだった。




