1-12 献身
ブクマ感謝です(*'ω'*)
高い所から落ちたような感じがして、私は目を覚ましました。
ベッドから落ちてしまったことは何度もあるけど、それより高い所からだった気がします。
それに、下がとても固くて、ひんやりしています。まるで地面みたいですね。
地面に臥せったのはいつぶりでしょうか。ああ、ファムと初めて出会った時が最後かな。
魔力切れて倒れていた私を、助けてくれたんでしたっけ。
ああ、そういえば私が今寝ていたのも、魔力切れのせいでしたね。
ん? 魔力切れ? なんで?
確か、覚えたての魔法を使ったんでしたっけ。
―――――――――――――あっ!!
私が目を開くと、ユートさんが立っていました。ただ立っているだけではなく、足を一回り大きな魔狼にかみつかれて、苦悶と絶望の表情を浮かべています。
「やめて!!」 私は叫んでいました。
少しでも気を引けたらと思って、無我夢中で、手につかんでいたものを投げました。
持っていたものは二つ。一つは私の杖です。これはお腹の辺りに当たりましたが、たいして気にしていなかったようです。
もう一つは、ミドネギのお守りでした。
運よく、本当に運よく、鼻先に当たりました。大きな魔狼が嫌がって、咬みつくのを一旦やめます。
「ユートさん!!」
私は、ユートさんを治療しようと思い、立とうとしましたが、上手く力が入りません。もう魔力が残っていないのが解ります。
私は上手く歩けない。ユートさんも私を引きずって逃げられるくらいの体力は残っていない。
なら、私にできることは、ひとつだけ。
「ユートさん! ユートさんだけでも――――――逃げてください! 何とか生きてください!!」
『生きる』という言葉を聞いた瞬間、ユートさんの表情が変わった気がしました。
「――――――ごめん!」
ユートさんが走り出しました。痛みをこらえているのが解ります。
ファムには悪いと思ったけど、今の私にはこれが最善で、精一杯でした。
私はぎゅっと目を瞑ります。そうして足音がなくなるのを待ちました。
だけど足跡は消えません。寧ろ、近づいてきています。
「だから逃げ――――――きゃあぁ!?」
目を開いた直後、襟元を掴まれる感覚。
「だああああああ!!」という掛け声ともわからない叫びと同時に体がふわりと浮いて、またドサリと地面に打ち付けられました。
魔狼の方を見ると、私と魔狼の間に、ユートさんが剣を構えて立っています。どうやら私を投げて魔狼との距離を取ったようです。
「アカリ、君は出来るだけ早くクランたちの所に行ってくれ! こいつは俺が何とかする!!」
そう叫ぶユートさんは、なんだか自信に満ち溢れていて、少し、頼もしかったです。
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「ユートさん! ユートさんだけでも――――――逃げてください! 何とか生きてください!!」
アカリにそう言われて、はっとした。
彼女は、この一瞬で自分はどうやっても助からないと判断し、まだ逃げられる可能性が高いであろう俺を逃がそうとしたのだ。
献身、なんてものはとうに超越した諦め。そして一人でも多く生かすというある意味の生への執着。
それらが彼女が自分の身を挺して残るいのちの数を優先させたのだ。
アカリのことなんて微塵も考えずに自分の死を受け入れようとしていた自分より、何百倍も強いと思った。
そうしてやっと、その気持ちに応えなければなるまいという感情がやってきた。
「ごめん!」
アカリの方へ走って、無理やりにアカリを投げ飛ばす。
泣きそうな顔で驚いているアカリに叫ぶ。
「アカリ、君は出来るだけ早くクランたちの所に行ってくれ! こいつは俺が何とかする!!」
アカリは一瞬、迷ったような顔をして、すぐに、いつもの笑顔を返してくれた。こっちに背を向けて、よろよろと歩き出す。
アカリを逃がしたのは、別に逃がそうと思ったからではない。
見せたくなかったのだ。この人間という種を冒涜しているともいえる、気持ち悪い本気を。
鼻を土にこすり付け、ミドネギの匂いを消し終わったらしい王魔狼が、こちらをにらむ。戦いを楽しむような、狂った眼差しだ。
「必ず、勝ってやるッ・・・・・!!」
生を賭けた、本気の戦いが、始まった。




