1-11 逃走
「もうすぐだ!! 急げぇっ!!」
クランが叫ぶ。森の出口までは二百メートルもないだろう。
このまま村に戻って状況を話し、籠城して防衛戦に持ち込めば――――――――――
――――と、思っていた時期が僕にもありました。はい。
グルルルルルル、と低い唸り声。気づく頃には、完全に包囲されていた。その数、五十は下らない。
さらには、その奥に、数匹の護衛を引き連れるようにして、漆黒の毛を持つ一回り大きな魔狼が屹立していた。
こいつがこの群れのボスだ。ユートは本能で確信した。クラン達もそう思っているらしい。攻撃を仕掛けずににらみ合いを続けている。
王魔狼/オス
体力 324/324
魔力 30/38
腕力 78
知力 47
敏捷 121
耐性 95
スキル
《王魔狼Lv41》(咆哮・威嚇・配下全能力上昇)
《統率Lv32》(意識統一・絶対服従)
どうやら周りの魔狼を操っているのはこの《統率》スキルらしい。ここで【解呪】を使えたら混乱を起こせそうだと思ったのだが、あいにくまだアカリは目を覚まさないし、起きていたからと言って無理をさせるわけにはいかないだろう。
「これでも・・・食らぇっ!」 クランがポケットからミドネギの袋を投げつけたが、全く持って興味がないとでも言いたげな様子で、前足を使って器用に弾く。その先にいた魔狼が少し逃げるような素振りをしたので、普通の魔狼には効果があるようだが、それもあてには出来ない。
そんなじりじりとした膠着状態を破ったのは、ファムだった。
「ああもう仕方ないっさね! 【火連槍】ッ!」
空中にいくつもの火球が現れ、細く鋭く形を変えたそれらが飛翔し、地面に突き刺さる。それと同時に発生した爆炎が、何十もの魔狼を同時に葬った。
「今だ! 逃げ切れッ!」
砂塵が舞う中、村に向けてまた走る。
王魔狼は、やはり、まだ生きていた。
毛の一部が焦げており、幾分かダメージは受けているようだが、まだまだ余裕と言わんばかりに逃げるユート達を睨む。
そして、走り出した。
その差はぐんぐんと縮み、三秒と立たないうちにゼロになる。
標的は――――手負いを担いでいると思ったのだろう――――ユートだった。
直後、足に何かが刺さる感覚。誰かの悲鳴が聞こえた気がした。
振り向くと、左足に喰らいつく、王魔狼の姿。不敵な笑みを浮かべながらこちらの様子をうかがっている。
足からは血が噴き出し、服を朱に染めている。
それらを認識するとともに、本格的な痛みの波がやってくる。
「あああああああああああああああ!!」
とっさに右手で握った剣を振る。力が入らないせいかうまく直撃しない。
王魔狼が咬む力をさらに込める。痛みのギアがまた上がる。
ここでユートは、初めて死の恐怖を感じた。
そして、今までをゲーム感覚で遊んでいたことに気付いた。
―――――――――ああ、生きるってのは、こんなに難しいことなのか
ユートがまだ日本にいたころ、死の恐怖を感じることは、全くなかった。
命の奪い合いなんて、ゲームの中で仮初の命でしかしたことがなかった。
こっちに来てからも、追いつめられることなくのうのうと生きていた。
だから、油断していたのだ。
死の危険を。
そして、生きることの難しさを。
この痛みもその結果やってくるであろう死も、当然の報いなのか、と思った。
視界が霞む、意識が遠のく・・・・・・
―――ドサリ
体が引き倒されて、あの狼にのしかかられて、咬まれて、咬まれて、咬まれて・・・・
あれ?
まだ、倒れていない。立っている。
じゃあ何の音だ?
あっ、アカリ、担いだままだった。
感想評価ブクマとか……|д゜)チラッ




