1-9 夜戦開始
「うひょーっ、確かに何体かいるっスねぇ」
森の中。ひときわ目立つ大きな木の上。ファスターが数を確認したいから上ると言い出し、こうして森を俯瞰している。
ここまでたどり着くまでに既に何体か討伐しているが、やはり数が多い。この分だと百単位で討伐することになるだろう。といっても、今回の目的は殲滅ではなく繁殖活動の抑制なので、全てを狩らなくてもよいわけだ。ユミナさんも半分狩れば十分だってアドバイスしてくれた。
「っと・・・・本格的に始まるのはあと十時間後だろうよ」
クランが懐中時計を確認しながら言う。
「じゃあ、何匹かに気づかれたみたいだし、そろそろ降りようか」
ユート達は魔狼を蹴散らしつつ森の外に出た。一旦村に戻り、防御策の確認をする。
村に魔狼が入るのを防ぐために、この村には大きく三つの用意があった。
一つ目は、柵。村を囲むようにぐるりと、ユートの背丈より二回りほど大きいものが建てられている。この高さならば組体操でもしない限り、柵を超えて入ってくることはないと考えられる。ただ、木製であるため、壊されてしまう可能性はないとは言えない。
二つ目は、濠。柵の外側、内側に掘ってあり、柵を壊し辛くするほか、いざとなれば塹壕戦や避難経路としての使い方も考えていて、一部に穴を掘って村の外への脱出口を用意しているという。なぜそこまで大掛かりなものを作れたのか尋ねてみると、なにやら昔戦争があった時の名残りなのだとか。避難経路のトンネルは、1キロ先の草原につながっていて、しっかり落盤がないかも確かめた。
三つ目は、村人で結成された防衛隊。総勢は20名程度で、装備も実力も多勢を相手するのには不相応だが、柵が壊れていないかなどの見回りを行ってくれるらしい。最初は一人ひとりばらけて見張りをすると言っていたが、何かあった時に危険なので二人一組を組ませることにした。
実はあと一つ準備があるのだが、実際のところ民間療法のようなもので、村長も気休めだと言っていた。ミドネギという植物型の魔物がいて、その頭の葉のにおいを魔狼は嫌がる、らしい。昼頃には全ての家の前にその葉を磨り潰した袋がぶら下げられていて、ユートたちも一人一つづつもらった。
因みに、木を切る時に使っていたように魔道具で結界などを張ったりは出来ないのかと思ったが、そんなことが出来る魔道具は珍しく、入手できるのは王族くらいで、王城以外に張ってある所を知る人はいなかった。運用面でもかなりコストの高い物らしい。
「うーん、もう少し柵が固いといいんだけどなぁ・・・・」
この仕組み、柵が壊れないかどうかに命運がかかっている気がする。壊れてからだと多少の死者は免れないような・・・・
「やっぱりそう思うか? 実際俺達が全部倒せば安全だろうよ! とは言い切れないんだよなぁ・・・」
クランが心配そうに言う。
かといって、代替案があるというわけでもない。補強しようにもこの時間ではたかが知れているだろう。
結局いくらか話し合ったが、少し早めに出て数をできるだけ減らすという結論に至った。
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「それでは、行ってきます!」
「気をつけて。神の御加護があらんことを」
村長に見送られて、村を出る。辺りはもう暗くなりつつあった。オレンジ色の空も、すぐに真っ黒に塗りつぶされるだろう。
村の門が閉まるのを、しっかり確認する。こちら側からは開かないようになっているため、入る時には多少時間がかかる。逃げ戻るのは難しいのか、と改めて思った。
目はもう慣らしてあるので、うろついている魔狼がもうちらほらと目に入る。
「じゃあ、いっちょやったろうぜ!!」
「「「「おー!」」」」
ユート達は拳を突き上げて、魔狼討伐を開始した。




