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8-10 任命



ユートは先週と同じく、厳めしい真っ黒の要塞の前に居た。


「もう二度と来てたまるか、と思ったが」

「ワタクシもですわ。帰りに隕石の一つや二つ落としてしまってもよろしくって?」

「あはは・・・ゼフィーも同感だよ」


三人も同じように愚痴をこぼしているが、変わって表情は真剣だ。戦うことを視野に入れているのがわかる。


昨日シューミルのステータスも確認したが、特に異常は無かったので、家で留守番させている。


足手纏いになるかもしれない、とはさすがに言えなかったが、向こうから察してくれたらしく、出かけるといった時から「掃除は任せてください!」と言っていた。夏芽さんが伝えておいてくれたのかもしれない。


滑らかな黒色金属の大門は、触れるまでもなく勝手に開いた。やはり補足はされているらしい。監視カメラの類は見えないので、隠されているか、魔力が働いているかだろう。


そして、しばらく曲がり角も戸もない廊下を歩く。やっぱり人は誰もいない。全く同じ景色を繰り返すだけだ。


しばらくしてやっとたどりついた行き止まりには、シンプルな造りのここには少し不釣り合いな、装飾のされた扉。


ゆっくりと押す。金属製のそれはきしむ音が全く聞こえないくらいに滑らかに動いた。


扉の向こうは、今までの廊下とは正反対に、扉にマッチした煌びやかな造りだった。


そしてその最奥には、玉座のようなものが置かれ、そこにヴィアメルが座っている。


「遅かったな。待ちくたびれたぞ」


まるで約束をしていたかのように言い放つ。


「大方スキルのことだろう? もうすでにお前らにも読めるようにしてやった」


慌ててギルドカードを確認すると、文字化けしていたスキルは書き換わっていた。


《首枷Lv1》(自殺)


ヴィアメルの方を二度見する。どうだ?と言わんばかりに微笑んでいる。


「使い方を説明してやろう。ここにある水晶を砕くと、お前は死ぬ。それだけだ」


楽しげに、ハート型に成形された紅い宝石を弄ぶ。


「ああ、一応言っておくが、この通り四つ、水晶は用意してある。四人、あとはわかるな?」


いつの間にか手元の宝石が四つになっている。銃に手をかけようとしていたミノルが、慌ててギルドカードを取り出し、「クソ!」と悪態をつく。ナツメとゼフィーも同じような反応だ。


「さて、死にたくないのならば従ってもらおう。今から命令を下す。違反すれば死。疑わしきは罰す」


ユートはもうとっくにヴィアメルの思うつぼだったことを悟った。穏やかな微笑は、満足げな悪魔の笑みに代わっている。


「来週から、我々《極紅の真神教》は、四か国への同時進軍を行う。貴様らは各自割り振られた人員を使い、国を支配せよ」


「ふざけ―――」


ミノルの口から言葉が続くことはなかった。ヴィアメルはためらう様子もなく宝石を砕こうとしたからだ。


「戦力は十分に配備している。貴様らは独裁者として立つだけでいい。好き勝手して皆殺しでも構わん。先日の訓練は暗殺対策のためだけに行ったわけだしな」


クク、と会心の笑みを漏らす。整った怜悧な顔立ちだが、酷くゆがんで見えた。


「週明けにこちらから使いを出す。それに従い各自出撃せよ。命令は以上だ」


言い終わると同時に、玉座から黒い靄が噴出し、ヴィアメルは闇に溶けて消えてしまった。


「冗談じゃないっすよ」


重苦しい空気の中、最初に口を開いたのはゼフィー、いや、宍戸友則だった。


普段のゼフィーより幾分か低い声で、いつもの口調をかなぐり捨てて続ける。


「スキルの強制追加なんてどういう仕組みでもない。ただの理不尽だ。アイツだけがいつも理不尽を許されて、人の命を弄ぶ。僕にはどうにもできないことだから、僕は従うだけっすよ」


さ、帰ろう。と元来た戸をくぐる。皆黙って従った。


黙々と廊下を歩き、そのまま要塞を出る。長かった廊下は、やけに短かった。


「さ、ナツメ。回廊を開いて帰ろう。僕は疲れたっすよ」

「ゼフィー」


ナツメが、やっと口を開く。


「なんすか?」


ゼフィーがそう返す。ナツメはもう一度、ゼフィー、と声をかけた。


険悪な空気。とりあえず帰ろう、と言おうかと思ったが、ミノルに目で制された。


しばらくして、ゼフィーが大きくため息をつく。


「そうだね。ゼフィーはみんなのアイドルだから、落ち込んでちゃダメだね」


声は少し沈んでいたが、口調や声音は普段に戻っていた。


「ええ。私たちはやれることをやりましょう」


少し安心したかのようにナツメがそう言い、回廊を開く。ミノルもそうだな、と同調した。


ユートは回廊に呑まれながら、ずっとわだかまりを感じていた。


ゼフィーがゼフィーである訳、そうであることにナツメがこだわる理由もわからない。


けど、それが触れるべきでないことだけは、ひしと感じられた。





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