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8-8 終わり1





「く・・・ふふ、良い表情ですね。お疲れ様でした」


体と離れたシトリスの首が不気味に笑います。きっちり三十回、私は彼女を仕留めました。これで訓練は終わりです。何かを得たという感触は結局、最後まで有りませんでした。あるのは喪失感だけです。


「ご主人様を守りたい、でしたっけ?」


ヘドロ状に溶け、再び人型に戻ったシトリスはさも友人に話しかけるような軽い口調で問いかけてきます。私は頷きました。


「ふぅん、じゃわたくしと同じですわね。わたくしも教祖様の為ですもの」


手頃な瓦礫に腰かけてそう言います。私は意識するより前に、「違う」と呟いていました。


シトリスは少し驚いたような顔をして・・・すぐに大笑いしました。


違わない。お前も私も同じ穴のムジナなのだ、と言われると思っていたが、意外にも「そうでしたわね」と言うだけだった。


「帰らないんですか」

「まだ当のご主人様は訓練の最中ですので。それにわたくしももう少し外の空気を吸っていたいですわ」

「?」


最後の言葉に首を傾げる私を見て、シトリスが楽しそうに笑います。


「せっかくだから教えて差し上げましょう。あなたが殺した三十人のわたくしは、皆別のわたくしですのよ」

「???」

「分身、と言っても、分身であるわたくしは分身も、再生できませんの。体は再生しますが、あなたが三十人目のわたくしの首を刎ねたその瞬間、三十人目のわたくしの人格は消え去り、三十一人目、つまり今現在あなたと話しているこのわたくしに入れ替わっているのですわ」


立ち上がり、廃墟の中を歩き始める。私もシトリスについて歩き始めました。


「本物のわたくしがわたくしを作ってから、わたくしはずっと眠っていましたの。やっと外に出て、百人のうち三十人は殺される役目だと知って、それでもわたくしたちは狼狽えませんでしたわ。そういう存在だと知っていましたもの」


シトリスはもうわたしに話しかけているというより、独り言を呟いているだけのようでした。それでも私にはよく聞こえてしまうので、わたしは頷いていました。


「眠っている間、わたくしがシトリスの分身であるためにはどうすべきなのか、それだけを教わりましたわ。この所作も、この行動原理も、教祖様への忠誠も、すべてそう教えられたものなのですわ」


私が初めてこの『訓練相手』を見たときは、この廃墟を歩く姿は悪魔のようだ、と直感的に思いました。破壊をもたらす悪の存在。そう見えました。けど、今は寧ろ、理不尽な破壊に大事なものを奪われた、過去の私と同じような人間にしか見えませんでした。


「さて、そろそろあなたの大事なご主人様も訓練を終えそうですわね。わたくしももうひと眠りするとしましょう。そんな時があるかは知りませんが、また会えることを祈っておきますわ」

「はい、最後に一ついいですか?」

「手短であれば構いませんわ」

「訓練をしていただき、ありがとうございました」


シトリスは、いやシトリスの分身はさっきよりも驚いていた。そして、本物にそう伝えておきますわ、と言った。私が違いますと言うと、今度は本当にわからないように不思議そうな顔をした。


「あなたのお陰で、このどうしようもなく嫌いだった廃墟を少しだけ、好きになれました。何時かあなたと会えるなら、ここが丁度良いのかなって、思えるくらいに」


シトリスの分身は困ったように、


「わたくしはシトリスの分身ですわよ。廃墟を作ったのは本人ですし、わたくしは本人に命じられたことしか出来ませんわ」


と言って、後ろを向いた。


視界が、暗転。元の場所に帰る時が来たようだ。


「本当に、ありがとうございました!」


私は闇の中でそう叫んでいました。分身さんに聞こえているといいのですが。






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