8-7 意味
何度目ともわからない襲撃。足音は消しています。息も止めています。目の前を歩くシトリスを殺すのに、抜かりはないはずです。
だけど、なんで。
「まだ足りませんね。やりなおしです」
すんでのところでナイフの一撃を止められる。突きの一撃を、背中に目が付いているかのようなありえない動きで手首をつかんでいなす。不意を突かれた人間にはまず出来ない動きだ。
「視覚、聴覚、それらを隠す腕前については認めてあげなくもないわね。けど、あなたにはそれ以外があるでしょう? 全て隠しなさい。それまでやり直しよ」
いなした勢いを残しまま足払いをかけられ、派手に転ばされる。顔を上げる頃にはシトリスは消えていた。
私は無感情に短剣を拾い上げ、瓦礫に隠れて荒い呼吸を整え始めた。
________________________
ユートは目の前に突如現れたけむくじゃらで筋骨隆々の、マッドブッチャーの腕をしげしげと眺めていた。
手を動かす意識をすると、望んだとおりに動く。戻れと念じると消え、もう一度マッドブッチャーの腕を想像しながら発動するとその通りに現れる。ナツメやミノルの腕も想像してみたが、その通りに出てきた。まあ人間の腕ではあまり差は無いので、使うならマッドブッチャーくらいのものだろう。
ふと思いついて、向こうにいたころにたまに目にしたロボットアニメのロボを試してみた。消して出すだけで新品になることを考えると。ロケットパンチとか出せたら間違いなく強いだろうし。
結果はダメだった。猫は成功、ゴリラは駄目だったので、成功失敗の境目はこの世界に来てからそれを見たか、だろうと断定する。
ともかく、進歩は二つ、一つはスキルが強くなったこと、もう一つはスキルの変化を意図的に起こせたということだ。特に後者は大きい。これで好きなようにスキルを改造できるなら大きいだろう。
「さて、そろそろ再開しましょう。それでは砂時計を動かします」
残る時間は五分ほど。もたついている時間は無い。ユートは地を蹴った。
体勢を低めに、出来る限り小回り重視、読まれないようにジグザグに走る。細かなことだけど、これらが出来ていないとシトリスは認めない。それらをしっかり踏まえたうえで、新たな戦い方を試していく。
「〈身体収納〉」
取りだした剣を下から斜めに振り上げる。これだけなら何度もやった。ただ、今回は違う。
シトリスの剣にぶつかる前にもう一度身体収納、剣を再収納。
そして代わりに、〈連鎖する四肢〉、マッドブッチャーの腕を生成し、そのまま振り抜く。さながらラリアットだ。
そしてさらに、振り抜く回転を維持し、〈連鎖する四肢〉。さらに腕を増やす。
若干体勢を崩しながらもそのまま一回転することに成功し、一気に腕を消した。
消えた腕の重量だけを、〈身体収納〉で取りだした剣にに再びのせて、今度こそひるんだシトリスに当てる。勢いよく首が切り飛ばされ、シトリスが黒に溶けた。
「突飛な技ですね。良しとしましょう。それでは次へ」
また次のシトリスと砂時計が現れ、砂を零し始める。
ユートは次の改造をどうするか考えながら攻撃を仕掛け、そしてあっさりと、「余計なことを考えている暇はありませんよ」とシトリスに蹴倒された。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「ずいぶん変わったな」
ミノルとゼフィー、そしてナツメは、この世界の一般人居住区域南端―――すなわち魔界に最も近い―――にある国へと来ていた。無論、身分を隠しての不法入国だ。
ミノルの言う通り、最後に三人が揃ってやってきた二年前とは大きく異なっていた。何がどう異なるのかと言うと、活気があった。それも、行商都市として賑うのではなく、軍事拠点としてのギラギラした、血生臭い賑わいなのだが。
邪教徒の勢力が増し、邪教徒関係とされる事件が増えるにつれ、各国が協力して戦うべきだという風潮が高まり、現在この国には絶対的な権力を持つ王はおらず、周辺国が管理する軍事中枢都市となっているのだ。
そんなところに三人がわざわざ潜入した訳は、もちろん観光などではない。偵察でもないのだが。
「珍しいわね、襲撃をあなたが提案なさるなんて」
「襲撃じゃねーよ。単なる防災訓練みてーなもんさ」
「そのためのゼフィーな訳だしねー」
ミノルの目的は、ここで騒ぎを起こすことで人間側に邪教徒との戦闘を予期させ、軍備を拡張させることだった。
ミノルは邪教徒にいつのまにか発足していた軍部の規模を知らないが、現在の状況ではあのシトリスとかいう女一人ですら撃退できないであろうことはわかっていた。人間側の最強クラスの人材を集めておきたかったのだ。
そう話している間に、街の中心部に辿り着く。打ち合わせ通りゼフィーは物陰に隠れた。
そして、ナツメは火魔法を三つ、同時に発動。誰もいないところをめがけて爆発を起こす。
そこにいた人々が一斉にこちらを向く。何人かは一瞬で気づいて叫ぶ者もいた。二人はそれだけ有名なのだ。邪教徒幹部として。
「皆様、御機嫌よう」
「今日は気が向いたから遊びに来てやったぜ」
そう言っている内に、もういくつかの矢と魔法が飛来していた。一般兵の錬度は悪くない。エリート揃いなのだろう。
だが、それもあくまで人間相手の技である。ナツメが重力魔法を発動するとすべて届かなくなってしまう。
「逃げなくていいのか?黒焦げになっちまうぜ?」
わざと誰にも当てないように攻撃。それでも発生する余波はゼフィーが影から結界で打ち消す。兵士の中からちらほらと逃げる者が見え始めた。残りの人間も不安気に、かつ必死に届きもしない攻撃を放ち続けている。
出来ることなら、これに耐え得るくらいの戦力が欲しいわけだが・・・
暫く待ってみたが、リーダーと思しき人物が出てくる気配もなければ、大規模魔法を発動させる気配もない。未だに国家間での戦争もちらほら起こっているようだし、そちらの戦力拡充が優先なのだろう。
気が付くと兵士の攻撃は止み、魔力切れを起こして動けなくなっているのが数人だけ。後は逃走してしまったようだ。ミノルは戦闘狂というわけではないが、少し物足りなく感じた。
「もう少し壊していきませんの?」
「よせよ。ここの防衛を諦められたら困る」
「では、帰りましょうか」
一行は血の回廊で家へと帰った。まるで何事も無かったかのように。




