8-6 改造
「ふっ、まだ遅いですね。もっと当てることを意識してください」
ユートの太刀筋は完全に読み切ったと言わんばかりに、わざとぎりぎりで避けるシトリス。現在は22人目、砂時計は十パーセントも残っていなかった。
どのくらいの時間が経ったかはとっくにわからなくなっていた。それでも、零れ落ちる砂におびえながら、急かされたように攻撃を続ける。
「【火槍】」
「【火槍】、ですか?」
さっきから何度か魔法を織り交ぜながら攻撃をしているが、ぴったりとタイミングを合わせて同じ魔法を放ってくる。弾道までなぞるように正面からぶつかり、威力を少し上げてあるのか、こちらにだけ熱風が返ってくる。
身体収納と連鎖する四肢を織り交ぜた攻撃も、全くと言っていいほど意味を為していない。
当たり前だ。とユートは思った。
今まで戦ってきた相手はいつも違う人物だ。こちらの情報を知る人はいなかったし、それどころかこちらは〈鬼神の魔眼〉で相手を知っていたりした。常識外れの意表を戦い方も、繰り返せばありきたりとなり、錬度の差が顕著になってくる。
かといって、ユートが今から剣の達人になるために修行していては、何年と時間が経ってしまう。おいおい必要なことではあるが、今はそれどころではない・・・
「また油断ですか。集中力がなさすぎますね」
足払いをかけられる。起き上がる前には、喉元に切っ先が居座っていた。体がきついわけではないのに、吐きそうなくらいに息が荒くなっていた。
「その追い詰められた狼のような目、嫌いじゃありませんが、そんな人間は取るに足らない相手です。砂時計を止めてあげます。三十分、時間をあげましょう、それで起死回生の策を、思いついてください」
そう言って指を振ると砂時計が横に倒れた。一度立ちあがったはずなのに、それを見ると急に緊張の糸が切れたのか、自分も地面に崩れ落ちてしまった。
いや、ここで休んでいる暇は無い。体は全く、つらくないのだ。ゆっくりと、気持ちを落ち着かせれば・・・・体も自然と落ち着くものなのだ。
ユートは一人作戦会議をすべく、ギルドカードを確認した。
ユート ヒイラギ/男性-17歳
体力 186/186
魔力 170/170
腕力 55
知力 64
敏捷 74
耐性 56
スキル
《身体術Lv33》(敏捷中強化・回避中上昇・体力中強化)
《剣術Lv27》(剣威力上昇・剣耐久大上昇・魔法剣・連閃)
《女神の悪戯Lv24》(鬼神の魔眼・連鎖する四肢・身体収納・喚命術—暗闇—・死の欲動)
《再生力Lv22》(体力自動小回復・魔力自動小回復・状態異常回復)
《剣術》に一つスキルが増えている。名前からして自動発動型のものではないだろう。シトリスは最初の時のように目を瞑って空中に浮かんでいる。どうせ見たことのないスキルを使ったところで、それだけで倒せるとは思えなかったので、手の内を読まれることを承知で発動してみた。
「〈連閃〉」
発声と同時に、目にもとまらぬ突きが五回、繰り出される。が、軸がぶれるのか、あまり後半の突きに威力は無いようだった。
こうなると、これを既存の魔法やスキルと組み合わせるか、意表を突いた出し方をするしかない。普通の動体視力を持つ人間相手ならともかく、シトリスに対してはあまり決め手にはならないようだった。
〈死の欲動〉については、使わないことにしている。自分がどうなるかわからないものに賭けたくは無いし、すぐに見抜かれて反則扱いされそうだ。実際訓練にならないのも確かだろうし。
スキルの[意思]が新しいスキルを作成してくれると楽なのだが、意図して作成する方法もわからないし、完成までどれだけ時間がかかるかもてんでわからない。不確定要素が大きすぎる。
後は、ミノルの言っていた、『自分のスキルについて知るべきだ。詳しく知ることでまた別の使い方が生まれる。すると、ここが足りない、もっとこうできたら、と改善策が生まれてくる。それをお前さんのスキルの意思が、きっと具現化してくれるだろうな』という言葉だが、実はユートはこの言葉の意味を飲み込み切ってはいない。
自分のスキルについて詳しく知る、というのがよくわからないのだ。ユートが今までやってきた、このタイミングで使うと強い、とか、このスキルと組み合わせると強い、とは少し違うはずだ。
「・・・・こういう時は、初心に立ち返るのが一番か」
順に、ひとつづつ使っていこう。まずは、〈連鎖する四肢〉から。
腕に、もう一本腕が生えてくる。最初の能力にして、一番気持ちの悪い変な能力だ。こんなものを考えた奴の気が知れない。
これの改善点は、気持ち悪いことは置いておくとして、範囲が自分の両腕に限られていること、それと、その先に何か物がある場合、それを貫通して生成されることはないということだ。最後のは改善点というわけではないが、一度長袖の服を着てから手からしか発動できなくなったので、気候によっては不便かもしれない程度のものだ。いきなりいしのなかに手を生成しようなどとは考えてはいない。
ただ、その腕から腕を繋げて出すことは可能であり、生成の瞬間には重みを感じないので一瞬なら魔力の続く限りどこまでも伸ばせる。先ほども言った通り目の前に物があるとそこには生成されないのでロケットパンチが放てるわけではないのだが。
腕が増えれば増えるほど自分の脳味噌では制御しきれなくなることも問題だ。全ての手に同じ動きをさせるならともかく、腕を三本増やした時点で一人じゃんけんすら不能になるくらいで難しい。やはりこの技は物量で押したほうがよさそうだ。
すると、使い方は剣より、もっと数の圧力で押せる・・・関節技のようなもののほうが良いのかもしれない。さすがに手足を無理やり抑えきるとスライムのように流体系の相手以外は動けなくなるだろう。
後は・・・手以外のものが出ないだろうか?〈連鎖する四肢〉なのだから、足くらい出そうだ。
ピピッ。
「ん!?」
『連鎖する四肢のアップデートを受理しました。約1分後に完了いたします』
脳内に突然響く割れた金属音声。死の欲動を使えるようになった時と同じだ。
・・・てか、仕事早いな! あのスキルが作られたのも実は所要時間はほとんどなかったのかもしれない。スキル意思さんサボり魔説が浮上した。自分が指示を出さなかったって説の方が有力だけど。
「他のもアップデートしてくれないのかな?」
返事は無い。多分曖昧すぎたのだろう。
『連鎖する四肢のアップデートを完了しました。再起動いたします』
出しっぱなしにしていた腕が霧散し、代わりに生成されたのは、
けむくじゃらで、筋骨隆々の、
マッドブッチャーの腕だった。
・・・・・!!?




