白木迅助の過去
俺は昔は普通の子供だった。でもある日を境に『化物』とよばようになった。
俺には少し年の離れた姉が一人いた。その頃の俺は小学生だった。
「迅助ー。一緒に買い物行かない?」
姉の名前は白木実桜。弟の俺から見ても美人だったと思う。
「えー!今ゲームしてるからあとでー!」
「しょうがないな〜。じゃあとから荷物持ちしてね。」
茶目っ気もあって優しい姉だ。八方美人とは実桜のために作られたかのようにも思えた。
「あー!ゲームオーバー!仕方ないな。姉ちゃんの所行くかー。」
俺は小走りでスーパーに向かった。そして、途中あるものを見つける。
「あれ?これ姉ちゃんのケータイ…。」
ガサガサ!
俺はその茂みを除くと
「んー!んーー!!」
「暴れんなよ!今、気持ちよくしてやるから……。」
3人の男に押さえつけられる実桜は必死に抵抗していた。
「姉ちゃん…。」
ブツンッ
そこで俺の意識は途絶えた。
気がつくと1人は歯がなく、1人は腕から骨が剥き出しに、1人は腹が拳大に陥没していた。一様に重症を負い、半死半生で倒れる男達。
「姉ちゃん……おれ……」
拳の痛みから俺がやったのだと分かった。そんな俺を実桜は
「迅助……ありがとう…。でも迅助、もう暴力はだめよ!お姉さんは助かったけど、この人たちは死んじゃうかもしれないし……」
俺を抱きしめ実桜は話す。
救急車を呼び、彼らは命には別状は無かったが、全治半年の重体だった。
それからというもの、俺の力は暴走を加速させた。
中学生にカツアゲされている同級生を助けたが相手は複雑骨折。
しつこいナンパを撃退したところ、男は顔面粉砕骨折。
花屋のお姉さんに嫌がらせする他中の生徒は意識不明。
そうして俺についたあだ名は『化物』
親も怖がって見放す。いや、もう子供じゃないと言い張る。
しかし実桜がまた助けてくれた。
「迅助は私が世話する!」
実桜は俺が何をしても叱ってくれた。
みんなが見放しても実桜だけは叱ってくれたんだ。
そんな実桜に助けられた俺は中学で少しずつ力を抑えることが出来た。
高校では力の制御と感情も制御できるようになった。
怖がって友達は出来なかったけど。
いや、一人いた。
小学校から一緒で何度か助けたことがある女の子。
高二の頃、彼女は川に落ちた男の子を助けようとしていた。
橋の上から。
それを止めて、俺が川に飛び込んで男の子を助けた。
まぁ周りの人は俺が化物だと知っているから褒めてくれたりはしなかった。
けれど彼女は荷物を持ってきてくれて、「ありがとう。」という言葉と笑顔をくれた。
それが嬉しくて、それが誇らしくて、
俺は泣いた。
何年ぶりに姉以外の人に感謝されたか。笑顔を向けられたか。
それは何より嬉しいプレゼントだった。
そしてその子と学校で話すようになり、一緒に登下校するようになった。
そして高3の秋。
家に帰ったら草原にいた。
「それは……」
「それは……?」
「アーネルさんにいうことじゃないですよ。」
俺の回想は終わり、話は(前話の最後に)戻る。
ガーン!という効果音と共にアーネルさんはうつむく。
「た、確かに私とあなたはそこまでの間柄じゃないよね……」
そう言って幽鬼のような足取りで来た道を戻る。
「アーネルさん!そういう意味じゃ……」
もういなかった。
♢♢
「ただいまぁ〜ミーマさん。」
「おっ!おかえり!収穫は?」
「まぁこれくらいです。」
俺はドサッ!とクロスタイガーを5匹ほど床に置く。
「よ、よくこんなに捕まえたね……」
「まぁでかいけど弱かったので。」
後にわかることだが、クロスタイガーはA級相当の獣だった。