ダイナマイトモグちゃん
「ジンスケ。あんたに折り入って頼みがある。」
「なんです?ミーマさん。俺に出来ることなら請け負いますよ。」
終業時間になり、閉店作業をしている俺にミーマさんが頼みごとをしてくる。
珍しいな。なんだろ?
「どうも食材が切れててね。あんたの腕を見込んでちょっと狩ってきて欲しいんだ。」
「え〜?俺弱いんですけど…」
「まだそんな事言ってんのかい?私にはお見通しだよ。これでも昔はA級冒険者だったんだからね。」
そんな話初めて聞いたぞ。ミーマさんが元冒険者だったなんて……。
「はぁ…。分かりましたよ。でもミーマさんが狩りに行ってもいいんじゃないですか?」
「私はもう脱退して、ステータスがないもんでね。今はそのへんのやつより強い程度さ。」
いや、ふつーに強いから…。
「俺もステータスなんてもんないんですけど……」
ステータスとは刻まれる経験。敵と戦えば経験値が積まれ、レベルアップに繋がる。
しかしそれがない一般人は戦っても何も無い。勝ったからと言ってなにか特別な事は無い。
「あんたステータスなかったのかい!?その強さで!?」
「違う所から来たもので……。」
「まぁデビルクロウを倒せたんだし大丈夫だね。じゃ明日頼むよ。詳細は後で書いて渡すから。」
なんて人だ。まぁなんとかなるとは思うけど。
「ここか。いかにもって感じだな。」
そこはティズール樹海と言われる、魔物とケモノに5分に1回はエンカウントすることで有名らしい。
目的はクロスタイガー。ケモノながら魔物に匹敵する強さを誇り、調理すると絶品だ。
「さぁ、行くか!」
♢♢
ティズール樹海は5分に1回どころか5歩に1回、遭遇した。
「とりゃ!」
そしてその度爆散する魔物、ケモノ。
「そろそろ疲れたぞ。クロスタイガー出てこーい。」
ガサガサ!
草木をかき分け、出てきたのは
「アーネルさん!?」
「土下座の人!?」
……。
土下座の人って……
「アーネルさん、何してたんですか?」
髪に葉っぱを付けまくるアーネルさんは軽く手ぐしで直してる。
「魔物退治。あなたは?」
「クロスタイガーを狩りに来ました。」
魔物退治か。やっぱ最強はこの程度のダンジョンは簡単なんだな。
「クロスタイガーは強い。見たところあなたはステータスを持っていないけど大丈夫なの?」
「あーまぁ罠でも仕掛けて何とかしますよ。」
やっぱこの人すごいな。一目でステータスが無いことを見抜いた。
「私も行く。あなたにはゼネスさんが迷惑をかけた借りがある。」
律儀なことだが俺としては戦うことが出来なくなるから困ることでもあった。
「いやいや、大事なお客さんですから気にしなくていいですよ。」
って言っても無駄なんだろうな。
「ダメ。行く。」
その無表情な視線からの力強い意思に俺は負け
た。
「じゃあお願いします……」
道中ではアーネルさんが魔物を瞬殺しサクサク進めた。
そして進むこと数十分、奥地に到着したようだ。
「なんですか?ここ?」
「いつもならここにグレネードスパイダーがいていい運動になるのだけれど……」
なんつー危なそうな名前の魔物だよ……。
「もっと危険な魔物がいる。」
「え!?」
そしてその瞬間、地が爆ぜる。
現れるは馬鹿でかいモグラ。
「これは…ダイナマイトモグちゃん。」
「いやその名前ウソでしょ!?」
俺は異世界に入ってトップ3に入る衝撃を受けた。
デビルクロウとかクロスタイガーとか異世界感がある名前だな、って思ってたけどダイナマイトモグちゃんって……
「離れてて。これは名前とは裏腹に強い。」
俺は言われるがまま数歩後ずさりアーネルさんを見守る。
「moguuuuuu!」
モグちゃんの攻撃を流麗に回避して一気に懐に入ったアーネルさん。
「っ!!?」
しかし地中から1本の槍のようなものが突き出しアーネルさんを直撃した。
派手に吹き飛び、数回バウンドして止まる。
「アーネルさんっ!」
駆け寄った所、当たりどころが悪かったらしく気絶していた。
「やるしかねーか…」
アーネルさんが倒されたモグちゃんに俺が勝てるか分からないがやるしかない。
「mogumogu!」
襲いかかってくるモグちゃん。しかしその攻撃は遅い。
俺はモグちゃんの腕をつかみ一気に引きちぎった。
「moguaaaaaaa!!」
絶叫するモグちゃんはすきだらけだ。
「ハァ!」
渾身の右ストレートはモグちゃんの体ごと吹き飛ばした。
俺の完全勝利だ。というかこの程度にアーネルさんが…?
「それがあなたの力なのね。」
「っ!?」
アーネルさん!?
「ごめんなさい。デビルクロウを投げ飛ばしたあなたは只者じゃないと思って近くで見させてもらった。」
「……人が悪いですね?アーネルさん。」
「ほんとにごめんなさい。でもあなたはステータスもないのにどうしてそれほどの強さを?」
「それは……」