フィオーネグループ
「おう!『フィオーネ』だ!てめぇら席空けろ!」
猫耳を携えた凶暴な青年は周りの客を蹴飛ばして席を奪う。
「お客様、すみませんが予約はなさってますか?」
「あぁ!?俺たちは『フィオーネ』だぞ!んなもんいらねーだろ!」
俺はミーマさんに目配せするが彼女は首を横に振る。
とりあえずその場は彼らに席を用意して座らせ、周りの客に謝る。
みんな口を揃えてフィオーネなら仕方ないと言って許してくれた。
「ミーマさん。彼らは何なんですか?」
「あんた違うとこから来たから分からないんだね。教えてあげるよ。奴らはフィオーネグループ。グループってのは冒険者のチームみたいなもんさ。そんでフィオーネはSSランクの超戦闘集団。あいつらにさ逆らっちゃダメだよ。いいね?」
「……はい。」
フィオーネグループは猫耳の青年が特に騒ぎ立て、赤い髪の女性に絡んでいた。
「おいアーネル。そろそろ俺と遊びに行こうぜ〜?」
「ゼネスさん。酔いすぎです。」
アーネルと呼ばれた赤い髪の女性はとても無表情で感情が読めないが、ゼネスの誘いに乗るつもりはなさそうだ。
「ゼネス!今日も振られたなー!」
『ワハハハハハハ!』
「うるせぇ!チッ!そこのねーちゃん!酒もってこい!」
ゼネスはシンラを横暴に呼びつけた。それに対して俺は軽くイラつく。
「やめなよ。グループメンバーは例外なくパラメーターとそのグループ特有のスキルを持ってる。私たち民間人は束になったって適わないのさ。」
「……分かりまし…」
俺が返事をする前にゼネスはシンラに触れようとする。
「お!ねーちゃんよく見りゃ可愛いな。俺のペットにしてやるよ!」
「いや!困ります!」
シンラはゼネスを突き飛ばしひどく嫌悪した。
「おいおい!ついに町娘にも振られたなー!!」
先ほどよりも大きな笑いが起こる。対照的にゼネスは顔を赤くして怒りは頂点に達したようだ。
「このクソアマ!下手に出りゃナメやがって!」
ゼネスは強引にシンラの腕を引っ張る。
「お客様。」
「んだオラぁ!てめぇも文句あんのか!?」
俺はゼネスの肩を掴んだ。
「彼女を離してください。この通りです。」
俺は彼に土下座をした。
「うっ…。とんだヘタレ野郎だな!まぁてめぇのヘタレ具合に免じて勘弁してやるよ。」
「ありがとうございます。シンラ。厨房に行って。」
「あっはい…。」
ミーマさんに手を出しちゃいけないって言われたからな。最善の手は土下座だ。
「……ごめん。」
アーネルさんが俺に謝った。
「いえ、お気になさらず。ごゆっくりどうぞ。」
そう言って踵を返しカウンターに戻った。
「大したもんだね。」
「いや、ただ土下座してきただけですよ。」
「……ならそういうことにしとこうかね」
俺とミーマさんは互いに笑いあった。
程なくしてフィオーネは帰り、閉店作業に取り掛かる。
「ジンスケさん…すいませんでした……。私のせいで、」
「いや、気にしないで。俺もかっこ悪いとこ見せちゃったし、忘れてくれ。」
俺とシンラの会話にシルナが割り込んでくる。
「ジンスケ、あそこはバチーン!と行くべきだったさー!土下座なんてかっこ悪いことしなくても…」
さらにクラリナもきた。
「いやーあそこで冷静に行動できたジンスケはすごいよー。今夜なぐさめてあげるー?」
ほう?それはなんとも魅力的な…
「ダメです!!」
シンラが全力の拒絶を見せて俺とクラリナの間に割り込んできた。
「さっさと作業しな!!」
「「「「ひゃいっ!!」」」」